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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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14――交渉と突然の提案


「ダンジョン協会側から、三原さんの希望は伺っています。我々探索庁としては、概ね受け入れられる内容であると判断していまして……」


 和明さんはそう言って、ひとつひとつ私が豊岡さんに告げた条件について答えてくれた。まずは私の戸籍について。これは今までの『三原徹』の戸籍を変更したり特例項目を付けたりすると、それが外部にバレた場合に公権力の乱用だと各方面から探索庁が叩かれたり、私自身にもヘイトや好奇の目が向けられる可能性がある。


 それらのデメリットを回避するために『三原徹』の戸籍は元の状態で存在させたまま、まったく新規の戸籍を作った方がお手軽で一番問題が起きにくいのではないかというのが探索庁の見解だった。それについては元々豊岡さんにも希望として伝えていたし、私としても是非ともその方向でお願いしたい。可能性はゼロに近いぐらい低いだろうけど、まだ何かしらの奇跡が起こって、私が元の体に戻ることだって考えられるのだ。その時に元々の戸籍が消されてしまっていたら正直困る。


 続いては実家の買取の打診についてだ。


 探索庁としては、当然ながらうちの実家を中心に再開発を行い、国内4つ目のダンジョンの街として生まれ変わらせたいらしい。これまでダンジョンに抱いていたイメージとしては『公害が起こらないクリーンな炭鉱』みたいな感じだったのだけど、今日渋谷ダンジョンを見てガラッと変わったんだよね。


 実際にダンジョンへの入口はあるわけだし、ダンジョンの街を整備してたとしても問題はないだろう。ただ美桜さんが転移トラップで移動してきたことを考えると、もしかしたら渋谷ダンジョンの飛び地みたいなものが、物置の地下に現れた可能性があることも伝えておく。

 和明さんは『確かにそういう可能性もあるか……』と何やら考え込んでいたが、新規のダンジョンである可能性も捨てきれないため、探索庁でどのように活用するかは検討するらしい。


 現状ではただの推論だからね。スライムしか確認していないけど、魔物もしっかり生息しているし。他国や変な組織に奪われないように、国側が確保してしっかりと管理するとのこと。


 『その他に懸念はないか』と尋ねられたので、田舎特有の閉鎖的なコミュニティについても少しだけ意見させてもらった。

 私ぐらいの年齢の中年層までは故郷の発展のためなら再開発を受け入れるだろうけど、長年そこに根を張って住み続けているお年寄りたちは『自分たちの暮らす場所を好き勝手にさせてたまるものか』と反発するかもしれない。


「故郷への思い入れによって再開発が妨害されるというのは、昔からあることですが……今回は世界規模で影響が出る話ですからね。多少土地の買値を吊り上げてでも迅速に進める必要がありそうです」


 お役所というのは仕事が遅いという印象があるけど、今回の件に限っては話が耳に届いたその日のうちに私と会ってこうして話をしてくれているわけで。それを考えると、用地買収も言葉通りにスピーディーかつ円滑に行われるのだろう。


「それで、三原さんのお宅ですが……手つかずな新規ダンジョンへの入口が敷地内にできたという可能性が高い、ということも考慮しまして」


 そこで一度言葉を切って、和明さんは人差し指、中指、薬指の3本を立ててこちらに示した。3000万円ぐらいかな? 田舎の土地だしおそらく現在の価値としてはその3分の1以下だろう。そう考えるとダンジョンという要素を含めたとしても、探索庁はずいぶんと高査定をしてくれたようだ。


 しかし次に和明さんの口から飛び出てきたセリフに、私はびっくり仰天してしまった。


「30億円でどうでしょう?」


「……ふぇ?」


 とんでもない金額に、思わず聞き間違いしたのかと思った。しかし思わず零した私のため息混じりのかすれ声を、和明さんは違う意味に取ったらしい。


「そうですね。新規のダンジョンとして考えると、この価格ではいささか不満に思われるのは仕方がないと思います。ですが周囲の開発や立ち退きのための費用を考えると……波風を立てずに増額できるのは、あと5億円程度ですね」


 あまりに現実味が無さ過ぎて思わず呆けてしまったが、我に返った私は両手を前に突き出して手のひらを左右に何度も振った。いやいやいや、違うそうじゃない。


「逆です、逆! 高額過ぎてびっくりしただけで!!」


「そうですか? ダンジョンが探索者に公開されたら、おそらく1年で黒字化できる程度の金額ですが」


 普段から仕事で扱うお金の数字が大きすぎるのか、和明さんの金銭感覚が庶民レベルとは違いすぎる。しかも官僚なのだから、提示している金額の原資が国民の血税だというのがまた業が深い。


「それに詳しくはないですが、これって税金かかりますよね? 私の手元に入ってくるのって、結局ごくわずかなのでは……」


「税金については、法に則って優遇措置が取られます。なにしろ莫大な国益につながる土地の売買ですからね。さすがに全て免除は難しいですが……」


 不動産の税金についてまったく詳しくないからわからないけど、優遇してもらえるならありがたい。今後この体のままで生きていく場合、平均寿命で考えればあと70年ぐらいの時間があるわけで。その間平穏に暮らせるのに必要な資産が賄えれば、私としては御の字なのだが。


 和明さんからも『お金はあって困るものではない』と説得されて、ひとまず最初の30億円で話を進めてもらうことにした。残りの5億円は周囲のご近所さんたちの家を買い上げるときに、加算分にでもしてもらえばいいかな。

 鬱陶しく感じたことの方が多かったけど、両親や私がお世話になったのは確かだ。そのお礼として、本当に些少ではあるけど買取金額にプラスしてあげてほしい。


 まぁそれは私個人の想いであって、周囲の家については現在の相場程度の金額から話をはじめるそうだ。ただこの話が外に漏れて他の勢力がより多くの札束を叩きつけて買い取ろうとする可能性もあるので、そうなった場合は価格を吊り上げて交渉する可能性が高いらしい。

 ただそんな事態にはならないように、スピード感を持って事に当たると和明さんはしっかりとした口調で明言した。


「ええと、あと伺っている三原さんの希望は、自宅を売却した後の住居とのことですが」


「そうですね、住む場所が無くなってしまうので。できれば引っ越し先を斡旋してもらえると、すごくありがたいです。でもよくよく考えると、これはわざわざ探索庁にお願いする話ではないですよね」


「いえいえ、頼っていただけるのは嬉しいですよ。今からお話することは選択肢のひとつとして考えていただきたいのですが、やはり現在の日本では中身が大人であっても小学生の子供がひとりで生きていくのは、ハードルがかなり高いと思われます」


 穏やかな声でそう語りかけてくる和明さんの言葉には、私に対する心配が含まれていた。確かにそうなんだよね。私も彼の立場だったなら、他人事ながら『子供がひとりで暮らしていくなんて無理だろう』と否定する自信がある。

 頭から否定せずにこうして心配して穏やかに諭してくれる和明さんは、とても好感を持てる人格者だと感じた。


「そこでどうでしょう? もしも三原さんがよろしければ、私たちの養子になりませんか?」


 その提案に私は驚きで目を剥いた。まだ出会って数時間しか経っていない怪しい子供を、まさか自身の養子に誘う人がいるなんて思わなかった。一瞬だけ『私がもらえる実家の売却益を狙っているのでは?』なんて疑いの目を向けそうになったが、それならもっと私との関係性を深めて、完全に信頼させてから実行に移すのではないだろうか。


 それにここまで話してみて和明さんは誠実な態度を見せ、終始対等な交渉内容を口にしていたと思う。すぐにお断りせず、彼の話を聞いてみてもいいのではないだろうか。


「そんなことをして、あなたになんのメリットがあるんですか?」


「唐突なのは承知していますし、怪しく思われても仕方がないでしょうね。ただ三原さんがいくら自身のことを大人だと自称しても、今日はじめて会った私や妻には可愛らしくておさない少女でしかなく庇護すべき対象なのですよ。それに……」


「……それに?」


「あなたが私たちの娘になるのであれば、妻にも事情を説明できますからね。家族の中で娘と私は事情を知っているのに、妻だけ除け者にしなければならないというこの状況は、精神的に非常に辛い」


 冗談めかして言ってはいるが、おそらくこちらの方が和明さんの本心なのだろう。


 今日会ったばかりだけど、和明さんと小百合さんが仲良し夫婦なのは見ればすぐにわかった。確かに愛する伴侶に隠し事をするのは、さぞかし後ろめたい気持ちになるんだろうね。孤独なアラフォー男だった身としては、優しくてキレイな奥さんがいるだけですごくすごく羨ましい。


 他にもダンジョンへの入口がある土地の権利を持つ私の身の安全の確保とか、ごもっともな理由をいろいろと聞かせてもらったけど、やはり小百合さんへの内緒ごとがあると辛いという話がもっとも説得力があったような気がする。


 すぐに答えを出せる話でもないので、返答はしばらく待ってもらえるようにお願いした。ただ和明さんもさすがにデキる男で、答えを出す間は高月さんのお宅に滞在することを約束させられたのは言うまでもない。


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