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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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13/20

12――美桜さんのお宅へ


「もう一度確認しますが、ある日起きたら女の子の体になっていたんですね?」


「そうですね」


「しかも若返りもセットで……」


「そういうことになりますね」


 超常現象への好奇心と納得のために必要だったのだろう。豊岡さんが矢継ぎ早にする質問に頷きながら肯定すると、彼女はようやく私の事情を実際にあったことだと信じるつもりになったようだ。


「それでは、トールさんは元の体に戻るために、ご自宅の敷地内に発生したダンジョンを探索していたんですか?」


「まぁ、最初の動機はそうでしたね。もしもダンジョンが発生したことで私の体が変化したのであれば、元に戻す方法やヒントもダンジョンにあるのではないかと思いまして」


 そう考えてダンジョン探索をはじめてはみたものの、すぐに元の体に戻りたいという気持ちは失せた。だって若いというだけで体調はいいし、特に病気というわけでもないのに感じていた倦怠感や体の痛みがまったくないというのは本当に素晴らしい。

 今までとは違う異性の肉体だが、今のところは外見と排泄時以外は特に元の体との違いは感じないので、生活するのにまったく問題がないというのも理由としては大きい。


 私がそう話すと、隣で話を聞いていた美桜さんが『いやいや』と言いたげな雰囲気で手を左右にブンブンと振った。


「トールさんったら、最初に会ったときはセルフカットで髪がとんでもない状態になってたじゃないですか。しかも手入れも適当だから結構ダメージ負ってるし。時間ができたら美容室に連れていきますからね」


 現役JKである美桜さんから見ると、あの時は流してくれていたが私の髪型はやっぱり腹に据えかねる状態ではあったのだろう。女性向けの美容室なんて地元のお店ですら全然知らないし、ここはお言葉に甘えて時間ができ次第に連れて行ってもらおう。


 そんなことを考えていると、豊岡さんが静かに席を立って私のすぐ側に近づいてきた。そして優しい手つきで私の髪をサラリと手櫛で梳いたあとで、掬うように手の上に載せてからジッと凝視する。


「確かにこれは同じ女としては放置できないわね、枝毛もいくつかあるし。今着ている服はご自分で用意されたんですか?」


「ええ、通販サイトにあったコーディネートを丸ごと注文しました。ただこのぐらいの年齢は成長期ですし、すぐに着れなくなると思って数セットだけですが」


 私が答えると、どこか興奮を抑えるような感じで『ふぅん』と豊岡さんが小さく返事をした。何故か私をジッと見ている視線が怖い。そんな私と豊岡さんをニヤニヤと見ながら、美桜さんがいたずらっぽく笑った。


「トールさんは妖精さん顔負けみたいな美少女ですし、すごく着飾り立てたい欲求が湧いてくるでしょ? 私も着せ替えとかいろいろとさせてもらおうと思っているんですよー」


 いや、美桜さん? 私はそれ、全然聞いていないのですが……でもこういう時に自分の意見が通らないなんて場面は、これまでの人生で何度も経験済みだ。私は苦笑しながら『お手柔らかに』とだけお願いして、かなり横道に逸れた話の流れをもとに戻した。


「それで、ダンジョン協会から探索庁に話を繋げてほしいと思っているのですが……」


「あっ、ごめんなさい……ちょっとはしゃいじゃったわね。こほん、それはもちろん。新たなダンジョンが発見された際には必ず報告する義務を負うと、関連法規にも記載がありますので」


 小さなトラブルはあったものの、どうやら無事に話が上に伝わるようでホッとした。それならばと、せっかくなので私からの希望もセットで伝えてもらえるようにお願いした。

 ダンジョンの発生と同じくして若返りと性転換、人種までが明らかに変わってしまったのだ。現在の暮らしを続けるのはかなり困難な状況なので、新たな戸籍を用意して欲しい。ただしまだ元の体に戻る可能性も完全には否定できないので、元の戸籍もそのまま消さずに保持しておいてほしいこと。


 あとはもしも実家を国に譲り渡すという話になったときに、私が移り住む場所を斡旋してもらえると嬉しいかな。そのお礼に私の血液や細胞の提供ぐらいなら、協力するのはやぶさかではない。ただし国側から要請があり、きちんと公的な契約を結んだ場合に限る。

 もちろん命の危険や痛みがない程度の協力のみだけどね、それ以外は絶対に頷くつもりはない。痛いのも苦しいのも嫌いだ。


「わかりました。探索庁にはトールさんの希望として、その通りに伝えましょう。あと安心してくださいね。こちらから話を持って行く人間はアレじゃなくて、別の話がわかるちゃんとした上司にお願いする予定ですから」


 いたずらっぽく笑う豊岡さんに、私は苦笑を浮かべながらペコリと頭を下げた。いや、さっきのあのおっさんとかそれに類する人を選ぶなら、ダンジョン協会との関わり方自体を見直さなきゃいけなくなる。

 別に野心を抱くこと自体は否定しないが、それを表に出して敵を作った時点で負けだと思うんだよね。


 国側にもあのおっさんの類似品みたいな人がいたら、強権を振るって実家の敷地をダンジョンごと徴発するとか強引な手段を取ってきそうだ。油断せずに情報提供者としての立場をうまく使って、自分の身をしっかりと守らなければ。


「それで早速なんですけど、どこか泊まれるところを紹介していただけると……」


「えー、ウチに来てくださいよ。ママにも私の命の恩人だって紹介したいし」


 私が豊岡さんに宿の斡旋をお願いしている途中で、少し退屈していた美桜さんが突然話に割り込んできた。私としては『命の恩人』という立場を利用して、恩を売ったり無理を通すつもりは特にないのだ。

 というか何度も言ってるけど美桜さんを助けたのは、完全に成り行きだったからね。


 『そんな迷惑をおかけするわけにもいかない』と何度も固辞したんだけど、それでも重ねてお誘いされたので、申し訳ないが美桜さんの家で一晩お世話になることにした。豊岡さんからは『ダンジョン協会も都内に探索者向けのホテルをいくつか所有してますので』と教えてもらったし、美桜さんの家を辞した後はそこに滞在するのもいいかもしれない。その時すぐに連絡ができるように、豊岡さんとも連絡先を交換しておいた。


 ダンジョン前のロビーからまた地上に戻り、再び電車に30分ぐらい乗って、美桜さんの案内で駅前のタワーマンションへと案内された。東京だとこれくらいの高さのマンションはありふれているのかもしれないけど、一番高い階に住む人は怖くないのだろうか。

 特に高所恐怖症というわけではないんだけど、私がもしこういうマンションに住むとしても高層階にはなるべくなら住みたくないなぁ。


 そんなことを考えていたら、手を繋いで半歩先を歩いていた美桜さんがにっこりと笑顔で振り向いて言った。


「私の家、48階なんですよ! ものすごく景色いいですから、楽しみにしててくださいね」


「えっ、最上階ってことですか!?」


「ううん、最上階は50階なので」


 さらっと否定されたけど、50階建てのタワマンで最上階と48階ってそんなに高さの差ってなさそうだよね。こんな立派なタワマンが賃貸なわけがないし、美桜さんのお父さんってきっとものすごく高給取りなんだろうなぁ。高層階に自宅を購入できたことからも、その懐具合がホッカホカなのが容易に想像できる。

 さきほどダンジョン協会で聞かされた『美桜さんのお父さんが探索庁の官僚である』という事実が、このことでも強く実感できた。


 エレベーターに乗って階を上がることしばし、ようやく目的の48階に到着した。さすがにここでは迷わないだろう、と繋がれた手を離そうと力を緩めたのだが、美桜さんが何故かガッチリと私の手を掴んでいて離されることはなかった。


 高層階って基本的にどこのタワマンでも富裕層が住むフロアのようで、このフロアも廊下から見えるドアが4つしかない。社会人になってこれまで暮らしてきた部屋が賃貸アパートのワンルームばかりだった私には、あのドアの向こうどれだけ広い部屋があるのか想像すらできない。


 自分のおうちなのだが、魔物に不意打ちされて荷物をすべて失った美桜さんがカギを持っているはずもなく、バツが悪そうに呼び鈴を鳴らすと中からバタバタと慌てたような物音が聞こえてきて『ガチャン!』と勢いよくドアが開いた。


「みぃちゃん!」


 叫ぶように美桜さんの愛称を呼びながら抱きつく女性は、美桜さんが年齢を重ねればこうなるだろうなと思うぐらいにそっくりだった。多分元の私より年下なんだろうなぁ、もしかしたら若くして結婚をした後すぐに美桜さんを産んだのかもしれない。


「ダンジョンの中から戻ってこないって電話を昨日協会からもらって、ずっとずっと心配してたのよ! 昨日の夜なんてママ、不安で全然眠れなかったんだから!!」


「ごめーん、ママ。転移トラップ踏んじゃってねー」


 涙ぐみながら美桜さんを抱きしめるお母さんと、あくまで軽い感じで失敗談を語る美桜さん。なんだかテンションの違いを感じるけど、チグハグに見えてもいい親子関係なんだろうな。

 そしてしばらくの抱擁のあと、お母さんの視線が私を捉えた。豊岡さんやあの態度の悪かった男性もそうだったけど、やっぱり突然外国人っぽい子供がいたら目につくんだろうね。


「ママ、この子はトールさん。私の命の恩人なの!」


 ものすごく端的に美桜さんに紹介されたけど、お母さんは『どういうことなの……?』と不思議そうな表情で私を見ていた。もちろん私もその紹介を一言で補足できる言葉はもっていなかったので、ひとまず『あはは……』みたいな感じで愛想笑いを返してみた。


 なんだか私とお母さんの間には微妙な空気が流れていたような気がしないでもないけど、『詳しい話は中でしよう』ということで私は無事に美桜さんの家の中に迎え入れられたのだった。


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