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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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11――美桜父の正体


 美桜さんの発言を聞いて衝撃からか、何も答えられずに驚愕の表情を浮かべる協会側のおふたり。今さらだけどこのおっさんは一体誰なのかな、ここに同席しているということは、豊岡さんにとって上席の方だと考えるのが自然なのだろうけど。


「それは……ちょっと想像していた以上の内容で、簡単に信じるとは言えませんねぇ」


 おっさんは悩ましげなため息をつきながらそう言って、まるで苦悩を表すかのように項垂れた。ただうつむいた時にちらりと見えた口元が、怪しげに歪んだような気がしたのは気のせいだったのだろうか。おそらく体が子供だから他の人より座高が低い私にだけしか見えてなかったのだろうけど、なにかを企んでいるような雰囲気の笑みだった。


 新しいダンジョンが発見されるということは、新たに資源の供給元を得られるので喜ばしいことだ。国にとっても国民にとっても、さまざまな利益を得られるというのは確かなメリットだろう。しかし現在我が国には複数のダンジョンがあり、そのどれもいまだ完全攻略にも至っておらず、新たなダンジョンがなくとも現状で国内の資源需要はひとまず満たせていると言える。


 新しいダンジョンが発見されたことにより、諸外国からの突き上げが激しくなったり、新ダンジョン周辺の開発への先行投資などの負担の方がむしろデメリットになりかねない。国は実際の作業や負担は現場に丸投げし、数字しか見ていないように見える。

 ダンジョン庁にダンジョン発見の報告をすることによって、関係者の人たちがこれから国からの無茶振りにものすごく苦労するだろうことは容易に想像できる。でもそれを申し訳なく思って報告するのを取りやめたら、私がペナルティを受けることになるのだから報告しないという選択肢は選べない。

 豊岡さんをはじめとしたダンジョン協会の人たちや、探索庁のみなさんにはお仕事だと割り切って頑張ってほしいところだ。これはあくまで私の想像でしかないけど、そう大きくは外れてなさそうな気がする。


 そんなことを考えている間に、美桜さんは主に豊岡さんに向かって自らに起こった不幸な出来事を語っていた。


「……それで転移トラップを踏んで移動した先が、運悪く魔物の前で。不意打ちで攻撃されて気絶しちゃったんですよ」


「いや、美桜ちゃん。それってそんな軽く言える話じゃないと思うわよ」


 『たはー』みたいな能天気な効果音がつきそうな笑みを浮かべた美桜さんに、豊岡さんがゾッと顔色を青ざめさせながらたしなめていた。確かにたまたま私があの巨大スライムを倒さなければ、美桜さんがスライムに溶かされて死んでいた可能性だってあるのだ。


 今回のことは斥候職でもない美桜さんがソロでダンジョンに潜っていたところに、これまでの事例から浅い階層には現れないと考えられていた転移トラップが設置されていて、さらに転移先がものすごく離れたうちの物置の地下ダンジョンだったというイレギュラー尽くしの状況だった。


 他の探索者の身に似たようなことが起こる可能性も否定はできないのだから、警戒するに越したことはない。美桜さんには今後はもうちょっと周囲を注意深く見ながら、ダンジョンに潜って欲しいと切に願う。

 ダンジョン協会にも探索者にこういった事例があったので注意されたし、と注意喚起を徹底してもらいたい。


「次に目が覚めたときにすぐそばに彼女がいて、私の手当をしてくれていたんですよ。ね、トールさん。すでにトールさんが巨大スライムを倒して安全を確保してくれていたから、すごくホッとできました」


 ニコニコ笑いながら同意を求められたので、私は少し面映ゆく感じながらコクリと頷いた。助けたのは本当だけど、全部流れというか成り行きに身を任せた結果でしかないから、どうにも感謝されるとむずがゆい気持ちになる。


「しかし高月さんが苦戦するような魔物を、このような少女が倒したというのはいささか信じられないのですが……」


「転移直後に攻撃されなければ、おそらく苦戦はしなかったと思いますよ。あくまでトールさんのお話を聞いた限りですけど」


「灯油まみれにした後に、ファイアで何度か燃やしただけで私でも倒せましたからね……酸の勢いはすごかったですけど、当たらなければ全然大丈夫でしたし」


 すごく強敵だったと勘違いしているおっさんの誤解を、美桜さんが淡々と解いていく。洞窟だったし下手したら一酸化炭素中毒でふたりとも倒れてた可能性もあるから今思い返すと、攻撃方法としてはもうちょっと考えたほうがよかった気がする。


 でもあの時はその場にいるのは私ひとりだと思っていたし、魔法もそれなりに使えるようになって気が大きくなっていたというかはっちゃけてしまっていたのかもしれない。


 反省の気持ちを込めて呟くとなにやらイライラとしているのか、スーツの男性が右手の人差し指でトントンと机を叩いて鳴らしはじめた。


「それで、そろそろそこの子どもをちゃんと紹介してもらえないかね! まったく、この私がわざわざ時間を作っているというのに……彼女を助けてくれたという話も疑わしいし、未知と思われるダンジョンに君のような子供が立ち入っていたという話からして荒唐無稽すぎる!! こちらは子供のデマカセやホラ話に付き合っていられる程、ヒマではないのだよ」


「……ではお話はここまでにしましょうか。こちらとしてはダンジョン協会である程度の役職以上の人にお話できるのなら、別に誰でも構わないので。お忙しいあなたはどうぞ退席してください。なにより私の命の恩人に対して、そんな失礼な言葉を吐く人とこれ以上話をしたくありません」


「そうですね。今のは同じ組織に身をおく私から見ても、看過できない発言でした。刈谷課長、美桜さんがおっしゃるように退室していただけますか? 私の方で話を聞いて、報告書を本部長宛に直接提出しますので」


 美桜さんに対する態度も褒められたものではなかったけど、私に対しては最初から見下す感じというか傲慢な言動をしていたおっさん。そこに美桜さんと豊岡さんから強めに怒気をあてられて、おっさんは顔を真っ赤にしながらおそらくわざとガタンと音を立てて立ちあがり、乱雑な動きで部屋を出ていった。

 自動ドアがシュンと音を立てて閉まった瞬間に、その後姿を冷めた表情で見送っていた豊岡さんが、深く大きなため息をついた。


「おふたりとも、ごめんなさい。話を通したときにいたのがあの人だけで、無理やり話に割り込んできたため仕方なく同席させたのですが……」


 立ち上がって深々と頭を下げる豊岡さんを、美桜さんとふたりで慌ててなだめる。なんとか豊岡さんをもう一度着席させた後、美桜さんが彼女の言葉を聞いて納得したようにうんうんと何度か頷いた。


「どうせ私の名前を聞いて、自分の利益になりそうな話だと考えて、強権振るった感じでしょ? あの人、本当に嫌いなんだよね」


 美桜さんの吐き捨てるような口調に、少しだけ小首を傾げた。あの性格や態度だと周囲に嫌われている人なんだろうなということは推測できるのだが、美桜さんの名前と彼の利益という言葉がうまく結びつかない。

 もしかしたら女子高生とヤバい意味で仲良くなりたいと思っている中年男性という、めちゃくちゃ気持ち悪い人だったりしたのだろうか。


 私の不思議そうな表情に気づいたのか、美桜さんが苦笑しながら補足説明してくれた。


「ああ、トールさんには言ってなかったですね。私のパパ、探索庁でそこそこの役職に就いているんですよ」


「えっ、そうだったんですか!?」


 びっくりして問い返すと、豊岡さんも頷いてくれたのでどうやら間違いではないらしい。いや、別に疑っているわけではないのだが。


 でもこれでさっきの発言に納得がいった。おそらくあのおっさんは、美桜さん経由でパパさんに便宜を図ってもらったり出世を推薦してもらうみたいな、利益を得ようと考えていたのかも知れない。

 なんだか話を聞いていると、ダンジョン協会も内部で権力争いとかそういうものがありそうで、一枚岩ではないという印象を受ける。美桜さんの説明からも、なんとなくそういう事情が垣間見えたような気がする。


「トールさん、でいいのかな? 改めて、あのおじさんが失礼な態度をとって本当にごめんなさい。あなたのことを詳しく聞かせてもらってもいいかな?」


 もう一度席を立って私の傍まで来てから膝を折ってしゃがみ、しっかりと目を合わせてから頭を下げる豊岡さん。こんな風に真摯に謝られると、特に被害を受けたわけではない私としては恐縮するしかないのだが。

 とりあえず豊岡さんを落ち着かせて、話を再度仕切り直す。話ができる態勢が整ったと感じて、自分の探索者証をテーブルの上に載せた。


 当然表面に印刷されている顔写真は現在の私とは似ても似つかないため、『実はアラフォー男性だったのだがある日目が覚めたらこの姿になっていた』ことを説明するのにちょうどいいアイテムだと思ったからだ。

 しかし豊岡さんは『またまた~』みたいな冗談を聞いたようなリアクションをしていたので、どうやら私の真意は伝わっていないらしい。


 美桜さんにところどころ援護をしてもらいながら必死になって説明し、納得はしてもらえなかったもののひとまずその体で話を聞く、という雰囲気にはなったので、小さく安堵のため息をついた。

 こうして若返った挙げ句女児になった自分自身ですら、他人からこんな話を聞かされれば荒唐無稽だと思うだろうから、この反応も仕方がないとは思う。


「ええと、ここまでの話をまとめさせてもらいますね。トールさんは元中年男性で、ある日突然10歳の女の子の姿になっていた挙げ句、同じ敷地内にある物置の中にはダンジョンへ続く階段が現れていたと?」


「そうですね、間違いないです」


「ためしにその階段を下りてみたら、洞窟にスライムが生息していたので家にあった金属バットで駆除した。それを3ヵ月ほど続けたある日、なんとなく奥の方に進んでみたところ、巨大なスライムがいたので魔法と古い灯油を使ってなんとか倒した。するとその近くの横穴に、全裸の美桜さんが倒れていたということですね?」


 私と美桜さんが話した内容を端的にまとめてくれて、最終確認する豊岡さん。特に間違いはないので、私たちはこくりと頷いた。話の流れは荒唐無稽ながらも一応は筋は通っているし、納得もできると豊岡さんも言ってくれて、なんとか現状を理解してもらえたようだった。


「美桜ちゃんを助けてくれて本当にありがとうございました。今彼女が着ているのは、トールさんのお母様の服かしら。所属している探索者がお世話になったわけですし、ダンジョン協会からもお礼をさせていただきたいのですが」


 どうやら私が元男で急に少女になったという話は、豊岡さんにとってはまだ半信半疑のようだ。いや、疑いの方が割合は多そうな気がする。それはさておき、私の両親が亡くなっていることを知っている美桜さんが、必死に話を止めさせようとしているのが見える。でも私はここでしっかりと自分のことを説明しておかないと、ずっと信じてもらえなさそうなので彼女を視線で制した。


「私の両親は事故で亡くなっています。美桜さんには申し訳ないですが、母が遺した衣類の中でデザインに年齢が出にくいものを着てもらいました」


「トールさんのお母さんの服、そんなにものすごくおばさんっぽい感じのものはなかったですけどね」


「軽率なことを言ってしまって、本当にごめんなさい。でもまだ小学校に通う年頃なのに、ご両親がいないのは辛いですね。ダンジョン協会の方からも行政に保護の働きかけを……」


 この発言からみても、豊岡さんがちゃんとした大人なのは疑いようもない。私が元は大人の男性だったことを信じられない要因のひとつに、目の前の私を実際に視認しているために、私が女児であるという視覚情報が彼女の脳内で優先的に処理されているからなのかもしれない。


 言葉で説明するよりも見たものの印象の方が強く認識されるというのなら、男だった時の私の姿をもっと見せたら信じてもらいやすくなるかも。そう考えてテーブルの上の探索者証の隣に運転免許証を並べて置いてみた。


 ダンジョンの受付業務で1日に何枚も見慣れているからなのか、探索者証の写真はスルーされていたみたいだけど、運転免許証のものは目に入ったのか豊岡さんはマジマジと写真を見つめる。


「この男性は……トールさんのお父様ですか?」


「豊岡さんって、意外と思い込みが激しいのね」


 両方のカードに記載されている名前と写真が一致しているのに、豊岡さんの第一声を聞いて思わず美桜さんと顔を見合わせて苦笑してしまった。美桜さんの呟きに思わず同意して大きく頷いた。名前は今の私と同じなのにね。


 結局私が元アラフォーの男性だと豊岡さんに認識してもらうのに、ここから更に30分ぐらいの時間を要した。まぁ最終的にはなんとか信じてもらえたようなので、結果オーライと言うべきだろうか。


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