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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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10――渋谷ダンジョン到着

「えっ、ここが渋谷ダンジョン……?」


「そうです、思ってたイメージと違いました?」


「なんというか、ダンジョンというよりはショッピングモールみたい。もしくは、テーマパークっぽいというか」


 美桜さんの言葉に曖昧に答えながら洋風のお城みたいな外観の、高さも幅も大きな建物をぼんやりと見上げる。周りには買い物目的の家族連れと、これからダンジョンに潜るのであろう強そうな装備の探索者が入り混じっている。


「日常的な空間に非日常的な格好をした人たちが混ざってると、ものすごくカオスに感じますね」


「そうなのかな……物心ついた頃からこの状態なので、特におかしくは感じないですよ」


 そうか、この状態が生まれた時からデフォルトなら、なんとも思わないのかもしれないね。でもうちの近所みたいなのどかな田舎の風景に、こんな鎧とか剣とか装備した人が混ざっていたらと考えると、やっぱり違和感しかない。


 世界初なうえに日本で一番メジャーなダンジョンなのだからある意味仕方がないのかもしれないけど、初めて来た私にはすごくカルチャーショックだった。


 人の流れに乗って建物の中に入り、地下に向かうエスカレーターのステップに立つ。


 探索者の人たちに普段着な私と美桜さんが紛れていても、特に変な視線は飛んでこなかった。地下にもお店や病院などの施設があったので、そこに行く買い物客だと思われていたのかもしれない。

 地下3階から4階に向かうエスカレーターの前に自動改札機みたいなフラッパーが設置されていて、その傍らにはカードを読み取る機械があった。


「あそこに探索者カードをタッチすると、さらに地下にいけるんですよ」


 なるほど。資格証をカギのように使うことで、一般人がダンジョンに入り込まないようにしているのか。


 でもルールを守る人ばかりじゃないだろうから、乗り越えて先に進む人もいそうだよね。その考えはどうやら正しかったようで、そういうならず者を止めるためにこういうゲートがもう何段階か設置されているらしい。これによって無資格者は、どうやってもダンジョンにはたどり着けないらしい。


 そんな基礎知識を美桜さんから教わりながら地下に下りていくと、どうやら一番下の階に着いたみたいで前を歩く人たちに続いて歩みを進めた。するとまた自動改札機がズラーっとたくさん横に並んでいて、再度カードをピッとタッチして通り抜ける。


 電車の自動改札機だと性別とか年齢が改札口の人にわかるようになっているらしいけど、成人男性のカードで見た目子どもの私が通っても止められなかったということは、そういう機能は付いてないのかもしれない。もしくはたくさんの人が通るから、そんなのイチイチ確認していられないという方が正しいのかもしれないけど。


 とりあえずこの後は協会の人に美桜さんの無事を知らせてから、ダンジョン協会の偉い人に顔つなぎをしてもらって、実家のダンジョンのことを報告しないといけない。


 最後の自動改札機を通り抜けた先には、広いスペースとたくさんのカウンターが並んでいた。カウンターは受付のようで、ダンジョン入場受付とか依頼関連受付とかいくつかの大きな看板が掲げられている。


「えっ、美桜ちゃん!?」


 美桜さんに連れられて近づくと、顔見知りなのか受付のカウンターに座っていた女性がひとり驚いた声を上げながら立ち上がった。


「豊岡さん、ただいまー」


「ただいまー、じゃないわよ! なんでダンジョンの中じゃなくて外から帰ってきてるの!?」


 『豊岡さん』と呼ばれた女性の声が想像以上に大きかったので、美桜さんが人差し指を立てて口元に軽く当てる。どうやらこれからダンジョンに入るための準備をしていた周囲にいる探索者たちの視線を集めていることに気づいて、豊岡さんが自分の口を両手で隠した。


「ごめんなさい……あと、その子は一体?」


 豊岡さんの訝しげな視線が私を捉えたので、軽く会釈しておいた。見知らぬ小学生ぐらいの女児が自分にそんな礼儀正しい行動をしてきたら、普通の人ならちょっと面食らうと思う。


「それも含めて、大事な話があるの。できれば誰にも話が漏れない場所で、ダンジョン協会でそれなりの決定権を持っている人と一緒に、私たちの話を聞いて欲しい」


 美桜さんの声を潜めつつも真剣な響きを含むその言葉に、豊岡さんはゴクリと喉を鳴らしてからコクリと頷いた。準備が整うまで待っていてほしいと言われたので、ロビーに備え付けられているテーブルセットのひとつに腰掛ける。


 ようやく腰を落ち着けて、思わず美桜さんとふたりで深いため息をついてしまって、顔を見合わせて笑う。そんな私たちへと近づいてくる人影がふたつあった。


「ミィ! ダンジョンから戻ってきてないって聞かされて心配してたけど、無事でよかった!!」


「だから言ったろ、いくらソロだったからってミィが簡単にやられるはずないって」


「かなたん、ちひろー!」


 魔法使いみたいなローブを着た女の子が涙ぐみながら美桜さんに抱きついて、そのすぐ後ろに剣士っぽい格好の女子が苦笑しつつも嬉しそうな表情で立っていた。


 どうやら美桜さんの友達みたいだ、学校の同級生だろうか。そりゃあ仲良しの友達がいなくなって心配していたところに、本人が元気そうな姿で現れたら嬉しいよね。


「捜索チームに立候補したんだけど、学生は二重遭難が怖いからって待機させられてたんだよー」


「声が掛かればいつでも探しにいけるように、こうしてフル装備で待ってたっていうワケさ」


「ふたりとも、心配掛けてごめんね。私、無事に戻ってこれたよ」


 そんな会話をしながら感動の再会をする3人を見守っていたら、泣いていた魔法使い姿の女の子が涙を拭いながらこちらを見た。


「ところで、その子だれ? ものすごくかわいいけど」


「銀髪ってことは外国の子か?」


 確かに外見はかわいいけど、中身はおじさんの私だからなぁ。どうしてもその褒め言葉が自分と結びつかなくて、照れるよりも先に苦笑が浮かんでしまう。そんな私をよそに何故か美桜さんが『ふふん』と自慢げな表情で、ぎゅっと抱きしめるように私のことを自分の方に抱き寄せてた。


「まだくわしいことは話せないんだけど、この子は私の命の恩人なんだよ」


「……美桜さん、はしたないですよ」


「いいじゃないですかー。かわいい女の子を抱き寄せるくらいのこと、女の子同士のフツーのコミュニケーションですよ」


 まぁ確かに女子って、肉体的な接触が多めなイメージはある。でもその対象が私というだけで、なんというか『いや、それはダメでしょ』という気分にどうしてもなってしまうのだ。

 今はこのふたりや他の人に不審がられても困るので、無難に愛想笑いでやり過ごす。


「えっ……ミィがピンチになるぐらいの敵に勝てちゃうの、この子?」


「反応がロストしたのって、浅い階から中層階になる境目ぐらいのところだったんだろ? ミィが苦戦するような敵なんかいたか?」


 ふたりが不思議そうにそう言いながら、私のことをジッと凝視する。やっぱり美桜さんってそれなりに強い冒険者なんだね。初めて会ったときは全裸だったし、その強さを推測できる判断材料が特に何もなかったけど、なんか雰囲気というか強者のオーラみたいなものを感じていた。

 うまく証明できないふんわりとした理由だけど、本能的に彼女の強さを感じ取っていたような気がする。


「協会と話さないと今は何も言えないけど、許可が出たらちゃんと紹介するよ。今言えるのは、彼女がいなかったら間違いなく私はここにいなかったの」


 しみじみと言う美桜さんにふたりも何か感じるものがあったのか、色々と聞きたいこともあるだろうにそれを飲み込んでから、私に『大事な仲間を助けてくれてありがとう』とお礼を言った。


 完全に成り行きだったとしか言えないけど、そのお礼を聞いたら彼女たちの大事な人を助けられたことを強く実感した。それで彼女たちのお礼がストンと胸に落ちてきて、照れながら『どういたしまして』と素直に答えることができた。


 とりあえず美桜さんの探索のために待機していたふたりは、今日のところは帰って体を休めたいということで、素早く帰り支度をして帰宅していった。どうやら美桜さんがいなくなったと連絡を受けた昨日から、ここで待機していたらしい。

 彼女たちの友情の厚さに感動を覚えつつ、ふたりの背中を見送った。


 それからしばらくしてから、さっきの豊岡さんが駆け足で戻ってきた。部屋の準備ができたとのことで、美桜さんと私は豊岡さんに案内されて用意された部屋へと向かう。


 関係者入口みたいなところから中に入ると、ここは本当にショッピングセンターの地下なのかと思うぐらいにメカメカしい壁や扉が目に入った。昔のアニメに出てくる昔の宇宙船の内装みたいなものをイメージしてもらえると、なんとなく雰囲気はわかると思う。

 豊岡さんが四角い金属の板に手を翳すと、自動でドアが横にスライドするのを見て、ますますSFっぽいなと感じた。


 音も無くスーッと開いたスライドドアの向こうには、詰めれば3人ずつ対面しながら座れそうなテーブルと椅子が並んでいた。そのうちのひとつ、一番奥の椅子に座っていたスーツ姿の男性が静かに立って私たちの着席を促す。


「まずは無事でよかった、高月さん。予定では日帰りと聞いていたのに、戻ってこなかったという報告があった時には肝が冷えました」


「……ご心配をおかけしました。それについて報告があるんですけど、あなたしかいなかった感じですか?」


「そうですね、私が話を伺います……ところで、そちらの方は」


 スーツの男性が私に不躾な視線を向けてきたので、ちょっとだけムッとしながら小さくペコリと会釈する。そりゃあ見た目小学生女児がこんな場にいたら、場違い過ぎて気になるのはわかる。

 和歌山で乗ったタクシー運転手の態度は失礼だったけど、彼からは私たちへのマイナス感情はあまり感じられなかったので私も特に悪感情なく彼の味方をして、プンプン怒っている美桜さんをなだめた。

 でもこのおっさんは違う、明確に私と美桜さんに対して野望というか利用してやろうという悪意や欲を感じる。まだ言葉を交わしていないけれど、多分こいつは嫌なヤツだ。印象だけで嫌うのは社会人として失格なのは重々わかっているが、残念ながら好きになれる要素がない。


 私が感じた印象を裏付けるように、私と出会ってからずっと朗らかなイメージだった美桜さんが、おっさんを見た瞬間にスンとした冷たい表情に変わったのが気になった。


 私はまだ美桜さんのこともよく知らないけど、今会ったばかりのこの男性より彼女のことを信用するのは至極当然のことだろう。出会って1日ちょっとぐらいしか時間は経ってないが、彼女が優しくて礼儀正しい子なのはすぐにわかったからね。そんな美桜さんがおっさんに警戒心を顕にしているのだから、きっと何かがあるのだ。


 おっさんの私への誰何すいかを美桜さんが『彼女のことはお話の中で紹介します』と横から言ってくれて、ひとまずスーツのおっさんからの視線は止んだ。豊岡さんからは何やら申し訳なさげな視線を向けられたけど、そこから推測するに多分私はおっさんから邪魔者扱いにされているということなのだろう。


 なにやらギクシャクとした雰囲気の中、美桜さんが大きく息を吸い込むと最初の一言目を告げた。


「転移トラップを踏んで飛ばされた先が、遠く離れた未発見のダンジョンの可能性があると言ったら、信じてもらえますか?」


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