友情
「さえちゃん、どこー?」
目を閉じて集中するが、気配はない。
あるのは、知っている者たちのものばかり。
「ねえ。友達なら一緒に行こう」
後ろからさえの声がして振り向こうとした瞬間、
美和は池の中に落とされてしまった。
さえが突き落としたのだった。
池のほとりとはいえ、かなり深い。
しかも、もがくたびに岸から離れていく。
しまった。わたし泳げない。
暗い水の中で美和はパニック寸前だった。
沈んでいく美和を見て、さえは正気に戻った。
「わ…わたし何してるの!?美和―っ」
座り込んで叫ぶが美和は上がってこない。
「どうしよう。どうしよう。美和ぁ」
頭を抱え、髪をくしゃくしゃにしてさえは叫んだ。
池の中で、昼間遊んでいた早瀬と梓が美和を抱えて浮上した。
水面までくると「手を出せ」と低い声がした。
美和が伸ばした手を、逞しい腕が掴んで引き上げる。
黒い翼を羽ばたかせて、男は美和を岸まで運んで草むらに下ろした。
美和はゲホゲホむせったが、無事に助けられてホッとする。
「愛鷹、ありがとう。早瀬さんと梓ちゃんもありがとー」
池の中から早瀬と梓が手を振る。
座り込んで一連の出来事を見ていたさえは
我に返って美和に抱きついた。
「ごめんね美和。 ごめんねぇ」
さえをそっと包み込むようにして、美和は静かに語りかけた。
「さえちゃん、わたしと出会ってくれてありがとう。
わたしのために怒ってくれてありがとう。一緒にアイス食べてくれてありがとう。
ありがとう。たくさん話してくれてありがとう。
とにかく、いっぱいありがとう」
美和の瞳からポロポロ涙が落ちる。
それは月明かりに照らされてキラキラ光った。
「わたしの方こそ、酷いコトしてごめんね。美和が無事でよかったよ」
「美和の傍に誰かいるの?」池のほとりで見ていた早瀬がたずねる。
「友達がいるらしい。俺達には視えない友達」と愛鷹が答える。
*
「さて、田島さえさん、天へ還りますか?」
いつの間にかやってきた多嘉良が前に出る。
見ると、村で出会った人たち…というか
不思議な雰囲気の人たちが集まっていた。
「不思議な人たち。…太古の昔から人間と暮らしていたアヤカシ?」
「そう。ここはアヤカシとその子孫が暮らしている村。
狐族の戸隠さん。カラス天狗の愛鷹。河童族の早瀬さんと梓ちゃん
比十族のわたしの母や多嘉良さん」
「へへ。そっかー。なんかすごいね。わたし、そういう人…じゃない
古代からいる不思議な人たちに会ったんだ」
*
「お願いします。私を送ってください」
さえの願いに、多嘉良は両手を何かをすくうように差し出す。
そこから光の道が登って行った。
「乗るといいよ。山まで行けば、そこに船が待っている。
そこからあの世へ行ける」
「ありがとうございました。美和、またね」
さえは笑って光と共に上って逝った。
一瞬、一緒に逝ってもいいかもって思ってしまった。
一瞬だけど。
そう思いながら、さえを見送る美和だった。




