9.狩り
「坊っちゃん、残念ながら狩りは今日で終わりですよ」
「とても残念」
明日から予定が詰まってるから仕方ないんだけど、移動中の一番の息抜きだったから残念だ。
明日には辺境伯の住む町に入って、辺境伯とおそらく到着しているリベリオン侯爵にご挨拶したいと連絡を出し、挨拶後にはどこに配置かの連絡待ち。
連絡が来たらその際にいつ隣国とどこでどのようにやり合うかの詳細が来ることになる訳だ。まあ例年ほぼ同じ場所らしいし配置も同じらしいけど。
挨拶待ちだけでも下手したら数日、配置の連絡待ちも多分どんなに早くても挨拶の次の日と思われるので、この間に一度奴隷商のところへ行く予定。
挨拶の前には全身洗って、持って来てる礼服を着ないと。
今着てる服は普通にちょっと良い町の子供程度の服なので、さすがに侯爵様にご挨拶に行ける服では無い。
「今日が最後なら時間多めに取ってほしい」
「良いですよ。というか元々多めに取ってます」
父様も全く同じことを毎回言うらしい。そうでしょうとも。
そんな訳で毎年狩りをしているらしい山に登る。
お供はコスティとジェード、あと領地でもよく狩りに付き合ってくれている狩人のアランの3人。
コスティとジェードが早速風魔法で周囲の索敵をしている。
その間に可視範囲にいる鳩サイズの青い線の入った鳥を木の上に見つけて、爪サイズの小さな三角錐が形としては一番似てる石、を土魔法で作成。
「ロック」
魔法は呪文を唱えなくても魔力を練れば発生させることは出来るが、声に出した方が省エネなので魔力量が少ない俺はもっぱら発音勢。
消費魔力が倍くらい違ってくるんだぞ。
魔法で作った石を指先に乗せて、腕を真っ直ぐに伸ばして方向と距離を測る。
「位置は地面から2m、距離は30mくらいかな?」
「地面から2mと20、距離は31……安全を取って33ですかね」
「ありがと……セット」
風魔法を掌の上で練る。
少しずつ圧縮した魔法をゆっくりと位置を絞って、タイミングを計る。
鳥はまだ気付いていない。
「ファイア」
パッ、キュゥゥンと物が風を掻き分けて進む、鈴のように高い音が鳴る。
鳥が、こちらを見た。
パンッと鳥の胸が弾け、鳥が落ちていく。
……これが俺が使える最大殺傷力の魔法である。作った石を風魔法で飛ばす。それだけ。
熊とかの大物魔物は間違いなく倒せない。
「相変わらずお見事ですね」
アランは軽いお世辞と共に数回手を打った後、スルスルと草木の間を進んでいき俺が撃った鳥を持ってくる。
「食べるにはそこまで美味しくない鳥ですが、羽根が綺麗ですよ」
1枚見本として抜かれた羽根は薄い茶色に青のラインが入っている。境目に微かに緑色が混じっていた。
うん、確かに綺麗。
「羽根数枚は持って帰る」
「はい」
麻の袋に無造作に鳥が放り込まれる。
「この辺りでの大物は鹿種くらいですので坊っちゃんで充分対応可能です」
「角がちょっと怖いけどね」
鹿なら足か首狙いかな。
「へい、坊っちゃん兎、兎ー」
ジェード、グルグル回してたら何かわからんよ。
頭に石を生やした兎が首が半分切断された状態で渡される。ボタボタと垂れてる血がちょっと嫌だ。
「石デカいな」
「少し透明度が出て来てるから来年には魔法覚えてたかもー?」
腹を割いて、内臓を取り出す。
そういえばこの世界の魔物はお決まりな魔石とか心臓に持っている訳ではない。身体の一部に石のような物を生やしてたりする魔物はよくいる。この兎もそう。
石が生えると強くなる。透明度があると魔法を使う。……まあコレがほぼ魔石か。
あと普通の動物は存在しない。全部魔物。魔物で石が無い生き物を動物と呼ぶ。
アランが掘ってくれていた穴に内臓を捨てて土をかける。
「あ、坊っちゃん、鹿いましたよ。鹿、群れかな?」
コスティが指を指した方向を見るが全く見えない。
「コスティ、距離どれくらい?」
「500くらいですね」
爽やかに笑うマッチョ。
山の中なんて100m先が見通せたらラッキーみたいな場所で馬鹿の数字を言うんじゃありません。
「その距離は俺見えないよ」
「あ、そうでした。ちょっとこっち方向に群れ追い込んできますね」
「俺も行くー」
軽い足取りで消える2人を見送る。
「アラン見える?」
「なかなか立派な角の鹿が1頭いますね。子鹿も2頭……あぁ、こちらに来ます。子鹿はしとめますので一番大きい物を」
「うん」
立ち上がって魔力を練る。
お膳立てされた状態で逃がすとかっこ悪いので、絶対に逃がさないように頑張ろう。




