16.蜘蛛のオモチャ
お泊り予定の部屋に危険物が設置されてた件。
「針はいいとして毒はマズいだろ」
「針も良くないですよ。毒は恐らく下剤に近い物かとは思いますが……あと、枕元のは嫌がらせかわからなかったのですが、坊っちゃんが喜ぶかと思って置いておきました」
その言葉に枕元を見ると、木と紐で蜘蛛を模したオモチャが転がっていた。
「え、すごい。いいねこれ」
「簡素ながらアカアシドクグモの特徴を掴んでいて大変良い物だと私も思いました」
「双子は喜びそうだけど、お土産にしたら母上様が怒りそう」
手のひらで蜘蛛のオモチャを転がす。
触り心地いいな。売ってた店が知りたい。
「うーん、少なくとも2人は仕掛け人がいるね」
「そうですね。ベッド2つの悪意の差が大きすぎますし、1箇所に2つしかける人間は少ないかと」
多くて3人、少なくても2人かー。
どれも殺意が高い訳では無いから嫌がらせってところか? 教育的に悪い嫌がらせの犯人も含む。
「コスティ少し寝といたら? 夜も見張りしてくれるなら仮眠取った方が良くない?」
「一晩程度なら大丈夫ですし、明日の朝に交代要員が来たら寝ますよ」
爽やかに笑うコスティに肩を竦める。
コンコンとノックが響いてコスティが扉を開ける。
「只今戻りました」
「マルクスおかえり、皆ちゃんとご飯食べた?怪我とかしてない?」
「両方とも大丈夫ですよ。しっかり食べましたし、怪我もありません」
マルクスが少しだけ煤の匂いをさせて立っていた。
山火事に関しては初動が早かったのと、優秀な魔法使いが揃っていたのでどうにか消せたらしい。
熾火対策として交代で山の中を見回りをする兵士が配置されているようだ。
水魔法が使えない人は水桶を抱えて見回りするらしい。ふえー大変。
「小火で済んでよかった」
「場合によっては町を簡単に飲みこみますからね」
火の広がりって見てる分には遅かったりすぐ消えたりするくせに、知らん間に止めるのが難しいくらい広がるんだよな……。
風が吹いていると火の付いた葉とか飛んだりして全体に火が広まったりでめちゃくちゃ大変。
「宿に泊まる?ここに泊まる?ちなみにここだとコレが貰える」
ポイとマルクスに蜘蛛のオモチャを投げると手で流れるように掬って俺の顔面に投げ返された。
グエー。ベッドに倒れる。
倒れたのはワザとだけど無視してコスティと会話しだすのはひどくない? いいけど。
マルクスが下でちょうどエディと会って、宿はいつものところを確保出来たのでマルクス以外のメンバーはそちらに行ったと報告しているのをベッドで寝転がったまま2人を見上げながら聞く。
門番長に報告に行くということなので付いていこうと起き上がろうとしたら、マルクスとコスティに再度ベッドに転がされる。
「坊っちゃん、子供はもう寝る時間ですよ」
「一応責任者なのに」
「責任者でも子供ですから」
「どうせ明日以降が面倒なことだらけなので、今のうちに身体を休めてください」
それはそう。
渋々と布団に入り、門番長によろしくとだけ伝える。
蝋燭が消されて暗闇の中で目を閉じた。
廊下でうっすらとマルクスとコスティの話が聞こえる。
部屋に仕掛けられた物についての話をしている。
少し荒くなった声の後に、慌てたようにすぐに小さく潜められた声になる。
俺って甘やかされてるなあ。ほんといい身内に囲まれてる。
ふふ、と笑って、蜘蛛の足を掴んで紐の感触で遊びながら眠りについた。
コスティにアルバート様の見守りを頼んでマルクスは門番長の元に向かった。
部屋の中に入ると既に辺境伯側の兵からの報告が届いていたのか、何か紙を見ながら文官と喋っている。
「ああ、戻ったのか。今回は尽力に感謝する」
「いえ、山に住む人間として当然の行いです」
ふふ、と笑う声に眉を寄せる。
「ああ、すまない。君らのところのお坊ちゃんが山火事は憎むものだって言った供述があってね。どうも本当らしい」
「あの方は特に我々の暮らしを教え込まされている方ですから」
「なるほど、優秀な後継ぎがいるというのは良いことだ」
その言葉には内心で顔をしかめる。
アルバート様も兄であるアルヴィン様も優秀なことは分かっている。それでもあの方たちはニーエベルグ家の後継ぎにはなれそうにないのが口惜しいと領にいる人間は思っているのだ。
本人たちがそれに納得していることは、家督争いが起こらない点では安心出来るけれど、大人としては罪悪感と憐憫を抱いてしまう。
特にアルバート様は親であった男爵様の弟があんな馬鹿をやらかそうとしなければ継承権が無くなることなんてなかっただろうに。
男爵様はアルバート様の優秀さから継承権はそのままでもいいのではと伝えられたのに、自ら継承権を放棄してしまった子はニーエベルグを継ごうとは全く考えていないのだろう。
魔力こそ低いがあの年齢であんなにもニーエベルグらしい人間は珍しいのに。
「……その我々にとっては大事な後継ぎに嫌がらせがあったようですが」
「犯人は特定、捕獲済み、処分は今からするか? 明日あの子を交えてするか?」
「明日は忙しいので今からで」
「了解。後ろに何かいたって訳ではない短絡的な馬鹿しかいなかったから鞭打ちくらいでいいか?」
犯人の一覧を渡されて、それを了承しつつ犯人を捕らえている部屋に向かう。
計5名のやらかした人間の名前を見つつ、蜘蛛のオモチャはアルバート様が気に入っていたから置いた人間には売っている店を聞いておかなければとマルクスは考えた。




