15.竜雪山のなんちゃら
なんか聞いたことのある地名が付いた聞いたことのない称号のお言葉もらったな?
俺が若干飲み込めていない顔をしていたのだろう、デュノイ門番長が少し苦笑する。
「君のニーエベルグ男爵家は男爵家の中では優秀な武門の家として有名なんだぞ」
「そうなんですか?」
「そうじゃなきゃ毎年、王権派のリベリオン侯爵様が中立派閥の君たちに距離が近い方とはいえ、10人以上の遠征を頼むことはないだろう」
コスティを見上げるとにこやかに笑う。
「ニーエベルグ男爵家の騎士や兵士は高水準の風魔法を使う者が多いので」
「うるさくて情報が必要な戦場で広い範囲の風魔法での伝達仕事が出来て、オマケに前線で使っても生存率トップだからな。そりゃ重宝する」
確かにウチの方針は"死んだら周りの死亡率を上げるから死ぬな"って理由で生き残りが最優先だからな。
「死なないようにするってことが頭に無い人が想像以上に多くてびっくりするんですよね」
「ほう?」
「魔法に近寄らない、武器を避ける、傷付いたら引くをしないんです」
「ええぇ、死ぬ気なの?」
いや、いくらなんでも信じられない。
そんな馬鹿ばっかりだったら兵士も騎士もポコポコ死ぬじゃないか。
「言わせてもらうが魔法を避けて、攻撃を躱して、前線から怪我をしたら下がるっていうのは言うのは簡単だが非常に難しいんだぞ」
「ん、ああ、まあそうですよね?」
強い敵に近づくとどうしたって死ぬ危険性は上がるよな。
うっかり矢に当たったり投石に当たったりしても打ちどころが悪ければ死ぬし。人間って思っているよりも簡単に死ぬからな。
「俺も戦場は初めてだから気をつけないとだ」
「坊っちゃんはニーエベルグ男爵領兵一同で守りますよ」
コスティはにこやかに言ってくれるけど、そういう訳にもいかない。
足手まといになって他の奴らが怪我したら困るし。
門番長さんも数回は参加しているらしい隣国との戦場の話を聞く。
やっぱり茶番だと両方の兵士が思っているらしい。
向こうの辺境伯のジジイに近寄らなければ命が助かる可能性はグンと上がるそうな。その辺りも死なないようにって意識が抜ける原因だろう。
ほぼ訓練と思って参加してたら狂人が混ざってて本気な殺し合いしかけてくるって最悪だよ。
ほんとさぁ、老害さんさぁ。
文官さんが戻ってきて、門番長さんとは互いに挨拶をして別れて、俺が今日泊まる部屋に案内してもらう。
恐らく士官兵用の寝室なのかな?
コスティが部屋の点検をしてくれる間に文官さんとお話をする。
「文官さんはハプセン子爵の令息方に会ったことは?」
「噂で聞いたことはある程度ですね。普段はあまり表に出ないので」
「そうなんだ?」
「今回は普段なら動いてくださる方が山火事に取られていたり、残っている方も犯人はあっちだこっちだと意見が完全に別れていたので、出来るだけ公平な視点で相手を見られ、男爵家の方に失礼なことにならないようにと私が出向きました」
どこも人手不足だね。いや、門塔に関してはトラブルが重なったせいなんだけど。
あと、そんな気はしてたけど文官さんは一応貴族に関わりがある人なのかな?
「爵位持ちが家族にいるの?」
「祖父が伯爵家当主でした」
思ってたより大物だった。
貴族子息だった父親が町娘の母親に一目惚れ、結婚したいという願いを突っぱねられて怒りで母親を連れて逃走。
孫である文官さんのお姉さんが生まれたことを、連絡を取っていた父親の兄弟から知って、接触してきた祖父は孫娘の可愛さに陥落し、父親と母親と仲直りをし、支援を約束しましたとさ。
そのおかげで文官さんも良い教育を受けさせてもらって、職場も良い場所にしてもらえたとか。
お姉さんは祖父の伯爵領に所属する騎士と結婚。その際は父親よりも祖父が大暴れしたが、最後は涙ながらに騎士を認め、盛大な結婚式を行ったそうだ。
文官さんは話し慣れているのかめちゃくちゃ話が聞きやすくて、流れに緩急がついてて面白かった。
途中から聞くのに参加してたコスティも俺がぺちぺちと拍手するのに合わせて拍手してるし。
文官さんは少し照れてる。
身内の話だしね。
部屋の中に入り、ベッドに座る。小さいクローゼットとベッドと小さい書き物机だけの部屋だ。
文官さんに何か袋を渡していたコスティが部屋に入ってくる。
「何かマズい物あった?」
「少しだけ」
「教育的に? 生存的に?」
「両方ですね」
教育的に考えられるのはお酒か薬かエロ本か、はたまた内容のマズい日記とかかな。
生存的な方は聞かない方が良いかな?
「教育的には教えませんが、生存は坊っちゃんにも気をつけてもらいたいのでお教えしますと、まず布団に針がいくつか、針に毒はなさそうでしたが、歓迎用のように置かれた菓子に恐らく毒です」
あー教育的に悪い内容を教える筈無いか。ちょっと残念。
それにしても、けっこう色々されてんねぇ!




