14.門番長
文官さんが慌てた様子で立っている人に近付いていくので、その隙に耳を覆っていた手を離してもらってコスティの後ろに隠れてみる。
「デュノイ門番長、何があったんですか!?」
「この馬鹿が自分に恥かかせた女性兵士にやり返してくれとかアホなこと言うからな」
……心当たりがある会話だな。
「自分だけでやれ! 自分だけで! その根性も無いなら大人しく負けを認めろ!」
「そんな……!辺境を馬鹿にされたのですよ!」
「馬鹿にされたのはオマエだけ!」
うーん。なんてキレのある返答。拍手したくなっちゃうぞ。
門番長らしい人の出て来た部屋の中にまだいたらしい兵士たちに文官さんが指示をして文句を言ってる人を連れていってもらうらしい。
横を通る兵士たちをコスティの後ろから見上げていたら、件の兵士が鎧を見てコスティに絡んできた。
「あの女と同じ領の兵士か! あんな品性のない女使うなら他の兵士のレベルも知れる!」
子供の俺じゃなくて、明らかに自分より縦にも横にもデカいコスティによく喧嘩売れるな……。あまりにも蛮勇すぎるだろ。
コスティは良識的でよかったな。ここにいたのがジェードなら既に蹴りか拳が急所に叩き込まれている。
ジェードはのんびりした顔しているが敵対判断がクソ早いから。
「ごらあぁ! オマエの脳みそは匙程度か!? とっととその馬鹿を連れて行け!!」
誰のかは知らないが落ちてた靴を門番長らしい人が掴んで兵士の頭に投げつけた。ガゴンと良い音がした。痛そう。
「品性……」
「その、普段はもう少し、あの、尊敬できるところが」
文官さんが泣きそうな顔してる。可哀想。
「……あー、みっともないところを見せてすまない」
さっきまで荒れ狂っていた人が襟を素早く整え、俺に丁寧な礼をする。
「ニーエベルグ男爵家の方々自らこの狭苦しい門塔にご足労いただいたにもかかわらず、身内の不手際をお見せしてしまい、誠に申し訳ありません。私はここ、グランヴァル辺境伯領都の門塔を守る門番長、バルトロ・ディノイ準男爵と申します」
変わり身すご……さっきの大暴れさえ見てなかったら、凄えスマートで格好良くてさすが辺境伯直轄と思えたのになあ。
……さっきの大暴れさえ見てなかったら。
脳裏に浮かんでくる映像を振り払って、こちらも礼をとる。
「えー……ニーエベルグ男爵代理として今回の隣国との戦に参加させていただくアルヴィン・ニーエベルグと申します。我が領の騎士が迷惑をかけてしまったようで申し訳ない」
この名前は兄様の名前である。
今、俺は兄の肩書を詐称しているから自分の名前は名乗れない。長子の名前知ってる人間いるかもしれないからね。
ここまで来て家に帰されるのはごめんである。
「とんでもない。山火事を素早く知らせ、必要な物を揃えたら先陣を切ってくださった。素晴らしい騎士たちをお持ちだ」
「そのように褒めていただけるとありがたい」
白々しく貴族風に挨拶を交わす。
ちなみに本来なら準男爵と男爵家の息子なら準男爵のが明らかに偉いけど、代理って肩書が付くことで立場はほぼ対等か俺の方がちょい上って形になる。
ただし功績とか場所、その他諸々で若干変わってはくるらしいけど。
いやもうこんなの覚えてらんないわ。
「さ、挨拶はしたし。気楽にしよう。茶を出すから飲んでいきな。おいニコラスこの子の泊まる場所用意な」
「はい、では少し離れますね」
文官さんが礼をとって出ていくのを見送って、ソファに案内してもらってお茶をもらう。
わりと良いお茶を出してくれたっぽい。美味しい。
「ま、十中八九犯人はハプセン子爵家のクソガキ共だろ。学園に入っても性根は変わらなかったらしいな」
「知ってるんですね」
「ハプセン子爵領はここからかなり近くて、ここはこの辺で一番デカい町、そこにやってくるクソガキと言えばわかるかな?」
「……過去にもやらかしを?」
「娼館に行って貸し切りにするとか言い出したり、兵士たちに気まぐれに暴行したり、店の商品グチャグチャにしたり……まあ、軽くあげてコレだ」
「……生粋のクズか。親である子爵は?」
静かに首を振る。
「典型的な貴族主義だな。それでもガキ共は馬鹿ってことは知ってるからお目付け役というか哀れな生け贄を付けてたな。元男爵家の三男だったか」
あの黒髪のお兄さんかな。可哀想に。
「暴れる奴らにやり返そうとするとわりと強い騎士が出て来るしな」
「ああ、あの風属性の?」
「ん?ああ、見たんだったか?」
確かにあの人は強そう。コスティを見上げて目が合う。
「ウチの領で勝てそうなのは?」
「領主様とマルクス隊長、リアム副隊長は問題無く。後は……そうですね、戦闘条件によります。まだ若いジェードとヴェヤスは少し厳しいかと」
「コスティは?」
「さすがに魔法勝負になると手も足も出ませんね」
コスティの本領は近接戦闘だからなあ。たぶん近接なら俺の見立てでは普通に勝てそう。
「さすがは竜雪山の守護者。アレに対抗出来るレベルが普通にいるとはな」
……なんか知らん呼び名来たな。




