11.話し合い前
夜に野営でエディの淹れてくれたお茶を飲みつつぼんやりと眺める。
「燃えてるねぇ」
「燃えてますなあ」
やっぱり山火事が発生してしまって、暮れてきた空の下でじんわりと輝いている山に辺境伯の町からおそらく騎士や兵士たちがワラワラと向かっているのを、今日の野営地で夜ご飯を食べながら見送った。
今頃山の中で消火活動をしているのだろう。
あの後、マルクスたち全員と合流した後に貴族のやらかし現場に一番近かったジェードと遠くから観察をしていたアラン、メアリ、ヤヌスを連れてマルクスが町の門まで馬を走らせて山火事についての報告をしに行ったけど、帰ってこない。
いや、山火事を消しにいく兵士たちに混ざっていたのは知ってるけど。ジェードとメアリが手を振ってたのを見てる。
「マルクスたち大丈夫かな」
「あの5人なら余程のこと以外は自分たちでどうにかしますよ」
「いや、貴族とか騎士に喧嘩売られて、何かやらかしてないかなって」
「…………」
おい、誰か返事しろよ。
そんなことないですよって言え。
「……山火事はなんとか収まってきてはいますね」
「さすが辺境伯領、優秀な者が揃っていますな」
露骨に話逸らすじゃん。
全員がやらかしかねねぇと思ってるだろ。俺も思ってるよ特にジェードとメアリ。
マルクスがアイツら連れて行くのめちゃくちゃ嫌そうな顔してたもん。よりによってコイツらかよって顔してた。
ご飯も食べずに行ったし、お腹減ってないだろうか。
「あれ、辺境伯領の兵士が何人かこっち来てますね?」
「え?ほんとだ」
数人がおそらく文官っぽい人を馬に乗せてやってくる。
「念の為、コスティとエディで対応お願い」
「わかりました」
「坊っちゃんは馬車の中へいてくださいね」
返事をしてスタコラサッサと馬車の中へと入る。
馬車の周りに兵士が数人素早く見守りに付いている。新人兵士で一番若い子を手招きしておく。
「あの、なんで呼ばれたんですか?」
「一応、中にも兵士いないと危ないからね」
「……もしかして辺境伯の兵士が攻撃してくる想定なんですか?」
「そうだよ。まあ今回は無いと思うけど」
文官連れて攻撃してくるとは思えないしね。
やってくる兵士たちにこちらは警戒していますよと言う軽い威嚇みたいなもん。示威行為ってヤツ。
「坊っちゃん、文官が我々の話を聴きたいと」
エディが少し大きな声で馬車の中を覗いて声をかけてくる。
「ウチの騎士たちを長時間拘束している場所の人間が我々の話を聴いてくれるのか?」
はい。ワザと言ってます。
「申しわけありません!ニーエベルグ男爵領の騎士の方たちには山火事の報告と、火元への案内をしていただいており感謝しております!」
お、この兵士さんは俺の示威行為を分かって大声で返してきてるな。辺境伯側はあくまでもこちらに悪意は無い話し合いだと言いたい訳だ。本当かは知らんが。
「……兵士もですが、文官が聡いタイプのようです」
文官指示での対応か。
「……なら出た方が早いかな。新人君、一応周囲警戒しながらゆっくり先に出て」
「っはい」
小声で素早く話をして、新人君が外に出て周囲を確認した後に「この後はどうするんです?」と言いたいのがまるわかりな顔でこちらを見る。
こらこら、そのままキリッとしててくれ。
眉を上に引っ張って真面目な顔をしたらクスと小さく笑われたけど意味は通じたのだろう。
キリッとした顔でこちらを視界に入れつつ警戒してくれている。
よーし良い子。
エディの手を借りて馬車を下りる。
普通に自力で降りれるけど体裁ってものがね。
少し離れた場所で礼を取ってくれている兵士たちと文官に声をかけて顔をあげてもらう。
なんかここまで丁寧だと俺がめちゃくちゃ偉そうに見えるので解説すると、俺は今、ニーエベルグ男爵の代理として辺境伯領にやってきているので、男爵相当として扱わなければいけないんですよ。
めんどくさいよね。
もちろん俺の方もニーエベルグ男爵と同等なのだからそれに見合った態度と節度を見せなければいけない。
もし情けないことやみっともないことをすればニーエベルグ男爵家の評判に直結する。
大変めんどくさいよね。
この辺は母上様と兄様に習っててよかった。さすがに貴族関連には前世の記憶は役に立たん。平凡な一般ピープルにこんなやりとりの経験ある訳なかろうて。
顔を上げた周りの兵士が思っていたより若いなという顔をしている中で、平然とした顔の若い文官が声を出す。
「ニーエベルグ男爵子息、申しわけありませんが、今回の詳細を聞かせていただきたい」
俺の見た目に油断はしてくれないタイプらしい。
俺のなんちゃって貴族武装の皮がペリペリ剥げないようになるべく頑張ろう。




