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[COORDINATE 0067] Sage’s Labyrinth ver. Pioneer 2

# Sage’s_Labyrinth_1st_Floor_1:


俺たちは、石畳が敷かれた真四角の通路を進んだ。想像したとおり、通路はかなり奥まで続いていたので、迷宮攻略に備えてしっかりと休息を取ることにした。


通路の途中で火を起こして身体を乾かし、軽く食事を取る。

それから、攻略に必要のない野営用の荷物を端へ寄せるようにまとめて置いた。


俺は金属質な装丁の施された硝子板を取り出し、地図を浮かべた。

淡い光とともに浮かび上がった地図が示していた俺たちの位置は、何もない森林の中だった。


「上下はわからないもんな。迷宮ではあまり役に立たないか」

「……どのみち、そんなものを見ながら、進んでいては怪我をするぞ」


それもそうだと思った俺は、素直に硝子板を荷物の中へしまう。

硝子板は三枚を持ち出していて、それぞれ一人一枚持っていた。


軽くなった荷を、俺たちは三人で分散して背負った。

俺は肩を回し、足の動きや腰に違和感がないか確かめてから二人へ声をかけた。


「よし、じゃあ行こうか。今回も罠がないとは限らない。フェリスが先行する、いつもの陣形でいこう」

「うん、分かったよ。ねえ、どんな迷宮かな」


ルナリアが赤い瞳で俺を見つめて、にこりと笑った。

とても幸せそうな表情だった。金糸の髪が、通路に漂う魔法の明かりを受けてやわらかく艶めいている。


フェリスも口元に薄く笑みを浮かべて応じた。


「……ん。今回の迷宮は、楽しいといいんだが」


そう言うと、フェリスは外套を翻して前へ向き直り、歩き始めた。

俺とルナリアが、その後に続く。


俺は星切へ手を掛けながら、この迷宮について少し思案し、フェリスに答えた。

「どうだろうな。多分、ここが最初に作られた賢者の迷宮だろうし、それがどう影響するかだな」


俺たちを照らす魔法の青白い光が、ふわふわと後ろからついてくる。

フェリスが通路の奥を向いたまま、感心するような声音で答えた。


「……ああ。教国が最初の国だとしたら、そうなるのか」

「そういえば、賢者さんは世界樹で暮らしてたんだっけ。そしたら大森林にある、この迷宮が最初のものっていうのはあり得そう。きみは本当に、細かいところによく気がつくね」


俺は荷物の肩紐に手を掛けながら、通路の先を見やった。

石畳に覆われた通路は奥深くまで続いていて、魔法の光は先まで届かない。


真っ暗な通路は、まるで果てしなく続きそうな雰囲気だった。

もちろんそんなことはなく、しばらく進むと通路の奥に下へ降りる階段が見えてきた。


「ここからが本番だな」

「……ん。ここが、実際の迷宮の入口だろう」


フェリスが足元を確かめるように、一段ずつ慎重に下りていった。

魔法の光が俺たちを照らし、その影が長く壁面へ伸びる。


深く、深く降りていく。

やがて長い階段を下りきり、俺たちは一つ目の階層へ辿り着いた。


少し開けた小部屋に出たようだ。

先行して確認していたフェリスが、こちらを振り向いて頷いた。


「……大丈夫だ。入って問題ない」


室内は松明で照らされているようで、フェリスの水色の髪が淡く照らされて煌めいていた。

俺はそこへ足を踏み入れた。


狭い室内は、石を積み上げたような壁面に囲まれていた。

不揃いな石畳が敷き詰められていて、歩きやすい。

だが、その石畳や壁面は、ここまでの通路に使われていた白っぽい灰色の石とは違い、色あせた茶色をしていた。

壁に掛けられた松明の炎が、そう見せているのだろうか。


「いかにも迷宮って感じの見た目だな」

「古城の室内を、そのまま持ってきたみたいだね」


俺の感想にルナリアが的確な表現で応えてくれた。なるほど、確かにそうだ。


フェリスが壁面に手を添えながら、耳をそばだてて周囲を警戒していた。

「……ん。この部屋には魔物はいない」

「入口は、気を使って雰囲気を確認させてくれるのかね」


部屋の隅には大きな酒樽が二つ並んで置いてあった。叩いてみるが、中身は空のようだ。


「……そこには何もいないし、入ってないぞ」

「のどが渇いたの?」


俺は二人の方へ振り向いて応えた。


「いや、洒落た配置だと思ってな。なんか俺、マクスウェルの趣味が分かってきた気がするよ」

「……ふふ。友人のようだな」


フェリスが、水色の髪を指先で軽くかき上げながら優しげに微笑んだ。


軽口をたたき合いながら、小部屋の先に伸びていた通路を進む。

フェリスが周囲を警戒しながら進み、しばらく進んだところで彼女が手を上げて俺たちに合図した。


屈むようにして左手を床へつき、前方を探った彼女が俺たちに告げた。

外套がずり上がり、浅緑のワンピースが張って、うっすらと下着の線が浮かぶ。


「……曲がり角の先に魔物。数は二体。……浮遊型だな」


俺は両手を二人にかざして支援魔法を展開した。

淡い光が彼女たちを包む。


「ぁん……。あっ……。……んっ」

「……んくっ。……っ。……あんっ」


ルナリアの肩が小さく跳ね、金糸の髪がふわりと浮いては落ちる。

フェリスは唇をきゅっと結び、肩から流れる水色の髪を揺らした。


彼女たちの速度を向上させた光が、二人の肌を滑るように広がり、薄手の布地に柔らかな輪郭を浮かび上がらせながら消えていく。


ルナリアが小さく息を吐き、赤い瞳をこちらへ向けてにこりと笑った。

フェリスは視線を逸らしていたが、長い耳はわずかに赤く染まっていた。


「行こう。ルナリア、先行してくれ」

「うん、分かった」


ルナリアが、腰の鞘から銀の剣を抜き放った。

銀の剣に業火を纏わせ、地を蹴って駆け出した。


俺はそれに続いて走り出し、その後ろを守るようにフェリスが続いた。


壁に等間隔で備え付けられた松明が、後ろへ流れていく。

とうとう辿り着いた、教国にある賢者の迷宮。


いよいよ、その初戦だ。



# Sage’s_Labyrinth_1st_Floor_2:


すぐに曲がり角の向こうで、ルナリアが業火の剣を振るう轟音が聞こえてきた。


遅れて走り込んだ俺は、ルナリアの戦況を確認する。

ルナリアが相手取っているのは、黒いレイス二体だった。


浮遊しながら移動するレイスが、ルナリアの業火の剣を大鎌で防いでいた。

その隙を狙って、もう一体のレイスが、大きな鎌を握る両腕を真横へ大きく引いた。

鋭い刃が迷宮の灯りを鈍く反射し、ぎらりと輝く。


レイスが大鎌を鋭く薙ぎ払う。

ルナリアは石畳を強く踏み込み、飛ぶように跳躍してそれを回避した。


ルナリアが、中空で軽やかに身を捻りながら、右手に握る業火の剣を弧を描くように振るった。

ごうっ、と火炎が唸りを上げ、空気を切り裂いてレイスを両断した。


中空で身を翻すルナリアの白いスカートが花のように開き、彼女の太ももが松明の炎に照らされた。

宙にいるルナリアへ向かって、先ほど剣を防いだレイスが音もなく突進する。


空中にいるルナリアは回避不能だと判断したのだろう。レイスが大鎌を振りかざす。

だが、ルナリアは筋力だけでさらに身体を捻り、回転を加速へ変えるようにして着地した。


ルナリアは身をかがめるようにして、横へ払われた大鎌の下をくぐり抜けた。

地を這うように駆け、右腕で燃え盛る業火の剣を振るう。


炎の赤い剣閃が一直線に奔る。

レイスは燃える剣に一刀のもとに断ち切られ、霧散していった。


「おいおい、レイスは上級魔物だぞ。二体を瞬殺とかどうなってるんだ」

「……私が強くなると、ルナリアは更に強くなるな。……追いつける気がしない」


ルナリアが銀の剣を納刀し、首を振って乱れた髪を後ろへ流した。

ウェーブがかった金糸の髪が淡く照らされ、きらきらと光を零した。


こちらへ振り向いたルナリアが、赤い瞳で俺を見つめて口を開いた。

「えへへ。でも、もっと強くならないとね。世界樹にはあいつがいるんでしょう?」

「……そうだな。……魔王だとか、言っていたか。……私のアルスの邪魔をするとは、ふざけたやつだ」


ルナリアが、少し眉根を寄せてフェリスに言った。

「ねえ、フェリスちゃん。最近よく言うけど、アルスはフェリスちゃんだけのものじゃないよ」


フェリスがそれを聞いて、ルナリアに諭すように返した。


「……む。お前はアルスのもので、アルスは私のものだ。……何も問題ないだろう」

「なるほど。確かに、そう言われるとそうかも。あれ? そうかな?」


ルナリアが、こてんと小首を傾げた。

その動きに合わせて、ウェーブがかった金糸の髪がふわりと揺れ、きらきらと輝いた。


問題はあるよ。

俺は俺のものだよ。


大きく息を吐きながら、俺は話に出たジークフリートのことを思い返した。


魔王の瞳は、深く昏くて何も映していなかった。

時が来れば、躊躇なく街を破壊し、何の感慨もなく人々を殺して回るだろう。

それは、憎悪を持って襲いかかる魔族や魔物などより、よほどたちが悪い。


それなのに、俺はそれほどジークフリートが嫌いではなかった。

とはいえ、実際にあいつが街を破壊し始めたら、そんなことは言っていられないだろうけど。


「まあ、勇者ルナリアがいるから、そんなことにはならないさ。先へ進もう」

「えっ。なんの話? ていうか、わたしが勇者なのは嫌だよ。勇者はアルスね! 私はきみの命令を聞いて戦うの」


フェリスが、俺たちを見て笑みを浮かべていった。

「……ふふ。……お前達となら、何者にも負けない気がしてくるよ。……って、おい、アルス。そう言いながら勝手に進むな。……最近、お前は危険に対して弛んでいるぞ」


俺は通路へ向かおうとしていた足を止め、フェリスの方へ顔を向けて謝った。

「ああ、そうだな。ここのところ、ちょっと油断しがちかもしれない。ごめんなさい」


フェリスはふんと鼻を鳴らして、通路の先へ歩き出した。

「……そうだぞ。ルナリアが強くなったからといって、お前が雑になったら意味がない。……大体だな……」


俺はフェリスに説教されながら、そのあとに続く。

攻略中なのに説教を続けるフェリスだって、結構弛んでいるじゃないかと思ったが、口には出さない。


しばらく進んだが、この賢者の迷宮も今のところ分かれ道はなく、罠らしい罠も見当たらない。


そのくせ、見た目だけはいかにも迷宮らしい。

まるで肝心なところを理解しないまま、上辺だけ真似したみたいだなと思った。


賢者マクスウェルは、美しさに対する感覚はいいんだけどな。

どうにも形から入りすぎるきらいがある。

そんなふうに、会ったこともない数百年前の人物に思いを馳せた。


それからも、俺たちは拍子抜けするほど順調に奥へ進んでいった。


――意味ありげに棺が並ぶ部屋があった。

その棺の間から、禍々しい赤黒い光をぼんやりと放つスケルトンメイジが複数体現れた。


だが、そもそも棺の中に魔物がいることは、フェリスが見抜いていた。

現れたスケルトンメイジたちは、待ち構えていたルナリアの炎の剣に、あっという間に薙ぎ払われた。


――広大な中庭めいた空間に出た。

脇には城壁のようなものが聳え立ち、そこに大きな鉄門があった。


鉄門は、俺たちが近寄ると、ぎぎぎっと軋む音を立てて開いた。

その奥から、長大な剣を振り回す鎧姿のスケルトンナイトが現れた。


だが、中で魔物が蠢いていることは、当然のようにフェリスが察知していた。

鉄門が開いた瞬間、ルナリアの奥義が炸裂し、スケルトンナイトは城壁ごと消滅した。


その後も、そんな調子で進んでいった。


この迷宮で現れる魔物は、今のところすべてハイ・アンデッドだ。

なぜ『勇気の試練』とアンデッドが関係しているのかは分からないが、いずれにせよ、ハイ・アンデッドはすべて上級魔物だ。


いくら彼女たちが強くなっているとはいえ、油断していい相手ではない。

だが……正直、賢者の迷宮の魔物は、外の魔物に比べて圧倒的に悪意が足りない。

それは、迷宮の作りにしても同じことが言えた。


戦いで人を殺すには悪意が必要だ。

どれだけ強かろうと、それがない敵は対処しやすい。


美しい少女たちが圧倒的な武力で、進行上の魔物を軽々となぎ倒していく。


俺は、あまりにも淡々と進む迷宮攻略に、徐々に油断し始めていた。

すでに意識は、薄手の布に包まれたルナリアの胸が揺れる様子や、ときおり覗くフェリスの太ももへ向いていた。


そうして進み、俺たちは地下一階の最後の部屋を制圧した。

その部屋にあった鉄製の戸が、錆を削り落とすような音を立てながら開いた。


その奥には、地下へ続く階段があった。


フェリスが先行し、慎重に階段を下りていく。

彼女にはああ言われたが、この賢者の迷宮にそこまでの危険はないだろう。


もちろん、主のいる階層は警戒しなければならない。

けど、道中はそこまで神経質になる必要はないんじゃないか。

そう思った俺は階段を降りながら、ずっと思っていた疑問を口にした。


「なあ、そういえばなんで勇気の試練でアンデッドなんだろうな」

「えへへ。わたし分かっちゃったよ」


フェリスが立ち止まり、こちらへ振り向いた。

「……ん。私も気になっていた。ルナリア、何故だ?」

「ふっふーん。勇気を試す……つまり肝試しだよっ。ほら、子供の頃やらなかった?」


ルナリアが胸を張って、自慢げに言う。

そのせいで、濃紺のバトルドレスの胸元がぐっと持ち上がり、ぶるんっと揺れた。

下着に押さえられていないせいで、そのままたゆんたゆんと上下するそれを見ながら、俺は答えた。


「肝試し……ああ、そういうこと? いや、いくらなんでも……あり得るな。適当すぎる」

「……ん。だとすると、次の階層は墓地か?」


フェリスはそう言うと、再び階段を下り始めた。

俺たちもその後に続き、石造りの階段を下りていく。


(肝試しねえ……。それなら、三人一緒じゃ駄目なんじゃないのか?)


――俺が内心で呟いたそれは、あまりにも見事な前振りだった。


長い階段を下りきって地下二階の戸の前に辿り着いた。

フェリスが戸を開き、部屋の中へ足を踏み入れた。


「……む。超大部屋だ。気をつけろ」

「わかった。主の階層以外のものは久しぶりだな」


迷宮の超大部屋とは、その階層をほぼ一室で構成したような広大な空間だ。

仕切りになる壁も遮るものもないため、部屋の魔物が一斉に襲いかかってくることもある危険な場所だ。

これは、少し気を引き締めないといけない。


そう思いながら、フェリスに続いて俺も部屋へ入った。

それから、周囲の様子に目を向けた。


広大な空間には、いくつもの石造りの墓標が立ち並び、離れた場所でアンデッドが蠢いているのが見えた。

天井がうっすらと光っており、部屋の中は薄暗いながらも景色は見渡せた。

うっすらと霧がかかっていて、遥か向こうにあるであろう壁面までは見通せない。


最後にルナリアが部屋に入る。

「わあ、本当に墓地だったね」


彼女は辺りを見回しながら、頬にかかった金糸の髪を指先でそっと払った。

宝石のような赤い瞳が、薄暗い部屋の中できらりと輝いている。


――そうして、三人全員が部屋に入った瞬間だった。


眩い青白い光が、天井から俺たちへ降り注いだ。


一瞬、意識が暗転する。

次の瞬間、俺は一人で壁際に立っていた。


「え?」


俺はゆっくりと周囲を見渡した。

ルナリアとフェリスの姿がどこにもない。


――やばい!

強制転送魔法だ!!


下級魔物の相手が精一杯の俺は、たった一人で超大部屋の端へ飛ばされていた。



# COORDINATE 0067 END

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