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[COORDINATE 0066] Sage’s Labyrinth ver. Pioneer 1

# Up_the_Mountain_Stream:


結局、ルナリアとフェリスが落ち着いた頃には、もう昼になっていた。

手早く朝食を済ませた俺たちは、大滝へ向かうための準備を急いで整えた。


とはいえ、俺の作戦は二人も理解している。

動けるようになれば、準備はすぐに整った。


温かな陽光に照らされた金糸の髪を揺らしながら、ルナリアが自分の腰回りを確認していた。彼女の腰の細さが、幾重にも結ばれた黒いロープに強調されている。


「うん、こっちはばっちりだよ。それにしてもこの縄凄いね。」


彼女の腰に巻かれているロープは、先日の筒状の建造物で手に入れたものだ。

このロープはとても頑丈で、ルナリアが引き絞っても簡単には切れなかった。

普通の縄なら、彼女がぐっと力を込めれば、すぐにぶちっと千切れてしまう。


もっとも、俺が感動しているのを見て、縄に対抗意識を燃やしたルナリアが本気で力を込めると、みちみちと危ない音を立てていた。

今にも引きちぎりそうで、もったいないから途中でやめさせた。


「しかも、軽いんだよな。一体なにで出来てるんだろう」

「ほとんど重さを感じないよね。ほんと、不思議だね」


ルナリアの腰に巻かれたロープの先は、彼女が切り出しておいた大きな丸太へ伸びている。

四本の縄が、彼女の腰と丸太を繋いでいた。


俺が丸太へ視線を向けると、フェリスが巻き付いたロープの状態を確認していた。

彼女は、ときおりぐっと引いて締まり具合を確かめていた。


確認を終えて姿勢を戻したフェリスの水色の髪が、肩からするりと流れ落ちた。


「……ん。問題ないな。そちらはどうだ」


俺は自分の身体に巻かれたロープを確認した。


ルナリアは、すべての衝撃が腰に来てもへっちゃらだが、俺はそうはいかない。

衝撃を分散させるため、足首や肩周りの複数箇所にロープが固定されていた。

最悪を考えて、背骨には干渉しないように巻き付けていた。

俺は手足なら折れても千切れても、激痛があるだけで平気だが、背骨はまずいからな。


この作戦では、俺だけ命綱が必須だった。

当然だ。俺は彼女たちのように中空で方向を変えたり出来ない。


「うん、大丈夫だ。しっかり固定されてるよ」

「……お前は、たまに雑だからな。……私も確認しておこう」


フェリスはそう言うと、丸太から俺へ伸びるロープの張り具合を確認した。

それから俺のそばまで歩いてきて、こちらの縄の状態も確かめた。


フェリスがしゃがみ込んで、俺の足回りのロープを確認し始めた。

外套ごとたわんだ胸元の奥に、艶かしい谷間が覗く。


俺がそこへじっと視線を向けていると、立ち上がったフェリスが俺の頭をはたいた。


「……集中しないか」

「はい。ごめんなさい」


ルナリアが、自分に巻かれた四本のロープを握りながら、こちらを見てくすりと笑っていた。念入りに俺の命綱を確認していたフェリスが、やがて口を開いた。


「……よし、問題ない」


俺は腰帯に差した星切の結びを確認した。

それからルナリアに視線を向けていった。


「いくか。結構どきどきするな。ルナリア、頼む」


楽しそうな表情を浮かべた俺に、ルナリアがにっこりと笑いかけた。


「ふふ、楽しそうだよね。任せてよ。わたしが、大滝まで連れて行ってあげる」

「頼んだ」


ルナリアは腰の鞘から、しゃらりと鞘走りの音を立てて銀の剣を抜き放った。

彼女は真っ直ぐに銀の剣を掲げ、自身へ竜の力を宿す言葉を紡ぐ。


「――わたしはルナリア・アストライア! わたしはアルスの剣! 我が心身は所有者たるアルスの為に在る! 彼の望みを叶えるため、我が身を竜と化せ!」


眩い赤い光が、ルナリアを包み込んだ。

彼女は軽く跳び上がると、そのまま大河の上へ飛翔していく。


ルナリアが、自分の腰に巻き付いた四本の縄を、絡まないように手元で纏めた。


「始めていいよー」

「……ん」


フェリスが纏めてあった荷物をすべて背に担ぎ上げた。

そのまま大きな丸太を両腕でひょいと持ち上げる。


つかつかと川辺まで歩いていき、大河の濁流へ投げ込んだ。

飛翔するルナリアから伸びる縄に引かれて、丸太が濁流に逆らうように浮かび上がる。


「……いいぞ、アルス」

「よし、いくか」


俺は川に足を踏み入れた。

「つ、冷てえ!! うおおお!」

「……冬の川だからな。……だから、私が抱えて跳んでやると言ったのに」


俺は、轟々と流れる真冬の川を丸太まで泳いだ。

地を蹴って飛ぶように跳躍したフェリスが丸太へ飛び乗り、俺に結ばれた命綱を優しく引いてくれた。


その縄を辿って、俺もなんとか丸太によじ登り、必死にしがみついた。


「よ、よし! いいぞルナリア、出発だ!」

「はーい。よーそろー」


俺の指示を受けて、ルナリアが飛行を始めた。

彼女は、丸太が川の流れに対して真っ直ぐになるよう調整しながら、ゆっくりと進む。


フェリスが、信じられない体幹で揺れる丸太の上に立ち上がった。

脚を踏み込んで重心を調整しつつ、丸太にしがみつく俺へ手を伸ばし、位置を直してくれた。


「……ん。ルナリア、こちらは安定した」

「わかった。ちょっとずつ速度を上げるね」


ルナリアが、徐々に速度を上げ始めた。


彼女に引かれたロープが、ぐんっと張る。

川の流れとルナリアの牽引力で均衡を保っていた丸太が、ぐんぐん上流へ引っ張られていった。


俺たちを乗せた丸太が、空を飛ぶルナリアに引かれ、川を遡り始めた。

赤い光を纏うルナリアが、河面すれすれを力強く飛んでいく。


そのたびに丸太がざばっと盛大な水しぶきを上げ、冬の川の水が俺へかかった。


「うおおお! 冷てえ!」

「……頑張れ。少しの辛抱だ」


ルナリアが抱えて飛べるのは、一人が限界だった。

俺とフェリスを抱えたままでも飛行はできるようだが、速度は落ちるし安定しない。


その状態で、大森林の上空を旋回する上級魔物や、魔族にでも見つかれば危険だ。


だが、河面を這うように飛べば、飛行型の魔物にも見つかりにくい。

さらにこうやって、水面に浮かべた丸太を引くのであれば、人を抱えるよりも軽いから安定して飛べる。


懸念は、川を逆行することで生じる負荷だった。

しかし、速度を上げると丸太は流れの上を跳ねるように滑っていくため、流れの影響はほとんどなかった。


――ただし、跳ねるように川を滑っているせいで、ときおり川のうねりに跳ね上げられ、俺が吹き飛ぶ。


「うわあああ!」

「……ん」


跳ね上がる丸太の上でも姿勢を崩さなかったフェリスが、腰からシルフの短剣を引き抜いた。右手に握った美麗な緑の短剣を、頭上へ掲げる。


「……私はフェリス! 私はアルスの翼! 私は彼のすべてを赦し肯定する為に在る! 彼の望みを叶えるため、我が身を風の妖精と化せ!」


鮮やかな緑の風を纏い、妖精となったフェリスがその場からかき消えた。

瞬間移動した彼女は、吹き飛んだ俺を左腕で抱きとめ、そのまま腕の力だけで丸太へ向かって投げ返した。


「おわあああああ!!」

「……ちょっと、可愛いのをやめろ」


俺を投げたフェリスの周囲に風が巻き起こり、彼女は再び瞬間移動した。

丸太の上へ戻ったフェリスが、飛んできた俺を抱きとめた。


繰り返される衝撃に、俺の肺の中の空気が一気に漏れ出た。

フェリスが俺を抱えたまま、脚の力で丸太をぐんっと水面へ押し付け、水平に戻した。


「うおお、痛え! でもおもしろい!」

「……ん。確かに、結構楽しい」


前方を飛ぶルナリアの白いスカートが、風に煽られてひらひらとはためいていた。

ルナリアがこちらを振り向き、笑顔で声を上げた。


「えへへ。もっと速度、上げちゃおうか!」

「おう! いけいけ!」


金糸の髪を靡かせながら、ルナリアがロープの位置を調整した。

彼女を包む赤い光が輝きを強め、ルナリアはさらに加速し始めた。


ぐんぐんと速度が上がる。

水しぶきはいっそう激しくなり、ざばあっと丸太が河面を飛ぶように跳ねながら進む。


「おお、いいぞいいぞ! 俺たちは風だ! ……うおあっ」

「……舌を噛むぞ」


当然、俺が吹っ飛ぶ回数も増える。

そのたびにフェリスが俺を丸太へ引き戻してくれていた。


寒さも恐怖も、あまり感じていなかった。

興奮が脳内を駆け巡り、それを緩和しているのだろう。


何度目かに吹き飛んだとき、腕にびきっと激痛が走った。

骨がいったと感じた俺は、慌てて回復魔法をかけて自分を癒した。


その痛みで、俺は少し冷静さを取り戻した。

ちょっと、楽しさに気持ちを持っていかれていたな。

しっかりしないと。


中空に吹っ飛ぶぶんには良いが、水中に落ちたら結構危ないのだ。

フェリスは、水の中へ瞬間移動できない。

風が通らないからだ。


あまり調子に乗らないようにしなければと思い直し、俺は必死に丸太へしがみついた。


徐々に、丸太が暴れる回数も激しさも落ち着いてきた。

丸太の向きと傾きは、後ろに立つフェリスが重心をかけて調整していた。

フェリスの丸太捌きが、どんどん上手くなっているのだと感じた。


後ろをちらりと振り返ると、水色の髪を靡かせたフェリスの姿が目に入った。

ばたばたと翻る外套の下で、ずぶ濡れになった浅緑のワンピースが彼女の肢体に張り付いている。

その柔らかな少女らしい線に、俺は思わず目を引かれた。


ちょっと透けてる。

そう思ってじっと見ていると、彼女が涼やかな目元をこちらへ向け、笑みを浮かべた。


「……おい、余裕じゃないか。ほら」

「あ、やめろよっ。うわ!」


俺は丸太から振り落とされそうになって、前に向き直り必死にしがみついた。



# Escape_on_the_River:


本流に近づくにつれて、支流が合流していき川はどんどんと広くなっていく。

前方で、ルナリアが声を上げ左手を河面へ向けた。


「フェリスちゃん、魔法を撃つよ。――ファイアブラスト!!」

「……ん。任せろ」


轟っ、と業火が放たれ、進路上に浮かび上がってきた魚人の群れをまとめて焼き払う。

フェリスは丸太の上へ重心をかけ、押し寄せる波に合わせて巧みに向きを調整していた。


俺は、ひたすらしがみついていた。

大河はかなり幅を増しており、赤茶けた水も次第に色を変え、川は美しい青へと姿を変えていく。


だがその水量が膨大だからか、川底は真っ暗で全く見えない。

まるで波の日の海のようだった。


そうして、しばらく跳ねるように進む丸太にしがみついていると、とうとう俺の眼前にそれが現れた。


――大地がそのまま上下にずれたような、途方もない横幅の崖。そこから轟々と激流が流れ落ちていた。


あまりにも激しく流れ落ちる巨大な川の水が、周囲の空気まで震わせている。

膨大な量の水が下流に叩きつけられていて、巻き上がる水しぶきが白い煙のようだった。


大滝だ。


俺は両腕で丸太にしがみついたまま、大声を上げた。


「やった!! ついたぞ!」

「わあ! すごい景色だね!」


壮大な光景に、俺は目を奪われた。

達成感が心を満たし、喜びのあまり、しばしその滝をじっと眺めていた。


だが、その感動を断ち切るように、眼前の水面が轟音を立てて盛り上がった。


ざばん、と水を割って何かが飛び出してきた。

俺の頭上に躍り出たそれは、逆光の中でもわかるほど巨大な魚だった。

ぬらりとした犬歯を剥き出しにし、大きくあぎとを開いて俺に迫る。


「う、うお! やばい!」

「――ファイアランス!!」


ルナリアが放った火炎の槍が、その巨大魚に直撃し、魔物を炭化させながら吹き飛ばした。

だが、それに続くように三匹の巨大魚が、丸太にしがみつく俺へ次々と襲いかかってきた。


「う、うわあああああ!!」

「……馬鹿、油断しすぎだ!」


フェリスが、すぐに右手で握ったシルフの短剣を鋭く振るった。

俺を縛っていた命綱を即座に切り裂くと、そのまま左腕で俺を抱き上げた。


フェリスは俺を抱きかかえたまま、丸太を鋭く蹴り込み跳び上がった。

中空でフェリスとルナリアの視線が交差した。


ルナリアが右手に握る銀の剣が、燃え盛る業火を纏う。

彼女はまず、自分と丸太を繋いでいた強固なロープを切断した。


「ルナリア、私はもう届く! アルスを!」

「……うんっ。任せて!」


フェリスが俺を腕の力だけで、ルナリアへ向かって放り投げた。

そのまま中空でシルフの短剣を掲げ、魔法を紡ぐ。

鮮やかな緑の風を纏い、二、三度瞬間移動して河原へ到達した。


俺の視界いっぱいに、雲ひとつない大森林の快晴の空が広がった。


ふわりと宙を舞った俺を、ルナリアがしっかりと抱きとめた。

正面から受け止められた俺の腹に、濃紺の薄布一枚だけに覆われた胸が押し付けられる。

その柔らかな感触を意識した瞬間、ルナリアが身を捻って加速した。


その瞬間、さっきまで俺とルナリアがいた空間を、二匹の巨大魚が凄まじい速度で牙を突き立てるようにして通過した。

がきん、とあぎとが空を噛み、そのまま再び川面へ落ちていく。


飛翔するルナリアへ、途切れることなく巨大魚が襲いかかってくる。

ルナリアは河原へ向けて加速し、次々と飛び出す巨大魚を避けながら高速で飛翔した。


後ろ向きに河面を見ていた俺の視界に、なにやら巨大な黒い影が水面の下に映った。


「な、なにかいるぞ!? ルナリア、俺に遠慮しないで全速力で飛べ!」

「うんっ! しっかり掴まっててねっ」


ルナリアが俺を左腕で強く抱きしめ、そのまま急加速した。

衝撃に、思わず漏れそうになる声を俺は必死に堪える。


水面の下の黒い影がみるみる大きくなり、ざぱんと、とんでもない巨躯の鮫が現れた。

鮫の魔物は俺たちに襲いかかっていた巨大魚を数体まとめて一呑みにすると、そのまま川面の下へ沈み、再び黒い影となった。


ルナリアの飛行魔法は、飛翔中の風圧を和らげてくれる。

それでもなお、綺麗な金糸の髪が激しく靡くほどの速度でルナリアは飛翔していた。


だが、その高速飛行にさえ、黒い影は追いすがる。

水中を奔る巨大鮫の速度は、ルナリアの飛翔に迫るほどだった。


追いついた巨大鮫が、川面を爆発させるかのような水柱を上げて飛び出してきた。

鋭い三角の牙がずらりと並んだあぎとを開き、魔物が俺たちに襲いかかる。


巨大鮫が頂点に達したその瞬間、その頭部に疾風が巻き起こった。

風とともに、青い外套を翻し、双手に短剣を握ったフェリスが現れる。


「……いけっ! ルナリア!」


フェリスが、順手に握った短剣を十字に振るった。

緑と紫、二筋の剣閃が巨大鮫の頭部に奔る。


「ギァアア!」


ルナリアがそれを受けて、赤い光を発しながらさらに速度を上げた。

俺たちの眼前に、ぐんぐんと河原が近づいてくる。

河原はこれまでと様子が違い、土がむき出しになっていて、すぐそこまで樹木が生い茂っていた。


「このまま着地するよ!」

「ああ!」


土煙を立てながら、ルナリアが滑り込むように河原へ辿り着いた。


俺は、ルナリアから飛び降りるようにして距離を取った。

ルナリアは飛行魔法を解除し、地を踏みしめて川面へ向き直る。


すぐそばに、鮮やかな緑の風が巻き起こる。

フェリスが瞬間移動してきたのだ。


「来るか?」

「……わからん。私の短剣は、怯ませただけだ。……身にはほとんど届いていなかった」


フェリスの攻撃を受け、水面に姿を隠していた巨大鮫が、わずかに水面から姿を現した。巨大鮫は、焦点の合わない瞳でこちらをじっと見ていた。


ルナリアとフェリスが武器を構え、その魔物へ向き合う。

だが、やがて陸地に到達した俺たちに興味を失ったのか、河の中へと消えていった。


広大な大河に静寂が戻った。

俺は大きく息を吐き、二人に歩み寄った。

それから両手を彼女たちの背に伸ばし、念のため回復魔法をかけた。


「はぁ……。助かった。なんで川に鮫がいるんだよ」


ルナリアは、まだ鮫が消えていった方へ赤い瞳を向けていた。

しばらくして魔物が去ったことを確認すると、腰の鞘に剣を収めて口を開いた。


「びっくりしたぁ。それにしても、大きい魔物だったね」

「……ああ、陸地が近くてよかった」


無類の強さを誇る彼女たちでも、川の魔物を相手に水中戦では、いくらなんでも分が悪い。逃げ切れてよかった。


俺は、濁流の音だけが響く川を見ながら、ずれた星切の位置を調整した。

それから、すぐ目の前にそびえ立つ大滝を見やった。


俺たちが上陸したこの河原は、大滝のすぐ近くだった。

少し歩けば、滝壺の真横まで行けるだろう。


年月を超えて流れ続ける雄大な濁流が、轟々と膨大な水を叩きつけていた。


ルナリアとフェリスに視線を向けた。

俺はもちろん、彼女たちもずぶ濡れだった。

薄手の服は水を含んで身体にぴたりと張り付き、胸元から腰にかけての柔らかな起伏を、隠しきれずに浮かび上がらせている。

視線を強烈に引き寄せるその陰影から目を逸らし、俺は二人に声をかけた。


「少し身体を乾かしてから、探索しよう」


「うん、そうだね。びちゃびちゃだよ」

「……ん。火を起こそう」


フェリスが荷物から野営用の道具を取り出し、簡単に火を起こした。

彼女は焚き火の炎が安定したのを確認すると、外套を乾かすために脱いで近くの枝へ掛けた。


俺たち三人は、腰を落として焚き火の炎に当たり始めた。

温かな炎が、冷たい水で冷えた身体をじんわりと温めていく。


ちらりと、火にあたる彼女たちの様子を見た。

濡れそぼり、薄布が身体に張り付いた彼女たちの姿には、濃い色気が漂っていた。

しゃがみ込んでいるせいで、太もものあたりが特に危うい。


俺は、しばらく大滝の方を見ることにした。

とてつもない横幅の滝が、白い水煙で空気を曇らせ、轟音をここまで響かせていた。


ルナリアが立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくる気配がした。

俺が気を使って見ないでいるというのに、肩が触れそうな距離まで寄ってくる。

彼女も膝を折って、俺に身を寄せるように滝を覗き込み始めた。

その拍子に腕へ双丘が押し付けられ、ぐにゅりと柔らかく潰れた。


「迷宮は、どこにあるのかな?」


俺は轟々と流れ続ける滝の裏側に視線を向けていった。


「まあ、マクスウェルが滝に迷宮を作るのなら、あそこだろうな」

「……滝の裏側か。……私も同意見だ」


しばらくして、身体を乾かした俺たちは探索を開始した。

滝壺を横から望めるところまで、河原を歩いて移動する。


想像以上の水しぶきが霧のように立ち昇っていて、せっかく乾かした身体が再び濡れ始めた。

これは迷宮に入ったら、もう一度休憩を取らないといけないかもしれないな。


ごつごつとした岩肌は見えるが、ここからでは壁面の様子までは伺えない。

飛行魔法を詠唱して赤い光を纏ったルナリアに、俺は声をかけた。


「じゃあ頼む。魔物が出たら中級でもすぐ戻ってこいよ」

「うん」


ルナリアが地を蹴って、一気に滝裏へ跳躍した。

そのまま魔法の力で飛翔し、奥へ入っていく。


――しばらく待っていると、ルナリアの明るく弾んだ声が届いた。


「あ、あるよ。アルス凄い! 絶対あれだよ!」

「おお! 偉いぞルナリア! すぐに連れて行ってくれ」


ルナリアがすぐにこちらへ戻ってきた。

滝裏の水しぶきはさらに激しいらしく、ぐっしょりと濡れた濃紺のバトルドレス越しに、彼女の胸の突起が浮かんでいた。


「……ん。ルナリアばかり見ないように」


声の方を振り向くと、フェリスが瑠璃色の瞳で俺を見ていた。

彼女は透明感のある水色の髪を手でかき上げながら、少し口を尖らせていた。


「こほん。別に俺は何も見ていない」

「え? どうしたの?」


戻ってきたルナリアが、俺の様子を見て小首を傾げた。

俺は苦笑しながら答えた。


「いや、なんでもない。じゃあ連れて行ってくれ」

「うんっ。凄い景色だよっ。やっぱり冒険て楽しいね!」


ルナリアが俺を左腕で抱きかかえた。

やはり、彼女の身体は温かく、柔らかかった。


ルナリアが俺を抱えて、滝の裏へ飛翔していく。

フェリスは露出した岩場を跳びながら後に続いた。


濁流が滝壺を叩き続ける凄まじい轟音と、立ち上る水霧でずぶ濡れになりながら奥へ進んだ。

やがて、むき出しの灰色の岩肌の奥に石畳の端が見えてきた。


そこへ未知の力が流れていることを、うっすらと感じた。

迷宮の入口であることは、一目瞭然だ。


床は滝の方まで伸びていたが、年月によって削られ、端の方は崩れ落ちていた。

崖側に残った石畳の先へ視線を向けると、真四角にぽっかりと空いた通路が見えてきた。


壁と天井は石で整然と組まれており、それが薄暗い奥へ延々と続いているのが見えた。

なるほど、時間をかけて滝がどんどん崖を削り、壁面は後ろへ下がっていく。

それでもなお耐え抜くように、迷宮の入口そのものを長い通路として築いているんだ。


つまり、これは長い年月を見越して築かれた、人の意志が介在した迷宮。

――賢者の迷宮だ。


「よし、間違いない。賢者の迷宮だ! やったぞ。とうとう着いた!」


「やっぱりそうだよねっ。やったねアルス!」

「……凄い、な。……誰に聞くでもなく、自力で辿り着くとは」


俺はルナリアに降ろしてもらい、石畳の上に立った。

それから灯火の魔法を全員にかけた。


青白い魔法の光が、ほんのりと通路の中を照らすが、通路は長くまったく奥は見通せない。

俺は迷宮の奥を見やりながら、セルナ統領から聞いた話を思い返した。


――教国の賢者の迷宮、その内容は『勇気の試練』だ。


その大層な名前を思い返したところで、口元に笑みが浮かんだ。

どうせマクスウェルのことだから、勇気との関わりは思いつきのこじつけだろうな、と俺は思った。



# COORDINATE 0066 END

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