[COORDINATE 0060] The Great Forest
# Jungle_and_Monsters:
鬱蒼と茂る木々のあいだを、俺たちはひたすら進んでいた。
人類が踏み入れることの許されない大森林の内部は、これまで訪れたどんな場所よりも濃い生命力に溢れていた。
見上げるほど巨大な樹木が幾重にも立ち並ぶ。
それらの樹木は根と葉を広げ合い、奪い合うようにそれぞれの領分を主張していた。
そうして牽制し合う幹と幹のあいだには、日光を貪欲に求める草花や低木が群がり、隙間なく埋め尽くしている。
魔物なんて関係ない。
そもそも、この場所に人の踏み入る余地などない。
俺は額から流れ落ちる汗を腕で拭った。
教国の凍てつくような冬の寒さでこれだ。
夏に来ていたら、耐えられず引き返していただろう。
「はぁ……。うへえ。きつい……」
「……やはり、私が荷物を持とう」
俺は声をかけてきたフェリスの方に視線を向けた。
彼女は汗ひとつかいていない。
だが、彼女はその華奢な肩に、すでに俺の三倍ほどの荷物を背負っていた。
気合を入れ直すように、俺は自分の頬をぺちぺちと叩く。
それから、自分にかけている攻撃力向上の支援魔法を更新した。
魔法の光が俺の筋力を引き上げ、残光が粒子となって消えていく。
俺は、靴底でしっかりと地面を踏みしめながら進み出す。
横を歩くフェリスに、俺は言った。
彼女の歩みに合わせて、水色の髪が木漏れ日を反射してきらめいた。
「ば、馬鹿言うな。これくらい余裕だ」
「……ん。……無理はするな」
前方では、ルナリアが金糸の髪を揺らしながら、銀の剣を振るっていた。
俺のために道を作りながら進む彼女だけは、荷物を背負っていない。
普段のルナリアなら、俺から荷物を奪って、自分が大量に荷物を背負おうとする。
だが、今回に限ってはそういうわけにはいかない。
常にルナリアを万全の状態にしておく必要があった。
フェリスの長い耳が動いた。
「……ルナリア」
「うんっ」
前を歩いていたルナリアが地面を蹴って後退し、ふわりと俺の元へ跳躍した。
俺は左手を彼女にかざし、支援魔法をかけた。
「属性は魔法攻撃力向上だ。魔物は何体だ?」
「あぁ……。ふぁ……。あんっ……え、えと二体、かな?」
ルナリアは、赤い瞳を俺に向けたまま、口元から甘い吐息を漏らした。
フェリスはじっと前方を見つめたまま、ルナリアの告げた数を訂正した。
「……ルナリア、三体だ」
「ありがとう、フェリスちゃん。アルスをお願いね」
ルナリアとフェリスが、うなずくように視線を交わした。
それから、ルナリアはにこりと俺に笑いかけると、前方へ向き直った。
ルナリアが大地を強く踏み込み、前方へ加速した。
アストライアの剣を業火が覆う。
左右の樹木の影から青黒い巨大な豹が二体躍り出てきた。
鋭い牙を突き立てるようにルナリアに襲いかかる。
ルナリアが、鋭く地を蹴って中空へ躍り出て、両手で燃え盛る剣を握り、身体ごと左へ引き絞る。
ルナリアは力を解放し、燃え盛る銀の剣を右へ薙ぎ払った。
ごうっ、という音とともに、赤い剣閃が奔る。
業火の剣が、大気を切り裂き、そして魔物を二体まとめて両断した。
巨大な豹の魔物たちが、飛びかかった勢いのまま炭化して地面に叩きつけられた。
ルナリアの宝石のような赤い瞳は、その死骸を見ていない。
彼女は構えを解かずに、正面にある太い樹木を注視した。
ルナリアが鋭く声を上げた。
「フェリスちゃん!」
「……ああ。任せろ」
フェリスが、軸足を踏み込んで一息に俺の正面へ回り込む。
そのまま、俺の腰に両腕を回してぐっと抱き上げた。
俺の腹に彼女の胸が密着し、ふにゅりと形を変えた。
フェリスに持ち上げられ、視界が少し高くなった。
前方で、ルナリアが真横へ素早く跳躍しているのが見えた。
同時に、フェリスが空高く跳び上がり、その跳躍の凄まじい勢いに俺は息を詰まらせた。
――その直後、中空にいる俺たちの真下を太い赤黒い稲光が奔った。
ルナリアが先ほど見つめていた太い樹木は、根本から穿たれていた。
魔法の雷が樹木を吹き飛ばしたのだ。
その赤黒い稲光は、俺たちがいた地面を抉りながら後方へ突き抜けていく。
幹を抉られた大樹が、めきめきと音を立てて倒れた。
そして、根本だけが残った樹木の向こう側に、巨大なあぎとを開いた魔物が見えた。
口腔から魔法を放ったその魔物は、俺たちが回避したことを認識して殺意を高めた。
巨大な山羊のような角を生やした四足の獣だ。
ごわごわとした赤黒い毛並みに覆われた魔物は、この場で最も警戒するべき相手に視線を向けた。
当のルナリアはすでに攻撃に転じていた。
上段に構えた燃え盛る業火の剣を、真っ直ぐに振り下ろす。
魔物が、その巨体から想像できない鋭い動きで横へ飛んだ。
ルナリアの斬撃を回避した魔物が、巨大な右腕を振り上げた。
ルナリアは魔物の腕を赤い瞳で捉えたまま、ゆらりと半身に構え、銀の剣を右下に降ろした。
魔法の炎が、ルナリアの白いニーハイと、その上にちらりと覗く太ももを照らす。
魔物が爪を突き立てた腕を鋭く振り下ろす。
ルナリアが、踊るようにその場でくるりと回転して身体の軸をずらした。
魔物の攻撃は空を切り、巨大な腕が地面へ叩きつけられ、地が爆ぜる音が響く。
彼女の下着に覆われていない豊かな胸元のふくらみが、遠心力でぶるんっと持ち上がった。
身体を捻って回避した彼女が加速し、アストライアの剣を凄まじい速度で真横へ振り抜く。紅蓮の剣閃が水平に奔った。
空気が爆ぜるような音を立てながら、弧を描いた業火の剣が魔物の腕を切り飛ばし、そのまま胴まで真っ二つにした。
魔物の崩れ落ちる音と、肉の焦げる匂いが周囲に漂う。
風に揺れる森のざわめきだけが残った。
上級魔物を一太刀で葬ったルナリアは、残心ののち、血糊を振り払って納刀した。
「大森林、やばい……。ルナリアもやばい……」
思わず本音が漏れた。
大森林に入ってから、断続的にこんな戦闘が起きていた。
フェリスが先行していないのはそのせいだ。
魔物の密度が高すぎて、索敵するまでもないのだ。
ルナリアが金糸の髪を揺らしながらこちらへ歩いてきた。
「アルス、大丈夫?」
俺を降ろしたフェリスが、気遣うように覗き込んできた。
「……少し、休むか?」
俺は荷物の肩紐を掛け直して答えた。
「いや、まだ大丈夫だ。二人ともありがとう」
ルナリアは少し思案したあと、赤い瞳を俺に向けて言った。
「無理しないでね。ねえ、やっぱり荷物はわたしが持つよ」
「嫌だ。俺が持つ」
俺は意地を張るように答え、歩き出した。
「先へ進むぞ」
「もうっ。そういうところ、頑固なんだから」
ルナリアが、俺を呆れたように見つめたあと、微笑みを浮かべた。
彼女は、再び道を作りながら前進し始めた。
「……ふふ。まあ、それでこそ、アルスだ」
フェリスが、さりげなく俺の荷物から水筒を抜き出している。
こっそり荷を軽くしようとしてくれていた。
あちこちに伸びる木の根を避けながら、地面を踏みしめて進む。
ふと、俺は頭上を見上げた。
枝葉に遮られた狭い空を、飛行型の魔物、それも竜種が数体旋回していた。
ここからだと見えないだけで、実際にはもっと多く飛んでいるだろう。
あれのせいで、空を飛んでいくわけにも、枝を跳んでいくわけにもいかないのだ。
俺は再び自分に支援魔法をかけ直し、せめて明日までは荷物を持つのだと心に決めて歩を進めた。
――フェリスの方向感覚は、ずば抜けていた。
こんな、どちらを向いても同じ景色が広がるような大森林でも、きちんと方角がわかっている。それどころか、大まかな距離まで把握しているらしかった。
フェリスの示す方角へ、俺たちはひたすら奥へ進む。
どれくらい歩いただろうか。
汗でびっしょりとシャツが張り付き、脚が重くなってきたころ、ようやく木々の向こうに開けた場所が見えた。
ずっと樹木に覆われて、途切れ途切れだった空が覗いた。
少し下がった位置に、大きな川が流れていた。
ごうごうと流れる大河は水量も膨大で、土砂を含んだ流れは赤茶けていて、その中を見通すこともできない。その濁流は見る者を圧するほど雄大だった。
ルナリアが振り向いた。
彼女の、毛先がウェーブがかった金糸の髪がふわりと揺れた。
「ねえ、あの川は伐採所とつながってないよね?」
「……ん。そうだな。教国の影響圏から、かなり離れている」
フェリスが頷き、ルナリアに答えた。
俺は周囲の様子を見たあと、念のため上空を仰いだ。
このあたりには飛行型の魔物の姿が見えない。
川の上は、森が途切れるからだろうか。
理由はわからないが好都合だな。
視線を戻すと、フェリスとルナリアが俺の指示を待っていた。
彼女たちは、まだまだ余裕そうだが俺はそろそろ限界だった。
「少し休憩しよう」
「うん。お腹減ったね。魚とか釣れるかな」
俺たちは、森林を出て河原へ歩み寄る。
轟々と流れる川を見やりながら、小石だらけの河原を進む。
ふと、川の水が揺らいだ気がした。
そうだ、水場というのは生命の坩堝だ。
それはこの大森林でも変わらないはず。
俺がそう思うのと同時に、あちこちの川辺から魔物が次々と這い上がってきた。魚のような頭部。気味の悪い瞼のない濁った目。手足には水かきがあり、蛙のような胴体で二足歩行していた。
手には粗末な槍や骨の棍棒を握っている。
中級魔物の半魚人だ。
ルナリアが、しゃっと鞘走りの音を鳴らし、銀の剣を抜き放った。
宝石のような赤い瞳で魔物を捉えたまま、彼女は俺の指示を待つ。
俺は疲労した身体にむち打ち、意識を集中させて周囲を確認した。
川の中が見通せないのが気にかかった。
すぐに二人に指示を出した。
「ルナリア、川には近づきすぎるな。フェリスは俺じゃなく、荷物を守ってくれ。俺は自衛する」
俺とフェリスは一か所にまとめて荷物を降ろした。
ルナリアとフェリスが俺のそばに寄り、背をこちらへ向けた。
俺は両手を彼女たちにかざして、速度上昇の支援魔法をかける。
「あぁ……。んあっ……。う、うん。え? 自衛するの?」
「……あっ。……んくっ。……大丈夫か?」
俺は星切を鞘から抜き放ち、刀を降ろしたまま、二人に言った。
「これは意地じゃない。俺の安全より荷物の方が大事だ。言うことを聞け。来るぞ」
俺の毅然とした態度に、ルナリアは赤い瞳をわずかに潤ませて魔物へ向き直った。
フェリスは少し嫌そうにしつつも短剣を抜刀し、頷いた。
[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]
すでに何体かの半魚人が、俺たちの食料を狙って忍び寄ってきていた。
「……無茶はするなよ。アルス」
そう言うと、フェリスが中空へ跳躍して短剣を逆手に返した。
彼女は、くるりと回転しながら、その半魚人の群れの眼前に着地する。
ふわりと青い外套が持ち上がり、彼女の肉感のある太ももが覗いた。
回転するように身体を翻し、彼女の動きに合わせて、緑と紫の剣閃が幾度となく走る。群がる半魚人は、喉元を切り裂かれて次々に倒れていく。
「心配だな。ううん、わたしが全部倒しちゃえばいいねっ!……きみには、指一本触れさせないんだから」
ルナリアが右下へ降ろした銀の剣を業火が覆う。
地を蹴って中空へ跳び上がった彼女は、ひときわ大きな群れの眼前へ躍り出た。
ルナリアへ群がる前線の半魚人が、剣や槍を振り下ろす。
ルナリアはその攻撃に視線を向けることなく、優雅に踊るように回った。
炎の剣閃が赤い円を描き、彼女へ群がっていた半魚人を一刀ですべて絶命させた。
さらに、ルナリアは左手を残った群れへ向けた。
「――ファイアブラスト!」
空気を焼き尽くしながら、業火が魔物へ襲いかかった。
一帯の魔物はその魔法だけで、炭化し、消し飛んでいく。
正直、半魚人は陸地では弱い。
ましてや、ルナリアとの相性は最悪だ。
炎の魔法使い相手に勝てる道理はなかった。
だが、数が多い。
ルナリアの殲滅を掻い潜り、数体が俺のところへ抜けてきた。
星切を右手で握ったまま、意識を切り替えて自分に攻撃力向上の支援魔法をかけた。
半魚人が粗末な槍を振り下ろしてきた。
俺はそれをしっかりと目で捉え、基本に忠実に身体の軸をずらして回避する。
しっかりと足運びを意識し、紙一重でよけるような真似はしない。
上段に構えた星切を、一直線に振り下ろす。
真っ直ぐに刀が振り下ろされ、半魚人の身体を切り裂いた。
両断とはいかないが、絶命はしている。
もう一体が、槍を突き刺すように突進してきた。
俺は走るように大きく回避して星切を横へ薙いだ。
腹を裂かれ、半魚人がたたらを踏む。
星切の柄を握り、上段へ掲げる。
右の握りはしっかりと、左は添えるようにやわらかく。
いくどとなく繰り返した訓練の動きを追うように、星切を振るう。
刀が半魚人の頭蓋を砕き、魔物が崩れ落ちた。
荷物に群がる半魚人を淡々と切り刻んでいたフェリスが、俺に瑠璃色の瞳を向けた。
口元に薄く笑みを浮かべて言った。
「……ん。やるじゃないか」
俺は高揚した気持ちを抑えるようにしながら、警戒を解かず答えた。
「少しはましになっただろ」
「……ああ。格好良いぞ」
[ System : Ferris Reason_Gauge -10 ]
戦闘は順調だ。
俺は警戒を続けているが、森林から他の魔物が増えてくる気配はない。
川辺には、川辺の縄張りがあるのだろう。
断続的に、川の中から半魚人の群れが出てきていた。
平地ではあり得ない数が襲いかかってきているが、ルナリアが一太刀振るうごとに十は絶命している。
荷物を狙っていた魔物は、フェリスによってすべて倒されていた。
後は、ルナリアが対峙している数十体を倒せば終わりだろう。
これが終わったら一度休憩だな、などと考えてしまったのが悪かったのか。
突如、大河の水流が爆ぜ、凄まじい水柱が立ち上がる。
はじめ、それはびっしりと鋭い牙が並んだ口しか見えなかった。
それは、ひと呑みで周囲の半魚人を喰らった。
半魚人を喰らい、口を閉じたそれは巨大な鰐のような頭部だった。
俺の胴ほどもありそうな濁った黄色い目で俺たちをひと睨みしたあと、その魔物は身体を持ち上げた。
水しぶきを上げながら、鰐の頭部が長大な胴の先に持ち上がった。
その頭部には二本の鹿の角のようなものが生えていて、鼻先から長い髭が生えている。黒緑の硬質な鱗が全身を覆っていた。
「まずい、鰐じゃないぞ。水竜だ! ルナリア、下がれ」
「わわわ! う、うんっ」
ルナリアが川辺から地を蹴って後退した。
俺はフェリスのもとへ駆け込んだ。
水竜が咆哮を上げた。
突如、未知の力が水竜の周囲に収束する。
極限まで圧縮された水の槍が周囲に発生した。
あらゆる方向にその槍が放たれた。
周囲の半魚人は魔法を回避することができず、次々と槍に穿たれていく。
最も近い位置にいたルナリアに大量の水の槍が襲いかかった。
だが、彼女は迫る水の槍を、炎の剣でことごとく切り刻んでいく。
駆け込んだ俺を守るように、フェリスがすっと前へ出た。
順手で握る短剣を左右へ疾らせ、迫る魔法の槍を叩き落とした。
残っていた半魚人は、ほぼ壊滅していた。
川の中からも大量の半魚人の死体が浮いてきて、濁流に流されていく。
それらには一瞥もくれず、高みからこちらを見下ろす水竜の瞳が知性を帯びた。
魔物は、低く響くような声を発した。
「Kuh kuh kuh. Drawn by the commotion, I came to amuse myself, only to find humans here. What fortune. It has been hundreds of years since I last devoured a human.」
水竜が、人類には理解できない言語を発した。
これは魔法の詠唱ではない。
やつの意思のもとに発せられた言葉を聞いて、背筋が粟立った。
――魔族だ。
# Battle_with_the_Water_Dragon:
俺は、天敵を目の前にしたような根源的な恐怖に襲われ、硬直していた。
くそ。魔族を前にすると、やはり身体が震えて動けない。
魂は言っている。
あれは敵だ。戦え、と。
けど、無理だ。
喉がひりつき、視界の端がじわりと狭まっていく。
思考がうまく繋がらず、意識は停止しかけていた。
そこへ、不意に少女の甘い汗の匂いが差し込み、同時に柔らかな体温が俺を包んだ。
フェリスが、俺を優しく抱きしめていた。
「……大丈夫だ。お前は強い」
彼女は俺の頭を抱え込むようにして、自分の胸元へ引き寄せた。
浅緑のワンピースは汗を吸ってぺったりと身体へ張りつき、俺の顔はその布越しに、彼女の胸元のふくらみへ密着する。
汗を含んだ布地はしっとりとしていた。
それでもなお、フェリスの身体は熱く、彼女の体温がじんわりと伝わってくる。
フェリスは、柔らかくていい匂いだ。
ぱりっと俺の身体に電気が走った。
俺の意識は、急速に恐怖から解き放たれた。
俺はゆっくりと顔を上げ、フェリスを見た。
静謐な瑠璃色の瞳が、優しい光を湛えたまままっすぐ俺を捉えている。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
俺はフェリスから身体を離し、視線を魔族である水竜へ向けた。
改めて、魔物と三人の位置関係と距離、それから周囲の状況を一気に確認する。
「ルナリア! 魔法で牽制、時間稼ぎ優先だ!」
「うんっ。フェリスちゃん大胆だね!」
「……ん。いや、その、お前に言われるのは納得いかない」
フェリスが少しだけ耳を赤くして言い返すのが聞こえた。
ルナリアが金糸の髪を揺らしながら、河原を駆ける。
銀の剣を右手に握ったまま、左手を水竜へ向けた。
「――ファイアランス!」
炎の槍が空気を焼きながら、凄まじい速度で水竜へ直撃した。
だが、魔族である水竜の硬質な鱗には傷ひとつつかない。
それでも、狙い通りに敵意は逸れた。
水竜の敵意が、真っ直ぐルナリアへ向いた。
ルナリアが、間合いを保ったまま水竜と交戦を開始した。
俺はそれを視線で追いつつ、戦い方を組み上げ始める。
月聖水を使うか?
いや、場所が悪すぎる。
川で使っても、すぐに流されるだけだ。
ルナリアの飛行魔法なら、水に入らず攻撃へ転じられるか?
これも駄目だ。
空では、彼女の剣技は冴えが落ちる。
竜種の魔族に打ち勝つには、ルナリアに地を踏んでいてもらわなければならない。
「竜種の魔族だ。いくらルナリアでも、飛行しながらじゃ勝ち切れない。まず川を吹き飛ばす」
「……ん。いいぞ。いつものアルスに戻ったな。……ルナリアだけじゃない。私もいる。好きに使え」
そう答えたフェリスの口元には、戦場の熱の中でも柔らかな笑みが浮かんでいた。
戦闘の余波で生まれた風が、透き通るような水色の髪をなびかせる。
大森林の薄暗い曇天の下でも、その髪はつややかにきらめいていた。
俺は、水竜へ視線を戻し観察を続けた。
水竜は川の中から魔法を撃ち、ときおり突進してルナリアへ牙を突き立てようとする。だが、すぐに川の中へ戻っていく。
……なるほど。
俺は星切を右下へ下ろし、水竜を見やったままフェリスへ告げた。
「フェリス、ローディングに入る。あれは魔族だ。神威の光に反応する可能性が高い。最大階位まで上げたいが、おそらく無理だ。水竜が反応してきたら、すぐにお前に支援魔法をかけるから――」
――俺は、手短にフェリスへ作戦を伝えた。
最後まで聞いたフェリスは、わずかに考え込んだ。
少し嫌そうに眉尻を上げ、それから小さく頷く。
「……ん。わかった」
フェリスは短剣をいったん鞘へ戻した。
支援魔法の刺激で取り落とすことを警戒したのだろう。
俺は短く息を吐き、目的を明確化して意識を絞り込んだ。
――キンッ!!
戦闘音も、フェリスの息遣いも、周囲のすべての音が遠ざかっていく。
遮るもののない河原の上空から、木漏れ日のような光が静かに降り注ぎ始める。
神威を感じる柔らかな光が俺の周囲を満たし、どこからともなく讃美歌が響いてきた。
空の彼方へ意識を伸ばす。
以前はぼんやりとしか感じ取れなかったそれが、星空の向こうへ辿り着く道筋なのだと、俺は理解し始めていた。
その道筋をなぞり、俺は星空の向こうへ手を伸ばした。
俺は、ローディングの速度が上がっていることを実感していた。
[ System : Universal_Truth_Load ...10% ...20% ...30% ]
集中しつつも、視線は水竜から逸らさない。
ルナリアが放った炎の槍を、水竜が川へ潜って躱した。
川の底から、水竜が巨大な顎を開いたまま彼女へ突進する。
ルナリアは地を蹴って中空へ跳び上がり、それを紙一重で回避した。
身を捻るようにして銀の剣を引き絞り、そのまま横薙ぎに振るう。
金属質な音を立てて業火の剣が水竜の胴へ食い込む。
だが、黒緑い鱗に阻まれ、深くは通らない。
水竜はそのまま身を捩り、剣を食い込ませたままのルナリアを、川へ引きずり込もうとする。
彼女は白いニーハイに包まれた細い脚で、魔物の頭部を鋭く蹴り抜いた。
があん、という轟音が響き、ルナリアは銀の剣を引き抜いた。
その反動で跳び上がり、くるりと回転して着地した。
ルナリアの着地の隙を狙い、水竜が水の槍を放つ。
彼女が左手をかざした。
「――ファイアランス!」
炎と水の槍が正面から衝突し、衝撃波を巻き起こして相殺される。
その余波が、俺の茶色の髪を揺らした。
「You have been casting spells without incantation for some time now. Are you truly human?」
水竜が理解できない言葉を発した。
俺はもう怖くなかった。
どうせ、ルナリアを警戒しているんだろう。
俺たちのルナリアは最強だ。
[ System : Universal_Truth_Load ...40% ...50% ...60% ]
俺を覆う神威の光が、さらに輝きを増していく。
薄暗い曇天の河原で、俺の周囲だけが暖かな光に包まれていた。
そろそろ、気づかれるかもしれない。
「フェリス、そろそろ準備を」
「……ん」
フェリスが鮮やかな青の外套を脱ぎ、荷物の上へ放り投げた。
浅緑のワンピースが風にはためく。
彼女は俺の鞄から月聖水を抜き取り、栓を抜いて頭からかぶった。
月聖水を吸った薄手の布地が身体へ張りつき、胸元から腰にかけての少女らしい線を艶かしく浮かび上がらせた。
ぴったりと張り付いたワンピースの胸元には、彼女の突起が浮かび上がっていた。
「……私に出来るだろうか」
「お前なら出来る」
不安げなフェリスに、俺は即答した。
「……そうか。……後で、濡れた私の感想は言え」
「それは断る」
ルナリアと対峙していた水竜の動きが、明確に変わった。
黄色く濁った瞳が、ぎろりと俺を射抜き、なにか言葉を発した。
「You… What is that light? Loathsome.」
俺はローディングを切り上げ、フェリスに告げた。
「来るぞ。水竜が光に気づいた。ローディングはここまでだ。階位は七段」
[ System : Universal_Truth_Load 70% Reached ]
フェリスがすっと俺の眼前へ立った。
「……ん。……すぅ。よし」
「少し待ってくれ。ルナリアに伝えておくことがある……ルナリア!!」
俺はルナリアへ声を飛ばし、星切を正眼に構える素振りを見せた。
彼女がこちらの意図を理解して頷いたのを確認し、俺は刀を鞘へ収めた。
「フェリス。いくぞ」
「……ん。遠慮するな。急げ」
フェリスが俺へ細い背中を向けた。
月聖水を吸った薄手の生地が背へぴたりと張りつき、肩甲骨の陰影をくっきりと浮かび上がらせていた。
華奢な肩は、刺激に身構えているのか、わずかに強張って見えた。
俺は、彼女に触れないよう気を使いながら左手をかざす。
フェリスを、すべてを切り裂く圧倒的な暴力へと昇華させる。
俺の願いが淡い光となり、フェリスを優しく包み込んだ。
――その瞬間、フェリスの背筋を甘い電流が走り抜けた。
「あっ……。ぁあんっ……! ……んくっ!」
彼女の身体が弓なりに跳ねる。
透き通るような水色の髪が背へ張りつき、腰ががくがくと震えた。
片脚の力が抜けたようによろめき、立ったまま崩れそうになる。
フェリスは太ももを擦り合わせるようにして、押し寄せる快感の波を必死にやり過ごそうとする。
そのたびに濡れた裾がわずかに引き上がり、丸い尻を包む下着の線が布越しに浮かび上がった。
[ System : Ferris Reason_Gauge -10 ]
俺は、視線を水竜へ向けた。
水竜はルナリアから距離を取り、川の奥へ身を移していた。
長大な胴をあらわにしながら、憎悪のこもった視線を俺へ向けている。
やがて頭部を高々ともたげ、その全身が青白く発光し始めた。
「My name is Fafnir. I am the king of the flowing waters. Unleash the dominion dwelling within my scales, and manifest the spear that annihilates the cowards who fled to the earth.」
魔力の収束と、芝居がかった長々とした口上。
予想通りの行動、大魔法の詠唱だ。
やつは水からでない。
ならば、この大魔法は遠隔攻撃で間違いない。
あとは……。
俺はフェリスの華奢な背中へ視線を戻した。
彼女は、未だ肩を震わせながら、身体を突き抜ける快感に耐えていた。
「はぁ……。んぁっ……」
まだ、波を抜け切れていない。
支えてやりたい。
だが、触れるのは逆効果だし、今の彼女に気安く触れるべきではない。
視界の端で、ルナリアが心配そうにこちらを見ているのがわかった。
だが、俺はルナリアを信じているのと同じように、水色の少女のことも信じている。
「ルナリア、心配するな! 準備に入ってくれ!」
そして俺は、フェリスへ声をかけた。
「フェリス。お前なら出来る。俺の作戦を、お前の手で形にしてくれ」
[ System : Ferris Reason_Gauge -20 / Phase Overheat Reached ]
フェリスが俺の言葉に、びくっと弾かれたように空を見上げた。
一瞬静止した彼女は、小さく呟くようになにかを言ったが、俺には聞こえなかった。
フェリスの身体はいまだ甘く震えていた。
だが、その震えを受け入れたまま、腰から二振りの短剣を引き抜く。
短剣を引き抜いた腕をだらりと垂らしたまま、ゆらりと立つ。
その背中から戦士の圧が立ち上っていく。
フェリスが、ちらりとこちらに横顔を見せた。
彼女は薄く笑みを浮かべていた。
フェリスの瑠璃色の瞳が、いつも以上に潤み、どろどろとしたなにかを湛えていた。
そこには、慈愛と妖艶さが同時に滲んでいる。
その目が、まっすぐ俺を捉えたまま動かない。
彼女の瞳に宿る星が、きらめいた気がした。
「……ああ。そうだ、私なら出来る。任せろ、アルス。お前の言うことは、……私が全て叶えよう。……なんでも望むといい」
「ありがとう……え? なんでも?」
切迫した状況だというのに、フェリスの不可解な言葉に一瞬意識を奪われた。
次の瞬間、水竜の顎の奥へ凄まじい量の魔力が収束し始めた。
未知の力が密度を増し、周囲の景色が歪む。
「The water spear that sweeps the earth !!」
水竜が前傾し、大口を開いて俺めがけて大魔法を解き放つ。
未知の力が魔物の願いを叶え、すべてを穿つ水の柱へと変換する。
高密度に圧縮された水の柱が、轟音とともに一直線に俺たちへ奔る。
俺が苦し紛れに張った防御結界は、紙屑みたいに触れただけで消し飛んだ。
フェリスが、双手の短剣を順手で握り、眼前で十字に構えた。
「……私の、アルスの邪魔をするな。蛇風情が」
彼女へ迫る大魔法へ、鋭く双手の短剣を交差するように振り抜いた。
ずがん、という轟音が響く。
緑と紫の剣閃が、水の柱の先端をこじ開けるように切り裂く。
吹き飛ばされた水の柱が砕け、飛沫となって周囲へ降り注いだ。
だが、水柱の突進はそれで終わらない。
長大な水の柱が延々と続き、フェリスを猛烈な勢いで押し込んでくる。
フェリスは十字に振り抜いた短剣を逆手へ返し、そのまま左右へ連撃を叩き込んだ。
迫り来る水の奔流に抗うように、無数の剣閃を畳み掛ける。
受けきれなかった魔力が、浅緑のワンピースを刻んでいく。
背中が大きく露出し、裂けた裾の片側からは太ももがあらわになっていた。
それでも彼女の肌に傷はない。
俺が後ろから、切れ目なく回復魔法を流し続けているからだ。
だが……長い。
何だこの魔法は。
くそ、読み違えたか。
吸血鬼の魔族より、よほど強い。
大森林の魔族はやはり別格なのか。
身体ごと回しながら短剣を振るうフェリスの瑠璃色の瞳と、俺の視線が交差した。
「……ふふ。心配するな、アルス。……お前は、常に正しい。……私が証明してやる」
「え?」
フェリスは大魔法を切り裂き続けていた。
再び、フェリスが視線を外す。
背中を向けたフェリスから、慈愛のこもった声が届いた。
「……何もしなくていい。……ただ、私を見ていろ」
フェリスが、強く大地を踏み込み、前傾姿勢になった。
彼女の浅緑のワンピースが引っ張られ、尻の丸い輪郭に下着の線が覗く。
――フェリスは、加速した。
シルフの短剣とグラディオの短剣が描く剣閃が、水柱を切り刻む勢いをどんどん増していく。
ついに彼女が、わずかに前へ出始めた。
さらに彼女の剣閃が勢いを増していく。
短剣が右へ走り、左へ奔るたびに、フェリスは一歩ずつ前へ進む。
徐々に、水の魔法が押し返されていく。
どんっとフェリスが軸足で地を踏み込んだ。
河原を陥没させながら、右腕を凄まじい速度で振り抜いた。
轟音とともに水柱が一拍の間、途切れた。
フェリスは二本の短剣を順手に返し、胸元で交差するように引き絞った。
「……私の全てで、アルスを肯定する!」
十字に迸る緑と紫の剣閃が――短剣の射程を大きく超えて、伸びた。
凄まじい範囲を切り裂く一撃が、水柱を根元まで吹き飛ばし、水竜の口腔を切り裂いた。
「GUGAAAAAAA !!」
予想していなかった痛撃を受けて、水竜が絶叫した。
悲鳴を上げて怯む水竜を見て、俺はルナリアへ合図した。
「ルナリア、奥義だ! 水には入るなよ! 川に撃て!」
「わかった! 全部ふっ飛ばしてあげる!」
ルナリアは俺の意図を汲み、すでにローディングを完了していた。
彼女の周囲を業火が覆い、地底から響くような竜の唸り声がここまで届いていた。
ルナリアは、正眼に構えていた燃え盛る銀の剣を右下へ下ろした。
ルナリアが強く踏み込むと、河原が大きな音を立てて円形に凹んだ。
大きな破砕音を立てながら、ルナリアが鋭く跳び上がった。
「――アストライア・フレイムインカーネイトッ!!」
[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]
[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]
銀の剣を上段へ構えた彼女を覆う紅蓮の炎が、赫い竜の貌へ収束していく。
ルナリアが赤い竜と化し、頭上高く掲げたアストライアの剣を振り下ろした。
解き放たれた火炎の竜が、轟音を立てながら大河を喰らう。
凄まじい衝撃波が周囲に巻き起こり、土砂が吹き荒れ、俺の髪が激しく揺れた。
火炎の竜が周囲の水をすべて蒸発させ、円形に川底を陥没させた。
轟々と流れていた水が消し飛び、土と蒸気の壁に阻まれて、大河が一時的に消滅した。
水竜が、その円形の底にのたうつように露出した。
魔物が化物を見るような目で、ルナリアを見ていた。
「What... what are you? You really are a dragon, after all. No... this is beyond that. Monster!」
馬鹿め。
こっちには、もう一人凄いのがいるんだよ。
「今だ! フェリス!」
「……ん。……ああ。……やはり、お前は最高だ」
[ System : Ferris Reason_Gauge -20 / Total Limit Reached / Next Turn: Tempest_Explosion ]
フェリスが短剣を頭上へ掲げ、詠唱する。
「……私はフェリス! 私はアルスの翼! 私は彼のすべてを赦し肯定する為に在る! 彼の望みを叶えるため、我が身を風の妖精と化せ!」
鮮やかな緑の風を纏ったフェリスが、地を蹴って跳んだ。
双手の短剣を返し、逆手に握って身体の後ろへ引き絞った。
中空で緑の風がフェリスを覆い、彼女の姿がかき消えた。
水竜の頭上に旋風が起きた。
旋風とともに瞬間移動したフェリスが、水竜の頭部めがけて迫った。
フェリスが緑の短剣を振り抜き、続けて紫の短剣を振り抜く。
鮮やかな剣閃が、二度奔った。
水竜の黒緑の鱗が、彼女の剣閃に砕かれる。
フェリスは止まらない。中空で重力を無視するように、次々と連撃を繰り出す。
そのすべては同じ箇所を切り裂き続け、とうとうそこから血飛沫が上がった。
彼女はくるりと縦に一回転し、深緑のニーハイに包まれた脚でその傷口を蹴り抜き、その反動で離脱した。
フェリスの蹴りが水竜の頭部の鱗を砕き、水竜が絶叫を上げた。
フェリスと交差するように、ルナリアが跳んでいた。
水竜の頭上でルナリアが銀の剣を上段に構えた。
「フェリスちゃん凄いね! あとは任せて!」
紅蓮の炎を纏うアストライアの剣を、鱗の砕けた頭部へまっすぐ振り下ろした。
そこへ向かって、赤い剣閃が一直線に奔った。
轟音を立てて、業火の剣が水竜を縦に切り裂いていく。
ルナリアの一撃はついに水竜を断ち切り、巨大な身体が炭化しながら両断された。
勢いのまま、銀の剣が地面を穿つ爆音が響き、爆ぜる炎に煽られた土埃が周囲に舞う。ルナリアの業火の剣が叩きつけられた地面が赤黒く融解していた。
俺は、そこへ崩れ落ちていく水竜の死骸を見ながら大きく息を吐いた。
「勝った……。はぁ……。大森林も凄いし、お前らも凄いよ」
くるくると軽やかに回転しながら、フェリスが着地する。
ルナリアは剣の血を払い、手の中で返して鞘へ収めた。
巨大な円状に抉れ、赤く融解した大地に残っていた炎が風に煽られて消えていく。
二人がこちらへ歩いて戻ってくるのが、遠くに見えた。
フェリスは真っ直ぐに俺に視線を向けながら歩いていた。
ルナリアが後ろから彼女を気遣うように見ている。
彼女たちが、河原だった場所まで戻ってきたあたりで、膨大な川の流れが円形の土壁を押し崩し、川は元の流れへ戻っていく。
はじめ、どす黒い血を含んでいた川も、あっという間にいつもの赤茶けた色へ戻っていった。
歩み寄るフェリスの姿が徐々に鮮明に見えてきた。
それは、とても危うかった。
フェリスのワンピースは肩から胸元にかけて裂け、胸の谷間があらわになっていた。
もともと薄手の布地は月聖水を吸って、透けるように肌に貼りつき、その身体の線を隠しきれていない。
かろうじて残った裾の下では、いつもは隠れている肉付きのよい太ももが無防備に晒されていた。
フェリスはその扇情的な姿を隠そうともせず、瑠璃色の瞳で俺を捉え続けていた。
どこか蕩けるような表情で、うっすらと笑みまで浮かべている。
そんなフェリスの様子を見て、ルナリアが訳知り顔で苦笑していた。
「フェリスちゃん、明日どんな反応するんだろう……。慰めてあげないとだね」
俺はルナリアの言葉の意味は分からなかった。
だが、それを問うよりもまずは彼女を労おうと声をかけた。
「ん? フェリスに何かあったのか……? そうだ、ルナリア。よくあれで意図を汲んでくれたな。助かったよ」
「え? ああ、うん。アルスの指示だもの、すぐ分かったよ。それに、わたしもあの魔族、川から出てこないなって思ってたの」
ルナリアは、ちらちらとフェリスを見ながら答えた。
俺は、見えてはいけないところまで見えてしまっているフェリスからどうにか目を逸らした。それから、放り投げられていた青い外套を拾い上げる。
どうしてもちらちらと視線が向いてしまうフェリスの露出しかけた胸を見ないようにしながら、外套をかけてやった。
その時、俺の指先がほんの少しだけ彼女の素肌へ触れてしまう。
「……んぁっ。……あぁ……ぁ」
フェリスの身体がびくりと跳ねた。
俺を見つめていた、星の宿る瞳がどろどろに濁った熱で潤んでいた。
[ System : Ferris Reason_Gauge 0 / Tempest_Explosion Triggered ]
「ね、ねえ。アルス。わたし、野営の準備しておくね」
「おい。待て。置いていくなよ」
# COORDINATE 0060 END




