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[COORDINATE 0045] Sage’s Labyrinth ver.Valerion 2

# Sage’s_Labyrinth_2nd_Floor_1:


地下二階は、壁面に沿って崖状の通路が細長く伸びていた。

足元の道幅は決して広くない。少しでも踏み外せば、そのまま下へ落ちてしまいそうだった。


崖の下には綺麗な川が流れている。

薄暗い地下を、絶えず水が流れる音だけが響いていた。


あの川へ落とす罠がある。そう思わせる地形だった。

フェリスは、いつも以上に慎重に進んでいた。


――だが、いくら進んでも、罠はおろか分かれ道さえ出てこない。


やがて彼女は、おもむろに立ち止まってこちらを向き、腕を組んで言った。

青の外套がたわんでできた胸元の隙間から、柔らかな双丘が腕に押し上げられ、ふにゅっと形を変えるのが見えた。


「……つまらないな、この迷宮は」


フェリスが瑠璃色の瞳を俺へ向けながら言う。

青白い魔法の光が、その左右均整な顔に美しい淡い陰影を落とした。


「……アルス、どう思う?」

「うーん。上の階でも思ってたけど、普段の迷宮みたいな悪意を感じないよな」


フェリスは、少し視線を下げて思案するように言った。


「……迷宮の悪意か。いい表現だ。そうだ、迷宮というのは必ず悪意を感じさせる。……私はそれをねじ伏せるのが楽しいのだが」

「あぁ、それで少し不機嫌なのか。楽しみにしていたのに肩透かしだったんだな」


俺の隣でルナリアが、柔らかく波打つ金色の髪をふわりと揺らしながら言った。

灯火の魔法に照らされた彼女のウェーブがかった金髪は、こんな地下でも妙に明るく見える。


「フェリスちゃん、本当に迷宮探索が好きなんだね」

「……ん。……そうだ。まあ、油断はしないでおく」


フェリスは再び前を向いて歩き出した。

後ろに続く俺は、少し気持ちが緩んできていた。頭の上で腕を組み、何気なく言った。


「迷宮の成り立ちが違うのかね。賢者が作ったから、別物なんだろうか」

「……ん。……そうだな。あり得る」


ん? そうだよ、他の迷宮にも制作者がいるはずだ。

外の迷宮の構造と魔物構成がちぐはぐなのは――


そこまで考えたところで、フェリスの長い耳がわずかに動いたのが見えた。

俺は思考を切り替える。


フェリスが、すっと片手を上げて俺たちを制し右側の壁に手をつく。

「……敵だ。歩行しているのが四体。川の上に飛行型がいるが、数が捉えにくい。五体は超えない」


俺は通路の先を見やりつつ、フェリスに聞いた。

「拘束罠は何個ある?」

「……銀が二個だ」


俺はフェリスが提示した内容から、魔物の構成を想像する。

恐らく飛翔しているのはデーモンだろう。

罠にかかる可能性はほとんどない。かかっても魔法で脱出される。


「わかった。飛行型がいつ来るかわからない。すぐに支援魔法をかける」


俺は左手をルナリアにかざした。

「二人とも速度上昇にする」


淡い光が彼女の身体を包み、ルナリアの肩がぴくりと震えた。


「ルナリア、先行して飛翔型に一撃入れて敵視を受けてから、一度こちらへ走って戻ってこい」

「あ……っ。ん……ぁっ。……うん、わかった。……全部当ててからの方がいい?」


俺を見つめ続けるルナリアが、頬を上気させたまま確認してくる。


「いや、一発でいい。悪魔系なら向こうも魔法を返してくる。避けながら下がれ」

「うん。任せて、行ってくるね!」


ルナリアが銀の剣を抜き、崖沿いの通路を駆けていく。

ウェーブがかった金色の髪が、青白い灯りの中で風に揺れた。


ルナリアを見送りつつ、フェリスにも支援魔法をかける。

「……っ。……くぅ。……ぁ」


少しだけ体を震わせたフェリスが、薄い小さな唇を固く結ぶのが見える。

甘い声を聞かれたくないのだろう。フェリスは必死に堪えた。それでも漏れ出た刺激が、甘い吐息になった。


俺は戦闘の流れを想像しながら、フェリスの動きも指示した。


「フェリス、全部上級魔物のつもりで動いてくれ。速度差で飛行型が先にこちらにくるはずだ」

「……ん。わかった」


フェリスは双手で短剣を構えて、俺を守るように前に立つ。


俺はフェリスの後ろでローディングを開始した。

間に合うかどうかはわからない。だが、間に合えば効果的なはずだ。


――キンッ!


俺の周囲から音が引いていく。

神威の光が、洞窟の天井を無視するかのように天から降り注いだ。

僅かに、讃美歌が聞こえてくる。


フェリスの耳が少し動いた。


「……私にかけたら、後で殴る」

「そんなことしたことないだろ!?」


[ System : Universal_Truth_Load ...1% ...5% ...10% ]

[ System : Universal_Truth_Load 10% Reached ]


何度か、炎が肉を焼く音が響いた後、ルナリアがこちらへ駆け戻ってくる足音が聞こえてきた。

ローディングは階位一段で止めるしかないな。


「アルス。飛行型は全部こっちに来てる。地上の魔物は二体」

「わかった。まず、二人で飛行型を処理だ」


駆け込んできたルナリアが俺たちの前で止まり、左足を踏み込んで反転する。

俺は彼女の華奢な背中に左手をかざした。


「ルナリア。追加で魔法攻撃力向上、階位一段」

「わかったよ、あぁん!……んぁ! ……あぁぁっ! ……もうっ、いきなりは駄目!」


彼女は快感で仰け反りそうになった身体を、無理やり踏みとどまらせる。

その反動で、濃紺のバトルドレスの規格外のふくらみが大きく揺れる。


「ごめん。……くるぞ、ルナリア!」

「うん」


ルナリアは一瞬で意識を切り替え、銀の剣を右下へ下ろした。

業火が剣を覆い、周囲を赤く照らす。


フェリスが短剣を握り直す。かちゃり、と小さな音が聞こえた。


やがて通路の曲がり角から魔物が姿を現す。

四体。黒いデーモンが飛翔しながら、こちらへ一直線に突進してきた。


俺は魔物が崖上の通路まで来るのを待った。

魔物は通路の範囲内に入った。これなら地上へ落とせる。


「撃て、ルナリア」

「任せて。――ファイアブラスト!」


俺の支援魔法が乗った、焼けつくような業火が、空気を焦がしながら黒いデーモンへ襲いかかる。

凄まじい熱量だった。だが、相手は上位個体だ。黒いデーモンはその業火に耐えた。

大きく仰け反りながらも、殺意をこちらへ向けてくる。


だが、地上に降りた。


ルナリアが地面を強く踏み込む。

次の瞬間には、すでに黒いデーモンの群れの真ん中にいた。


彼女は、大きく威力の向上した炎の剣を右へ振り抜く。

紅蓮の炎が魔物を断ち切る凄まじい轟音が、洞窟に響いた。

赤い鮮血が真っ直ぐ水平に飛び散り、黒いデーモン二体が同時に両断される。


フェリスの踏み込む音が聞こえた。

風のように、彼女は跳び上がる。鮮やかな外套が翻り、深緑のニーハイから伸びる白い太ももが一瞬だけ覗いた。


中空で縦に回転しながら、デーモンの群れと戦うルナリアの頭上を飛び越えた。さらにそのまま、奥へくるくると跳んでいく。


そこでようやく、地上の魔物の姿が見えてくる。

ヘルハウンドと、蒼黒のデーモンだ。その蒼黒のデーモンには羽がない。代わりに、巨大な剣を持っていた。


中空にいるフェリスへ向かって、蒼黒のデーモンが到底届かない間合いから剣を振るう。その斬撃が風の刃となって彼女へ飛んだ。


凄まじい勢いで迫りくる風の刃を瑠璃色の瞳で捉え、フェリスは洞窟の壁面を垂直に駆け抜けた。フェリスを狙っていた三本の風の刃を、彼女は置き去りにしていく。すべての刃が壁に突き刺さった。


魔法を躱しきると、フェリスは力強く壁を蹴った。

ふわりと外套を翻しながら、その勢いのまま蒼黒のデーモンの頭上を飛び越えた。

そして、デーモンの後方から追ってきていたヘルハウンドの眼前に着地する。


ヘルハウンドの胴に鋭い紫の剣閃が奔った。

魔物はそのまま転がるように地に伏した。


――同時に、デーモンの群れと戦っていたルナリアが中空へ飛び上がり、左手を魔物へかざした。


「――ファイアブラスト!」


赤い業火が洞窟内に轟音を響かせ、残った三体のデーモンに直撃した。

ルナリアは中空で反転し、体を捻った。その回転の勢いを使って群れから距離を取り、着地した。


ルナリアの宝石のような赤い瞳が魔法の光を反射して煌めいた。

その瞳は、目の前のデーモンの群れではなく、蒼黒のデーモンを捉えていた。


ルナリアが破砕音を立てて地面を踏み抜く。


蒼黒のデーモンは、彼女たちを強敵と認め、理解できない言語を紡ぎ出す。

だが、彼女たちの速さを理解していなかった。


「I, a nameless seeker of ...」


大魔法の詠唱を始めた蒼黒のデーモンの真横には、凄まじい速度で回り込んだルナリアがいた。

左へ限界まで引き絞ったアストライアの剣を、彼女は一気に右へ振り抜いた。


燃え盛る紅蓮の炎が弧を描く。

蒼黒のデーモンは、手にしていた剣ごと首を切断され、大魔法を発動させることなく、その場に崩れ落ちた。


銀の剣を振り抜いたルナリアは、その勢いのまま身体を捻りながら真上へ跳ぶ。

直後、彼女がいた場所に、残った黒いデーモンの放った氷の槍が次々と突き刺さった。


魔法を放ち、一瞬硬直したデーモンの一体へ、フェリスが飛び掛かっていた。

彼女は二本の短剣を順手に握り、腕を交差する。


中空で膝を突き出したその格好が、浅緑のミニワンピースの裾を持ち上げた。

洞窟の灯りが、深緑のニーハイに包まれた太ももを照らす。

二本の短剣が十字を描き、一体を絶命させた。


フェリスの鋭い動きが生んだ慣性が、ワンピースをさらに翻した。

太ももの付け根まで覗きそうになり、わずかに丸みを帯びた線が見えかけたところで、彼女は着地した。


回避のために中空へ跳び上がっていたルナリアが、フェリスを真似るように横壁を蹴った。彼女は残った二体のデーモンの眼前へ躍り出た。


燃え盛る銀の剣を両手で握り、中空で横回転する。


次の瞬間、残った二体のデーモンの胴が同時に断たれた。

紅蓮の炎が洞窟を赤く染め上げる。


着地するルナリアの白いミニスカートが、ふわりと舞い上がった。

肉感のある太ももの肌が、青白い魔法の光に照らされた。


ルナリアは残心の後、血糊を払って納刀した。

彼女たちは上級魔物を難なく斬り伏せた。



フェリスが短剣を腰の鞘へしまいながら、ルナリアへ声をかけていた。


「……ルナリア。……お前、また強くなっていないか」

「うーん。こないだの魔族との戦いがあったじゃない? あの時、ちょっと悔しかったから。最近は訓練も頑張ってるんだ」


フェリスは、透き通るような水色の髪を外套の背中へ仕舞いながら言った。


「……そうか。……訓練したから、という水準ではないが」

「そうかな? 今度一緒に訓練しようよ! アルスが一緒にやってくれないんだよ」


上級魔物六体と中級魔物一体を相手に圧倒した直後だというのに、彼女たちはもう、仲のいい少女同士みたいに話していた。


「ルナリアがやるような訓練を、俺が一緒にこなせるわけないだろう。ま、二人ともさすがだ。いい連携だった」


「えへへ」

「……ん」


俺たちはそのまま進み、最初にルナリアが敵視を引かなかった地上の魔物を倒した。

その先に見える崖の通路は、途中で坂になっているようだった。


俺たちはフェリスを先頭に、慎重に歩を進める。


川と同じ高さまで降りたところで、壁際に奥へ続く通路を見つけた。

そこからは石畳の通路が伸びていた。



# Sage’s_Labyrinth_2nd_Floor_2:


真っすぐ伸びる薄暗い石畳の上を、足音を反響させながら進む。

なんとも整然とした造りの迷宮だな、と俺は思った。


先ほどまでと違い、部屋を切り替えたかのように、今度は石畳と石壁が続いていた。


俺は頭の後ろで腕を組みながら、前を歩くフェリスに声をかけた。

こちらを見ないまま答えたフェリスの、綺麗な水色の髪が魔法光を反射していた。


「なあ、一本道すぎないか? 分かれ道が一度もない」

「……私も思っていた。それに、罠も一度もない」


フェリスの言葉に、俺は歩きながら考えをまとめた。


なんと言えば彼女に伝わるだろうか。

さっき話していた、迷宮の悪意の話だけじゃない違和感がある。

どうにも、造りが小綺麗なんだよな。


「なんていうか……迷宮の構造が綺麗すぎると思わないか? 地下の川の横を通る通路とか、景観が良すぎる」

「……ん。確かにそうだな。本来の迷宮は、もっと歪で雑然としているものだ」


具体的な言葉をまだ掴めていなかった俺は、少し思案してから言った。


「そうだよな。罠がないのもそうだ。……俺の作った迷宮を見てくれって感じだ。賢者がこの迷宮を作ったのは、もう間違いないと思う」

「……そうだな、同意する。……付け加えるなら、賢者は迷宮製作の才能がない」


あまりにも厳しいフェリスの意見に、会ったこともない賢者が少し可哀想になった。


だが、俺は他にも引っかかっていることがあった。


――ここを造ったのが賢者なら、外の迷宮は誰が造ったんだ?


俺は思案しつつ、フェリスのあとに続いた。

やがて、石壁に覆われた広い空間にたどり着く。


奥には片開きの重厚そうな鉄の戸があった。地下一階にあったものと同じだ。

あの戸の先には、地下三階へ降りる階段があるだろう。


黒く無骨なその扉の両脇には、悪魔を模した石像が左右対称に並んでいた。


「ぷぷっ」


ルナリアが、思わずといった感じで吹き出した。

灯火の魔法に照らされた金糸の髪がふわふわ揺れて、こんな場所なのに場違いなくらい明るくきらめいていた。


「おい、ルナリア。笑ったら賢者に失礼だぞ」

「だ、だって……。あれじゃ、魔物だって丸わかりだね」


ルナリアは、口元に浮かんでしまう笑みを取り繕うかのように唇を結んだ。

そして、俺に尋ねる。


「……よしっ。アルス、どうする?」


俺は星切にかけていた左手を下ろし、悪魔の石像を見た。

戸の両脇を守護するかのように二体配置されていた。


まあ、この迷宮の感じだと、あの石像はガーゴイルだろう。

そうじゃないと、美しくないからだ。


ガーゴイルという魔物は上位魔物の中でも強力だ。

石像のふりをしてじっとしており、冒険者が近づくと動き出し、圧倒的な膂力と高度な風魔法で攻撃してくる。


石像というのは、暗がりにあるとそれが何なのか判別しにくい。

突然横から魔法で不意打ちをしてきたりと、油断できない厄介な相手だ。


しかし、これだけ規則正しい場所にいると攻略が簡単だな。

俺はルナリアに左手をかざした。


「魔法攻撃力向上をかける。まあ、言わなくてもその後は分かるだろ?」

「駄目! ちゃんと命令……じゃない、指示して!」


そう言ってルナリアは、宝石のような赤い瞳で俺を見つめた。

少し不満そうな表情を浮かべている。


フェリスがその横で、珍しく少しだけ笑っていた。

「……まあ、こういう迷宮探索も、極々稀にならいい」


とは言え、油断をしてはいけない。

俺は石像から視線を外さないまま、ルナリアへ支援魔法をかけた。


「わかったよ。ルナリア、最大階位で奥義準備」


淡い光に包まれたルナリアの肩が小さく震え、俺から視線を外さないままの彼女から、甘い吐息が少し漏れた。

「あ……っ。んぅ……っ。……うん、わかった」


石像の方を向いて立ったまま、振り向いて俺に言った。

「アルス、わたしへの指示は省略したら駄目だからね」

「ああ。きちんと指示するよ」


ルナリアは、均整の取れた美しい顔に花のような笑顔を浮かべた。

その後、鋭い戦士の表情へ戻り、石像へ顔を向けた。


俺はフェリスに告げた。

「フェリス、ルナリアが合図したら、戸の前へ行ってくれ」

「……ん。任せておけ」


ルナリアは脚をわずかに開き、銀の剣を正眼に構える。

彼女の白いスカートが少し広がり、そこから伸びる太ももが淡い光に照らされ、陰影を作った。


ルナリアはローディングを行使する。


銀の剣の切っ先は真っ直ぐに上を向き、細い背中を覆う薄い濃紺のバトルドレスが腕に引かれ、鎖骨の線を強調した。

アストライアの剣がルナリアの意思に呼応するかのように赤い炎を纏った。


[ System : Universal_Truth_Load ...10% ...20% ...30% ]


彼女の身体を、徐々に赤い炎が覆い始める。

地の底から、低く大地に響き渡る竜の唸り声が聞こえてきた。


[ System : Universal_Truth_Load ...40% ...50% ...60% ]


彼女を覆っていた赤い炎は、空間を赤く照らしながら激しく燃え盛り始める。

俺の身体にまでびりびりと響いてくる竜の唸り声は、存在感を増しながら迷宮を震わせた。


[ System : Universal_Truth_Load ...70% ...80% ...90% ]


すでにルナリアを覆う炎は、赤く、赫く、輝く紅蓮の業火となっていた。

彼女のウェーブがかった金糸の髪が、熱風にあおられて揺れる。


[ System : Universal_Truth_Load 100% Reached ]


ルナリアが俺たちに告げた。

「最大階位まで上げたよ」

「……ん」


フェリスは軽やかに歩き出し、ルナリアの横を通り過ぎて鉄の戸の前へ向かう。


彼女に反応して、両側の石像がごとごとと動き出した。

表面を覆っている石が、脱皮するかのようにひび割れ、崩れ落ちていく。


禍々しい黒い皮膚に覆われた悪魔系の魔物、ガーゴイルがその正体を現した。


それを確認したフェリスは、鋭く後ろへ跳び、中空で縦に回転して着地する。

一瞬で俺の隣へ戻ってきた。


それと入れ替わるようにして、ルナリアが前方へ跳躍した。

彼女に踏み抜かれた石畳が、丸くひび割れながら陥没する。


激しい動きが、彼女の規格外の双丘をぶるんっと揺らした。

薄布一枚に覆われたそれは、胸元の柔らかな線を陰影とともに主張した。


ガーゴイルがフェリスを追いかけて迫ってきた。

「グオオオオオ!」


中空でルナリアは、燃え盛る銀の剣を天高く掲げる。

炎が強烈な赫光を放ち、部屋の中を赫く染め上げた。

紅蓮の炎が収束する。


ガーゴイルが異常に気がつき、彼女を見上げた。

だが、もう魔物の運命は決まっている。


「――アストライア・フレイムインカーネイト!!」


[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]

[ System : Lunaria Reason_Gauge -20 ]


収束した燃え盛る火炎が紅蓮の竜をかたちどった。

赤い瞳の中の星が、キラキラと輝く。


ルナリアが魔物へ突撃するように鋭く下降し、上段に構えたアストライアの剣を振り下ろす。

迷宮の壁を揺るがすような凄まじい音と熱波を放ち、紅蓮の竜がガーゴイルへ喰らいついた。


巨大な紅蓮の竜のあぎとはガーゴイルを食い破り、轟音を立てて迷宮の地面を円状に抉り砕いた。



ルナリアは中空で一回転し、そのすり鉢状に凹んだ地面へ着地する。

静寂が訪れ、数瞬の後に鉄の戸が鈍い音を立てながら開いた。


俺は凹んだ地面の縁へ行き、右手を伸ばして登ってくるルナリアの手を握った。


「ルナリア、格好良かったぞ」

「えへへ……。ありがとっ」


ルナリアを引き上げ、左腕で抱きとめた。

彼女の身体の柔らかさを感じながら、俺は開いた戸へ視線を向ける。


戸の向こうには地下三階へ降りる階段が見えていた。

その階段は、ここまでの石畳とは違い白く磨き上げられた石畳に変わっている。


天井近くの壁面には美しい彫刻が彫られていて、それが階段まで続いていた。


フェリスが凹んだ地面の脇を通って、階段の傍まで行く。

階段の先は薄暗く見通せそうにない。


フェリスは探るように中を見ていたが、やがてこちらを向いて言った。

「……恐らく、次は主のいる階層だ」

「わかった。少し休憩を挟んでから降りよう」



――俺たちは階段から少し離れた壁際に座った。


ルナリアが、持ってきた荷物から道具を取り出し、いそいそと茶を沸かす準備をしてくれていた。

彼女の華奢な肩から金糸の髪がさらさらと流れた。


ここまでの道中、ほとんどの魔物をルナリアが倒している。

フェリスは探索技能を駆使しながら、ルナリアの戦闘を完璧に補助していた。


何が言いたいかと言うと、お茶くらい俺が淹れるべきではないだろうか。

俺はそう思い、ルナリアに言った。


「なあ、ルナリア。お茶くらい俺が淹れるよ」

「え? いいよ。きみはゆっくり座って休んでて」


断られた。

フェリスは、俺たちのそんなやり取りに慣れきってしまっていて、気にした素振りがない。

凛とした表情で目元を細め、入念に短剣の手入れをしていた。

ちらりと俺を見た。

「……アルス、そわそわしていないで、休んでいろ」


気にしていないどころか、ルナリアと同じようなことを言ってきた。

まあ、いいか。


俺は頭の上で腕を組み、最下層の攻略に思考を切り替えた。

Sランク級迷宮。共和国風にいうと特級迷宮。


つまり、迷宮の主は上位魔物の上澄み、もしくは魔族並みの存在だろう。

事前のローディング行使は必須だ。


ルナリアが優しい声で俺を呼んだ。

「アルス、お茶が入ったよ」

「お、ありがとう」


俺は木杯に注がれたお茶を受け取って口をつけながら、主の姿を思い描いていた。



# COORDINATE 0045 END

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