[COORDINATE 0044] Sage’s Labyrinth ver.Valerion 1
# Sage’s_Labyrinth_1st_Floor_1:
――賢者の迷宮。
三大国の指導者に代々伝わっているというミーネス創世記に記された場所。
女神リゼットが世界と命を作り、その力を受け継いだ賢者が、後に続く者のために築いたという実在の迷宮。
ユーリから聞いていた話は、そこまでだった。
だが、皇家の情報を把握しているセルナ統領によれば、賢者の迷宮にはそれぞれ異なる試練が用意されているらしい。
力の試練。
知の試練。
そして、勇気の試練。
そのうち、共和国の賢者の迷宮――このダイアナ渓谷にある迷宮は、『知の試練』にあたるらしい。
いったい、どんな試練なのだろうか。
俺たちの知恵を試すような複雑な迷宮構造や、悪辣な罠が待ち受けているのかもしれない。
最初、俺たちはダイアナ渓谷の迷宮まで自力で向かうつもりだった。
しかし、よく考えてみると、俺が確認したのは渓谷の向こう側から見た景色だ。こちら側からでは、迷宮の入口がどのあたりにあるのか見当もつかない。
セルナ統領は当然そのあたりも見越していたようで、道案内をつけてくれた。共和国にとっても、先日聞かされた神器の件は、それだけ重要な問題なのだろう。
やってきた案内役は、護衛を兼ねた国軍の一部隊だった。
その部隊を率いていたのはベルナールさんだ。
彼は有能すぎるのだろう、いつも貧乏くじを引かされている気がした。
渓谷の底から、突き上げるような風が吹いた。
あらかじめルナリアが俺を支えてくれていたので、揺れたのは茶色い髪だけだった。
風に煽られながら、俺は振り返って離れた位置にいる彼へ声をかけた。
「では、ベルナールさん。俺たちの馬車をお願いします」
「はい。勇者様がたの愛馬は、必ず首都まで送り届け、お守りいたします」
彼は、俺たちの突入を見届けるよう命じられているのだろう。
戻る素振りは見せず、真っ直ぐな姿勢のまま待機していた。
本当に苦労人だなと思いながら、俺は隣に立つ二人へ視線を向けた。
「準備はいいか?」
二人が静かに頷く。
俺はまず、フェリスへ速度上昇の支援魔法をかけた。
淡い光が彼女を包む。
刺激に耐えようと薄い唇を固く結んでいたが、こらえきれなかった甘い吐息がわずかに漏れた。
「……くっ。……んぁっ……」
鮮やかな青の外套が、彼女の震えに合わせてかすかに揺れる。
やがて光は霧散し、フェリスは凛とした、いつもの戦士の顔に戻っていた。
俺は次に、ルナリアへ魔法攻撃力向上属性の支援魔法を付与する。
彼女は宝石のような赤い瞳で、じっと俺を見つめている。
どうやら、最近のルナリアの流行りらしい。
光がルナリアを包み込んだ瞬間、濃紺の薄いバトルドレス越しにもわかる規格外の双丘が、柔らかく揺れた。
「んあっ……はぁ……ぁん……っ」
星を宿した瞳を潤ませたまま、ルナリアは俺から視線を外さない。
俺を支えるために密着した彼女の金糸の髪が、陽光を反射しながら風に揺れていた。
甘い石鹸の匂いが、ふわりと鼻先をくすぐる。
ルナリアに支えられたまま、俺は意識を深く沈め、ローディングを行使した。
必要なのは、目的の明確化と極限の集中だ。
――キンッ!
鋭い音が俺にだけ響き、風の音も、渓谷のざわめきも、急速に遠ざかっていく。
代わりに、どこからともなく木漏れ日のような、けれど神威を秘めた光が俺を照らし出した。
天の上から、荘厳な讃美歌が降り注ぐ。
[ System : Universal_Truth_Load ...10% ...20% ...30% ]
[ System : Universal_Truth_Load ...70% ...80% ...90% ]
[ System : Universal_Truth_Load 100% Reached ]
正直、迷宮攻略そのものより、今から迷宮の前に立つまでの時間の方が、俺にとってはよほど恐ろしい。
たぶん少し泣くだろうな。
「……ふぅ。……よし! ルナリア、いいぞ」
「うん。しっかり掴まっててね」
ルナリアは俺の正面へ回ると、そのまま腰に手を回した。
次の瞬間、俺の身体は軽々と抱き上げられる。
薄手の濃紺のバトルドレスに包まれた、下着をつけていない彼女の胸元が、俺の身体へ強く押しつけられた。
温かく柔らかなそれは、むにゅりと形を変える。
そのままくるりと向きを変えられた俺の視界に、ベルナールさんたちの姿が入った。
俺はルナリアの白く細い首へ腕を回した、ひどく情けない格好のまま、ベルナールさんへ声をかける。
「じゃ、行ってきます」
「アルス殿、ご武運を」
ベルナールさんは、そんな俺を見ても笑うことはなく真剣な顔で告げてくれた。
「フェリス、打ち合わせどおりにいくぞ。先行してくれ」
「……ん。行くぞ」
フェリスの気負いのない足音が聞こえた。
一拍の後、ルナリアが鋭く跳ぶ。
一瞬で崖の縁へ立ち、そのまま軽く大地を踏み込んだ。
跳躍した彼女は、中空で身体を捻って壁面へ身を向けた。
次の瞬間、俺の眼前には、偉大な自然の彫刻が何の遮りもなく広がっていた。
その雄大な景色が高速で上へ流れていく。
「……っ。………くっ」
声を出したら、本当に落ちてしまいそうな気がした。
俺はそれを必死に堪えながら、ルナリアの腕へしがみついた。
すると、ルナリアがそっと俺を抱きとめる腕に力を込めた。
凄まじい風の音にかき消されて何も聞こえない。
それでも、彼女が「大丈夫だよ」と言ってくれたのだけは分かった。
俺は少しだけ落ち着きを取り戻した。
右腕をルナリアの細い首に回したまま、左手でしっかりと星切の鞘を押さえる。
大事な宝物を、落とすわけにはいかない。
ルナリアは何度か空中で姿勢を変え、崖を蹴って速度と位置を調整しながら落ちていく。
永遠のように感じた時間は、実際には一瞬で終わった。
大地を打つ力強い音とともに、ルナリアが着地する。
ルナリアは優しく俺を地面へ降ろした。
規則正しい白い石畳が、薄暗い通路の奥までまっすぐ続いている。
俺たちは無事、迷宮へ到達していた。
先行していたフェリスが、すでに着地して待機しているのを確認する。
予想どおり、迷宮入口付近を滑空していた飛行型の上級魔物が、俺たちの落下に気づき、数匹こちらへ迫ってきていた。
「ルナリア、奥義準備。フェリス、残党処理の補助を頼む」
「うん。任せて!」
「……ん。大丈夫だ、任せろ」
俺は左手を迷宮の入口へ向けた。
最大階位の防御結界を展開する。
俺たちへ憎悪をぶつけようと、上級魔物が殺到する。
その猛攻を、淡く白光する結界が正面から受け止めた。
魔物はどうにか俺たちに攻撃を加えようと、強固な防御結界を攻撃していた。
硬質な音が迷宮の入口に断続的に響く。
ルナリアが銀の剣を抜き、正眼に構える。
白いニーハイに包まれた脚をわずかに開き、力強く地面を踏みしめた。
彼女の身体を、業火が徐々に覆い始める。
揺らめく炎が薄暗い迷宮の入口を赤く照らし、地の底から響くような竜の唸り声が静かに聞こえてきた。
[ System : Universal_Truth_Load ...10% ...20% ...30% ]
[ System : Universal_Truth_Load ...40% ...50% ...60% ]
[ System : Universal_Truth_Load 60% Reached ]
複数の上級魔物による執拗な攻撃に、防御結界がひび割れ始める。
「ルナリア! 撃て!」
「うん! いくよ!」
ルナリアは地面を踏み抜くように跳んだ。
中空の頂点で、剣閃が赤い半月を描く。
掲げられたアストライアの剣が、天を衝いた。
「――アストライア・フレイムインカーネイト!」
[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]
ルナリアが上段から剣を力強く振り下ろす。
彼女の瞳の中の星がキラメキを閃かせ、炎は竜の姿を成し咆哮を上げた。
轟音とともに、紅蓮の竜のあぎとが上級魔物たちを飲み込んでいく。
だが、一匹だけが半ば炭化した身体のまま、なおも俺へ突進してきた。
フェリスが俺を守るために、鋭く前方へ踏み込んだ。
紫の剣閃が一直線に走り、上級魔物の首筋を切り裂いた。
突進の勢いを残したまま絶命したそれは、迷宮の端へ滑るように落ちていき、壁へ激突して止まった。
着地したフェリスの外套が翻る。
浅緑のミニワンピースの裾から、深緑のニーハイの上の太ももが覗いた。
迷宮には、俺たちの息遣いだけが残った。
俺は薄暗い通路の先を見やり、静かに二人へ告げた。
「――賢者の迷宮、攻略開始だ」
# Sage’s_Labyrinth_1st_Floor_2:
俺は全員へ灯火の魔法を展開した。
青白い魔法の光が俺たちを中心に広がり、薄暗い迷宮の通路を静かに照らしていく。
そうして、俺たちは賢者の迷宮の攻略を開始した。
先頭はフェリス。
その後ろを俺が歩き、さらにそのすぐ隣をルナリアが並んで進む。
先日の迷宮攻略で決めた、今の俺たちの探索時の基本陣形だ。
迷宮の入口は、石で縁取られた四角形をしていて、ひと目で迷宮だとわかるものだった。通路も同様で、入ってすぐは迷宮によくある不規則な石畳が続いていた。
奥へ進んでいくと、すぐに石の階段へぶつかった。
階段の幅は広いが、傾斜は思ったより急だ。
フェリスが時折左手を壁につきながら、慎重に降りていく。
俺たちもそのあとへ続いた。
ひんやりとした空気が下から這い上がってくる。
灯火の青白い光が石段の角へ淡く引っかかり、三人の影を長く背後へ伸ばしていた。
階段を降りきると、そこで景色が変わった。
それまで続いていた石畳は途切れ、足元は剥き出しの土へ変わっていた。
踏みしめるたび、乾いた土がわずかに沈み、石の床とは違う柔らかさが靴裏に伝わってくる。
その先には、広大な通路がまっすぐ続いていた。
道幅はこれまでよりずっと広く、魔法の明かりが届くのは左右の壁までだ。
天井もかなり高いらしく、上の方は闇に沈んで見えなかった。
俺は周囲を見回しながら、小さく息を吐いた。
――知の試練。
そんな前情報もあってか、俺たちは自然と慎重になっていた。
フェリスが時折しゃがみ込み、手のひらを地面へ置く。
そのたび、俺たちは足を緩めて彼女を待った。
「なあ、罠とかないのか?」
俺が尋ねると、フェリスは立ち上がりながら小さく首を振った。
「……今のところ、ひとつもない。……知の試練と聞いていたから、いつも以上に気を張っているんだが」
少しだけ言葉を切ってから、フェリスは迷宮の奥へ視線をやった。
「……何もない。……特級迷宮だ。私では、力不足なのかもしれない」
俺は星切の柄に左手を置きながら、通路の先を見てフェリスに言った。
「フェリスが見つけられないなら、誰にも見つけられないよ。なあ、ルナリア」
「うん。そうだね。フェリスちゃんに見つけられないなら、仕方ないよ」
立ち上がったフェリスがちらりとこちらを振り返る。
真っ直ぐな水色の髪が、魔法の光を反射しながら、さらりと逆側へ流れた。
「……二人して、凄まじい重圧をかけるな。……いや、わかった。努力しよう」
だが、どれだけ歩いても迷宮の罠は現れなかった。
それだけではない。分かれ道も、曲がり角すらない。
どうにも違和感があった。いつも感じる迷宮の悪意みたいなものを感じないのだ。
俺は、フェリスも同じ印象を抱いたのか聞いてみようと、声をかけかけた。
そんな時、彼女は立ち止まり手を上げて俺たちを止めた。
フェリスは鋭くしゃがみ込み、左手を地面へ置いた。
「……大部屋がある。……魔物だ」
彼女の声がわずかに低くなる。
「数が多い。……飛行型もいる。数は……八体」
俺は手持ち無沙汰に乗せていた星切の柄から手を離し、前方へ意識を向けた。
「まだ、こっちには気づいてないか?」
「……ああ」
そこで一度、フェリスは嫌そうに小さく息を吐いた。
「……はぁ。まあ、仕方ないな。初めての特級迷宮、それも初戦だ。……今回は、耳を塞ぐのも我慢しよう」
すると、ルナリアが金糸の髪を揺らしながら、てこてこ前へ行ってフェリスの顔を覗き込んで言った。
「ふふ。フェリスちゃん、本当はちょっと嬉しいんでしょ」
「……ん。じゃあ私はローディング無しでいい」
「えっ!? 危ないよ! ごめん、冗談だよっ」
即座に慌てるルナリアを見て、俺は内心で苦笑した。
まだまだルナリアでは、フェリスをいじり切れないらしい。
……俺にも無理だけど。
神官服の襟を正し、目元に力を込めて気持ちを切り替えた。
俺はローディングを行使した。
――意識を絞る。
――目的を明確化する。
神威を帯びた光が降りはじめ、讃美歌が俺を祝福した。
[ System : Universal_Truth_Load ...1% ...10% ...20% ]
[ System : Universal_Truth_Load 20% Reached ]
ローディングの階位上昇を、二段階で打ち切った。
魔族戦では神威の光に反応された。
それもあって、不用意に階位を上げすぎることを警戒していた。
まずはフェリスへ速度上昇を付与する。
声が漏れないよう身構えた彼女の体が、甘い電気を受けて弓なりに反った。
白く細い肩がぴくりと震え、彼女は漏れた声を抑えるように唇を引き結んだ。
「……あぁっ。……っ。……くっ」
喉の奥でかすかに漏れた声は、それ以上続かない。
長い睫毛が伏せられ、真っ直ぐな水色の髪がさらりと頬へ流れる。
肩を抱いた白い指先がわずかに強く握られたのを見て、いつものように耐えているのがわかった。
俺は再度ローディングを行使して、もう一度階位を二段上げた。
[ System : Universal_Truth_Load ...1% ...10% ...20% ]
[ System : Universal_Truth_Load 20% Reached ]
ルナリアに魔法攻撃力向上を展開する。
快感が彼女の内側を優しく満たしていく。
脳から下腹部にかけて、じんわりとした甘い熱が広がり彼女は喉を反らした。
「はぁ……。ぁんっ。……あ、あぁ……」
ルナリアは、俺を潤んだ赤い瞳で捉えたまま甘い吐息をこぼす。
彼女の体は小刻みに震え、濃紺のバトルドレスに包まれた胸元が、呼吸にあわせて大きく上下する。
彼女の潤いのある唇が、蕩けた心を示すかのように少し開いていた。
よし、いくか。
初戦だ。慎重にいきたい。
俺は二人が落ち着くのを待ってから伝えた。
「初戦だ。無理はしないでくれ。危なくなったら、一度距離を取ろう」
二人は短く頷いた。
フェリスが先行して進み、ルナリアがその後ろへ続く。
ある地点を越えた瞬間、フェリスが強く地を踏んで加速した。
双手で短剣を握るフェリスは、風のように駆けていく。
それを合図に剣を下ろしたルナリアも速度を上げた。
風を斬って疾走りながら、二人は鋭く視線を交わした。
直後、ルナリアが加速してフェリスの前に出た。
三色の刃が、魔法の光を受けてちらちらと反射光を放っていた。
人知を超えた速度で走る二人を、俺も駆けて追いかけた。
――俺が部屋へ到達するより先に、業火が魔物を斬り裂く音が聞こえ始める。
遅れてたどり着いた大部屋は、広大な洞窟空間といった感じだった。
すでに魔法の光は、壁までは届いていない。
洞窟を淡く照らす壁付きの松明と、彼女たちの周囲だけが明るく光っていた。
はじめに目に入ったのは、ルナリアの燃え盛る銀の剣がケルベロスへ振り下ろされるところだった。
轟音を立てる炎の剣撃は、一体を一太刀で両断した。
ルナリアは追撃をせず、一度後ろへ跳ぶ。
彼女がいた何もない空間を、ケルベロスが放った無数の風の刃が通り抜けていく。
そのまま魔法の刃は壁面へ飛んでいき、土の壁を裂く。
「――ファイアブラスト!」
ルナリアの左手から放たれた業火が、洞窟を赤く染めながらケルベロスの群れを呑み込む。
俺の目にも数が見えた。――四体だ。
追撃の魔法を撃とうとしていたケルベロスたちは、業火に焼かれてのけぞった。
薄暗い洞窟の中で、ルナリアの銀の剣を覆う紅蓮の炎が、明るく輝いていた。
彼女は強く踏み込み、そのまま前方へ突進する。
勢いを乗せたまま、怯んでいたケルベロスを右から左へ横薙ぎにした。
ルナリアの剣閃は止まらない。
剣を右手の中で返し、今度は左から右へと炎の刃を奔らせた。
勢いを殺さず、そのまま回転するように斬撃を放った。
激しく燃え盛る炎が、彼女を中心に赤い弧を描く。
怯みから立ち直り、ルナリアへ飛びかかっていたケルベロスは、まとめて両断され、そのまま絶命した。
ルナリアの激しい動きに合わせて白いミニスカートがひるがえり、瑞々しい太ももがちらりと覗いた。
剣を振り抜いたルナリアの隙を狙い、上空のデーモンたちが中空に無数の氷槍を出現させる。
冷たく尖った槍が、一斉にルナリアへ降り注ぐ。
ルナリアは真っ直ぐに赤い瞳で、その氷の槍を捉える。
迫る氷槍のほとんどを、たった一度体を捻るだけでかわし、正面から飛んできた一本は銀の剣で真っ向から叩き割る。
燃え盛る剣が、彼女の美しい顔を薄暗い洞窟の中で浮かび上がらせた。
砕けた氷片が青白い光を反射し、周囲へきらきらと散っていく。
飛翔したまま、再び魔法を充填するデーモンたち。
だが、それは油断でしかなかった。
フェリスが側面へ走り込んでいた。
彼女は、鮮やかな青い外套を翻しながら、地を蹴る大きな音とともに跳んだ。
飛ぶように宙へ駆け上がった彼女は、まず逆手に握ったグラディオの短剣を、身体ごと捻るように一閃した。
さらにそのまま回転を止めず、今度は左手で順手に握った黒い短剣を、隣の魔物へ振り抜く。
紫と黒の刃に喉元を切り裂かれた二体のデーモンが、血を撒き散らしながら落下していく。
下降するフェリスの青い外套がめくれ上がり、浅緑のワンピースから伸びる白い脚が、深緑のニーハイごと魔法の光に照らされた。
最後に残った一体のデーモンが、ルナリアからフェリスへ敵視を移した。
愚かにも最大の脅威から目を離した魔物を、ルナリアの魔法の槍が襲う。
「――ファイアランス!」
炎の槍が一直線に飛翔し、デーモンへ直撃した。
槍に貫かれて動きを止めたそいつへ、ルナリアが一気に跳躍する。
濃紺のバトルドレスに覆われた胸元が、その激しい動きについていけず、ぶるんっと大きく形を変えて揺れる。
紅蓮の炎を纏うアストライアの剣が、右上から左下へ振り下ろされた。
燃え盛る剣に、最後の悪魔は両断されて地に伏した。
俺は危なげなく勝利した二人のもとへ駆け寄った。
彼女たちはかすり傷程度しか負っていない。それでも俺は、手早く回復魔法をかけた。
もう、これは俺の癖だ。
「さすがだ、ルナリア、フェリス。二種類とも悪魔系の魔物か。中級者殺しで有名な魔物群だけど、お前らの敵じゃなかったな」
ルナリアは剣の血糊を払いながら答える。
彼女の金糸の髪が、その動きに合わせて揺れた。
「フェリスちゃんがいると敵視が集中しないし、すごく動きやすいの。デーモンは上位悪魔だったと思うけど、これならあまり怖くないね」
「……お前が、強すぎるだけだ。私としてはもう少し役に立ちたい」
俺は二人の会話を聞きつつ、別のことを考えていた。
知の迷宮という名前から、俺は複雑な迷路構造や多重構造の罠を連想していた。
……もしかして、違うのかな?
「魔法攻撃主体の悪魔系か。……なあ、知の迷宮って、そういうことなのか?」
フェリスは、水色の髪を外套の中へ仕舞いながら、少しつまらなさそうに答えた。
「……ん。……知の試練とは、こういう魔物の迷宮ということだろうか」
「俺が思ってたのと、なんか違う」
俺たちのやり取りを苦笑しながら見ていたルナリアは、銀の剣を鞘に納めながら視線を外した。
彼女の視線の先には、先ほど魔物が殲滅されたと同時に開いた鉄の戸があった。
「うーん。敵を全滅させたら階段が出てくるって、凄く素直な迷宮だね……」
薄暗いその先には、洞窟の土を掘り抜いて作られた階段があった。
その表面には石畳が敷かれ、下へ伸びていた。
# COORDINATE 0044 END




