[COORDINATE 0037] The Demon Race 2
# Battle_Against_the_Vampire_3:
フェリスは鮮やかな青の外套を翻し、凄まじい速度で離れていった。
浅緑の短いワンピースの裾が風に舞い、深緑のニーハイに包まれたしなやかな脚が、荒野の土を力強く蹴り上げる。
フェリスが前線へ参戦してくれた今、俺がルナリアと魔族の戦いへ無策で突っ込む意味はない。あいつは俺の剣だと言った。なら、俺はその振るい方を考える。
俺は戦術を組み立て始めた。
遠目に見える彼女たちの戦闘は速すぎて、俺の目には追いきれない。
だが、ルナリアの動きは魔族と互角に見える。
まだ大魔法を行使していないことを考えると、状況はやや不利か。
業火を纏うアストライアの剣が、魔族の血の刃と幾度も交錯し、激しい衝撃波を撒き散らしている。
だが、ルナリアに最大階位の支援魔法をかけられれば、この膠着した均衡を崩せるはずだ。
俺はまず、自分自身に魔法耐性向上と物理耐性向上の支援魔法を展開した。
淡い光が俺を包み込み、やがて光の粒子となって消えていく。
最大階位の支援を展開すると、どうしてもルナリアに大きな隙が生まれるだろう。
最悪の場合は、俺が自分の身体を張って時間を稼ぐ必要があるからだ。
……しかし、魔族の攻撃を俺が耐えきれるとは思えなかった。
あの一撃をまともに受ければ、一瞬で絶命しかねない。
都合よく、隣のリュックの魔法が、強固な防御魔法だったりしないだろうか。
「リュック、お前のさっき言いかけていた魔法を教えてくれ」
リュックは、綺麗にまっすぐ切り揃えられたくすんだ灰色の髪を揺らしながら、はっきりと答えた。
「私の魔法は、風を利用した通話魔法です」
そう都合よくはいかないか。
俺は支援魔法を展開した後、すぐにそのままローディングの行使に入る。
俺の周囲に、神威を感じさせる淡く柔らかな光が静かに満ちていく。
天から降り注ぐような荘厳な讃美歌が、俺を祝福するように微かに響き始める。
[ System : Universal_Truth_Load ...1% ...5% ...10% ]
俺は意識をルナリアの勝利のみに絞った。目的の明確化によりローディングが静かに進行していく。
その間も彼女たちの戦闘からは視線を外さない。
いつの間にか、戦況が変わっていた。
どうやったのかはわからないが、魔族の敵視がフェリスに集中していた。
フェリスは襲いかかる血の刃を、凄まじい速度で次々と躱している。
俺は、離れた場所から轟音を響かせるルナリアたちの戦況を見る。
フェリスに気を取られていた魔族の横をルナリアが走り抜け、そのまま背後を奪って鋭く痛打を浴びせたのが見えた。
[ System : Universal_Truth_Load ...20% ...30% ...40% ]
魔族が背中から血を吹き出したのが見えた。
ルナリアの攻撃は通っている。
それを確認しつつ、俺はリュックへ尋ねる。
「リュック、お前はあの魔族相手に時間を稼げる戦闘力はあるか?」
「お任せください。死ぬまでに五分くらいは稼いでみせます」
それは任せられないよ。
まあ、俺よりは強そうだな。国軍の前線兵士だ、当然か。
[ System : Universal_Truth_Load ...50% ...60% ...70% ]
もうひとつさっき疑問に思ったことも聞いておく。
「通話魔法の通話ってなんだ?」
「……えっと、通話とは、離れた場所にいる人と会話をすることです」
「ずいぶん汎用性の高い魔法だな。俺と彼女たちの間でも会話できるのか?」
「はい、できます。ただ、距離もさほど遠くまでは届きませんし、何より風が届かない場所では通話できません」
リュックは控えめに言っているが、国軍の集団戦闘においてはかなり使い勝手のいい魔法だ。
なるほど。だからこいつ、昨日瀕死の重傷から回復したばかりだったのに、前線にいたのか。
[ System : Universal_Truth_Load ...80% ...90% ...100% ]
[ System : Universal_Truth_Load 100% Reached ]
階位は最大まで高まった。後はこれをどうルナリアに展開するか。
――その時、砦の外壁近くで魔族が飛翔するのが見えた。
血を垂れ流しながら、魔族が上空へ昇っていく。
俺はその魔族の周囲に、収束する強大な未知の力を感じた。
大魔法だ。
魔物と違い、魔族の魔法は何をしてくるかわからない。
「ルナリア! フェリス! 魔族から距離をとれ!!」
――駄目だ。大魔法の轟音で声が届いていない。
……!? やばい。ルナリアが魔族へ飛び掛かろうとしている。
それは駄目だ。
「おい! リュック、魔法を展開しろ! ルナリアに通話! はやくしろ!」
「は、はい!」
リュックは神器らしき短いロッドを縦に握り、前へ突き出して構えた。
「――我が名は、リュック・ロベール。風に音を乗せ、知られざる物語を紡ぐ者。旋律の精霊よ、その調べを彼方へ届けよ!」
リュックの身体から緑色の光が淡く漏れ出す。
緩やかな風の調べが聞こえた気がした。
「アルス様、私の肩へ手を。それでもう通じます!」
俺は返事をする時間も惜しく、強くリュックの肩を掴み声を張り上げた。
< ばかやろう! ルナリア! 命令だ、回避しろ! >
確かに張り上げたはずの俺の声が自分には聞こえなかった。
焦る俺の目の前で、ルナリアの動きが急激に変わり、ぎりぎりで致命傷を避けたのが見えた。
リュックも状況を理解したのだろう。真剣な目で俺を見ながら告げる。
< 大丈夫です。アルス様、通じています >
そうか、通じたのか。
俺は安堵してへたり込みそうになる。
遠目にも、ルナリアの傷が深いのがわかった。急いで回復魔法もかけなければ。
だが、何も終わっていない。
魔族の姿は、先ほどまでとは大きく変化し、不気味な蒼い肌と蝙蝠の羽を持つ、まごうことなき異形となっていた。
だが、この通話魔法なら、あの魔族に気が付かれずルナリアを呼び戻せるはずだ。
ルナリアに支援魔法を展開できれば、俺たちの勝ちだ。
俺はリュックの肩を掴んだまま、ルナリアを呼び戻そうとした。
――その時。
上空に浮かんでいた異形の魔族が、俺たちの方へ顔を向けた。
その異形の魔族の表情は遠すぎて読み取れない。
だが、その目だけは憎悪に濁り、明らかにこちらを敵視しているのがわかった。
何故だ。
ローディングの行使だけで、距離のある魔物が敵視をこちらへ向け直してきたことなどない。
俺の周囲は、最大階位に達した影響で神威を感じる暖かな光に満たされている。
……! 光か? くそ、魔族はローディング行使の光に反応するのか?
だが、大丈夫だ。いずれにしてもかなり距離がある。ルナリアたちもあいつの近くにいる。
突如、魔族の全身を赤黒い血の膜が薄く覆った。
一瞬の静止の後、その輪郭が消失し、魔族の身体があった場所に大量の蝙蝠が出現した。それらが羽ばたいた後、全ての蝙蝠が掻き消えた。
――え!?
驚愕する俺の眼前に、消えたはずの大量の蝙蝠が黒い竜巻のように現れる。
それは瞬時に凝集し、異形の魔族の姿へと形を変えた。
距離など存在しなかった。
蛇のような赤黒い瞳孔が、ひどく目障りな虫でも見るような目で至近距離から俺を見下ろしている。
「...So, you are the source of that disgusting light. I have no use for men. Die.」
「がっ……」
俺は腹部から、強烈な熱を感じた。
視線を下に向ける。
魔族の太い腕が俺の黒い神官服を裂き、腹部を深々と貫いていた。
熱いのか冷たいのかもわからない。ただ、どくどくと脈打つ感覚とともに、身体から力が抜けていくのだけがわかった。
貯めていた階位が霧散していく。
「アルス様!」
リュックが弾かれたように反応し、腰の剣を抜いて魔族に斬りかかる。
だ、だめだ。
魔族は目線を向けることもなく、鬱陶しいものでも払うように無造作に左腕を振るった。
その一撃がリュックを捉え、彼は地面を跳ねながら吹き飛んでいった。
俺の身体から力が抜け、荒野の硬い土の上へ倒れ伏す。
まずい。視界が暗く明滅し始める。
意識が保てない。気絶するな、俺。早く回復魔法を……。
狭まる視界の中、死を待つだけになった俺たちに興味を失ったのか、魔族が離れていく。
その向こうから、ルナリアとフェリスがこちらへ向かって凄まじい速度で突進してくるのが見えた。
# Battle_Against_the_Vampire_4:
誰かの叫び声と戦闘音が響く。
意識を失いかけている俺の視界は暗く、自分が何者であるかも手放そうとしていた。
――俺はさあ、冒険したいんだよ。神の手を感じたくないんだ
魂だけになっていく俺の脳裏を、ひどく傲慢で子供のような言葉が掠めた。
そんな言葉を吐いた記憶はないが、俺が言いそうだなと思った。
だが、俺は「冒険をしたい」と言ったことはある。
自分が吐いた言葉は全うしなければならない。
俺は動かない身体へ魂の力を行使した。
まずは命を繋ぎ止める。
血を吐き出し、俺の心臓と脳がぎりぎりで踏みとどまった。
視界が戻ってくる。
目やにと涙で霞む視界の中では、ルナリアとフェリスが魔族と戦闘をしている。
ルナリアの金糸の髪が日光を反射してきらめいている。濃紺のバトルドレスが激しい戦闘で艶めかしく揺れていた。
水色の髪を真っ直ぐに伸ばしたフェリスは、激しく空中を舞うせいで、浅緑のワンピースの裾から下着が除きそうになっている。
二人の太ももの白い肌が太陽の光を反射するのが、ちらちらと見えた。
俺は覚醒する。
魔族を無視し、俺に駆け寄ろうとするルナリアを魔族の血の刃が襲う。
彼女は直撃しても構わないとばかりに、それを無視して俺の方へ駆け寄ろうとした。
フェリスがそれを庇うように飛び込み、ルナリアを抱えて跳躍した。
魔族はそれを追いかけ、鋭くその腕を振り下ろす。
ルナリアが銀の剣でそれを受け止め、回転するように反撃した。
いけない。
フェリスがいるから、まだなんとか理性を保っているルナリアだが、このままでは魔族に背を向けてこちらへ走ってくる。
くそ、回復魔法で身体が癒やされても疲労は消えないんだ。
酸素が足りない。動けない。
俺は、せめて声を出そうとした。
……いくら叫んでも声が出ない。
――いや、違う。 まだリュックの魔法が続いているんだ!
俺は一縷の望みにかけて、喉の奥から血を吐き出すように叫んだ。
< リュック! 起きろ!!! こっちへ来い! 勇者様と一緒に戦うんだろ! >
離れた場所で倒れていたリュックが、俺の声に反応して身体をぴくりと動かした。
こいつの言動は、俺にそっくりだった。
それを思い出して、俺が一番言われて腹の立つ罵倒をしてやった。
< この口だけ野郎が! 自分の言ったことも守れないのか! >
俺の罵倒に身体を跳ねさせたリュックは、両手をついてよろよろと立ち上がった。
こちらへ土埃にまみれた顔を向け、苦笑する。
< う、うるさいですよ。アルス様 >
俺はせめて少しでもリュックに近づけるよう、身体を無理やり仰向けにして腕を伸ばす。
リュックは足を引きずりながらこちらへ近づき、その場に倒れ込んだ。
彼の手が俺の左手に触れる。
回復魔法の優しく淡い光がリュックの傷を癒やしていく。
リュックはしっかりとした足取りで立ち上がり、その瞳には戦士の誇りが再燃していた。
俺は倒れたままリュックに身体を支えてもらい、ルナリアとフェリスの戦闘へ視線をやる。
急いでリュックに頼み、ルナリアとフェリスに通話を繋がせる。
< ルナリア、フェリス。命令だ。そのまま焦ったふりをして戦闘を続けろ。こちらに反応するな >
[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]
二人は、ほんの一瞬だけ動きを止めた。
それでもこちらを見ることなく、戦闘を続行する。
だが彼女たちの赤と瑠璃の瞳は、輝きを取り戻していた。あいつらなら大丈夫だ。
俺はそのまま手短にリュックへ作戦を伝えた。
リュックは俺の言葉を聞き終えると頷き、強い眼差しを俺へ向けて陣地に向かって走り出す。
それを見届けた俺は、自分の体の調子を確かめる。
……よし、戦えはしないが、立てるし声も出せる。
まずは二人の回復と、支援魔法の更新だ。
俺は思い切り息を吸って大声で叫んだ。
「おい! このクソ野郎が! 俺の女たちに手を出した報いを受けさせてやる!!」
ついでに、三人の戦意も上がりそうな内容にしておいた。
魔族は突然の俺の大声に反応し、こちらへ視線を向けた。
そして俺を視界に入れた瞬間、驚愕に表情を強張らせて固まった。
「Why are you still alive !?」
俺の動きを事前に伝えられていた二人の反応は鋭かった。
フェリスは中空で攻撃を中断すると、身を捻って一直線に俺の方へ跳んだ。
ルナリアの宝石のような赤い瞳に、抑えきれない歓喜が燃え上がる。
その感情に応えるように、アストライアの剣を覆う紅蓮の炎が猛り狂い、轟音と共に魔族へ振り抜かれた。
直撃を受けた魔族は、身体をくの字に折って横へ吹き飛ぶ。
透き通る水色の髪をなびかせ、フェリスが軽やかに俺の元へ着地した。
「……私も、お前の女なのか? なら、今後は待っていていい、などと言うな……んぁ! くっ……ぁあん! ……おい。今のはわざとだろう」
話の途中で回復魔法と支援の更新をされたフェリスは、目を細めて俺を見る。
瑠璃色の瞳には、少しだけの照れと強い安堵が浮かんでいた。
俺は彼女へ答えた。
「ああ。もう、ああいうことは言わない。約束する」
フェリスは自分の身体の動きを確かめるように軽く肩を回した。
「……ん。まあ今回、私は脇役だ。……この辺にしておいてやる」
ルナリアは剣を振り抜いた後、後方へ跳躍し、中空でくるりと身を翻してこちらへ飛んできた。
「ああ、アルス! アルス! ごめん、わたし! 絶対に負けないって言ったのに!」
彼女は、きらきらと陽光を反射する金糸の髪を揺らし、赤い瞳に大粒の涙を宿して俺に抱きついてきた。
俺はルナリアを優しく、だが強く抱きとめる。そのまま回復魔法を行使した。
「いや。ありがとう、お前は凄い。それにまだ終わっていない。お前は負けない」
俺は支援魔法を彼女へ流し込みながら、優しく微笑む。
ルナリアは宝石のように美しい瞳で、じっと俺を見つめていた。
「んん……はぁっ……。あっ……。アルス……」
そのまま身体を押し付けるように密着したまま、彼女は動かない。
薄布一枚を挟んで伝わる、彼女の豊かすぎるふくらみが俺に押し付けられて、むにゅりと形を変える。
妙に、潤った唇が気になった。
おい、なんか言えよ。
俺は急に恥ずかしくなってきて、ルナリアをくるりとひっくり返して前へ向ける。
「大丈夫だ。ルナリア、お前は必ず勝つよ」
「うん。うん! 任せてよ! アルスの前で恥をかかせてくれた分、きっちりお返ししてやる!」
フェリスは楽しそうに俺たちを見ていた。
魔族が瓦礫の向こうから憤怒の形相で現れる。
だが、俺はもうそれを大して怖いとは思わなかった。
「いいか、目的は俺のローディング完了まで時間を稼ぐことだ。あいつは瞬間移動をするが、蝙蝠になる前に一瞬止まる気がする。予兆が見えたら、防御より攻撃を優先しろ」
頷いた二人が構える。
[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]
正面に立ったルナリアは、右手で剣を握ったまま切っ先を下へ落とした。
燃え盛る赤い炎。業火の剣。
彼女は強く大地を蹴って駆け出していく。
ひどく損傷したバトルドレスからは、細い鎖骨が大きく露出していた。
フェリスが地を這うように姿勢を低くし、風のようにルナリアを追従する。
翻る外套の下、脚の線を強調する深緑のニーハイがちらちらと覗いた。
俺は視線を魔族から逸らさない。
もう回避は必要ない。あいつらが全て止める。
ただひたすらに精神を絞る。
あの天よりも、さらに遠くへ魂を繋げる。
[ System : Universal_Truth_Load ...10% ...20% ...30% ]
遠く、遠く、星空の向こうへ。
[ System : Universal_Truth_Load ...40% ...50% ...60% ]
神威の光と荘厳な讃美歌が強く俺の周りを満たす。
魔族が俺のことを、濁った赤い目で凝視し斬り殺そうとしているのを感じる。
だが、お前は届かない。
[ System : Universal_Truth_Load ...70% ...80% ...90% ]
[ System : Universal_Truth_Load 100% Reached ]
「準備完了!! 全員!! 行動を開始しろ!!」
中空でルナリアが、上段に構えた燃え盛る銀の剣を振り下ろす。
魔族はそれを腕で受け止め、激しい衝撃波が巻き起こって俺の神官服まで揺らした。
ルナリアはその反動を利用して後ろへ回転しながら離脱し、炎の槍を撃ち放つ。
補助に回っていたフェリスもそれに合わせ、二人は一気にこちらへ駆けてくる。
二人が距離を取ったのを見て、魔族は押し返したと判断したのか、右手に血の剣を出現させて追撃に移ろうとしていた。
――その時、国軍の陣地の方から大勢の兵が一斉に動く気配が伝わってきた。
俺がリュックに託した作戦に応え、国軍が動いたのだ。
指揮官の厚みのある鋭い号令が荒野に響き渡る。
「遠隔魔法部隊!! 一斉掃射!! いいか! お前たちの誇りにかけて一発も外すな!!」
凄まじい轟音とともに、炎と雷が魔族へ向かって空を埋め尽くすように降り注いだ。
爆発、閃光、衝撃。途切れることのない魔法の豪雨が荒野を蹂躙する。
魔族は血の盾を幾重にも展開してそれを耐え凌ぐ。
だが、絶え間なく叩きつけられる連射に、身動きひとつ取れなくなっていた。
「Grrr… You filthy lesser creatures…」
ルナリアが滑り込むように俺の前へ立つ。
背を俺に向けたまま、アストライアの剣を静かに正眼へ構えた。
「格好良いよ、アルス」
その声と同時に、彼女の身体を紅蓮の炎が包み込みはじめる。
[ System : Universal_Truth_Load ...10% ...20% ...30% ]
俺はそっと左手を添えた。支援魔法、魔法力向上属性。
「あっ……んっ。はぁ……っ、ぁああ!!」
最大階位がもたらす電圧が、ルナリアの全身を駆け巡った。
華奢な身体がびくりと跳ね、耐えきれない快感が甘い吐息となって零れる。
彼女は艶めかしく弓なりに身を反らせた。
破れた服から露出した細い鎖骨がきゅっとすぼまり、その上を一筋の汗が流れる。
刺激に耐えるように白い太ももが震えた。
耐え難い快感に晒されながらも、ルナリアは姿勢を崩さずローディングを続ける。
「……えへへ。わたしの格好いいところも、ちゃんと見ててね!」
熱に潤んだ赤い瞳で、彼女は肩越しに俺を流し見た。
[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]
[ System : Lunaria Reason_Gauge 20 / Phase Overheat Active ]
(……ああ、きみはわたしの所有者、ご主人様。……きみが望むなら、わたしは……)
[ System : Universal_Truth_Load ...40% ...50% ...60% ]
竜の唸り声が、大地の底から響いてくる。
それはルナリアの戦意に応えるように、これまで聞いたどの唸り声よりも重く、深く、世界そのものを震わせる響きだった。
(……わたしは誰にも負けない!! ……きみの命令なら、魔族にだって勝つ!!)
アストライアの剣を右下に下ろし、火炎の女神となったルナリアは凄まじい音で踏み込み、中空へ跳び上がる。彼女の剣が、美しい赤い半円を描く。
国軍の魔法の豪雨がやみ、半円に凹んだ地面の中で魔族がルナリアを見る。
その顔に初めて恐怖を浮かべていた。
「You monsters… Don’t come any closer !」
魔族は蝙蝠となって瞬間移動しようとする。
だが、その時にはすでに青い外套を翻し、フェリスが懐へ走り込んでいた。
彼女の握るグラディオの短剣が、魔法を発動しかけた魔族の首を鋭く裂く。
魔法を中断させたフェリスは、返す身でその頭をかかとで蹴り飛ばした。
そして魔族の頭を足場にするように、軽やかにその場を離脱する。
天高く頂点へ達したルナリアは、燃え盛る銀の剣を上段に構える。
アストライアの剣が、天を衝いた。
「――アストライア・フレイムインカーネイトッ!!」
[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]
[ System : Lunaria Reason_Gauge -20 / Total Limit Reached / Next Turn: Tempest_Explosion ]
紅蓮の炎が、その輝きを一気に増して大空を覆うように広がる。
荒れ狂う赫い業火はルナリアに応えるように急激に収束し、紅蓮の竜の姿を形作った。
彼女の赤い瞳の中の星が、強くキラキラと輝く。
焔炎を従え、竜の化身となったルナリアは一直線に落下し、アストライアの剣を上段から振り下ろした。
重く深い咆哮が荒野に響き渡り、紅蓮の竜のあぎとが魔族へ喰らいつき、その異形ごと呑み込んで消し飛ばす。
業火の竜は昼の荒野を爆音とともに焼き裂き、視界のすべてを赫く染め上げた。
ルナリアは中空で一度だけくるりと回り、軽やかに荒野へ降り立った。
こちらを向き、目線で俺を捉えると、熱を帯びた赤い瞳をとろんと蕩けさせ、そのまま視線を動かさない。
ああ、いつものが始まったな。
フェリスはルナリアの着地を見届けた後、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
俺は国軍の兵士たちへ向けて、拳を握った右手を高く掲げた。
「勇者様たちが勝ったぞ!! 魔族に勝ったんだ!」
陣地の国軍から、歓声と勝ち鬨が一斉に湧き上がった。
# COORDINATE 0037 END




