[COORDINATE 0035] Noir Fortress Recapture Operation 2
# Toward_the_Fortress:
俺たちの快進撃は止まらなかった。
深い森を突き進む中で深手を負っている他の戦士を見つけた時は、こっそりと回復魔法をかけて致命傷を回避した。
そのほとんどは出血多量や激痛で意識を失っていたが、稀に意識を保ったまま治癒を受けた者は、ぎょっとした顔をして俺を見てくる。
そういう時、隣で巨斧を担いだガルデンが、無言で森の奥を指さした。
その指の先では、ルナリアが凄まじい業火を振り撒き、魔物を火炎で斬り刻んでいる真っ最中だ。
「余計なことを喋ったら、あれがお前を始末しに来る」とでも脅しているのだろうか。
やがて、前線で紅蓮の炎で魔物を屠り続けていたルナリアが、支援魔法の更新のために軽やかに跳躍しながら俺の元へと戻ってきた。
代わりに、フェリスとガルデンのパーティーの前衛たちが前に出て、強固な前線を維持してくれている。
「アルス、支援魔法の更新、もらいにきたよ」
俺の目の前で急停止した彼女は、激しい戦闘の影響で全身にぐっしょりと汗をかいていた。
濃紺のバトルドレスが濡れてべったりと白い肌に張り付き、その華奢でしなやかな体の線を、誤魔化しようがないほど浮き彫りにしている。
荒い呼吸を繰り返す彼女が、潤んだ赤い瞳で俺を見つめて立ち止まる。
乱れた息を大きく吸い、そして吐き出すたびに、下着で覆われていない豊かな双丘が、張り付いた薄布越しに重力に従ってふにゅっと柔らかに揺れた。
俺はちらちらその揺れる双丘を見つつ、手早く清潔な布を取り出した。
ルナリアの火照った顔や首筋の汗を優しく拭いてやりつつ、気になっていたことを尋ねる。
「なあ、なんかこっちに向かってくる魔物が多くないか? お前が五回も魔力補給に戻ってくるって結構な数だぞ」
彼女は、俺に汗を拭かれるのを気持ちよさそうに目を細めて受け入れながら答える。
「そうだね。これだけの魔物の数と戦闘するのは、迷宮で超大部屋に落ちた時以上かも」
俺は彼女の背中に手を当て、支援魔法の速度上昇属性を更新する。
「あ……っ、んんっ……。はぁ……っ。よし! じゃあ、またいってくるね」
ルナリアは綺麗な潤いを帯びた赤い瞳で、俺を捉えたまま甘い吐息を吐いた。
すぐに毅然とした戦士の顔つきに戻り、ウェーブがかった金糸の髪を風にゆらしながら、再び前線へと駆け戻っていく。
彼女は、すれ違うフェリスに何かしらの合図を送っていた。
入れ替わりで、フェリスに支援魔法の更新へ向かえと指示しているのだろう。
フェリスは支援魔法の更新を避けようとするからな……。
俺はこの時、まだ気づいていなかった。
この時点で、森にいる魔物の大半が、俺たちの影響で左翼側へ流れてきていたことに。
そうして、激戦のまま日が落ちていく。
俺たちはガルデンと共に、追いついた国軍の野営地の端で、一夜を明かさせてもらうことにした。
様子を見ていて、俺は途中で気づいた。どうやらこの部隊は、正面を担当した第一陣らしい。
激しい戦闘があったのだろう。生え抜きの精鋭ばかりだったためか死者は出ていないようだが、かなりの重傷者がいるようだった。
俺は食事を終えた後、フェリスに偽装を手伝ってもらいながら、致命傷を負った兵士たちをこっそり回復して回った。
――ガルデンは腕を組んだまま立ち、そんなアルスを見送っていた。
やがて、側の焚き火の前に座っているルナリアへ声をかける。
「金色の嬢ちゃん。あいつ、自分じゃ上手くやってるつもりなんだろうが……危ういぞ」
「わたしも心配だよ? でも、アルスにはやりたいように好きにやってほしいの。いざとなったら、彼の敵は全部わたしが斬るよ」
ガルデンは肩をすくめながら、宵闇に消えていくアルスの背中を見つめていた。
* * *
――同時刻、本陣の天幕。
司令部では作戦会議が行われていた。
総指揮官であるクロード・ダントンが大きな地図を広げ、副官たちからの戦況報告を聞きながら、明日以降の作戦を組み立てていた。
彼の計算では、軍と民間が連携してノワール砦の目前に到達するまで、およそ四日ほどを要するはずだった。
「……は? 今、なんと言った。もう第一陣が砦付近に到達しただと?」
寡黙な将であるクロードが、珍しく大きな声を上げた。
副官は、自分の報告内容が耳を疑うようなものだと理解していた。
冷や汗をかきながら、慎重に言葉を選んで報告する。
「はっ。さらには、すでに砦周辺に展開していた魔物は討伐が完了したとの報告も入っております。そればかりか、右翼側の部隊に至っては、午後から魔物との接敵がほぼ皆無だったそうです」
クロードは腕を組み、天幕の天井を見上げながら低く唸った。
「ううむ。どういうことだ? 予想でいい。原因となりそうなものはないのか。まさか魔物が道を譲るわけもあるまい」
「伝令からの報告によりますと、どうやら左翼側に配置された民間戦士の中に、特級に匹敵するパーティーが混ざっているようです」
鋭い視線を副官へ向け、クロードは続けた。
「途中、私も似たような報告を受けてはいた。戦時によくある誤報だと思っていたが……。現在、共和国に特級認定されている戦士はいないはずだ。王国のSランク冒険者でも紛れ込んでいるというのか?」
副官は書類に目を落としながら続ける。
「複数の観測部隊から同様の報告が上がっております。誤報ではないと思われます。在野にいる、表舞台へ出てこない実力者ではないでしょうか」
今度はクロードが思案するように目を伏せた。
「ううむ……。確かにリナルド様もその類であった。ありえない話ではないか……。いずれにせよ、足踏みをする必要はない。明日、予定を前倒しして全軍を前進させる。司令部も前へ出し、陣地形成に入る」
「はっ、クロード閣下。承知いたしました」
副官が力強く頷く。
顎に手をやりながら、クロードはさらに言葉を継いだ。
「あとは、その特級に準ずるというパーティーだが、一度面通しをしておきたい。作戦完了後に呼べるよう、それまで待たせておけ」
副官が頷き、礼を取る。
それを見届けたクロードは、続けてもう一つの重要事項を確認した。
「次の議題だ。本日の作戦における、我が軍および民間戦士の被害状況を報告しろ」
副官は、先ほど以上に緊張した面持ちで、手元の別の書類をクロードに差し出した。
「……重傷者、二十三名。死者はおりません。さらに、重傷者とされている者たちも、命に関わるような怪我を負った者はおりません」
その報告を聞いたクロードは、口を開いたまま固まった。
常に規律を崩さぬ毅然とした軍人である彼のそんな表情を見て、副官は思わず目を逸らした。
「死者がいない? 馬鹿な。これだけの規模の戦闘だぞ。一人の犠牲も出ないなどありえない」
副官もまた、その立場に相応しい人物だ。
それゆえに彼は、この報告内容がいかに異常であるかを理解していた。クロードに目を合わせないまま、なおも報告を続ける。
「右翼側の部隊は、午後から一切の戦闘を行っておりません。よって、負傷者自体が出ておりません。そして左翼側は、本日後半にかけて魔物が密集した激戦区だったはずですが、こちらも重傷者はほとんどおりません」
副官はさらに報告を続けた。
「重傷者のほとんどは、第一陣として中央を進軍した正面部隊、及びその近辺で戦闘になった民間の戦士のものだけです。
全員重傷ではありますが、命に別状はありません」
クロードは短く刈り上げた金色の髪を撫でながら、副官を見て無表情で言った。
「作戦にリゼット様でも紛れているのか?」
副官は姿勢を正したまま、やけっぱちのように答えた。
「もしくは、勇者様かもしれませんな」
# Valerion_Republican_Magic_Warfare:
翌日の午前中には、軍の優秀な工兵部隊の手によって、砦の前に巨大な盛り土の陣地が築かれていた。
土を高く積み上げた即席の高台の上では、胸壁代わりの頑丈な木柵の手前に多数の軍人が等間隔に並び、周囲を警戒している。
陣地の中央では、立派な鎧をまとった金髪の刈り上げの男が、手際よく指示を飛ばしていた。
彼がこの作戦の指揮官だろうか。
ただならぬ気配をまとう剣士や槍兵たちが、その指揮官らしき男の前に立ち、短く言葉を交わしている。
神器持ちだな。となると、あれが前衛寄りの魔法部隊か。
彼らは二言三言やり取りした後、それぞれの定位置へ散り、整然と並んだ。
その慌ただしい周囲には、昨日の掃討から漏れて森に残っていた魔物たちが、人間の気配に引かれるようにちらほらと姿を現していた。
だが、それらは精鋭の国軍兵士によって迎え撃たれ、素早く処理されていく。
この場に残っている民間の戦士は、すでに俺たちしかいない。
今回の作戦での役割を終えた彼らは、後方のブランシュ砦へ戻り、戦果報告を行っているらしい。
なぜか俺たち三人と、ガルデンたちのパーティーだけは残されていた。
俺たちは昨夜のうちに軍の士官から、作戦終了まで陣地で待つよう命じられ、そのままここで待機させられていた。
「おお、ルナリア。見ろよ、あのでかいテント。いいなあ。あれがあれば、雨が降っても狭い馬車の中で、三人もみくちゃになって寝なくて済むぞ」
「えー? じゃあ、テントなんて絶対にいらないね」
俺はルナリアに振り返って文句を言う。
昼の明るい陽射しが、彼女の整った顔立ちを明るく照らしていた。
「あのな、お前とフェリスに両側からみっちり挟まれてたら、こちとらろくに寝られないんだよ」
「……アルス。お前は、私に雨の中……外で寝ろというんだな。……わかった」
水色の髪を陽光できらきらと反射させながら、フェリスが俯いて悲しそうな声で言ってきた。
「そうじゃない。ったく、フェリス、そういうからかい方はやめろよ」
そう言われたフェリスは、目線だけ少しこちらへ向けて、ぺろりと舌を出す。腹立つなあ。
俺たちのやり取りを聞いて、ガルデンは鋭い犬歯が見えるほど豪快に笑った。
「がははは! 仲のいいこったな。お、そろそろ軍の本隊が動くぞ。見ものだな」
俺たちはすでに作戦での役割を終えている。
ここから先の砦の奪還は国軍の仕事だ。
砦の中から魔物をおびき出す前衛部隊は、魔法使いも混じった軍の精鋭だ。
もう、こっそり回復魔法を使うこともないだろう。
……やっぱり、大規模な軍事作戦は駄目だな。
どうしても目の前に瀕死の人がいると放っておけない
こういう依頼はこれっきりにしておこう。そう心に誓いながら、俺は作戦の推移を見守っていた。
王国の煌びやかな親衛隊とはまた違う、無骨で実戦に特化した雰囲気の鎧をまとった騎士たちが、整然とした陣形を組み、ノワール砦の巨大な城門へと近づいていく。
やがて、部隊の先頭に立つ何人かが、剣や槍を天に掲げ、大声で名乗りを上げているのが、かすかに風に乗って聞こえてきた。
魔法の詠唱だな。となると、彼らが前衛部隊に混じっているという自己支援系の魔法使いか。
魔力が、その名乗りを上げた騎士たちへと収束していく。
魔物は奪い取った砦の門を、わざわざ閉めることはほとんどない。熊や猿のような獣型だけではなく、オーガなどもそういった知能は見せない。
その自己支援で身体能力を引き上げた魔法使いたちを中心に、部隊が開け放たれた砦の門から内部へと突入していく。
激しい戦闘音が響き、魔法の閃光が城壁の隙間から漏れる。
直後、侵入した部隊が巧みな連携で後退戦を行いながら、再び門から姿を現した。
彼らを追うように、薄暗い砦の中から多数の魔物が怒り狂って溢れ出てくる。
オーガやトロルといった中級魔物の群れに混じって、一際巨大な体躯を持つ一つ目の巨人が、地響きを立てて姿を現した。サイクロプスだ。
俺は横で腕を組んで見ているガルデンに尋ねる。
「あれがサイクロプスか。見るのは初めてだけど、あれって上級魔物だよな?」
「ああ、そうだ。俺たちみたいな一般の戦士じゃ太刀打ちできる相手じゃない。……まあ、お前らなら楽勝だろうがな」
ガルデンの言葉を聞いて、俺は少しはらはらしながら前線の攻防を見ていた。
確かサイクロプスは、あの巨大な単眼から攻撃魔法を放ってくるはずだ。
大丈夫なんだろうか。
だが、その上級魔物を囲む三人の魔法使いたちは、巧みな連携で放たれる魔法を誘導し、危なげなく回避していた。
隙を見ては周囲の騎士たちと連携を取り、的確に攻撃を加えながら、徐々に砦から引き離していく。
凄い……。
やがて、他の部隊も砦の中に巣食う魔物を次々とおびき出しはじめた。
陣地の中央にいた、指揮官らしき金髪の男が、戦場に響き渡る鋭い声を上げた。
「前衛部隊、後退せよ!! 第一波、遠距離系魔法部隊、掃射準備!」
陣地の上に並んだ数十人の遠距離系魔法使いたちから、一斉に詠唱が響きはじめる。
強大な未知の魔力が、彼らの願いを叶えるべく周囲へ収束していくのが、俺にもはっきりと分かった。
集約された魔法の圧倒的な火力に、俺は素直に感心した。
あれなら、ローディングを行使していないルナリアの魔法よりも高い火力が出るだろう。
もっとも、魔法剣まで含めれば圧倒的にルナリアの方が強そうだが。
これまで比較対象をあまり知らなかったけど、ルナリアの魔法火力ってやっぱりおかしいんだな。
そんな俺の再認識をよそに、号令を聞いた前衛部隊が素早く散開し、射線を通す。
「一斉掃射! 撃て!!」
指揮官の号令と共に、炎や雷の魔法が密集した魔物の群れへと降り注ぐ。
戦場に轟音が響き、閃光があたりを照らした。
土煙が晴れると、魔物のほとんどが悲鳴を上げる間もなく消し炭へと変わっていた。
生き残っていたサイクロプスへ前衛部隊が反転し、何度かの交戦の末、最後に斬りかかった魔法使いによって屠られた。
さらに指揮官が、息をつく間もなく次の指示を飛ばす。
「続けて、第二陣の前衛部隊は砦内部へ突入! 作戦続行!」
第一陣と同じように、複数に分けられた新たな騎士たちが、流れるような動きで砦の内部へ入っていく。
高度に訓練された連携で、彼らは再び砦の奥に潜む魔物をおびき出し始めた。
司令官の号令に呼応し、魔法使いが再び魔物たちを屠る。
再度鳴り響く魔法の轟音を聞きながら、俺は感心していた。
度重なる国軍の魔法の直撃によって形成されていく、黒く焼け焦げた荒野。
このまま終わりそうだな。
銀色の光は、なんだったんだろう。
そんな事を考えて、俺は何気なく荒野の上空を見やった。
昼間だというのに、中空に数匹の黒い蝙蝠が集まりだしていた。
それを視界に入れた瞬間、俺の全身の粟が総毛立ち、背筋がぞわっと泡立った。
心臓を直接鷲掴みにされたような、氷のような悪寒が背筋を駆け抜ける。
――あれは俺の敵だ。
理屈ではない。このままでは全員死ぬという確信があった。
俺は気がつくと無我夢中で走り出していた。
フェリスですら、俺の突然の行動に即座にはついてこられなかった。
ただルナリアだけが、即座に俺に追走していた。
「ど、どうしたのアルス! 危ないよ! ……蝙蝠がどうかしたの?」
「ルナリア、お前に防御力向上をかける。俺を抱えてあそこへ跳べ!」
「ぁん……。んあっ……。うん。わかった。ちゃんと掴まっててね」
ルナリアは俺の命令を聞いた瞬間、質問をやめて、いつかのように俺の体を左腕でしっかりと抱え込んだ。
銀の剣を抜刀し、その刀身に激しい火炎を纏う。そして一足で外周の木柵まで跳び、さらに前方へ向かって大きく鋭く跳んだ。
凄まじい脚力によって、俺の体は一瞬で大空へと連れていかれる。
本来なら涙を堪えられない高度に、一瞬で俺は到達し、思考が停止しかけた。
俺は必死に自分に言い聞かせた。大丈夫だ、俺。ルナリアの胸の柔らかさと汗の匂いを感じろ。
「フェリス、ガルデンでもいい!! そこの指揮官と陣地の国軍を後ろへ下がらせろ!!」
高速で遠ざかる陣地へ向けて、俺は中空から喉が張り裂けんばかりの声で叫んだ。
視界の先、上空で旋回する蝙蝠の数がどんどんと増えていく。
すでにそれは黒い球体のように密集し、不気味な一つの人影を形作っていた。
前衛部隊のいる場所へ近づく。
運が良かった。丁度第三波の魔物の処理が終わった所だ。味方の魔法には撃たれない。
着地するより前に、俺は国軍の兵士たちへ叫ぶ。
「死にたくないなら、全員俺の近くに集まれ!!!」
ルナリアが柔らかく着地し、彼女はそのまま上空の蝙蝠をその赤い瞳で捉えている。
俺はルナリアから飛び降り、周りを見渡した。
兵士たちは、陣地から突然乱入してきた不審者に完全に戸惑っていた。くそ、駄目か。
だが、兵士の中の何人かが俺の姿を捉え、慌てて周りに大声で俺の指示に従うように言ってくれていた。
昨日、瀕死のところを俺が回復したやつじゃないか。もう戦ってるのかよ。
兵士が俺たちの後方に集まってきているのを確認し、俺は上空の蝙蝠に視線を移した。
すでに上空に浮かんでいるのは、蝙蝠の群れではなかった。
病的に青白い顔。深淵のように濁った赤黒い目。髪は夜の闇を溶かしたように真っ黒で、貴公子のように綺麗に切り揃えられている。
そいつは、路傍の虫でも見るかのような冷酷な視線で俺たちを見下ろす。
そして、人間には理解できない言語を発した。
「You fools, trespassing in my domain without so much as a word.
You’re not even worth the blood it would take to kill you. Just die.」
口元から鋭い犬歯が覗いている……。
吸血鬼? ハイアンデッドか?
いや、それより、いま喋ったのか? ……まさか、こいつは。
「ルナリア、防御に全力を注げ! 攻撃しようとするなよ!」
「わかった。アルスこそ、絶対に前に出ないでよ!」
俺は可能な限り硬度を上げた防御結界をルナリアに展開する。彼女を薄い光の膜が覆った。
ルナリアは燃え盛る銀色の剣を両手で握り水平に構え、そして俺たちの前へ出る。
上空の魔物が、前触れなく禍々しく鋭い爪の伸びた右手をゆっくりとかざした。
その腕をゆっくりと上へ持ち上げた後――鋭く振り下ろした。
何もなかったはずの中空から、突如発生した巨大などす黒い血の刃の群れが俺たちを襲う。
血の刃は俺の張った防御結界を、まるでガラス細工のように容易く砕きながら突破してきた。
ルナリアは鋭く跳び上がり、業火の剣を振るって凶刃を強引に弾き返そうとする。
「ぐ、くううう! わたしは、負けない!!」
凄まじい炎の剣閃の衝撃波が荒野を吹き荒れる。
だが……ルナリアは、いつものように完全に弾き返すことができなかった。
いくつかの血の刃が彼女の防御を突破した。
それでも彼女は、俺たちへ刃が届かないよう、自身の細い体で直接受け止めて防ぎきった。
彼女の傷を治そうと、俺はルナリアへ駆け寄ろうとした。
「ルナリア!」
「まだきちゃだめ!」
鋭い制止の声に、一瞬俺が足を止めた直後。
自らの血の刃を防ぎきったルナリアを見て、上空の魔物は虫を見るような視線を消し、はっきりと興味を示して声をかけた。
「You stopped my blade… Woman, what are you?
…Ah. So this tongue does not reach you. I have no wish to stoop to such vulgar speech, but it cannot be helped.」
魔物は赤黒い瞳で少しの間俺たちを見つめた。
そして "俺たちに理解できる言語" を発した。
「そこの人間の女、名を名乗れ」
――こ、こいつ魔族だ!
# COORDINATE 0035 END




