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異世界平定奇譚   作者: 新樹 百佑
平定譚
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65/66

王都へ

「……確かに今の我々には難しいかもしれませんね。あのウェアタイガーのボスより強いと私では歯が立たないどころか、足手まといに……」


 ベティーナも消極的だ。


「わたしも魔法切れになると、全然お役にたてないッスから~」


 クレアも溜め息をついた。


 そこでベティーナはある事を思い出す。


「そうです! エイミー殿、クレア殿は魔法団への推薦状を戴けたんです!」


 それを聞いてエイミーは驚いた。


「ウソッ! おめでとう!」


「はい、ウソッス!」


「えっ? ……ウソなの?」


「なんて、ウソなのがウソで本当ッス!」


「あんたもホント面倒臭いわね。でも良かったじゃない」


「ありがとうございます! でも試験は有るみたいなんでどうなるか……ワクワクしてるッス! わたしの全力、嫌と言うほど見せてやるんスから!」


「……程ほどにね」


 馬車の中は空気一転。明るいムードが漂う。


 それがディナには面白くなかった。


「お姉様ヒドイです! ディナもお話に混ぜて下さいッ!」


「ゴメンゴメン。さぁ遠慮しないで」


 一矢が嫌味な笑いを浮かべる。


「なんだ。人間の事をバカにしてたくせに、話しはしたいのかよ」


 ディナは怒って一矢の目の前へと飛び上がる。


「うるさい! お前には言ってないんだ。この失礼バカ!」


「へ~ん、チビババアには言われたくないね」


「ディナはババアじゃないもん!」


「二人共ケンカしないの!」


 エイミーが一矢達をたしなめる。


 ベティーナはふと心配になり、尋ねた。


「しかしディナ殿の事はどうされますか? 嘆願書には恐らくエイミー殿の事しか書かれてはいないと思います」


 皆、お互いの顔を見合わせる。


「そうね。……ちょっと一緒に行くのは危険かも」


 エイミーが呟いた。


「ディナは大丈夫です! だって強いもん!」


「でもあたししか魔族は居ない筈なのに、ディナも居ると『魔族側が約束を破った』って言われかねないし」


「いやいやッ! お姉様と離れたくない! ディナはお姉様と一緒じゃないと」


 ディナはエイミーの首に抱き付いた。


「プププッ! 百超えの婆さんがそんな事言っても。ねぇ?」


 笑う一矢を嗜めたのはベティーナだった。


「一矢殿。女性に年の事を言うのは感心致しません」


「えっ?」


「そうッスよ~。乙女の気持ちが分かってないッスね~」


 ベティーナとクレアから予想外の反撃を受け、一矢は戸惑う。


「あれ? だって先に人間の事を馬鹿にしたのはディナだよ?」


「聞けばまだ少女と言う事では無いですか。苛めては可哀想です」


「そうッスよ~。こんなに可愛いのに」


  二人の態度に一矢は面白くなかった。


 そして目の前で得意気に腕を組むディナにも。


「ベーッ、レロレロレロ」


 一矢が出した舌先を揺らして見せる。


「子供か」


 エイミーが呆れ顔でつっこむが、ディナは怒りで手足をバタつかせていた。


「キーーッ! もう怒りましたよ! ディナの力、見せてやります!」


「待ってディナ!」


 エイミーが止めたが既に遅く、ディナは体を液状にして一矢へ襲いかかっていた。


 咄嗟に一矢は手で防ごうとしたが手の端から、指の隙間から通り抜けてくる。


 ディナの体だった物が一矢の鼻と口を塞いだ。


 一矢は慌てて引き剥がそうとするが、液体を掴めるわけがなかった。


「コラッ! ディナ止めなさい!」


 エイミーに言われ、ディナは一矢から離れると少女の姿に戻る。


 それでもディナはまだ不貞腐れていた。


「ディナちゃん凄いッスね! ビックリしました!」


 クレアの一言にディナはまた得意気になる。


「そうなんです! ディナは凄いんです!」


 エイミーはそんなディナを笑いながら説明する。


「ピクシーはね、魔法の塊みたいなものなの。体を水や炎、雷にも変える事が出来るの」


「それにディナは姿も消せるんです! ……だからお姉様、一緒に連れてって下さい」


 ディナは両手を合わせて懇願する。


「姿も消せるのでしたら……どうなんでしょう?」


 ベティーナは考え込む。


「え~ッ、もう一人も二人も一緒って事で良いんじゃないんスか?」


 クレアは何も考えてなかった。


「……残念だが、ピクシーにも弱点はあるみたいだな」


 息を整えた一矢が切り出した。そんな一矢にディナがムッとする。


「何よ、この失礼バカ! ディナに手も足も出なかったくせに!」


 一矢はそれでも不適に笑う。


「体を水に変えて口を塞ぐと言う事は、ピクシーの体が俺の口に触れる事になる」


 一矢はじっとディナを見詰める。


「それが足なのか、お腹なのか、何なのか分からないけど。敢えて言おう」


 一矢の笑顔にディナは背筋が寒くなってきた。


「初キッスは水の味でした!」


「イヤーーーッ!」


 ディナは悲鳴を上げてエイミーに抱き付いた。


「想像したら、すっごい気持ち悪い!」


「ハッハッハッ、こういうのは言ったもん勝ちだからな! お前の初キッスの相手はこの一矢だーッ!」


 胸を張って、指を突きつける一矢に、流石のクレアも軽蔑の眼差しを送った。


「マジ気持ち悪いッスよ一矢さん。ドン引きッス」


「ディナは汚されてしまいましたーッ! 初めてはお姉様と決めていたのにッ!」


「こ、コラッ! ディナもどさくさに紛れて何言ってんの」


 ディナの発言にクレアは目を輝かせる。


「えーっ! エイミーさんとディナちゃんはそういう関係なんですか?」


「そんなわけ無いでしょ! 変な事言わないでよ」


 一矢も笑いながら言う。


「ムキになるところが怪しいな~」


 ディナがハッと顔をあげた。


「……と言う事は知らない間にお姉様と両想い?」


「馬鹿な事言わないでよ! そんな事言ってたらまたベティが引いちゃうでしょ」


 それまでの会話を聞いていたベティーナは振り返らずに言う。


「いえ……私はエイミー殿の好みについて何か言うつもりは無いです」


「なんか含みがある言い方よね。それ」


 一矢とクレアはまだ笑っている。


「違うならハッキリ言えば良いだろ。男が好きだって」


 そう言う一矢にエイミーは嫌そうな顔をする。


「……何でそんな事言わなきゃいけないのよ」


「自分の好みをハッキリ宣言しろと言ってるだけだ。そんなに恥ずかしい事じゃないだろ? 誰もが好みが違って良い。当たり前だ。だけど変な期待を持たせたままっていうのは良いのか?」


 一矢は妙に真面目な顔で言う。


 クレアも頷いている。


 ディナは期待のこもった目で見ている。


 エイミーは覚悟を決めた。


「私は男が好きです! どう? これで良い?」


 エイミーは笑われると思い身構えたが、誰も何も言わなかった。


「何。……何か言いたいんでしょ? 言えば良いじゃない」


「いや、さすが俺の目に留まっただけあるなと」


 一矢は恥ずかしそうにモジモジする。


「男を取っ替え引っ替えする人は沢山いるッスから。わたしも気にしないッスよ~」


 クレアが慰めるように言う。


「……私は少し失望しました」


 ベティーナの声は暗かった。


「ちょっと! 違うでしょ? そこは笑うとこでしょ?」


「ディナはお姉様がどんな趣味でも笑いません!」


「違うから! あたしは全然普通だから!」


「エイミー、変態は皆そう言うんだ」


「お前が言うなーーー!」




 砦を出て十日。


 ゆっくり進んだ旅路は終わりを迎え、王都はもう目と鼻の先になっていた。


「見て下さいッス! 凄い人ですよ~!」


 クレアが馬車の外を見て、驚きの声をあげた。


 王都に近付けば必然的に人の往来が増える。


 街道は馬車が列を作り、沢山の人も行き交っていた。


「本当ね。まだ王都に入ってないんでしょ?」


「はい。でももうすぐ見えてくると思います」


 エイミーの問いにベティーナが答える。


「元の世界並みに混雑してきたな。でもこっちの世界はやっぱ違うなぁ」


「えっ? 何スかその設定。一矢さん中二病スか?」


 半笑いでクレアが聞いた。


「アレ? 言わなかったっけ? 俺、異世界から来たんだぞ」


 一矢は自分を指差しながら言った。


「ウソーーッ!」


「私も初耳です!」


 クレアとベティーナは驚くが、エイミーは冷静だった。


「あたしは前に聞いてたわ」


「確かに一矢殿の力は尋常では無いですから……」


「わたしも……まぁ、何でも良いッスかね」


「あんた達順応早いわね。あたしは最初、全然信じてなかったわよ?」


「それ位じゃ、わたしのBL設定は変わらないッスから」


「ちょっと待て! 俺はBLじゃないぞ。それに異世界ヒーロー名乗ってるよね? 俺」


「あっ、よく分からないんで流してたッス」


「私も、みんな何も言わなかったので」


 クレアとベティーナの反応に一矢が憤慨する。


「俺、リーダーだろ! もっと話し聞いてよ! 神様に連れてこられたんだって」


「神様って、一矢さんもう良いッスよ。その話し」


 クレアは苦笑いを浮かべる。


「本当なんだってーー!」


 そんな一矢達を乗せ、馬車は大きな門を潜り王都へと入っていった。

 ここで異世界平定奇譚は一段落となります。


 続きは『続異世界平定奇譚』でお楽しみ下さい。


 次話『エピローグ』は『続異世界平定奇譚』の後日談ですがネタバレは含みません。


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