王都へ
「……確かに今の我々には難しいかもしれませんね。あのウェアタイガーのボスより強いと私では歯が立たないどころか、足手まといに……」
ベティーナも消極的だ。
「わたしも魔法切れになると、全然お役にたてないッスから~」
クレアも溜め息をついた。
そこでベティーナはある事を思い出す。
「そうです! エイミー殿、クレア殿は魔法団への推薦状を戴けたんです!」
それを聞いてエイミーは驚いた。
「ウソッ! おめでとう!」
「はい、ウソッス!」
「えっ? ……ウソなの?」
「なんて、ウソなのがウソで本当ッス!」
「あんたもホント面倒臭いわね。でも良かったじゃない」
「ありがとうございます! でも試験は有るみたいなんでどうなるか……ワクワクしてるッス! わたしの全力、嫌と言うほど見せてやるんスから!」
「……程ほどにね」
馬車の中は空気一転。明るいムードが漂う。
それがディナには面白くなかった。
「お姉様ヒドイです! ディナもお話に混ぜて下さいッ!」
「ゴメンゴメン。さぁ遠慮しないで」
一矢が嫌味な笑いを浮かべる。
「なんだ。人間の事をバカにしてたくせに、話しはしたいのかよ」
ディナは怒って一矢の目の前へと飛び上がる。
「うるさい! お前には言ってないんだ。この失礼バカ!」
「へ~ん、チビババアには言われたくないね」
「ディナはババアじゃないもん!」
「二人共ケンカしないの!」
エイミーが一矢達をたしなめる。
ベティーナはふと心配になり、尋ねた。
「しかしディナ殿の事はどうされますか? 嘆願書には恐らくエイミー殿の事しか書かれてはいないと思います」
皆、お互いの顔を見合わせる。
「そうね。……ちょっと一緒に行くのは危険かも」
エイミーが呟いた。
「ディナは大丈夫です! だって強いもん!」
「でもあたししか魔族は居ない筈なのに、ディナも居ると『魔族側が約束を破った』って言われかねないし」
「いやいやッ! お姉様と離れたくない! ディナはお姉様と一緒じゃないと」
ディナはエイミーの首に抱き付いた。
「プププッ! 百超えの婆さんがそんな事言っても。ねぇ?」
笑う一矢を嗜めたのはベティーナだった。
「一矢殿。女性に年の事を言うのは感心致しません」
「えっ?」
「そうッスよ~。乙女の気持ちが分かってないッスね~」
ベティーナとクレアから予想外の反撃を受け、一矢は戸惑う。
「あれ? だって先に人間の事を馬鹿にしたのはディナだよ?」
「聞けばまだ少女と言う事では無いですか。苛めては可哀想です」
「そうッスよ~。こんなに可愛いのに」
二人の態度に一矢は面白くなかった。
そして目の前で得意気に腕を組むディナにも。
「ベーッ、レロレロレロ」
一矢が出した舌先を揺らして見せる。
「子供か」
エイミーが呆れ顔でつっこむが、ディナは怒りで手足をバタつかせていた。
「キーーッ! もう怒りましたよ! ディナの力、見せてやります!」
「待ってディナ!」
エイミーが止めたが既に遅く、ディナは体を液状にして一矢へ襲いかかっていた。
咄嗟に一矢は手で防ごうとしたが手の端から、指の隙間から通り抜けてくる。
ディナの体だった物が一矢の鼻と口を塞いだ。
一矢は慌てて引き剥がそうとするが、液体を掴めるわけがなかった。
「コラッ! ディナ止めなさい!」
エイミーに言われ、ディナは一矢から離れると少女の姿に戻る。
それでもディナはまだ不貞腐れていた。
「ディナちゃん凄いッスね! ビックリしました!」
クレアの一言にディナはまた得意気になる。
「そうなんです! ディナは凄いんです!」
エイミーはそんなディナを笑いながら説明する。
「ピクシーはね、魔法の塊みたいなものなの。体を水や炎、雷にも変える事が出来るの」
「それにディナは姿も消せるんです! ……だからお姉様、一緒に連れてって下さい」
ディナは両手を合わせて懇願する。
「姿も消せるのでしたら……どうなんでしょう?」
ベティーナは考え込む。
「え~ッ、もう一人も二人も一緒って事で良いんじゃないんスか?」
クレアは何も考えてなかった。
「……残念だが、ピクシーにも弱点はあるみたいだな」
息を整えた一矢が切り出した。そんな一矢にディナがムッとする。
「何よ、この失礼バカ! ディナに手も足も出なかったくせに!」
一矢はそれでも不適に笑う。
「体を水に変えて口を塞ぐと言う事は、ピクシーの体が俺の口に触れる事になる」
一矢はじっとディナを見詰める。
「それが足なのか、お腹なのか、何なのか分からないけど。敢えて言おう」
一矢の笑顔にディナは背筋が寒くなってきた。
「初キッスは水の味でした!」
「イヤーーーッ!」
ディナは悲鳴を上げてエイミーに抱き付いた。
「想像したら、すっごい気持ち悪い!」
「ハッハッハッ、こういうのは言ったもん勝ちだからな! お前の初キッスの相手はこの一矢だーッ!」
胸を張って、指を突きつける一矢に、流石のクレアも軽蔑の眼差しを送った。
「マジ気持ち悪いッスよ一矢さん。ドン引きッス」
「ディナは汚されてしまいましたーッ! 初めてはお姉様と決めていたのにッ!」
「こ、コラッ! ディナもどさくさに紛れて何言ってんの」
ディナの発言にクレアは目を輝かせる。
「えーっ! エイミーさんとディナちゃんはそういう関係なんですか?」
「そんなわけ無いでしょ! 変な事言わないでよ」
一矢も笑いながら言う。
「ムキになるところが怪しいな~」
ディナがハッと顔をあげた。
「……と言う事は知らない間にお姉様と両想い?」
「馬鹿な事言わないでよ! そんな事言ってたらまたベティが引いちゃうでしょ」
それまでの会話を聞いていたベティーナは振り返らずに言う。
「いえ……私はエイミー殿の好みについて何か言うつもりは無いです」
「なんか含みがある言い方よね。それ」
一矢とクレアはまだ笑っている。
「違うならハッキリ言えば良いだろ。男が好きだって」
そう言う一矢にエイミーは嫌そうな顔をする。
「……何でそんな事言わなきゃいけないのよ」
「自分の好みをハッキリ宣言しろと言ってるだけだ。そんなに恥ずかしい事じゃないだろ? 誰もが好みが違って良い。当たり前だ。だけど変な期待を持たせたままっていうのは良いのか?」
一矢は妙に真面目な顔で言う。
クレアも頷いている。
ディナは期待のこもった目で見ている。
エイミーは覚悟を決めた。
「私は男が好きです! どう? これで良い?」
エイミーは笑われると思い身構えたが、誰も何も言わなかった。
「何。……何か言いたいんでしょ? 言えば良いじゃない」
「いや、さすが俺の目に留まっただけあるなと」
一矢は恥ずかしそうにモジモジする。
「男を取っ替え引っ替えする人は沢山いるッスから。わたしも気にしないッスよ~」
クレアが慰めるように言う。
「……私は少し失望しました」
ベティーナの声は暗かった。
「ちょっと! 違うでしょ? そこは笑うとこでしょ?」
「ディナはお姉様がどんな趣味でも笑いません!」
「違うから! あたしは全然普通だから!」
「エイミー、変態は皆そう言うんだ」
「お前が言うなーーー!」
砦を出て十日。
ゆっくり進んだ旅路は終わりを迎え、王都はもう目と鼻の先になっていた。
「見て下さいッス! 凄い人ですよ~!」
クレアが馬車の外を見て、驚きの声をあげた。
王都に近付けば必然的に人の往来が増える。
街道は馬車が列を作り、沢山の人も行き交っていた。
「本当ね。まだ王都に入ってないんでしょ?」
「はい。でももうすぐ見えてくると思います」
エイミーの問いにベティーナが答える。
「元の世界並みに混雑してきたな。でもこっちの世界はやっぱ違うなぁ」
「えっ? 何スかその設定。一矢さん中二病スか?」
半笑いでクレアが聞いた。
「アレ? 言わなかったっけ? 俺、異世界から来たんだぞ」
一矢は自分を指差しながら言った。
「ウソーーッ!」
「私も初耳です!」
クレアとベティーナは驚くが、エイミーは冷静だった。
「あたしは前に聞いてたわ」
「確かに一矢殿の力は尋常では無いですから……」
「わたしも……まぁ、何でも良いッスかね」
「あんた達順応早いわね。あたしは最初、全然信じてなかったわよ?」
「それ位じゃ、わたしのBL設定は変わらないッスから」
「ちょっと待て! 俺はBLじゃないぞ。それに異世界ヒーロー名乗ってるよね? 俺」
「あっ、よく分からないんで流してたッス」
「私も、みんな何も言わなかったので」
クレアとベティーナの反応に一矢が憤慨する。
「俺、リーダーだろ! もっと話し聞いてよ! 神様に連れてこられたんだって」
「神様って、一矢さんもう良いッスよ。その話し」
クレアは苦笑いを浮かべる。
「本当なんだってーー!」
そんな一矢達を乗せ、馬車は大きな門を潜り王都へと入っていった。
ここで異世界平定奇譚は一段落となります。
続きは『続異世界平定奇譚』でお楽しみ下さい。
次話『エピローグ』は『続異世界平定奇譚』の後日談ですがネタバレは含みません。




