初めてのクエストです!
エイミーは部屋に戻ると鍵をかけてベットに倒れ込む。
『はぁ、アイツと居ると疲れる。もう今日はこのまま……』
そのままエイミーは目を閉じるが、すぐに部屋の扉がノックされた。
「ねぇねぇ、エイミーの部屋も見せてよ!」
気の抜けた一矢の声が聞こえてきて、エイミーはため息をつく。
「あんたの部屋と一緒よ! ゆっくり休ませて!」
「じゃあじゃあ、トランプしようよトランプ。……トランプ持ってる?」
「持ってるわけ無いでしょ! もう寝るんだから部屋帰りなさいよ!」
ブツブツ文句言いながら去って行く足音が聞こえた。
エイミーは再び目を閉じる。そして未だ会えぬ妹に思いを馳せる。
『魔族として色んな所に行ったけどダメだった。だったら魔族が行かない所、例えば人間の町とかに行かなきゃ。大きな町なら情報も沢山あるだろうし……』
リザードマン盗賊団は町の近くでは仕事をしなかった。
だ小さな村と違って、町に近付くにはリスクがある。町には対魔族を含めた警備隊が居るからだ。
それも町が大きければ隊員の数も増える。見付かるリスクも高くなる。
彼等は魔族を捕まえる気はない。ただ殺すのみだ。
『スージー、……無事で居てね』
エイミーは妹の事が心配で寝付けず、ベッドから起き上がった。
ふと眺めた窓ガラスに人間姿の自分が映る。
そしてエイミーは本来の姿に戻った。
『ふぅ、疲れた。……この姿に戻れたのはいつぶりだろう』
エイミーはもう一度窓を見る。魔族姿の自分を透かして、人間の町並みが見える。
エイミーにはそれがとても不釣り合いに見えた。
『やっぱり、町に行くなら人間と一緒の方が助かるかも。……あんな奴でも』
エイミーは人間の姿に戻ると窓辺へ近付く。
『必ず……必ず探しだしてあげるから、だからそれまで……』
窓を開けたエイミーは一矢と目が合った。
「ち、違うぞ! これはアレだからな? あの~警備的な奴だからな? 決して覗こうとした訳じゃ無いからね!」
一矢は窓枠にしがみつきながら言い訳をする。
「この馬鹿ッ! 変態!」
エイミーが繰り出す拳を一矢はかわす。
「あ、危ないッ! ヒィ! ……ハハハッ! そんな拳当たるか。俺の戦闘力は五十三万………」
エイミーは窓枠を掴んでいる一矢の手を殴った。
「痛ッ! ウワアァァァ、落ちるううぅぅぅ……」
ドスンと地響きが聞こえると共に一矢の声も途切れる。
「……良し、寝るか」
ストレスを解消したエイミーはこの日、久しぶりにゆっくりと眠れた。
翌朝、いつも通りの一矢とエイミーが階段を降りると、一階は少し騒がしかった。
何があったのかエイミーが聞くと、どうやら盗賊団によって港町へと続く道が塞がれてしまったらしい。
「……もしかして魔族の盗賊団ですか?」
「いや、人間だよ。全く、ただでさえ魔族に手を焼いているのに……」
エイミーはそれを聞いて少しホッとした。
「通れるようになるにはどれ位かかりますか?」
「うーん、遠回りして警備隊を呼んで。そこからだから……一週間位かかるかな?」
「まったく! わしなんか盗賊団に金は盗られるし、帰れないしで商売あがったりだよ!」
商人らしい男が項垂れる。
「分かりました! 私がヤりましょう!」
一矢はそう言って一歩前へ出た。
宿屋の主人も商人も、一矢が何を言おうとしているのか分からなかった。
『また始まった……』
エイミーは頭を抱える。
「……スマン、何だって?」
「私が盗賊団と道を何とかしましょう」
自信満々に言う一矢の袖をエイミーが引く。
「チョット、本当に大丈夫なの?」
「任せろ。リザードマン盗賊団を壊滅させたのは誰だ? 一矢様だぞ?」
確かに一矢が盗賊団を壊滅させたのはエイミーだって知っている。だが人間の盗賊団を壊滅出来るかはまた別。
エイミーは人間の盗賊団が狡猾で残忍である事を知っていた。
「だがコッチも貧乏旅の途中、タダでと言うわけにはいかないよ?」
「良し、兄ちゃん! わしの金を取り返してくれたら一割やるぞ」
商人風の男が声をあげた。それを見て一矢はニヤリと笑う。
そして宿屋の主人を見やる。
「……主人。あなたは?」
「俺もか?」
宿屋の主人は驚いた。
「あなたも町から人が来ないと困るでしょう?」
「まぁ、……確かにそうだが。あんた一人じゃ何日もかかるだろ?」
「一日です」
「何っ?」
「うまくいけばお昼までに道を通れる様に出来ます」
「それは無理だ! 道を塞ぐ石や木を退けるだけでも三日はかかる。しかも五六人でやってだぞ?」
「出来なければ報酬は要りません」
一矢は自信満々に胸を張る。宿屋の主人は信じられなかった。商人も疑っているが一矢の提案にのった。
「良し、金を取り返して、昼までに開通したらわしは三割出してやるぞ」
そんな商人を見て主人は頭をかいた。
「確かにそれなら助かるが……大した報酬は払えんぞ?」
「ほんの気持ちで良いですよ。気持ちで。詳しくは帰ってきてからにしましょう」
そう言って一矢はニヤリと笑った。エイミーは嫌な予感がしてならなかった。
「じゃあ、ご主人。いや、お義父さん。朝飯を前払いでお願いします!」
朝食を終えると一矢達は出発の準備をする。
エイミーは荷馬車を宿屋の裏に置いたまま、馬だけを連れてきた。
一矢の言う通り、すぐに戻ってこられるのなら馬だけの方が早い。
「あんた、馬に乗れるの?」
「任せろ。とうっ!」
一矢は高らかにジャンプするとそのまま馬の背に着地した。
驚いた馬は立ち上がり、一矢は振り落とされた。
「チョット! もっと静かにのってよ! 馬が可哀想でしょうが」
「……冗談だよ。まったく、根性の無い馬め。どうせなら人間を一踏みで殺す位にならないと駄目だぞ」
「馬に何させるつもりよ! 良いからさっさと乗りなさい。そっとよ、そっと!」
よっこらせと一矢が馬に跨がる。
「それで、手綱は扱えるの?」
「分かってるよ、こうだろ?」
一矢は手綱を思いっきり叩く。
馬は再び立ち上がり、一矢はまた地面に放り出された。
「全然ダメじゃない!」
一矢は立ち上がり埃を払う。
「……良し、馬車で行こう。その方が商人と間違えて盗賊団も出てくるに違いない」
「素直に乗れないって言えば良いじゃない」
「違うッ! さ・く・せ・ん! あくまで作戦なの!」
仕方なくエイミーは馬車に馬を繋ぎ直し、ようやく二人は村を出た。
「……あの兄ちゃん、大丈夫か?」
「さあな」
商人と宿屋の主人が心配そうに見送った。
街道を暫く進むと、山あいの道が大木や岩で塞がれているのを見付けた。
一矢達が馬車から降りると背後から何人もの男達が出てきた。
エイミーは袖の中に手を滑らせる。
「死にたくなければ金目の物を置いてけ!」
「うるさい! 後で相手してやるから待ってろ!」
一矢は盗賊団に向かってビシッと指差す。そして道を塞ぐ岩の方へと向かった。
盗賊団の何人かは馬車に近付き始めている。一矢の言う通りに
しなければいけない理由が無いからだ。
だがリーダーらしき男は動かず静観している。一矢が他の奴等とは違う事を感じ取っていたのだ。
エイミーは一矢がどうするつもりなのか分からず、戦うべきか迷った。
一矢はグルグル腕を回すとそのままの勢いで大岩を殴った。
大岩は粉々に砕け、空へと飛んでいった。
一矢は大木も殴る。大木は真っ二つになりながら宙を舞う。
一矢が障害物を破壊している間、盗賊団達は口をあんぐり開けて見ていた。馬車に近付いてきた盗賊も足を止めている。
彼等総出で一晩かけたものを、一矢は一人であっという間に破壊していった。
エイミーはその一矢の姿に、鬼気迫るものを感じていた。
「くそっ、……なんだ」
一矢が何かを言いながら破壊している。それに気が付いたエイミーは耳を傾けてみた。
「……馬に、乗れないのが、何だーーッ!」
「まだ気にしてたの?」
一矢の叫びにツッコまずにいられないエイミーだった。