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異世界平定奇譚   作者: 新樹 百佑
第一章 始まり
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盗賊団になっちゃいました

 一矢はその場にひざまずいた。


「勘弁して下さい! ブッ飛ばすなんて言うわけないじゃないですか!」


 何度も頭を下げる。


「あなた様達のように、立派な魔族様達をブッ飛ばせるわけないじゃないですか!」


 一矢は懇願する様に両手を合わせる。


 そんな一矢を見て、親分は鼻で笑った。


「試してみたら良いじゃねえか。こいつをブッ飛ばせたら、奴隷商人に売り飛ばさないでやるぞ」


 親分があるリザードマンの肩を叩く。叩かれたリザードマンは嬉しそうに笑った。


「うへぇ、絶対無理だな」


「親分も人が悪い。兄貴はうちのナンバー・ツーじゃないですか!」


「ヤッちまえーーー!!」


 周りのリザードマン達から歓声が上がった。


 兄貴と呼ばれたリザードマンは細長い舌をチロリと出しながら自分の青竜刀を抜く。


 一矢の表情は恐怖で固まった。


「楽しませろよ小僧。生き残れば楽しい奴隷生活が待ってるぞ」


 兄貴はそう言うと、青竜刀を肩に担いで一矢に近付いてきた。


 一矢はアワアワと這って逃げる。


 だが周りを囲んでいるリザードマン達に捕まって、無理矢理立たされる。


「ほら、遊んでもらえ!」


 そう言われて一矢は突き飛ばされた。


 突き飛ばされた先に、兄貴の青竜刀が降り下ろされた。


 バランスを崩しながらも一矢は何とかそれをかわす。


 次々と青竜刀が降り下ろされるも一矢はかわし続ける。


「やれー! ブッ殺せ! 手加減するな!」


 囲んでいるリザードマン達が囃し立てる。


 そんな中、親分は冷静に観察している。


 兄貴は手加減している訳では無い。


 それが親分には分かっていた。


 その証拠に、兄貴の息が上がり始めている。


『あの若僧、太刀筋を見切ってやがんな』


 確かに一矢は太刀筋が見えていた。


 それでも一矢の拳は踏み込まなければ届かない。


 その一歩を踏み出す勇気が、一矢には無かった。


「コイツ……ハァ……チョコマカ逃げやがって!……ゼェ」


 兄貴は青竜刀を振り回すのをやめると、青竜刀の切っ先を一矢に向ける。


 お祭り騒ぎだったのが嘘のように辺りは静まり返った。


 親分は兄貴がやろうとしていることが分かった。


 兄貴はジリジリと間合いを詰めていく。


 一矢もそれに合わせて後退する。


 一矢の背中が何かにぶつかった。


 家の壁だ。


 一矢は壁際に追い込まれていた。


「クックックッ。これで逃げられないな」


 親分が笑う。


「貰ったーーー!!」


 兄貴は青竜刀を横にないだ。


 一矢は伏せるようにしてかわす。


 兄貴はもう一度構え直す。


「終わりだ」


『今だ!』


『ヤダーーッ!』


 一矢は兄貴に向かって突っ込んだ。


 振り回した拳が兄貴に当たる。


 兄貴は通りの反対側まで吹き飛ばされ、反対側の家に激突した。


「やっ、やった……。当たった」


 周りの魔族達は静まり返ったまま。


 一矢は恐る恐る辺りを見回してみると、親分が近付いてきた。


「若僧、……中々やるじゃねえか」


「ち、違うです! 当てるつもりはなかったんです! 殺さないで!」


 一矢はその場に膝まづき、拝むように両手を合わせた。


『こいつは、使えるかもしれんな』


 親分はニヤリと笑う。


「約束だ。奴隷商人に売り飛ばすのはヤメてやる。その代わり俺達の仲間にしてやる」


 リザードマン達は親分の言葉にどよめいた。


「……親分、冗談ですよね?」


「お前らも見たろ! 実力は十分だ。使えるヤツは何だろうと、かまいやしねぇ!」


 親分にそう言われては、他のリザードマン達にそれ以上言えない。


 一矢も急な展開についていけないが、とりあえず助かりそうだというのは分かった。


「どうする? 別に嫌なら良いぜ? だがその辺の人間よりは贅沢な暮らしが出来るぞ?」


「ぜ、贅沢な……暮らし?」


 チラリとリザードマン達が集めた略奪品を見る。


 辺りに並ぶのは質素な家ばかり。


『致し方無い。生きる為だ。……贅沢に!』


「是非お願いします! 何でもします! 自分の、じゃなくて親分の為に働かせて下さい!」


「ガハハハッ! 無理すんな。自分の為に働け! 働いた分だけ贅沢させてやるぞッ! 野郎共、帰るぞ!」


 親分の号令で略奪品を荷馬車に積み込んでいく。


 勿論、一矢もそれを手伝う。


 村人の軽蔑の眼差しが一矢を貫く。


『力無き者共め! そこで指をくわえて見てろ! ここから、〈一矢の盗賊王への道〉が始まるのだ!』


 一矢は村人達に勝者の笑みを向け、荷馬車に乗り込もうとする。


 だが一体のリザードマンに首根っこを掴まれて引きずり下ろされた。


「おめぇは歩きだよ。新入り」


 よく見ると馬車に乗れるのはほんの数体。略奪品が載っているのだから仕方無い。


『お前の顔は覚えておくぞ! 俺が偉くなった暁には、貴様は一生馬車には乗れねぇからな!』


 一矢がそのリザードマンを睨んでいると、別のリザードマンが肩を叩いてきた。


「結果さえ出せば誰も文句は言わん。頑張れよ」


『貴様は良いヤツだな。その顔、俺の馬車リストに載せてやるぞ』


 一矢は荷馬車の後を追い掛けて歩く。


 ふと、村の裏山を振り返る。


 老人とリサリーが居るであろう裏山を。


「さよなら、リサリー。強く生きろよ。お兄ちゃんは楽な道を選ぶ」


「何をブツブツ言ってんだ、新入り!」


「新入り! シャキシャキ歩かんかい!」


『クソッ! お前らの顔も覚えて……みんな同じ顔だな』

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