決戦が始まる
「……やはり来るか」
望遠鏡を覗いていたロバートが呟く。
「弓兵と魔法団員は防壁に登り、迎撃体制! 魔族共が来るぞ!」
ロバートの号令で兵達が次々と防壁の上にやって来る。
「ベティーナ殿達にも出て貰う事になるかもしれません」
「いつでもご指示下さい」
ロバートは頷くと魔族達の方へ向き直る。
魔族達は砂埃を巻き上げて砦に向かってくる。
それが肉眼でも見えてくる。
ロバートが右手をあげる。
「弓兵構え! ……放てーッ!」
ロバートの号令で放たれた矢が飛んでいく。
「駄目です! 矢が曲がりました!」
「曲がっただと? 風か? ……ならば魔法団員前へ!」
弓兵は一歩下がり、魔法団員が前へと出る。
「炎は駄目だ。爆発魔法で蹴散らせ! 構え、……放てー!」
矢と違い、光輝く物が魔族に向かって飛んでいくのが一矢達にも見えた。
今度は魔族達の手前で爆発したのが一矢達にも分かった。
「今度は何だ?」
苛立ちを隠せないロバートに近くの魔法団員が答える。
「部隊長殿。魔法を防げるのは魔法だけです。 ……恐らく風の魔法と思われます」
「風……そうか、ケンタウルス共か! 奴等は風の魔法を使うのだったな! ならば騎馬隊で」
「魔法です! 炎が来ます!」
気が付けば魔族達の居る方角から炎の渦が向かってきていた。
「まさか? 防御魔法急げ!」
炎が木製の防御壁を舐めた瞬間、ベティーナ達を熱風が襲った。
炎の渦を魔法壁が断ち切る。
「大丈夫か? 被害を報告せよ!」
「ハッ! 問題有りません」
「クソッ! 炎の魔法と言うことはサテュロス共か? だが奴等にはこれ程強力な魔法は使えないはずだぞ?」
歯軋りするロバートにベティーナが言う。
「部隊長殿。もしや魔族達は風の魔法に炎の魔法を乗せたのでは?」
魔法団員もベティーナの意見に頷く。
「ベティーナ殿の言う通りです。炎と風は相性が良く、威力を倍増させます」
「おのれ屑共がッ! 残らず駆逐すべきだったか!」
ロバートは怒りを押さえられなかった。
「……そう言う考えがこんな結果を招いたんじゃないのか?」
ベティーナ達が一矢を振り返る。
「あっちもこっちも、全部やっつけようとするからこうなるんだよ」
一矢は言葉に苛立ちは隠せないが、それでも冷静を装おうとしていた。
「……補給線の近くに敵の拠点があれば先に潰しておくのが当然。余計な口出しは無用でお願いします!」
「そうかい、失礼したね。それで、これからどうするんだ?」
「魔法も矢も通じなければ騎馬兵と歩兵を出すしかあるまい。だがそれには防衛魔法を一度解かなければならない。出来るならな」
一矢はロバートとベティーナにつられて魔法壁の向こう側を見る。
炎の渦が蛇のようにのたうちまわっていた。
「なるほどーッ! 砦が燃えないようにすれば良いんスね! わたしに任せて下さいッス!」
ニコニコ顔のクレアに一矢は嫌な予感がしてならなかった。
「おぉ、クレア殿! 何か良いアイデアがございますか?」
「フフフッ。予め水で濡らしておけば良いんスよ。薪と一緒ッス」
「しかし、砦全体を濡らすとなれば……時間がかかりそうですね」
ベティーナの呟きにクレアは人差し指を振る。
「チッチッチッ、そこでわたしの魔法を使うんスよ」
「待った! それ、安全な方法だよな?」
恐る恐る聞く一矢にクレアはあっけらかんと答える。
「プププッ! 水をかけるだけなんスから大丈夫ッスよ! もう一矢さんは心配性なんスから」
「ハハハッ、そうだよね。水をかけるだけだもんね」
「ではいくッス。あっ、上の方も防衛魔法をお願いするッス」
「上にも防衛魔法? いや、やっぱりチョット嫌な予感するから待って」
「ほとばしるッスよーー!」
クレアの両手から大きな水柱が立ち上った。
立ち上った水柱は魔法壁の天井にぶち当たる。
一矢達は魔法壁にヒビが入るのを見た。
それでも何とか魔法壁は持ちこたえる。
そして、天井に当たった水柱がどうなるか。
勿論それは落ちる。
ザバンッ!
降り注ぐなんて物ではない。
まさしくバケツをひっくり返した様に水の塊が砦全体に落ちてきた。
砦に居る全員が濡れ鼠になる。
殆どの兵達は何が起こったのか分かっていないだろう。
「キャハハハハッ! これで直ぐには燃えないッスよ」
皆が唖然としている中、クレアの笑い声がこだまする。
「う、うむ。……クレア殿、ご協力感謝します」
ロバートは額に張り付いた髪を掻き分けて言う。
「感謝? この状況で良く感謝出来るな。コラッ、クレア! だから待てって言ったろうが!」




