戦いの予感
次の日、いつもの様に一矢達は伐採作業へ行くため、馬車の所に集まっていた。
「も~! 何で昨日は夕食の時に起こしてくれなかったんスか?」
クレアは一矢に詰め寄る。
「いやぁ、良く寝てるからさ。起こすの悪いな~って思って。ねっ?」
一矢は笑って誤魔化す。
ベティーナも一矢をフォローする。
「そ、そうなんです。気持ち良さそうに休まれてましたので! でも、ちゃんとクレア殿の分は残しておきましたよ?」
「そうだよ。俺とベティーナから半分ずつ、合わせて二人前も有ったろ? それで良いじゃ~ん」
クレアは疑いの眼差しを二人に向ける。
「確かに二人前になってて『ラッキー』って思ったスけど……」
「だろ? 今朝もベティーナから半分貰ったんだし、ラッキー続きだな! ク~ッ! 羨まし~!」
もうヤケクソな物言いだった。
「……エヘヘッ! これも日頃の行いッスね?」
笑顔に戻ったクレアに一矢達は胸を撫で下ろした。
「でもあれだけじゃ、魔法二回分にしかならないですけど……」
クレアは馬車にもたれ掛かる。
『ずっと魔法使ってないくせに、よく言う』
一矢は言葉を失う。
「安心して下さい。クレア殿の出番は騎馬隊が戻ってからですので」
「はぁ、使いたいのに使えない。食べたいのに食べれない。……わたしは自分の不幸を呪うッス。……今日はきっと、魔法使えるのは一回だけかも」
「何だよ。さっきは『二回分』って言ってたじゃん」
一矢が笑いながら言う。
「一矢さんと部隊長さんの妄想にエネルギー使っちゃったんスよ~」
「止めてよッ! なに変な事にエネルギー使ってんだよ!」
「ご飯の代わりに萌えエネルギーを補充してるんッス! それ位は良いじゃないスか!」
「ダメだよッ! しかも補充してないじゃん! 魔法一回分減ってるよね? 俺はツッコミ慣れてないんだから疲れさせないでよ」
「大丈夫です。一矢さんは『受け』なんでマグロでも……」
「ヤメローーーッ! マジ疲れる。……はぁ、早くエイミー帰って来て」
一矢の言葉にベティーナは俯く。
三人の間の空気が少し沈む。
「……エイミー殿は大丈夫でしょうか」
「うん、多分ね。エイミーの事だ。信じよう。……大丈夫さ」
一矢達は自然と森の方を見ていた。
そこへロバートの使者がやって来た。
ロバートがベティーナに城壁の上へ来て欲しいとの事だった。
ベティーナが城壁の上に着くと、ロバートは望遠鏡で遠くの様子を伺っていた。
「部隊長殿。お呼びでしょうか?」
「ベティーナ殿! 良く来て頂けました!」
「いえ、お呼びとあればいつでも。……何か問題が?」
「……奴等です。まだ距離は有りますが、一体何をするつもりなのか」
ロバートはベティーナに望遠鏡を渡した。
ベティーナは受け取った望遠鏡で覗いてみる。
遠くでケンタウロスとサテュロスが横一列に並んでいるのが見えた。
「奴等はこの砦を落とせるとでも思っているのか? 戦術も知らん獣共め」
「先の戦いでは見事な引き際でしたし、増援部隊を装うなど策を巡らせています。侮るのは危険かもしれません」
ベティーナはロバートに望遠鏡を返した。
「ロバート殿、私は今まで他の魔獣を従える魔獣に会った事があります。ですが奴等はどちらかを従えると言うよりもまるで共闘しているかのようです」
「負け犬同士、気が合ったのかもな」
「負け犬同士……ですか」
「あぁ。奴等はここに来るまでに駆逐してきた魔族共の残党だ。それがここに来て徒党を組んだのだろう」
「どうするおつもりですか?」
「このまま去るのなら良し。しかし降りかかる火の粉は払うまで」
ロバートは望遠鏡で魔族達の様子を伺う。
ベティーナも不安な眼差しで遠くを見詰めた。
心によぎるのは嫌な予感ばかりだった。




