砦に逃げ込みました
「ベティーナ殿! 砦から信号です! 『そのまま砦の中へ入れ』との事!」
一矢達の馬車と並走していた兵士が大声でベティーナに伝える。
「了解した! 砦までもうすぐ。速度このまま! 防衛魔法を張り続けよ!」
だが魔族に襲われていると言うプレッシャーから、徐々に魔法壁は揺らぎ始めていた。
「どうする? このまま魔族を連れて砦に入るのか?」
一矢がベティーナに聞いた。
「大丈夫です。誰か、砦に信号を送れ!」
「何と送りますか?」
同じ馬車に乗る一人の兵士が答えた。
「『我等ごと弓で射よ』そう送ってくれ」
「我等ごとですか?」
「そうだ! 魔法団員には全方位に防衛魔法を張るように伝えろ!」
兵士は戸惑いながらも手旗信号を送った。
近くを走っていた騎兵が各馬車の魔法団員にベティーナの伝言を伝える。
「魔法団員は踏ん張れ! 全員密集隊形!」
魔法壁が馬車を囲むように半球状になると、砦の方からキラキラ輝く物が空高く舞い上がったのが見えた。
「来るぞ!」
ベティーナが叫んだ次の瞬間、矢の雨が一団に降り注いだ。
ケンタウルス達の何頭かは矢に射られて倒れ込み、後続がそれに躓く。
馬車は魔法壁に守られ、矢は弾かれた。
ケンタウロス達の多くが馬車から引き離されていく。
「良し、防衛魔法を解け! 騎馬隊は残りのケンタウロスを近付けさせるな! 編隊は崩すなよ!」
それを聞いてクレアは一矢を肘で突っつく。
「ほら、一矢さんの事言ってますよ?」
「おう。俺は生涯、変態を崩さないぞ」
二人が笑っているのを見て、ベティーナも口の端が上がってしまう。
砦が近付き、弓兵の援護が激しくなると、さすがにケンタウロスは逃げて行った。
一矢達がやっと砦に入ると、ロバートが出迎えた。
「被害状況を報せろ! ベティーナ殿は無事か?」
ベティーナは馬車を降りるとロバートに敬礼する。
「伐採部隊、全員帰還しました」
「良かった。さすがベティーナ殿です。取り敢えず今日はゆっくりお休み下さい」
「ありがとうございます」
一矢達も馬車を降りる。
「ふう、一時はどうなるかと思ったぜ」
「一矢殿もお疲れ様です。本日の伐採作業は中止になりましたのでどうぞゆっくりして下さい」
ベティーナの言葉にクレアは喜ぶ。
「ヤッター! それじゃあ何か食べましょう? 労働の後の一食ってやつッス!」
「コラ! 昨日ベティーナから言われただろ? 『食事を控えろ』って」
「もーっ! 早くお腹いっぱい食べたいッスよ~!」
「申し訳ありません。補給部隊が到着するまでの辛抱ですので」
クレアは肩を落とす。
「じゃあ今日は早く寝るッス。早く寝て、何か食べる夢を見るッス」
「……すげぇ不憫に思える台詞だけど、普通に一人分は食べてるからね」
「クレア殿。夕食は私の半分差し上げますので元気出してください」
「じゃあ、夕食になったら起こして下さいッス。……でももし、夢の中でケーキを食べてる時に起こしたら」
クレアの目が怪しく光る。
「……ますからね」
一矢達はクレアの背中に鬼気迫るのを感じた。
「やべぇ、何て言ったかわかんない。けど俺、起こしに行くの怖い」
「わ、私もです」
一矢達はどうすべきか悩んだ。




