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やっぱり一人旅にしよ

 一矢達は途中で盗賊団のアジトに寄った。エイミーの私物を持ってくるためだ。


 そして一矢達は街道を西へと向かう。


 辺りが暗くなり始めると一矢達は適当な場所を見つけて野宿する事にした。


 エイミーは火をおこし、村から貰った食糧で料理を始める。


 一矢はエイミーからお椀を受け取り、中身を見て呟いた。


「……何コレ?」

「野菜スープよ」

「肉無いじゃん、肉!」

「……あんたが途中で馬鹿みたいに食べたのが最後よ!」


 村から貰った食料は干し野菜や漬物等、野菜が殆どだった。


「あ~あ、アジトの袋には肉ばっかり入ってたのになぁ」

「し、仕方無いわよ。……農村なんだから」


 エイミーは目を逸らした。アジトの袋に肉が多かったのは、盗賊団が肉を中心に奪ったからに他ならない。


 エイミーの心にチクリと罪悪感が襲った。


「文句があるなら食べなくてもいいわよ! ……全く、火も起こせない、料理も出来ないなんて。今まで良く生活してこれたわね」

「だから異世界から来たんだってば。俺の世界ではそんな事しないの」


 エイミーは思い出したかのように顔を上げ、調理用のヘラを一矢に突きつけた。


「そう、それよ! 異世界から来たってどう言うことなのよ!」

「いやぁ、家で普通に寝てたら何か異世界に行きたいか聞かれてさ、気が付いたら村の外れに居たんだよね」


「……全然伝わってこないんだけど。じゃあ、あんたのその力は何ッ? あんたの世界じゃみんなそうなの?」

「それがさぁ。この世界に来る時に色々選べたらしいんだけど、間違って選んじゃってさ。って言うか勝手に決まっちゃったんだよね~。いやぁ、今思い出してもショックだわぁ」

「……まあ良いわ。私は妹が見付かればそれで良いから」


 一矢達は食事と片付けを終えると寝る支度を始めた。


 エイミーはアジトから持ってきたテントを組み立てる。勿論一矢はテントの組み立て方も分からず、ただそれを眺めていた。


「ヤバい。俺、テントで寝るの初めてかも。恋バナしよ、恋バナ!」


 一矢はウキウキしながらテントの中を除く。


「冗談でしょ? テントには私一人で寝るの。あなたは馬車の中で寝なさいよ」

「えぇ~! 良いじゃん、一緒に寝よ」


 一矢が靴を脱いで、テントに入ろうとするのをエイミーは引き戻す。


「馬鹿言わないでよ、変態! そんなの安心して眠れないじゃない」

「失礼な! その辺の変質者と一緒にすんな」


 エイミーは疑いの眼差しを向ける。一矢は目を逸らした。


「分かった。分かりましたよ! 全く、ハーレムの一員になったんだから信用してくれたって良いのに」

「……あんたの世界じゃどうか知らないけど、こう言うのはパーティーって言うのよ」

「そうなんだ。女性に囲まれてウハウハ生活送るのもパーティーなのか?」

「それは間違いなくハーレムだわ! ってか、そんなのに参加したつもり無いからね!」

「あっ、それってツンデレ? 俺の好みは……」

「あんたの好みなんか知らないわよ!」


 エイミーが声を荒げても一矢に一向に気にしない。


「とにかく! 絶対にテントには近付かないでよね!」


 エイミーはテントに入ると出入り口を閉めた。一矢も仕方無く荷馬車の中へと入っていった。


 



 夜も更けるとエイミーはテントから出てきた。

 荷馬車の幌を捲り、一矢がイビキをかいて寝ているのを確認する。


 途中に寄ったアジトからはエイミーは三つの物を持ってきていた。


 先ずは調理道具。旅をするには野宿する事も考えなくてはならない。

 もう一つがテント。これも野宿には必要だ。だが持ってきたテントは自分の分一つだけ。


 そして最後の一つはナイフだ。


 勿論調理用にも使えるが、そんな目的では持ってきていない。

 エイミーの得意な武器で三十メートル先の野ネズミを仕留める事が出来る。


 エイミーはそのナイフを袂から取り出した。その視線の先には一矢が寝ている。

 これがテントを一つしか持ってこなかった理由だ。


 エイミーはそっと荷馬車に昇る。一矢はまだイビキをかいたままだ


『一見無害そうに見えても所詮は人間。今後どうなる事か分からないからね』


 ならば早目に憂いを断っておこうと考えたのだ。


 それに一矢は女の敵であるのは間違いなさそうだし。


『じゃあね、異世界から来たお馬鹿さん』


 エイミーが一矢に向かってナイフを振り上げる。それと同時に一矢の上半身が跳ね上がる。

 エイミーは慌ててナイフを隠した。ドキドキしながら一矢の様子を窺う。


 一矢はそのまま横になり、またイビキをかき始める。


『もうっ! 寝てる時ぐらい面倒かけんじゃないわよ! ビックリしたじゃない』


 エイミーはもう一度ナイフを構えた。

 今度は寝たままの一矢だったが、イビキが止まった。


 エイミーは背中に嫌な汗を感じる。


『……やっぱり気付かれてる? どうする? このまま殺る? ……でも殺れるの?』


 結局エイミーはそのままナイフをしまい、テントへと戻る事にした。


 エイミーがテントに入る頃には、馬車からまたイビキが聞こえ始めていた。


 一矢には驚異的なパンチ力に加え、身体能力と警戒能力も与えられていた。

 しかし一矢がそれを自覚する事は無い。





 夜が明けてエイミーは目覚める。昨夜の事があって、いささか寝不足だった。


 一矢を亡き者にするのは自分にとっては難しい。ならば今は一緒に旅をしよう。エイミーは悩んだ結果、そう結論付けた。


『今は魔族だからって偏見を持っていない様だし、一人で野宿するよりは安心かも』


 エイミーがテントの出入り口を開くと目の前に一矢が居た。


 一矢の格好からすると丁度出入り口を開けようと手を伸ばしかけていたようだった。


「ちっ、違うぞッ! 朝だから起こそうと思ったんだ。決して寝顔とか、どんな格好して寝てるのかなぁ、なんて見るつもりじゃないんだ」

「この変態!」


 エイミーの鉄拳が一矢の顔面にヒットする。痛みに悶える一矢を見て、エイミーはやっぱり危険かもと思った。





 日が傾き始めた頃、山合の中に村が見えてきた。


 先の村よりは栄えており、工芸品や食糧品等が店先に並んでいる。

 その他にも行商人が泊まれるようにと宿屋もあり、その日はエイミーの強い希望で村に泊まる事にした。


『早く部屋に鍵かけて、ゆっくり休みたい。一人で!』


 宿屋に入ると中はカウンターがあり、テーブルとイスが五組程並んでいた。食堂やバーを兼ねているようだ。


 カウンターには一矢の二倍はあるような大男が立っている。大男は一矢達に気が付いてもその厳つい顔に営業スマイル等は微塵も感じられない。

 ただ、その宿屋の主人は一矢達が近付いてくるのをカウンターに手をついてじっと待っていた。


 一矢はさりげなくエイミーの後ろに隠れる。


『コイツ……』


 エイミーはジロリと一矢を睨むとおずおずと主人の前へと歩いて行った。


「いらっしゃい、食事かい? それとも泊まるのかい?」


 エイミーはチラリと主人の後ろに貼ってある料金表を見る。


『よし、大丈夫』

「泊りで、部屋は二つでお願い」


 主人は壁に掛けてあった鍵を二つ取って置く。


「部屋は二階だ。食事が居るならココで注文しな」


 一矢達は荷物を置くと食事をする為に一階へ戻って来た。


 一番安いソーセージとパンを二つずつ頼んだ。それでも久しぶりの肉と主食は美味しかった。


 料理を運んできた女性に一矢達は色々と話を聞いた。


 この村は木工品や織物が盛んで港町から行商人がよく買い物に来るらしい。

 確かに一矢達の他に商人風の男達が食事をしている。


 港町には朝一でココを発てば夕方には着けるそうだ。


「でも、途中の村で一晩休む方が殆どのようですよ。急ぎでなければ」

「そうなんだ。まぁ、俺達も急ぐ旅じゃないからそうしよっかな?」


『奴隷商人探すんだろ、急げよ!』


 エイミーは心の中で思った。声に出さないのはまた『誰のせいで……』と言われたくなかったからだ。


「ところでお姉さんは旅とか興味ある?」


 一矢は更に声をかける。


「う~ん、ココの仕事があるんで……」

「えぇ~、良いじゃん。色んな町にも行けるしさ、楽しいよ!

 エイミーは一緒のテーブルに居るのが恥ずかしくて他人の振りをする。


「父がココで働いてるので、チョット……」


 一矢が尚も粘ろうとするも、後ろから声が聞こえた。


「お客さん……」


 一矢が振り向くとあの大きな宿屋の主人が立っていた。


「他に何か注文は?」

「……無いです」


 一矢が小さくなっている所を女性は主人に連れられ去っていく。

 商人達からは忍び笑いが巻き起こった。


『……やっぱり一人旅にしよ』


 恥ずかしさのあまり、赤くなった顔を隠してエイミーはそう思った。


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