港に着いちゃいました
「王都に向かってるって? 何でそう言う大事な事を言わないのよ!」
一矢はベッドに正座し、エイミーのカミナリを受け止めていた。
「何故か。……それはエイミーの怒った顔が見たいからだよ」
一矢は下手くそなウィンクをエイミーに送る。
「キモいッス! そして痒いッス! キモかゆッス!」
大笑いするクレアをエイミーは睨んだ。
クレアは笑うのを止めると、口笛を吹きながら外の景色を眺める。
そしてエイミーは一矢に振り返った。
「良い? 朝食の時にベティーナから聞いてビックリしたのよ! だってあたし達が依頼されてたのは『海上の魔族討伐』でしょ? ……そこは間違いないわよね」
エイミーに睨まれ、一矢は目を泳がせる。
「ええっ? それは……そうに決まってんじゃん。……俺、嘘つくタイプじゃないでしょ? そうッ! 特に女性にはね!」
クレアが横で吹き出す中、エイミーは眉をピクリと震わせた。
「良くこの空気でそんな台詞ブッ込んだッスね! どんなハートしてんスか!」
再度エイミーに睨まれたクレアは視線をそらす。
「こっちはね、ビックリし過ぎて何も言えなかったのよ。それをベティーナは勘違いして『辛く当たってしまい、申し訳無い』って頭を下げられたのよ! ……そりゃあちょっとは気にしてたけど」
エイミーが視線を落とす。
「まぁまぁ、結局仲直り出来たんだから、俺の作戦通りって事で。……ほら、『ありがとう』は?」
「何言ってんのよ! あんたは何にもしてないでしょ! 全部ベティーナが大人の対応したからじゃない!」
怒鳴るエイミーの後でクレアが大笑いする。
「『ありがとう』って! 一矢さんは何もしてないどころか、頼まれた伝言も伝えてなかったッス。ゼロじゃなくてマイナスッス!」
エイミーはもう一歩一矢に迫る。
「それに聞いたわよ。『添い遂げよう』ってベティーナに言ったみたいじゃない」
「えっ? 妬いてんの?」
一矢はエイミーを肘でつつく。
「違うわよ! 『驚いて冷たい対応をしてしまった』ってベティーナが気にしてたのよ! ベティーナは真面目なの! 変な事言ってからかわないで!」
「やだな~、別にからかった訳じゃないよ」
「嘘つきなさいっ! あんたハーレム作るって言ってんじゃない! 一人と添い遂げるつもりなんて無いんでしょ?」
「一人とは言ってないよ。みんなと添い遂げるつもりだ! エイミーやクレアともね」
一矢は笑顔で親指を立てる。
「マジ、サイテーじゃないスか~。一矢さん、アウト~ッ!」
クレアも一矢に親指を立て見せる。エイミーは頭が痛くなってきた。
「……クレア、こういうバカにかける魔法はないの?」
「う~ん。魔法じゃないけど、呪いならありますよ」
「ちょっと待った! き、昨日は俺の考えは立派だって言ってたじゃん!」
焦る一矢はエイミーにすがる。
「そこじゃないでしょ! そんな考えを立派だって言う奴居るわけ無いでしょうが! ……クレア、お願い」
「了解で~す」
こめかみを押さえるエイミーと入れ替わるように、笑顔のクレアが一歩前に出る。
一矢はクレアから少しでも離れようと、ベッドの上で壁に張り付いた。
クレアは腕をまくり、両手を一矢の前で妖しく振る。
「アブラカタブラハゲハゲハゲリン……」
「なっ、何その呪文……」
「ケセラセラセラクサクサクサオ~……」
「イヤ、……マジでやめて。大丈夫だよ? 俺、……みんな平等に愛せるよ?」
泣きそうな一矢にクレアは呪文を続ける。
「ナンマンダブクブクデブデブデブデ~……」
「や、やめてくれよーー!」
一矢は堪らず部屋を飛び出した。
「キャハハハ! マジウケる!」
「これで懲りるかしらね。……それで今のはどんな呪いなの?」
「嘘んこ呪いですよ」
「えっ?」
驚くエイミーを見て、クレアは笑う。
「やだなぁ、わたしの専門は攻撃魔法ですよ? 呪術は専門外です」
「それじゃあ今のは……」
「あんなの子供しか引っ掛かりませんよ~」
「……あんたもよっぽどね」
エイミーとクレアはが笑ってると開けっ放しだった扉からベティーナが顔を出した。
「たった今、一矢殿が泣きながら走って行きましたが、何かあったのですか?」
それを聞いてエイミーとクレアはお腹を抱えて笑った。
それから一矢は船が港に着くまで部屋にこもり、食事も一人でコソコソと食べるようになった。
「俺はハゲるんだ、デブるんだ、臭くなるんだ……」
そんな声が一矢の部屋から聞こえて、クレアは大笑いでエイミーに報告しに行った。




