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私達、旅に出ます

 一矢達が村に着くと村人達が家の中へ駆け込むのが見えた。また魔族が来たのかと勘違いしたのだろう。


 一矢達は村の広場まで進むとそこで馬車を止めて、荷物と親分を馬車から降ろした。


 親分はううっと呻き声をあげる。まだかろうじて生きているようだ。

 一矢は申し訳ない気持ちが改めて沸いてくる。


 その様子を見て村人達も集まってきた。そこで一矢は胸を張り、声高らかに宣言する。


「俺が盗賊団をやっつけてきました! 勿論全て作戦だったんです!」

「おおっ……。みっ、見ろ。あの倒れてるの、アイツ等の親分だぞ」


 村人達にどよめきが響いた。

 村人達が状況を理解すると、その中の一人が一矢の前へと歩み出る。村外れで一矢へ立ち去るように忠告した人だった。


「ありがとうございます。作戦だったとは露知らず、なんて薄情な旅人だと思っておりました! 大変失礼致しました」

「いやぁもう、全然気にしないで下さい。『敵を騙すにはまず味方から』と言いますから。フッ」


 一矢は髪をかき上げ、格好付けて微笑む。


「私にあの数を相手にする力が有れば、あんな芝居打つ必要なかったんですから」


 遠い目をする一矢に疑いの眼差しを向けるのはエイミーだけ。村人達は一矢を完全に信じていた。


「本当にありがとうございました。是非今日は我が家に泊まっていって下さい」

「えぇ~、良いんですか? なんか悪いなぁ。そんなつもりじゃなかったのに、ねぇ。あっ、俺は魚よりも肉派ですから。あと野菜は基本食べません」

「はっ、はあ……」





 その夜、村を挙げての歓迎を一矢達は受ける事になった。


 一矢達が招かれた家はこの村の村長宅。それなりの広さがあったが、集まった村人達でぎゅうぎゅうだった。

 そこには森で出会ったリサリーと老人の姿もあった。


「お兄ちゃん、怖くなかったの?」

「大丈夫だよ。お兄ちゃん、メチャクチャ強いから! そう、それで油断した親分を横からガツンと! 一発だけ。一発で十分でした!」


 そこで一矢は自分の拳を眺める。


「……でも、怖くなったと言えば自分の力かな? 自分で自分の力が恐ろしくなります。まぁ力を持ってしまった者の宿命? みたいな奴ですかね~!」


 一矢の話しが終わると村人達は次々と質問を投げ掛けてきた。

 彼等には一矢の武勇伝以外にも聞きたい事があった。


「なぁ旅人さんよ、わしの孫娘は魔族達と一緒に居なかったかの?」

「うちの息子は居ませんでしたか?」

「私の娘も奴等に連れていかれたんです」


 一矢はそんな村人達に対し、静かに首を振った。


「……探しましたが奴等のアジトに人間は居ませんでした」

「そうですか……。ところでそちらの方は?」


 村人の一人がエイミーを見る。エイミーはドキッとする。だが咳払いを一つし、何とか冷静を装った。


「わっ、私は旅の途中で奴等に捕まってしまって。その時には皆さん、もう……ううっ」


 ハーピーは泣くフリをして誤魔化す。


「そうでしたか。……貴方が悪いわけじゃないんです。気にしないで下さい」


 村人達がしみじみとし始めると、その空気を打ち破る様に一矢は立ち上がった。


「私にお任せ下さい! 私は旅に出ます。旅の途中でそれらしい人達を見かけたら全力を尽くして助けましょう!」


 村人達の顔は一気に明るくなった。私の息子はこんな容姿だ。私の娘はこうだと村人達は一矢に説明し始める。

 だがみんな一斉に言うのでハッキリと聞き取れない。


 それでも一矢はうんうんと頷いている。

 エイミーは本当に聞いているのか怪しんだ。

 エイミーの読みは当たっており、聞いてないどころか覚える気すらなかった。


「それで連れていかれた先に心当たりは有りますか?」


 村人達は押し黙り、お互いの顔を見回す。誰も心当たりが無かったのだ。


「金品や奴隷は人間の商人に売るって話しだったから、多分大きな町なら情報があるんじゃないかしら」


 エイミーが呟くように言うと全員がエイミーの方を見た。


「もちろん! そう魔族達が話してるのを聞いただけですけど……」


 エイミーは慌てて付け加えた。そんなエイミーを見て一矢はニヤニヤしていた。


「この辺で一番大きいのは西の港町でしょうか」


 そうだそうだと村人達が頷きあう。そんな中、一矢は考える仕草を見せた。わざとらしく。


「結構距離は有るんですかね?」

「馬なら急いで三日位でしょうか」


 一矢はいかにも困った様なそぶりを見せる。エイミーはそんな一矢の行動が鼻につく上、嫌な予感しかしなかった。


「……そうですか。急ぎたいのは山々なんですが、なにぶん食糧も何も無いですからね。もっとかかっちゃうかなぁ。ねぇ?」


 急に話をふられてエイミーはドキッとする。


「そっ、そうです……かね」

『村の食糧を隠し持ってるくせに』


 エイミーは作り笑いを浮かべる。


「そう言う事でしたらこちらで少し用意します! なぁ皆?」


 村人達は一斉に頷く。


「勿論! 一度は奪われた物ですから。村の若者の為、是非持っていって下さい」


 ありがとうございますと一矢は頭を下げた。だがその時の顔が、悪い顔になっていたのをエイミーは見逃さなかった。





 次の日、一矢達が旅立つ時には三日分の食糧と少しのお金を村人達は用意してくれていた。


 一矢達が馬車に乗り込むと村人全員で見送ってくれた。


 村人達が見えなくなると、一矢は小さな袋に入ったお金を数える。

「クククッ、うまくいったぜ」

「完全に詐欺師の笑いよ、それっ! まったく、それに食糧は有るでしょ?」

「えぇ~、沢山あった方が安心だろ?」

「……村の人達だって余裕無いでしょうに」

「それは誰のせいかな~?」


 一矢はニヤリと笑ってエイミーの顔を覗き込む。


「そっ、それは……」


 エイミーは何も言えなくなる。

 元々裕福ではない農村から食料や金品。果ては若者まで奪ったのはリザードマン達の盗賊団。

 エイミーだってその内の一人なのだから。


「それよりさ、コレってどれくらいの金額なの?」

「えっ? そんなの見たらわかるでしょ?」

「俺は異世界人だからさ。コッチの通貨は分かんないんだよ」

「異世界人? 何それ?」

「それは後で説明するから、チョット見てよ。暫くは遊んで暮らせる?」

「そんなにくれるわけないでしょ! 何遊んで暮らす気になってんのよ! 奴隷商人を探すんでしょ?」


 一矢はエイミーの発言に驚いた顔を見せた。


「えっ? 探す必要無いじゃん。エイミーが知ってんだろ?」

「なんであたしが? 知らないわよ!」

「何で? だってお前等が売り飛ばしたんだろ?」

「それでも知らないわよ! だってあたしが売りに行ったわけじゃないもん!」


 一矢は暫くポカンとしていた。


 エイミーの説明では金品や若者達は馬車に載せ、リザードマンに連れていかれ、数日後に空になった馬車が戻ってきたと言うのだ。勿論、金貨の入った袋を持って。


「そう言えばアジトにも金貨が沢山有ったんじゃない?」

「安心しろ。それは食料と一緒に隠してきたから。そっちは期待出来るほど入ってたわ」

「それっていくらかは村に返したのよね?」

「はぁ? あぁ、そうね。まぁ大体返したんじゃないかな? うん、返した返した」


『絶対返してない』

 エイミーは確信した。


「それより今はコッチ! 早く中身見てよ」


 一矢は村人に貰った金貨の袋をエイミーに渡した。


「……そうね、宿に一晩泊まれる位は有るかしら?」

「チッ、しけてんな」

「あんた最低よ! 村の人達に謝りなさい!」

「誰のせいで……」

「村のみんなゴメンなさーい! さぁ、あんたも謝んなさいよ!」

「あっ、そろそろ食糧隠しておいた所だ」


 そう言うと一矢はヒラリと馬車を降りて駆け出した。


「あっ、コラッ! 謝れ!」


 一矢は振り返らずにそのまま森の中へ入っていった。


「なっ、無いぃぃぃ!」


 暫くすると森の中から一矢の叫び声が聞こえた。

 その時、森のもっと向こう側から三体の魔族が現れた。

 爬虫類型のリザードタイプ。盗賊団の残党だろう。


 残党はエイミーに気付き、手を挙げる。


「おう、エイミーじゃねぇか。無事だったんだな」


 そう言ってリザードマン達はエイミーの馬車に近付いてくる。


「いや~、親分とナンバー・ツーが人間にヤられちまってよ。もう大変だったんだぜ? だけどみてくれよ。そこにアジトの食料と金だけは……」


「くそー、誰かが盗んだな」


 そう言いながら出てきた一矢を見て残党の動きが止まる。


 一矢も残党達に気付くと、その中の一体が担いでいた袋に目を止める。


「あっ! 俺の食糧と金!」


 一矢の怒鳴り声を聞いて残党達は脱兎のごとく逃げ出した。


「待てコラーー!」


 一矢も物凄い勢いで追いかける。残党が森の中へと逃げ込むと一矢も森へと入っていった。


 そしてエイミーだけが街道に残された。


『まっ良いか。村人に貰った食糧と金貨はあるし、アイツは置いてこう』


 エイミーは馬車を走らせる。だが五十メートルも行かない内に一矢は森から出てきた。


「クソッ、逃げられたか! 『一矢の悠々旅行記』をどうしてくれるんだ!」


 エイミーの舌打ちは一矢には聞こえなかった。

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