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第18話 自分のための選択



 休日の朝、目が覚めても、すぐに起き上がらなかった。


 天井を見たまま、

 頭の中で、昨日のやり取りをなぞる。


 名前は、まだ呼んでいない。

 でも、続いている。


 それだけで、少しだけ安心できた。


 スマホを手に取り、時間を確認する。

 連絡は来ていない。

 私も、送っていない。


 今日は、誰とも会う約束をしていなかった。


 洗面所に立ち、鏡を見る。

 寝癖を直しながら、耳にかかる髪に触れる。


 兄と同じ長さ。

 ずっと、変えていない。


 ドライヤーをかけながら、

 ふと、思う。


 今日は、

 誰の予定も気にしなくていい。


 誰にどう見られるかも、

 考えなくていい。


 それに気づいた瞬間、

 胸の奥が、少し軽くなった。


 着替えを終え、

 スマホを持って外に出る。


 行き先は、決めていなかった。

 ただ、歩く。


 駅前を抜け、

 商店街に入る。


 美容院の前で、足が止まった。


 ガラス越しに、

 鏡に映る人たちが見える。


 髪を切っている人。

 色を選んでいる人。


 中に入る勇気は、まだない。

 でも、立ち止まることはできた。


 スマホを取り出し、

 予約画面を開く。


 指が、少し震える。


 綾部に、相談しようか。

 そんな考えが、一瞬よぎる。


 でも、画面を閉じた。


 今日は、

 自分で決めたい。


 決めなくてもいい。

 決めない、という選択でもいい。


 私は、深く息を吸って、

 一歩だけ前に進んだ。


 ドアには、触れなかった。

 ただ、近づいただけ。


 それでも、

 昨日までの私とは違う。


 帰り道、

 髪が風に揺れる。


 何も変わっていない。

 それなのに、

 少しだけ、気分が違う。


 部屋に戻り、

 鏡の前に立つ。


 今の自分を、

 じっと見る。


 変えるかどうかは、

 まだ先でいい。


 でも、

 選ぶのは、私だ。


 誰かに選ばれ続けるためじゃない。

 比べるためでもない。


 今日、ここに立ったことが、

 その証拠だった。


 スマホが震える。


《今日は、何してましたか》


 綾部からのメッセージ。


 私は少し考えてから、返す。


《散歩してた》


 すぐに返事が来る。


《いいですね》


 それだけ。


 説明を求められない。

 理由も、聞かれない。


 その距離が、

 ちょうどよかった。


 私はスマホを置き、

 もう一度、鏡を見る。


 まだ、変えていない。


 でも、

 変えてもいいと思えた。


 その事実を、

 今日は大事にした。


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