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第12話 似ているままでいる理由



 朝、洗面所の鏡に向かう。


 髪をとかしながら、無意識に長さを確かめていた。

 耳にかかる位置。

 兄と同じ。


 違うところを探そうとして、やめる。

 胸の膨らみは、服を着れば目立たない。

 それ以外は、よく似ている。


 鏡の中の私は、

 特別な工夫をしていない。


 それが、楽だった。


 大学へ向かう途中、綾部と合流する。

 彼女は私の顔を見ると、すぐに微笑んだ。


「おはようございます」


「おはよう」


 歩幅を合わせて歩く。

 この距離にも、少しずつ慣れてきた。


 綾部は、何度か私の髪を見る。

 気づかないふりをした。


「先輩」


「なに?」


「髪、切りました?」


「切ってないよ」


「ですよね」


 それだけで、会話は終わる。


 私は胸の奥で、息をついた。


 切っていない。

 伸ばしてもいない。

 染めてもいない。


 変えていない。


 講義の合間、

 スマホで美容院のサイトを開く。


 肩まで伸びた髪。

 少し明るい色。


 悪くない、と思う。


 でも、予約ボタンの前で止まる。


 もし、変えたら。


 綾部の視線は、どうなるだろう。


 今までと同じなら、

 安心できる。


 もし、少しでも違ったら。


 その違いが、

 選ばれた理由を壊してしまう気がした。


 私は画面を閉じる。


 昼休み、ベンチに並んで座る。


「先輩」


 綾部が、私の髪に目を向ける。


「今の感じ、好きです」


 言い切りだった。


 胸が、少しだけ痛んだ。


「ありがとう」


 そう返す。


 本当に言いたかったのは、

 「どうして?」だった。


 でも、聞かない。


 聞いてしまったら、

 答えが返ってきてしまう。


 それが、怖い。


 帰り道、

 兄とすれ違う。


「百合」


「兄さん」


 それだけの会話。


 横に並ぶと、

 影の形がよく似ている。


 兄は気づいていない。

 でも、私は知っている。


 似ているままでいるのは、

 選ばれるためじゃない。


 否定されないためだ。


 変えなければ、

 失う理由ができない。


 それが、今の私のやり方だった。


 部屋に戻り、

 もう一度鏡を見る。


 鏡の中の私は、

 何も変えていない。


 でも、変わりたいと思っている。


 その事実だけが、

 静かに残った。


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