走馬灯
――――――ふと、小さい頃の記憶が脳裏を過ぎる。
これが走馬灯か…?と僅かに思考が逸れるが今は良いだろう。
これは、俺が【ブルスの街】の教会にて、【アイテムボックス】を授かってから暫く経った後の事。
【アイテムボックス】のスキルの出来る事を検証し、自分にとってどう扱うのがいいかを3兄弟で話したり、お互いのスキルを見せ合っていた時の記憶。
『わぁ!ベルフ兄さん本当に飛んでる!』
『ベルフ兄のスキルは派手でいいね。僕のは地味だから』
『おっとと……派手と言ってもこの通り扱いが難しいスキルだからね。それにモルトの【ポーショナー】だってすごいスキルだよ?今は毒に特化した状態だけど、将来は薬効の高いポーションを自由自在に作れるすごいスキルだよ』
子供達の遊び場である空き地にて、漁師の仕事が休みの日は大抵3兄弟でここに来る。
時に遊び、時に語らい、時にスキルの練習をする…それがここ最近の休日の過ごし方だった。
『んー2人ともどっちも羨ましいスキルだよ……僕のなんて“引きこもり部屋”だよ?せめて『自動収納』くらいは付いていて欲しかったなぁ』
この時は【アイテムボックス】を授かり、いつでもどこでも入れる引きこもり部屋を手に入れた程度の認識しかあらず、魔物や敵意を持った者達から逃げ隠れるのに優秀なスキルだと考えもしなかったので、些か兄二人のスキルに憧れや嫉妬に近い感情を抱いていた。
『いつでもどこでも休める部屋ってのは案外便利そうだけどね?……それにもしかしたら予想もつかない使い方で、めちゃくちゃ有能なスキルに化ける可能性だってあるんだよ?』
『???…それってどういう事?』
『例えば……コナー、一旦そこに≪ゲート≫を開いてみて?』
ベルフの言う通り、目測で約1メートル程離れた場所に人一人通れる程度の≪ゲート≫を開くと、徐にベルフが地面に落ちていた木の棒を拾い上げ、≪ゲート≫の中にその木の棒を突き入れる。
『……何してるの?』
『んーと、コナーはこの状態で≪ゲート≫を閉じたらどうなると思う?』
『え?…………え!?もしかして…スパッと切れちゃう!?』
自分の想像した内容が本当なのかを確認するべく、言うが早いか、すぐに≪ゲート≫を閉じる。
……が。
『………閉じ……きらない?』
『ありゃ、流石にそんなうまい話しはないか』
『コナー、一応ベルフ兄の手が巻き込まれる可能性が無いように声を掛けてから実行しような?』
『あ、ごめん…』
目の前には、木の棒が≪ゲート≫を閉じるのを阻害し、まるでシャッターに挟まれたように空中で静止する木の棒が目に映る。
『一応≪ゲート≫は閉じようとするけど、何か物体がそこにあればその物体分は≪ゲート≫を閉じれないって感じなんだね。……お?この木の棒も≪ゲート≫にびったりとくっ付いてるのか…ふんッ!!……かったい!…全然取れないや』
『どれどれ……え、びくともしないんだけど?』
恐らく人間や生き物が≪ゲート≫を通る時に謝って殺してしまわないようにする為の仕様?なんじゃないかなと考えられるが、どうやらこの【アイテムボックス】のスキルには≪ゲート≫で物を切断するような裏技は使えないらしい。
…だが、≪ゲート≫に挟まったモノは、俺が≪ゲート≫の広さを広げない限り、抜けもしないし入る事も不可能のようだ。
試しにベルフや俺自身が腕を入れて試した所、圧迫感は一切ないのにまるで動かなかったので、まず間違いない。
『……新しいスキルの…力?は分かったけど……これって何かに活用出来る?』
『んー……犯罪者とかを拘束するとか?』
『いや、コナーにそんな事させる理由がないし、拘束が目的なら【アイテムボックス】の中に監禁する方が確実だろう?』
『というか、犯罪者じゃなくても≪ゲート≫を通る一瞬の隙に≪ゲート≫を閉じるなんて芸当出来る気がしないんだけど……寧ろ小さい≪ゲート≫を作って、そこにハマりに行って貰うとか?』
『そんな事する犯罪者が居たら世界は平和だろうなぁ……』
そんな会話をしつつ、【アイテムボックス】の一仕様については特に利用法が見つからず、記憶の彼方に飛ばされていた。
………で、だ。
何故そんな事を走馬灯?として思い出してたかと言えば、うん。
『■■■■■■■■ッッ!?』
「……おぅ……うまい具合におハマりに…」
リャーナを助けるべく、倒れるリャーナをヘッドスライディングの要領で回収した俺は、そのまま開いた【アイテムボックス】へ転がり入ろうと試みた…が、流石に魔狼の速力にかなわず、【アイテムボックス】の手前で魔狼の突進が俺とリャーナを襲い、数メートル程飛ばされてしまい≪ゲート≫から離れてしまった。
…今の今まで、安全圏から魔物を見ていた為、実際に魔物から攻撃を受けるのは初めてで、気が動転していたのだろう。
特に怪我はなく、精々吹き飛ばされた時に打ち付けた背中が少々ヒリヒリする程度だったのにもかかわらず、俺はまるで生命の危機を感じたと思う程にパニックを起こし、腕の中でうめき声をあげるリャーナの事も忘れ、地面にうずくまる。
もうダメだ。このまま俺は殺されてしまう…。
そんな思いが頭の中を覆いつくし、恐怖に震える身体を縮こませながら、己の死を待つ俺。
だが、いつまで経っても止めの攻撃はおろか、魔狼が近づいてくる気配すらない。
流石に長い時間そのままだと、恐怖に竦んだ身体も少しばかり力が入る様になり、恐る恐る顔を上げて魔狼の居るであろう場所に目を向ける。
……そこにはなんと、俺とリャーナが逃げ込もうとした1メートル程の大きさの≪ゲート≫にピッタリと首を嵌め込み、動けなくなっている魔狼の姿が……。
「いや、なんで?」
恐怖?そんなものこの光景を見て吹っ飛んだわ。
そう言って差し支えない程、先程まで殆ど動かなかった身体が普段通り動くようになり、何がどうなっているのかを確認する為、思考を回す俺。
「……人が通れる1メートルサイズじゃ魔狼の身体はもちろん通り切れない……でも≪ゲート≫の設定は魔物とかはデフォで通れない様になってるはずなのに……もしかして、あまりに必死過ぎて魔物以外も全部通れる様無意識に改変してた?」
≪ゲート≫の通れる通れないの判別は別にステータス画面などで細々と設定決めしている訳では無い。
大雑把に俺が『通すモノ』と『通さないモノ』を頭の中で組み分けする事で≪ゲート≫を通れるモノを限定している。
つい先ほど、あの≪ゲート≫を開く時、恐らく俺は無意識下に『何が何でも逃げ込む!だから全部通せ!!』と考えてしまい、魔狼も通れるオールフリーの≪ゲート≫が作成されたという訳なのだろう。
「ひ、一先ずこれならあの魔狼も動けないだろ…………ん?」
あれ?魔狼は動けない……【アイテムボックス】の中には多数の冒険者達と魔狼の首から上のみで外には俺と傷だらけだが息はあるリャーナの2人と身動きの取れなくなっている魔狼の身体……この状況……。
「……何とかなりそう?」
何故だろう?先程までずっと地獄の様な全力疾走をさせられ、非戦闘員の俺が死の恐怖を感じさせられていた所為かな?
何故だか自分でも悪い顔だなぁと思えるほど笑顔になっているのがわかった。




