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戦えない者の戦い





 まず俺がしなければならない事…それはミント達の救出と全冒険者の安全確保。



 あの怪物を討伐出来れば何よりだけど、俺にそんな事出来る力はないし、唯一対抗出来る可能性のあったミント達【ホワイトタイガー】やカルロス達【龍の涙】は見ての通り全滅。


 他の冒険者達も【魔の森】の(コア)を倒した事で興奮していたのに、今はミント達とその状況を作り出した魔狼を見て「も…もうダメだ…」と絶望の表情を浮かべている者もチラホラと見える。



 ……出来ればミント達を救出するまでの時間稼ぎをしてくれたら助かったけど、この様子じゃ無理そうかな。



「―――■■■■■■■■ッッッ!!」



「ッ!!…皆さん!一旦【アイテムボックス】の中へッ!!」



 強大な敵へどう対処すればいいのかわからず呆けていた俺達を見て、まるでこちらを怯えさせるように禍々しい叫びをあげながらこちらに走り出してくる魔狼。



「――っぶな…」



『■■■■■■■■ッッ!!?』




 俺の咄嗟の掛け声で冒険者達もすぐに逃げる事に集中してくれたおかげか、大半の冒険者が【アイテムボックス】の外に出ていたにもかかわらず、魔狼がこちらに到着する寸前に全員が避難をおえる。



 魔狼は、いきなり獲物が消えた事に驚いた様子が見え、辺りをちらちらと見渡す動きをする。



『……■■■■…』



「……はは、流石にこのままどこかに…って事はないか」



 目の前から消える……いや、正確には人間が()()()()()を通ると消えた。魔狼にはそう見えているはずだし、少し考える知能があればその人間が消えた場所に何かあると考えるのが妥当だろう。



 【アイテムボックス】の中で≪ゲート≫の外から、中の様子は見えないはずなのに、こちらを覗き込むように見つめてくる鋭い眼光……その魔狼の視線に(もしかしてこちらが見えているのか…?)と不安になってしまう。



『…………』



―――ザッ……



 だが、きちんと冒険者達全員が【アイテムボックス】の中に入った時には外から≪ゲート≫が見えない様にしていたし、≪ゲート≫から誰かの身体の一部がはみ出てる…何て事も無い。



 となれば、魔狼は冷静に俺達人間がこの場所に隠れ消えたと()()しているはず。



 ……知能がある獣程厄介な事はない……そんな話を前世で良く聞くが、まさにそうだなとため息を漏らしてしまう。



 そんな化け物の恐ろしい眼光にジッと耐える事数分。


 流石の魔狼もその場で待ち続けるという手段はとらず、少しだけ鼻をひくつかせてから≪ゲート≫の正面から視界外の場所へと離れていく。



「……行ったか…?」



「助かった…?」



「いや…そもそもこのコナー君の【アイテムボックス】の中なら大丈夫のはず……大丈夫なんだよね…?」



 ≪ゲート≫に一番近くで外を見ていた俺の背後から、万が一にも魔狼へ聞こえないように小声で話す冒険者達。



「………」



 魔狼がこのままどこかに居なくなってくれれば万々歳ではあるが、そんな都合のいい話などないし、このまま日が暮れる時間まで引きこもっていたら外で倒れるミント達の安否も確認出来ない。


 故に俺は確認の為にと、恐る恐る≪ゲート≫に近づいて行き、半身だけ外に出て回りの様子を伺う。



「……なッ!?」



 そこには俺達から離れ、地面に血だらけで倒れるミント達の傍まで行き、こちらを振り返る魔狼。


 …だが、肝心なのはその魔狼の足元……そこには気を失っている様子のリャーナが倒れており、その身体をまるで弄ぶように前足で転がす魔狼。



「■■■ッ!■■■■■!」



「ぐッ……下手に知能があるなら、せめて弱くあれよ……」



 “来い、来なければこいつらを殺すぞ?”



 まるでそう言いたいのか、妙ににやけた顔に見える魔狼に心底腹が立つ。



「……つーか、狼の顔でどうやってそんな気色悪い笑み浮かべてんの……はぁぁ……」



 幸い、こいつの行動目的は獲物を捕食するでも、殺害する事でもない。



 こいつの目的はただ、他生物の“感情”が欲しいだけ。



 魔狼のスキルには【魔力変換】…自身や他者の感情や血肉を魔力へ変換する事の出来るスキルがあるとエルデンが言っていた。


 つまり魔狼が獲物を傷付けるだけ傷付け、止めを刺さないのは【魔力変換】の効率を考え、他生物の≪痛み≫や≪苦しみ≫を糧に魔力を増産するのが目的なのだろう。



 だから如何に傷付こうが血まみれで倒れていようが、ミント達の命自体はすぐには奪わないはず。



 なら、俺に出来るのは…。



「…お前の遊び相手してやるよ……やれるもんならやってみろ!!俺は……全力で逃げてやるッ!!!」



「―――■■■■■■■■―――ッッ!!」



 ミント達へ標的が行かない様に魔狼の注意を引きつつ、ミント達の回収をやり遂げるッ!!!










◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」



「■■■■■■■■ッ!!」



―――走る。避ける。転がる。



 案外、自分も運動出来る方なのでは?と自分自身を褒めたたえたくなるほどに、俺は足を動かしていた。


 体力なんて精々100メートルを全速力で走り抜けば息切れを起こし、300メートルも全力で走れば地面に倒れ込む程の普通の体力しか持ち合わせていない一般人。


 そんな俺が、魔狼の突進から逃げ、爪から逃げ、牙から全速力で逃げ切っている。



 ……もちろん、全ての攻撃を躱し切れる程の身体能力はないので、どうしても当たりそうな攻撃はお得意の【アイテムボックス】への緊急退避も行っているが、そればかり使うと魔狼の標的がミント達へ向きかねないのであまり多用は出来ないし、緊急退避した後はすぐに外へ飛び出して魔狼の目を引きつける様に動いている。


 おかげでかれこれ10分……いや、嘘ついた。体感では10分ぐらい全速力で走っている気分だが、実際には2、3分……5分くらい怪我をする事なく動く事が出来た。



「は”あ”ぁ”ぁ”……は”あ”ぁ”ぁ……おぇ”……うぷッ……ぜぇぇぇ……」



「……だ、大丈夫?」



「だ……だいじょ……ごほッ!!うぉほッ!!……す、すいまぜん……行きます」



 まぁ怪我はなくとも、人様に見せられない顔になってしまう程に疲れてしまい、【アイテムボックス】の中へ緊急避難した際に、あまり話した事のない女性冒険者に心配されてしまった。


 だが、自分は平気だと言い繕う事も出来ず、魔狼を待たせる訳にも行かなかったので、息を整わせる事も出来ずに【アイテムボックス】の外へ駆け出す。



 出来れば、俺以外にも魔狼の気をひく囮役が1人でもいればかなり楽になるのだが、現状俺の様に最悪の場合でも【アイテムボックス】を使って安全無事に行動できる様な人材がいないし、何より先程の魔狼の鋭い眼光で冒険者達は委縮してしまっている。


 委縮した状態で外に出れば、まず間違いなくあの魔狼のおもちゃにされる未来しかない。



 だから戦う力も無く、平均的な速力と体力しかないが、絶対的に安全確保が可能で心に余裕のある俺がやり遂げるしかないのだ。




「でぇぇ……もぉぉ……さ、さすがにぃ……きッッッッつい!!!」



「■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーッ!!!!」



 逃げながらなので、ミント達の倒れている場所はまだ遠く、もう数分は走り抜ける必要がある。



 ミント達を回収する際は【アイテムボックス】内で待機している冒険者達にも手助けしてもらう手筈になっているので、本当に今の俺に必要なのは魔狼から逃げ回るだけの体力のみ。



「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”……」



「■■■■■ッ!!!■■■ッ!!」



 後100メートル……50メートル……



 すでに脳に回す酸素は枯渇しており、吐き気の所為で漏れ出た胃液と汗で顔面は汚れ、先程よりも大分アレな顔になっている。


 多分だが、今の俺の≪辛い≫や≪疲れた≫と言った負の感情も魔狼は糧にしているのだろうが、そんな事もはやどうでもいいし、何だったらミント達を回収したらもう一週間ぐらい【アイテムボックス】に引きこもってぐーたらしたいと思う程には精神の苦痛を感じている。



「どぉぉぉりゃぁぁゴホォッ!?ゴッホォ!!?……【アイテムボックス】ッ!!」



 顔面ぐちゃぐちゃにしつつも、魔狼の攻撃から逃げ切り、倒れているミント達の傍まで近づく事に成功した俺は、すぐさま【アイテムボックス】を倒れている者達の()()に開き、中で待機している冒険者達に合図を送る。



「お、お願いしまぁぁぁすッ!!!」



 合図と共に【アイテムボックス】から現れたのは、蔓やロープ、それに風魔法で生み出されたような1メートル程の小さな竜巻。



 それが倒れている冒険者達に巻きついては【アイテムボックス】の中へ引き込み、竜巻は倒れている人の身体にぶつかるとまるで重力が消えたかのように人を宙に浮かせ、【アイテムボックス】の中へといざなって行く。



 そう、冒険者達の中には直接攻撃用のスキル以外にも様々なスキル持ちが居り、魔物の入って来れない安全地帯である【アイテムボックス】の中からノーリスクで怪我人を回収できる様なスキル持ちが数人いたのだ。



 外に出て、命の危険に晒される事に委縮していたとしても、俺と同じく命の危険が無い安全地帯からの援護であれば彼らだって落ち着いて行動出来る。


 なので、俺が怪我人の元へ駆けつけ、出来るだけ一気に怪我人を回収する為彼らの頭上へ≪ゲート≫を開いて、中で待機していた冒険者に回収を任せたという訳だ。



「よしッ…このまま一気に…ッ!!」



「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!」



 気を緩めた瞬間に響く、魔狼の咆轟。


 当たり前だ、魔狼からすれば“ゲーム”のルールそのものをひっぺがえす不正行為。


 人質が居なくなれば、俺達はただ【アイテムボックス】という名の鉄壁のシェルターに引きこもればいいだけなのだ。



 そんなのあの醜悪に笑みを浮かべる魔狼が許すはずもない。





「ッ!急いでッ!!」



 魔狼は、俺への攻撃を一旦やめ、すぐに近くに倒れている冒険者……リャーナの元へ駆け出す。



 リャーナが倒れている位置は、皆の倒れている場所より少し外側だった為、中央に展開した≪ゲート≫の位置的に回収が遅れていた。



「くそッ!!!」



 恐らく、リャーナ以外の者は回収は間に合うかもしれないが、魔狼の速力的にリャーナは間に合わない。


 それを瞬時に察した俺は、すぐにリャーナの倒れている場所へ駆け出す。




「ハァッ…ハァッ……ッ!間に合えッ!!」



 魔狼の怒気を見るに、リャーナを殺し、ルール違反した俺への見せしめにする腹積もりなのだろう。



 だが、そんなの許容できるほど俺は潔くはない。




「■■■■■■■■ッッッ!!!!」



『―――ご主人ッ!!!』



「ッ!!!間に合えぇぇッ!!!【アイテムボックス】ッ!!!」









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