怪物
――――人間…それは矮小で、小細工が得意で、ほんの少し狂暴な我が子を差し向ければ、いとも簡単に屍となる少々煩いハエの様な存在。
我の中にある本能とも呼べる知識の中では正しく弱者として知らされている存在。
…なのに何故?我はこうも手も足も出ない状況になっている?
『――――!!―――ッ!!』
何故、我の攻撃は当たらず、敵の攻撃は我に届く?
「■■■■■■■■ッ!!!」
「―――!!」「―!!―――!」
何故……我が母は未だ苦戦を強いられる?
『―――?―――!!―――ッ!?』
―――何故……魔物の王たる我が…一体!!何故ッ!?
「ピギィィィィィィィィィィッッッッ!?!?!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『――ピギィィィィィィィィィィッッッッ!?!?!?』
「よし!効いてるよ!!このまま【アイテムボックス】の中から攻撃を続けるわよッ!!」
「「「「了解ッ!!」」」」
…はい。コナーです。
ただいま、【魔の森】攻略の要…核を破壊すべく、冒険者一同と協力して……一方的に核を攻撃してます…はい。
「―――蔓、来ます!」
「よし!一旦引いて…コナー君!」
「あ、はい!」
指揮をしていた女性冒険者の合図を聞いて、すぐさま≪ゲート≫から離れた冒険者を確認してから≪ゲート≫の設定を弄り、空気と光以外の侵入を全面拒否にする。
すると、直前まで迫っていた核の蔓が勢いよく≪ゲート≫をすり抜け、死角になっている≪ゲート≫の後ろ側で“バスンッ!!”と大きな破裂音が鳴り響く。
『ピギィィィィィィィィィィッッッ!!』
先程から核からの攻撃をこのような形で防いでいる為か、核がまるでイラついているかの如く、植物の巨体を揺らしながら地団駄?を踏んでいる。
…一応何故俺達が一方的に核へ攻撃を加えられているのか、詳細なカラクリを説明しようか。
今見たように、やっている事は単純。
まずは≪ゲート≫の設定をいつも使っているデフォの《魔物の出入りを拒否》状態で【アイテムボックス】の中から核を攻撃。(流石に遠距離攻撃方法のある者だけだが)
次に核からの攻撃を察知したら、≪ゲート≫の設定を先程説明したように≪空気と光以外の出入りを拒否≫する事によって、核の攻撃を完全に遮断する事が出来る。(なお、指揮役や攻撃が来たタイミングを知らせてくれるのは遠距離攻撃方法を持たない冒険者達だ)
ちなみに、《魔物の出入りを拒否》状態ならば核の攻撃も弾くのではないか?と思われるだろうが、どうも核の操る蔓は魔物というより、魔物が操る植物…という括りになるらしく、油断すれば【アイテムボックス】の中に入ってきてしまうのだ。
他にも蔓の攻撃が当たらないと見ると、蔓を使って大きな岩などを投擲してきたりもしたので、やはり≪ゲート≫の設定変更は必須のようだし。
何故、これらの情報を知っているのか?と言われるとこれまた単純だな。
……もうかれこれ30分は戦闘が続いているからですよ…。
「ご主人…大丈夫か?」
「う、うん……流石に疲れては来てるけど、ミント達ホワイトタイガーの人達や龍の涙パーティーに比べたら屁でもないよ」
「あのメイドさん?も行っちゃったけど、大丈夫かな」
そう、実は核の前に転移してきて、戦闘が順調になったタイミングでリャーナは『こちらはもう大丈夫そうですね…では私は主様方の援護に向かわせていただきます』と言ってそそくさと≪ゲート≫を抜けて魔狼の元へ行ってしまった。
「……あの人のスキルは自分を対象にする事は出来ないって言ってたから確証はないけど……何となく皆無事だと思う……なんだかんだ言ってあの人の役割は誰かが怪我をした時の緊急脱出要員だとは思うから進んで前線には出ないだろうし、カルロスさん達もリャーナさんの力は分かってるはずだから何が何でも守ってくれてるはずだろうしね」
「そっか……」
ルイは長く続くこの戦いに不安を感じている様子で、戦闘能力が一切ない自分に悔しさ?の様な物を感じてるのだろう。
「―――コナー君!お願いッ!!」
「ッ!はい!!……ルイ、大丈夫!皆すぐに戻ってくるから夕食の準備はしておいてね!」
「……うん!!」
ルイが今出来る事しなきゃ!といった顔にほっこりしながら、かれこれ30分も続くこの作業にいい加減うんざりして来た。
俺は弓を引いて矢を放つ訳でもなければ、自身の魔力を消費して魔法を放つ訳でもない。
だが≪ゲート≫の設定変更は頭の中で思考する事によって変更出来るのだが、その分集中力を必要とされる。
攻撃が来る度(敵が見える様に光は入れて……皆の呼吸の為に空気も入れて……後は拒否…後は拒否ぃ…)と念じなければならないのだ。
まぁミント達の様に30分以上もあの化け物を足止めするよりかは楽なのは間違いないのだが、それでも疲れるものは疲れる。
いい加減、核さんもやられてくれないかな?と弱音を吐きそうなタイミングで事は起きた。
「―――あそこだッ!!!核のつぼみっぽい所!中に脈打ってる心臓みたいなのが露出してるよ!」
「全員ッ!!あそこを重点的に狙えッ!!!この戦い、絶対に勝つぞッ!!」
「「「「おぉぉぉぉッッ!!!」」」」
どうやら、核の弱点?らしき場所を見つけたようで、冒険者達がラストスパート!とでもいう様に張り切りだし、一気に核の心臓部へ攻撃が集中する。
『ピギュィィィィィィィィィィッ!?!?』
この30分間、苛立ちを感じさせる甲高い叫びしか聞こえなかったのに、今聞こえるのはまるで『まずいッ!?』と言う様に焦りを感じる叫び。
どうやら露出した心臓部は核にとっての弱点である事は確定のようで、一気に形勢が動き出す。
「【火魔法】“バーニング・フレアッ”!!」
「【地魔法】“アースランスッ”!!」
「【一発必中】ッ!!――シィィッ!!!」
「【投擲】ィィィィィィッ!!!」
―――パァンッッッ!!!
冒険者のみんなが、一斉にスキルを使用した強力な一撃を核の露出した心臓部へ叩き込む。
……なんか最後だけパァンッ!!って言ってたけど……もしかして【投擲】の人?あの人石投げるだけであんな破裂音出してんの?こわ…。
そのパァンッッ!!が止めになったのかはわからないが、≪ゲート≫の外を見てみると、核の心臓部のあった場所には肉が抉れたような穴が開いており、うめき声の様な『ギュゥ……ピィィィ……』という鳴き声が聞こえる。
「!!!もう奴は虫の息だッ!!!すぐに止めを!!」
「おぉぉぉぉ!!」
「せめて私達も!!」
「何も出来なくて申し訳なく思っていたとこだッ!」
すでにこちらに攻撃してくる元気もないようなので、万が一回復されても困ると今まで待機していた近接攻撃が得意な冒険者達が一斉に核の元へ駆け出していく。
「お、終わった……よかったぁぁ……」
30分という長い戦いの末に、やっと撃破出来たのだという達成感と≪ゲート≫の設定変更で疲れていた脳が緩んで、思わずその場に座り込む。
「……って、まだ終わってない!!ミント達の所に向かわなくちゃッ!!」
俺達の戦いは終わったと安心したが、もっと凶悪な魔物を相手にして時間を稼いでくれていたミント達の回収に向かわねばいけない事をすぐに思い出し、≪ゲート≫の外へ向けて駆け出していく。
「―――ミントーッ!!こっちは終わったから早く避難……を……」
≪ゲート≫を出て、死角になっていた≪ゲート≫の後ろを振り返り、ミント達に声を掛けるが、帰って来たのはただの沈黙。
何故なら。
「……ハァ……ハァ……グハァッ……」
「……………ッ…………」
「フッーーー………フッーーー………」
魔狼以外の全員が地面に倒れ伏し、至る所に戦闘痕や血だまりが出来ており、全員生きているのか全くの不明な状態だった。
「な……んで…?」
俺がその光景を見て、立ち尽くしているのを何故か器用にお座りした状態で見つめてくる……魔狼
「……ッ!?!?」
……答えはすでにわかっていた。
何故なら奴は、この間も同じような事をしていたから。
「……大切な仲間をやられて、絶望する顔が…見てぇってか…」
そうだ……こいつは……魔狼は、他の生き物を苦しめる事を好む、本物の怪物なんだ。
「■■■■■■■■……」
「ホント……最悪」
俺や俺の後ろで状況を把握した冒険者達の顔を見て、唸り声をあげる魔狼はどこか満足げな顔をしていたように感じた。




