耐えか攻勢か
『下がれ下がれッ!俺達じゃ手も足も出ねぇぞ!』
『戦えない者は遠距離攻撃出来る奴の護衛になりなッ!それも出来ないならコナー君の【アイテムボックス】に避難しなさい!!』
『あんな化け物、ホワイトタイガーか龍の涙の人達ぐらいじゃないと相手出来ないわよ!?』
『―――■■■■■■■■ッ!!!!』
魔狼の出現により、すでに勝ち戦気分だった雰囲気が一変する。
魔狼とまともにやり合えないような弱者は俺の【アイテムボックス】へ避難をし始め、近接は無理でも弓や魔法で遠距離から攻撃出来る者は魔狼と距離を取りながら攻撃を仕掛けている。
『―――ハァァァァァッ!!!!』
『―――バーンブラストッ!!!』
だが、皆が魔狼から離れていくのに対し、距離を取るどころか寧ろ他の冒険者達の元へ行かせまいとより積極的に魔狼へ向かう者達が……ミント達ホワイトタイガーとカルロス率いる龍の涙パーティーだ。
「ミ、ミント達、他の冒険者達の為に率先してタンクの役割をこなしてる……でも、あの魔狼はヤバすぎる…タダでさえ核の存在も厄介なのに……一旦全員【アイテムボックス】に避難してから態勢を整えた方がいいんじゃ…」
「それはやめた方がいいでしょう。こちらが態勢を整える時間を作るという事は、同じく相手側にも時間を与える事になります。そうなれば折角根絶やしにした魔物達を再度生み出してくるかもしれませんし、何より核がこの場を撤退せずに待っていてくれる保証もないでしょうしね」
「それは……そうかもですが…」
戦闘中は逃げ出さなかった核も俺達の姿が見え無くなればこの場所を捨てて新天地へ移動する可能性もある。
であるなら、多少無理をしてでも今、あの核を破壊しておきたい。
もちろん出来るのであれば魔狼も倒したいのは山々だが、元々国の騎士団の戦力を当てにして討伐する予定だった魔狼を今この場にいる冒険者達で倒しきれるのか?……普通に考えて無理だろう。
ならば、どうするか?
「我々の勝利条件は放って置けば人類には攻略不可能になってしまう【魔の森】の核の排除が最優先でしょう。……たとえ犠牲が出ようとも」
「犠牲って!?今一番危険な場所で戦っている人達の中にはリャーナさんの仲間達である龍の涙パーティーもいるんですよ!?」
「分かっております。ですが将来的に【魔の森】を攻略出来なかった場合の方が多くの人が死に、人が住める場所が狭まります。……申し訳ありませんコナー様、私も犠牲が出ろと言いたい訳では無く、ただ例えとしてお伝えしているにすぎません。仮に我が主…カルロス様に何かあれば私は何を失う事になろうとも魔物への復讐を果たし、主を守れなかった自分に絶望しながら自らの命を絶つでしょう」
うッ……俺の早とちりにリャーナは落ち着いた口調で諭すように語り掛けてくる。
……だが、目には一切に感情を感じず、話している内容全てがリャーナにとっての真実なのだと理解させられた。
「す、すいません…」
「?なんの謝罪でしょうか?」
リャーナから感じた圧に思わず謝るが、リャーナは何故謝るのかが全く分からないようで、キョトンとした顔をこちらに向けてくる。
……さっきまで、主人のカルロスの事を中二病患者として馬鹿にしていたような気がしたが、やはり忠義という物はあるらしい。
「え、えと……リャーナさんはこの後どうするべきだと思いますか?最優先が核の排除なのはわかりましたけど」
「そうですね。私達がすべき事は現状維持……戦えない冒険者や疲れた者達を【アイテムボックス】に受け入れるのが最善でしょうね。……ただ」
「ただ…?」
確かに俺らが出来る事なんて【アイテムボックス】を開いて冒険者を受け入れる事くらい。
リャーナの言葉を信じるなら、俺はもちろんリャーナも戦闘は不得意なので、寧ろ戦闘をしに外に出て行けば足を引っ張る可能性しかない。
リャーナもそう考えているようだったが、話の最後に付け加える様に含みを持たせた。
「あの特殊個体はどうにか出来なくても、核の方であれば他の冒険者達でも対処は出来るという事です」
「……それって、魔狼をミント達に抑えてもらって、他の冒険者達が核を破壊するって…事ですか?」
「えぇ。もちろん核を破壊しようとすればあの魔狼が黙っている訳はありませんが、そこは主様方と…コナー様のお力があれば何とかなるのではないかと」
俺の力…というより、俺の【アイテムボックス】とリャーナの【トランスファー】の力だよな…。
そう上手く行くか?と疑問は浮かぶが、このままミント達に任せて【アイテムボックス】に引きこもっていれば死者こそ少なくなるだろうが、戦いには負ける事必至だろう。
折角リャーナという冒険者として成功している【龍の涙】のメンバーであるリャーナが『何とかなる』と言っているのだ。やる価値は大いにある。
「わかりました……やりましょう!」
「感謝いたします。……では早速飛ばしますので、すぐに【アイテムボックス】に隠れてくださいね」
「はい!……ん?すぐに…?え、どこに飛ばすつもりで…?」
俺の疑問にリャーナは優しい笑顔を浮かべたまま口を開く。
「それはもちろん……敵の真正面ですよ?」
「はい…?えちょ――「【トランスファー】」あッ!?」
恐らく、俺の『はい…?』を了承の返事だと勘違いされたのか、俺の制止の声が届かぬうちに発動された【トランスファー】。
心の準備も出来ていなかった俺は、リャーナの声が聞こえなくなると同時に【アイテムボックス】内では感じない風が頬を撫でる感触に『あぁ、もう転送されたのか』と妙に落ち着いた感想が脳裏をよぎる。
……まぁそれ以前に。
「核さん……こんなデカかったっすか…?」
目の前に植物のつぼみの様な物体が、見上げる程大きい……大体10メートル程だろうか?そんな巨大な物体が植物の蔓などを周辺でシュルシュルと揺らめかせつつ、こちらを警戒しているようだった。
……こんなのが目の前にいきなり現れたら、そりゃ一周回って冷静になるよなぁ……。
「―――ピギィィィィィィィィィィッッ!!!」
「――まぁ攻撃してきますよねぇッ!?退避ぃぃぃぃぃッ!!!」
俺は迫りくる蔓を横目に、自分でも驚くほど素早く【アイテムボックス】へ逃げ込むのだった。




