最終局面
まず最初に行うべきは核の在処の共有。
何人かの冒険者は核を遠目に見つける事は出来ているようだが、ソウルマンティスの対処で手一杯だし、気づけている冒険者も広場の端の方に居た数組程度。
この【魔の森】攻略の要である龍の涙やホワイトタイガーと言った高位冒険者パーティは未だ周知出来ていないので、まずそちらを優先する。
「―――ミント!核の場所を発見した!」
「うひゃッ!?コ、コナー!?どうしてこんな場所に……って核だと?どこだ!」
ソウルマンティスをすでに数体倒した後らしいホワイトタイガー目掛けてリャーナに転送してもらうと、いきなり背後に現れた俺に驚くが、すぐに俺の発言内容の重要さに気が付き、冷静さを取り戻す。
「場所は広場の右側……此処の反対側!魔物の群れが守りを固めてるから近くにいる冒険者達だけじゃ近づけもしないっぽい!」
「あっちか……了解だ。なんでさっきまで後ろの方で走り回ってたのかは疑問だけど、有益な情報を得られたなら意味があったんだな」
「………えと……まぁ結果的に?ひとまずこの情報を他のパーティにも伝えてくるよ!そしたら事前に話してた通り、後ろで待機してる!気を付けて!」
ミント達は特に怪我をしている様子はないし、周りの魔物を蹴散らしたらすぐに核へ向かってくれるだろう。
俺はミント達のいる場所を離れ、すぐに龍の涙パーティや未だ核の場所を発見できずにいる冒険者達へ情報を共有し終え、元の場所へ戻り安全地帯を設置する。
「―――ぐぅぅ……クソ、魔物の数が多すぎるぜ」
「……やっと一息つけるわ、やっぱり戦場のすぐ後ろに休憩場所があるのは助かるわね」
「ハァ…ハァ…なんか安全地帯が出来るまで時間が掛かってたけど……持ちこたえられてよかったぁー」
安全地帯を設置してすぐ、疲労や怪我をした冒険者達が多く逃げ込んで来て【アイテムボックス】の中の人口密度が一気に上がる。
「すいません皆さん!少し想定外の事が起きて予定よりも遅れてしまいました!すぐに包帯や食事の用意をしますね!」
そう言って俺はルイと一緒に怪我をした者には包帯を運び、戦闘によって疲労した者には水と塩味の強い軽食を配る。
元々ルイが事前に包帯や軽食を部屋の端に用意してくれていたのもあって、【アイテムボックス】を設置するのが遅れはしたが、その後の動きはスムーズに進める事が出来た。
「……怪我人は多いけど、比較的軽傷な人が多い。疲労した人は5分も経てば戦線に復帰してくれてるし、外の様子を見る感じ、ミント達やカルロスさん達を筆頭に魔物の数を大分減らせてるっぽいね」
エルデンが逃げ出すというハプニングはありはしたが、怪我の功名とでもいうのか核の場所は発見出来た事により、冒険者達の攻める目標がはっきりした事によって戦況は比較的こちら側は善戦している。
戦闘が始まってかれこれ30分程になるが、冒険者側で戦闘不能者は数人(足をやられて上手く立てない物や怪我が重症で安静にしていなければならない者達)なのに対し、魔物側は半数以上を殲滅させている。
何より、こちらの戦力であるミント率いるホワイトタイガー、カルロス率いる龍の涙は未だ健在。
そして意外にもあのユリとユイ、ユウ姉妹の3人パーティ?もかなり善戦しているし、その他にもソウルマンティスを倒しきる冒険者パーティもチラホラと。
この様子であれば、ある程度時間は掛かるが核の討伐も確実だろう。
……ちなみお騒がせ騒動を起こしたエルデンは、捕まってからずっと『たのむぅぅぅッ!!愛をぉぉ……愛をぉぉぉぉぉッ!!!』と訳の分からない事を叫んでばかりだったので、一旦別の部屋に隔離してもらっている。
「ほへぇぇ……冒険者ってすごい」
「アレは……龍の涙のカルロスさんだね。ルイは冒険者とか憧れとかあるの?」
ある程度落ち着いているタイミングでルイが使用済みの包帯やらタオルを持ちながら≪ゲート≫の外を眺めていた。
それに吊られて外を見てみると、ちょうどソウルマンティスを切り伏せるカルロスの姿が見えたので、ルイも冒険者に興味があるのか聞いてみる。
「憧れ…って訳じゃないけど、なんかカッコいいなぁって!『エクスカリヴァー!』とか『失せろぉ!』とかカッコいいポーズするのオレもやってみたい!!」
「―――ルイ……絶対に!やめておこう」
俺はルイの人生に黒歴史を作らせまいと、強く……力強くルイの肩を掴みながら説得するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ルイを暗黒の道へ進ませないように説得してから十数分。
戦況は進み、後は核を守る魔物が数体程にまで減った。
『そらそらそらそらッ!!!今さらゴブリンだのスライムだの雑魚魔物を向けられても意味はないぞッ!』
【魔の森】は魔物を産む…と行っても限度があるらしく、核にとって魔物の数が少なくなってきた危機的状況であるにもかかわらず、今新たに生み出されている魔物は精々ゴブリンなどの雑魚魔物達。
推測ではあるが、魔物を産みだすには魔力的な物をある程度溜めてからでなければあまり強い魔物を産みだせない性質なのかもしれない。
カルロスや他の冒険者達はそんな絞りカスとして生み出された魔物達をいとも簡単に切り伏せ、そしてついに残る魔物はソウルマンティス2体と核のみとなる。
「何とか犠牲者を出さずに終われそうですね」
「はい。と言っても最後まで油断は出来ませんが」
リャーナは≪ゲート≫付近に近づく雑魚の魔物を排除してくれていたが、魔物の殆どを片付けた現在は俺やルイの事を手伝いながら、緊急時はすぐに【トランスファー】を使える様に準備をしてくれている。
てっきり、安全地帯を設置後は龍の涙の元へ戻り、戦闘に参加するのかと思っていたが『私はそこまで戦闘は得意ではありませんし、攻略戦中はコナー様を必ず守れと厳命されておりますので』とここに残ってくれている。
それに、俺の【アイテムボックス】とリャーナの【トランスファー】の相性の良さが判明した今、変に危険を冒して前に出るより、後方でいつでも転移で手助け出来るようにしていた方が断然にいいからだ。
「……ん?」
「どうかいたしましたか?」
「いや……今さらなんですが、核って身動きが出来ないんですか?」
「身動き……移動ですか。ここの核はどうか知りませんが、他の【魔の森】では基本的に住処を変える事は滅多にありませんね」
「滅多に、って事はやろうと思えば住処を変えられるんですか?」
「【魔の森】は地脈を流れる魔素が集まり、一つの塊になった核を中心に核が棲みやすい環境を作る事によって出来るのが【魔の森】です。…つまり、棲みやすい環境を維持できなくなれば核は住処を変える事もございます」
「環境を維持できなくなる……【魔の森】で山火事が起きたり、冒険者達が攻めてきたりとかですか?」
「【魔の森】の木々はそう簡単に燃えないので、滅多に山火事にはならないでしょうね。冒険者達に関してはそもそも攻略を進められた話も殆ど聞かないので何とも言えませんね。……ここでいう環境の変化とは、地脈を流れる魔素が何らかの理由で消える事です」
「地脈の魔素が消える?」
そもそも地脈の…魔素?という存在そのもの自体聞いた事もないのだが、それは本当にある物なのか?
「地脈の魔素は人には観測出来ませんが、実際にある事は判明してます。なんでも昔の【鑑定】スキル持ちの方と【地脈渡り】というスキル持ちの方がスキルを組み合わせる事によって【魔の森】の生まれ方を調べる事が出来たらしいのです」
リャーナもそこまで専門的な知識はないらしいが、おおよそ200年以上前の発見らしいが、その後の検証と観察によって”地脈の魔素“は実際に存在するという結論になったらしい。
そして、その地脈の魔素は基本は形を変えず、緩やかに地面の中を流れているらしいが、数十年か数百年に1度ほどの確率で地脈の形が変わる事があるらしい。
「その地脈の流れが変われば、地脈の魔素を糧にしていた【魔の森】の核は新たな魔素を求めて生まれ育った【魔の森】から移動するという訳です」
「なるほど……つまり、移動はやはり出来るという事なんですね?」
移動のスピードがどれ程の速さかはわからないが、決して早いものではないとは思うが、ノロくても核本体が移動出来るのであれば、やはり不思議に思えてしまう。
「…核は移動が出来るのなら、何故すでに勝敗が見えている現状でも逃げ出そうとしないで、あの場所で陣取ってるんでしょう……それに今さらですがこの広場……どう考えても核の生み出す魔物達にとって遮蔽物の無いこの広場は不利……寧ろ冒険者達に有利です」
木々が生えておらず、まるで広い運動場の様に開けた場所で待ち構えているというのは、核……というより魔物としての余裕?そんな訳無い……理由があるとすればソウルマンティス程度の大きさよりも、さらに大きい魔物が居るというのなら話は別……ッ!!
『――――■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!』
「「「「――ッ!!??」」」」
≪ゲート≫の外から響き渡って来る、聞く者の心に恐怖を与えるおぞましい叫び。
あぁそうか。と、僅かに感じていた違和感の答えが全て解ける。
「……逃げる必要が無かったって事ね…」
考えてみればこの核はあの特殊個体が生み出した物だったんだ、その生みの親がここに来ない保証など一切ない事を頭の中から失念していた。
「うひぃ……大ピーンチ」
≪ゲート≫の外に見える黒い巨獣……魔狼の姿を見ながら、俺は苦笑いを浮かべる。




