―転移―
「フハハハハッ!待っていたまえ我が妻よッ!!今迎えに行くぞッ!!!」
「―――え?ちょッ!?あの人誰!?ってどわあぁ!?」
「え?――きゃぁーッ!!」
「おいおい!?ソウルマンティスを引き連れてくんな馬鹿野郎!?」
戦場を縦横無尽に駆け回るどう見ても戦闘職ではない男…エルデン。
彼は何故か妻と呼称する【魔の森】の核に向けて、周りの迷惑を考えずに行動を開始していた。
何故、エルデンは戦場を駆け回っているのかと言えば、単純な話だが、彼と核の間には数多くの魔物達がひしめき合っている。
なので、核まで一直線に向かおうとしてしまえば問答無用でエルデンは魔物達の群れに蹂躙され、核に辿り着く事無く命を落としてしまうのは明確。
以前から魔物に殺されるのも本望としていたエルデンではあるが、目の前に魔物の母である核があるというのにそれを【鑑定】せずに死ぬのは惜しいのだろう。
故にエルデンは遠回りをしたのだ。
魔物達を避ける様に大回りをし、出来るだけ魔物の少ない場所を探し求める為、この広い戦場を駆け回っていたという訳だ。
……まぁ、後ろに引き連れた魔物達を他の冒険者達へ擦り付けるというある意味悪意あるトレイン状態にもなっているので、他の冒険者達からしたらたまったものではないが。
「ッ!!見つけたぞッ!いざ行かん!栄光なる我が未来への道ッ!!!」
他人の迷惑を考えずに行動していたエルデンが、ついに魔物の群れの切れ目となる場所を発見し、声を発すると同時に走る方向を変え、真っ直ぐ核の場所へと走り出す。
しかしこのまま走って行けば、核に近づくエルデンに気が付いた魔物が敵を排除しようと迫ってくるのは確実。
だが、致命傷は受けるかもしれないが、まず間違いなく核にまでは辿り着く、それがわかっているのかエルデンの表情はとてつもなく晴れやかである。
「フハハハハッ!!腕の1本や胴体の2.3本いくらでもくれてやろう!だが、我が覇道を止めれる者はどこにもいな―――」
「―――はーいストップ!!いい加減にしてくださーい!」
―――スポンッ…と聞こえないはずの音がまるで聞こえるような程、綺麗に俺の【アイテムボックス】へ消えていくエルデン。
『なッ!?ここは…【アイテムボックス】の中…だとぉ!?な、何故だ!?コナー殿は先程までもっと後方にいたはずッ!?』
「ふっふっふ……それはですね…ッと!悠長に説明するのは後でした!リャーナさん!”おてて魔法”行きますッ!」
エルデンの驚愕とした声を聞きながら、周囲に魔物達が居るこの空間で長話は良くないと話を遮り、エルデンを捕まえる為に開いた≪ゲート≫を閉じ、おてて魔法用の小さい≪ゲート≫を再度開き直す。
「ギシャァァーーー!!」
エルデンを追って近くに来ていた魔物達もいきなり現れた俺に警戒をしていたようだが、狙っていた獲物が消えた事に気が付いたのか興奮したように突撃してくる。
「…【トランスファー】!」
近くまで来たソウルマンティスの一匹が俺のいる場所目掛けて腕の鎌を勢いよく振り下ろす……が、鎌が当たる寸前に俺の身体は、その場から数十メートル後方の…先程エルデンが≪ゲート≫を飛び出した最初の位置に瞬間移動をしていた。
「ふぅ…ありがとうございますリャーナさん」
『いえ…こんな芸当が出来るのもコナー様あっての事ですので』
瞬間移動…こんな芸当が出来るのはもちろん、【アイテムボックス】の中に入ってもらっているリャーナのスキル【トランスファー】の力だ。
【トランスファー】というスキルは主に、物の移動や転送する事の出来るスキルらしく、リャーナが手に触れたモノを目視で見える範囲全域、もしくは事前に転送する場所を決めておけば数十キロだろうと瞬間移動させられるのだとか。
……ハッキリ言って、俺の【アイテムボックス】に比べれば破格のチートスキルに感じるが、どうもリャーナの話しではそこまで便利なスキルではないらしい。
なんでもスキルで転送出来る対象は個別にしか出来ない……つまり、人間を転送する場合は1人1人順番に飛ばす事しか出来ないらしい。
他にも自分自身…リャーナは転送の対象には選択出来ない点や【SP】の消費もそこそこ高い為、20人以上転送は出来ないなど、色々と不便が多いらしい。
―――では何故、今コナーを“転送”させたはずのリャーナの声が聞こえるのか?
ある程度想像がつくかもしれないが、簡単な話だ。
俺の【アイテムボックス】にリャーナ本人が入った状態で俺を目的の場所まで転送させ、開いた≪ゲート≫を閉じて、再度目の前で開き直せばいい。
そうすれば、リャーナ本人が転送出来なくとも問題などない。
寧ろ俺の【アイテムボックス】を利用すれば、リャーナの言っていた【トランスファー】の不便はほぼ全て解消できる。
自分自身の移動は今やって見せたように。
一度にまとまった人数が遅れないのも俺の【アイテムボックス】に数十でも数百でも押し込んで、俺だけ転送すればいい。
消費【SP】も俺だけの転送なら無問題。
つまり、俺の【アイテムボックス】とリャーナの【トランスファー】は抜群に相性が良かったのだ。
ではなぜ、最初から【トランスファー】を使わなかったのか?
それはリャーナ曰く『転移系のスキルは知られれば悪用される危険性が高いので、緊急時以外は使用を隠すのが鉄則』なのだとか。
【アイテムボックス】も中に人を連れ込んで誘拐に使われるという風評被害があったように、転移系のスキルは窃盗や殺人などを証拠を残さずに簡単に出来てしまうスキルと認識されているらしい。
俺としては『そんなこと言ったら魔法系のスキルだって簡単に人を殺せるじゃん?』とは思うが、リャーナの『では手頃な石ころを人体の中へ転送させて殺した場合、どうやって犯人を見つけますか?』と言われて言葉を紡げなかった。
確かにその場合、周りにいた転移系のスキル持ちが犯人だと思われる可能性は高いが、リャーナの言いたかったのはそう言う事ではないだろう。
別に石じゃなくとも毒やナイフを転移系のスキルを使ったとは見えない様に転移させればいいのだ。
毒は胃の中へ、ナイフは誰かに刺されたかのように柄は体外で刀身は体内といった具合にすれば、誰も転移系のスキルが使われたとはわからない。
ただでさえ転移系のスキルが少ないのであれば、寧ろバレる可能性は限りなく薄くなる。
なので、転移系のスキル持ちは完全犯罪が可能…と思われる事が多いだろう。
俺も【アイテムボックス】を使った誘拐などの犯罪を疑われた事はあるので、それならば【トランスファー】の使用を控えていたのも納得できる。
それにリャーナ的には俺を転送した後、自分がきちんと【アイテムボックス】で移動が出来るのか確証がなかったので、エルデンが逃走したこの時までスキルを使うのを躊躇していたのだとか。
『思いの外上手く行きすぎて、少々驚いておりますがこれならば安全に移動が出来ますね………本来はコナー様に危険が及んだ際に安全な後方まで【トランスファー】で逃がす段取りでしたが、まさかコナー様を矢面に立たせてしまう結果になるとは』
なるほど、だからリャーナが俺の護衛に割り振られていたのか。
「こんなの問題ないですよ。もし自分に危険が迫ってもすぐに【アイテムボックス】に逃げ込みますし、今はリャーナさんの【トランスファー】もありますからね。安全面は完璧です」
『…微力ながらお手伝いさせてもらいます』
やっとの事おバカを捕まえたのだし、本来の目的である安全地帯を設置する為、急いで準備に取り掛かりつつ、核の情報を全員に共有する為に行動を開始するのだった。




