拾った命と、あらぬ誤解。
「ぷにーん…ぷにーん」
「あ!こら溶かそうとするな!ダメだってば!」
「すぴー……すぴー……」
目の前にはスライムがベットで眠るフォルンへ近づこうとするのをルイが必死で木の棒で追い払っている。
「うーん……どうしよう?」
結局、あの黒い獣に襲われたスライムは衝動的に≪ゲート≫を通れるように許可を出し、【アイテムボックス】の中にスライムを招き入れた。
外ではいきなり甚振ろうとしていたスライムが変な空間に消えて行ったのを見て暫くその場で訝し気に≪ゲート≫の様子を見ていたが、自分からは何もできず何も反応が無い事に飽きたのかまた他の魔物達を甚振りに走り去ってしまった。
で、招き入れたスライムはやはりというかなんというか……普通の魔物らしく敵対してきた。
「んー…やっぱりテイムとか従魔に出来たりとか都合のいい感じにはならないよなぁ」
個人的にはあわよくば自分の事を助けた俺達と友好関係を築いてくれたらいいなぁとか考えていたが、そんなご都合主義は無かったらしい。
幸いな事にスライムの移動はかなり遅く、イモムシレベルなので木の棒を使って遠くに放り続ければこちらに被害はない。
「あぁーもう!ぷにぷにしてて木の棒じゃ押しづらい!しかもどんどん溶けてってるー!ご主人!このこどうしよう!」
「あー、木の棒もまだ≪ゴミ箱≫に沢山あるけど……流石にこのままだといつか体力が尽きてこっちが溶かされるか。……やっぱ外に放りだすか?」
折角助けたが、自分達の命より優先するつもりは無いので再び外へ放り出そうかとも考える。
「………んー……一旦≪ゴミ箱≫に隔離して様子をみようかな?……生き物も『模様替え』出来たりするのかな……お、出来そう」
一度助けた命をすぐに見捨てるというのもアレかと思ったので、一旦保留とする為≪ゴミ箱≫へ隔離しようと決める。
≪ゴミ箱≫へ連れて行く方法は、近くに≪ゴミ箱≫へ通じる≪ゲート≫を開いて放り込むという手段だが、折角昨日レベルが10に上がったのだし、『詳細設定』を使えないかと『模様替え』を開いてみると、どうやら生き物の移動も出来るようだ。
「スライムを≪ゴミ箱≫へ移動…と」
「もうしつこいこいつー!!…ってあれ?消えた」
『模様替え』でスライムの位置を≪ゴミ箱≫へ移動させるとスライムが一瞬で消え去り、ステータス画面上で≪ゴミ箱≫の方にスライムの名前が移動しているのが確認できた。
「ごめんなルイ。もうスライムは移動させたから大丈夫だよ」
「あ、ありがとーご主人!あのスライム、折角助けたのに薄情な奴だよ……」
ルイは頬を膨らませ、若干の怒りを表現するが、本気では無いのかすぐさま元の表情に戻り俺の元に駆け寄ってくる。
「ご主人、あのスライムはどうするの?飼うの?」
「飼う……のはまず無理じゃないか?俺達を見たらあのスライム無条件で襲ってきそうだし。精々一つの部屋に隔離しておく位しか出来ないかな?」
「そっかぁ……あの≪ゲート≫にへばり付く姿、結構可愛かったんだけどなー」
見えない壁にへばり付くスライムの姿は確かにこう……間抜けで可愛かった気はするが……流石にこちらを溶かしに来る魔物を飼うのは根本から難しい。
一先ず、問題は先送りにしようと結論付けた俺達は、スライムの事は一旦放置。
一番の優先事項はこの場からの脱出……なのだが。
「……あれ?アイツは?」
「えと……あ、アレじゃない?」
スライムの件で≪ゲート≫の外に目を向けていなかったが、どうやらあの黒い獣と甚振られている魔物達は≪ゲート≫の位置からかなり離れた所に行ったようだ。
時間にすれば10分程だろうか?その間に甚振られていた魔物達が黒い獣から逃げようと必死に足を動かしていたおかげだろう。
今ならば静かに移動すれば、あの黒い獣の目を誤魔化してこの場から逃げる事も出来るかもしれない。
ならばと俺は≪ゲート≫の外に少しだけ指を露出させ、風の向きを確認する。
「黒い獣のいる方向からこっちは風下……臭いも向こうに流れる事はない…なら今なら行ける!」
俺はルイに留守番を言い渡し、黒い獣がこっちに戻ってこない内に≪ゲート≫から外に出て、王都のある方向へと足音を鳴らさぬように素早く移動を開始するのだった。
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「―――特殊個体ッ!?」
黒い獣に気が疲れぬように暫く自分の足で移動し、目測で1キロ程離れたかどうかのタイミングですぐさま馬に乗り換え王都へと急いだ俺は、王都に到着早々特殊個体の事を報告する為、冒険者ギルドを訪ねていた。
「はい。黒いウルフ系の魔物で、大きさは人間2,3人程で他の魔物を甚振って楽しんでいるようでした。強さとかはわからないですけど、ビッググリズリーなんかよりも遥かに強いって肌で感じるレベルでした」
「ビッググリズリー……昨日魔物の出る樹海で遭遇したんでしたね。そのビッググリズリーよりも遥かに…ですか」
素人感覚では当てにはならないかもしれないが、どれだけ感覚が鈍かろうともあの黒い獣の強さがビッググリズリーよりも下な訳はないので自信をもって受付に伝える。
「特殊個体の発生となれば今の冒険者ギルドに在中する冒険者達だけでは戦力不足ですね。せめて【魔の森】に向かった方々が居ればまだよかったのですが…」
「……王国騎士団の方は?」
俺の問いかけに受付の人は首を横に振る。
「【魔の森】発生の知らせを受けて出動の準備はしているようですが、未だ何時出発出来るかの目途も立っていないとか……ましてや特殊個体も出たとなればさらに出動が遅れる可能性がありそうですね」
う~ん…これは色々とまずいかな?
てっきり特殊個体の報告を上げれば国が率先して動いてくれるかと思ったけど、色々と準備が間に合っていないらしい。
「そうですか……ひとまず俺はメルメス……フィッシュナート家の方にお世話になってるので、そっちにも報告しに行こうかとおも―――「コナーさぁぁぁぁんッ!!」――うおッ!?ってリルットさん?」
報告も終えたし、そろそろメルメスの方にも報告をしに向おうかと思ったら、ギルドの奥の方から走り寄ってくるリルットに思わず驚きの声を上げる。
そういえば、特殊個体の件で忘れてたけど本来リルットを迎えに来るのが本命だったなと思い出す。
「もう待ちきれないんですッ!早く……早く(アイテムボックスに)入れてぇぇぇぇぇ!!!」
「おいこら主語を抜かすなぁぁぁぁぁッ!?」
リルットの叫びに周りから『えッ!?挿入れて?』『おいおい、まだ日は落ちてねぇのにどんだけ盛んなんだ?』『あんな必死に懇願される程のご主人様……ゴクリッ』とざわざわとした噂が流れだす。
「もうお預け何て嫌……もうあのドロリとしたアレが忘れられn「ワザとかこらぁッ!?≪ゲート≫ほら!さっさと入れッ!」あんッ!きたぁぁぁぁ―――」
俺は急いでこのバカを【アイテムボックス】へ入れ、事態の収拾を図ろうとするが。
『【アイテムボックス】で攫った…!?』
『おいおいおい?性犯罪の現行犯か?』
『いや!あの女は自分から入っていったし、入る前からも色々ヤバイ事言ってたから…同意の上なんじゃないか?』
『『『『つまり同意の監禁プレイ…』』』』
「あ…」
そ、そうだったー!?世間一般的に【アイテムボックス】って人攫い系の犯罪で印象が悪い一面があるんだった!そりゃ今の流れで【アイテムボックス】に入れたら犯罪臭しかしないわ。
「いや、ちょ……ちが――」
――ぽんっ
「へ?」
周りのある事無い事言い始める声に否定を入れようと声を上げかけた俺の肩に、優しくも力強い手がそっと置かれ、後ろを見ればにこやかな表情を浮かべた受付の男性。
「――少々奥でお話よろしいでしょうか?」
「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうッ!?!?」
……結局俺がギルドを出る事を出来たのは、それから約1時間後だった。




