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特殊個体






 …場所は【アイテムボックス】の一室、外には俺達には手に負えない強力な魔物、そしてそれを観察しながら安全になるのを待つ俺達。



「……デジャビュ…?」



「……昨日の今日でまた同じ展開になるとは…」



「ご主人!まだ野営が決まった訳じゃないよ!あの魔物がすぐにどっかに行けば問題ないよ!」



 【アイテムボックス】に逃げ込んだ俺は、昨日と同じように≪ゲート≫を通して外の様子をルイとフォルンと一緒に確認しながら『今日も野営かぁ』と憂鬱気味に呟く。



 ……っていうかフォルン『デジャビュ?』っていうけど、お前は昨日殆ど寝てて居なかったじゃん。



「あの黒い魔物……まだ他の魔物達を甚振って遊んでるな。少なくとも俺を狙っているような感じはしないな」



「……魔物が他の弱い魔物を捕食するのは普通の事だけど、あんな弱い物苛めみたいな事する個体は初めて見た。多分ウルフ系の魔物だとは思うけど……特殊個体?」



「フォルンも知らない魔物なのか?」



 見た目は真っ黒の体長3メートル程の狼型の魔物。

 目は若干赤みの入った黒で、爪は≪ゲート≫越しでも見える程長く鋭利。


 今は魔物を甚振る事しかしていないが、奴が本気を出したらゴブリンなど一瞬で3……いや、5枚に裂かれるだろう。



 それほど凶悪な見た目の魔物が知られていないとなれば、恐らくフォルンの言っていた特殊個体。つまり種として確立した魔物では無く、突然変異で生まれたイレギュラー。



 俺は詳しくは知らないが、フォルンが言うには特殊個体の発見報告は数十年に一度あるかないかというレベルらしく、討伐して素材や魔石などを回収した際にはかなりの金額がギルドと国から褒賞として渡されるのだとか。



「噂じゃ、前回討伐された特殊個体は30年前で、サル型の魔物だったらしいけど、その時は数千人規模の被害を出して討伐したって話だよ。報奨金は確か……聖金貨100枚?だったかな」



「聖金貨?」



 そういえば、金貨よりも上の貨幣があるって聞いた事あったな…。

 もしかして金貨10枚でその聖金貨という貨幣になるのか?だとしたら…



「あ、コナーは知らない?聖金貨は金貨が1000枚で1枚の貨幣なんだけど」



「―――1000ッ!?」



 は?え……つまり、前世の円計算なら金貨一枚大体10万円くらいのはずだから……一枚で一億…?



「せ、聖金貨…100枚って…事は…100億円……」


 

 桁がもう馬鹿にしてるレベルだな…。そりゃ一般市民が使う機会がある訳無いんだし、商会の人もきちんと教える訳もないか。



「オクエン?なにそれ?……まぁあの特殊個体を倒せれば一生使いきれない財産を手に入れられるって訳だけど、まず私達じゃ死んじゃうだろうねぇ」



「ご主人が死ぬ危険があるならお金なんていらないよ。そんなことしなくてもご主人はすごいしね!」




「あはは…ありがとルイ。…確かにあの魔物を討伐するとか無理だし、仮に討伐出来ても聖金貨100枚(100億円)とか持ちたくはないな…」



 絶対国から目を付けられるし、他の人達にも変な目で見られる。

 もしかすれば金目的で犯罪者が押し寄せてくる可能性も考えたら俺は自分の稼ぎでゆっくりと人生を謳歌したい。



「俺達は無理をせず、あの魔物が居なくなるのを待つ!それで王都に着いたらあの魔物…特殊個体の情報をギルドに伝えに行く。それでいいかな?」



「うん!」「いーよ」



 行動方針も決まった所で、俺はもう一度≪ゲート≫の外へ目を向ければ、未だゴブリンやスライム達を殺さない様に甚振る黒い獣の姿が目に留まる。



「……こうやってみると甚振られてる魔物が可哀そうになるな」



「いつもはこっちを襲ってくる危ない魔物でも、こんなの弱い者いじめにしかならないもんね」



 見ていて気持ちがいいものではないし、何となく見る事しか出来ない自分達にほんの少しの罪悪感を感じてしまう。



「……そう?弱肉強食の定めだと私は思うけど……ふぁぁああ……ゴメン、寝ていい?」



 うーん…フォルンはもう少し……いやいいか。



 俺とルイが妙なしんみり感を出している所に我が道を行くフォルンの発言に呆れつつも、ため息を吐きながら『どうぞご勝手に』と許可を出す。

 



「んー…んじゃおやすみぃ……」



「自由だなぁ…」



 俺が言えた事じゃないけど、もう少し緊張感を持ってくれてもいいんじゃないかな?と考えるのはおかしいのだろうか。



「あ、スライム…」



「ん?……こっちに逃げて来たのか」



 と、少しばかり≪ゲート≫から目を離していたら、ルイが声を上げる。



 どうやら黒い獣の蹂躙からこそこそと逃げ出してきた一匹のスライムが、≪ゲート≫のあるこちら側にズリズリと近寄って来ていた。



「俺が≪ゲート≫に消えたのを見てて、ここに逃げ道を求めて来たのか?でもこの中には入れないぞ」



『――ぷに』



「あ、≪ゲート≫にぶつかってる」



 基本的に俺の【アイテムボックス】に入れない設定にしているモノは≪ゲート≫に阻まれて中には入れない。


 昔、ベルフ兄さん達と【アイテムボックス】を調べていた時は俺以外の生き物は入れない設定になっていたが、今は俺が許可した人間と馬などの動物は入れるようにイメージで設定をし直している。


 もちろん魔物は侵入不可だし、いくら入って来ようとしても今のスライムの様に≪ゲート≫の見えない壁が魔物の侵入を拒む。



『―――■■■■■■■■■?』



 そして侵入を拒む相手がどれだけ強力な力を持っていようとも決して≪ゲート≫を抜ける事は出来ない。


 だが、あまりに強い力で≪ゲート≫に侵入しようとすれば少しだけ見えない壁の()()が変わる。



「あ、危ない!」



 一匹のスライムが≪ゲート≫にへばり付いている様子を不可解な目で見ていた黒い獣が、興味本位でスライムを小突こうとこちらに走って来る。



 ―――スッ……



「う……?」



「ん、スライムは…ちょっと吹き飛ばされたけどやっぱり殺されてないな」



 黒い獣は≪ゲート≫を()()()()ながら、壁に引っ付くように伸びていたスライムを吹き飛ばすと、満足したようにまた他のゴブリン達を甚振る為に走り出す。



 実はこの≪ゲート≫の見えない壁、ある程度の力以上で押し込むと侵入を拒むのではなく、そもそもそこに何も無かったかのようにすり抜けてしまうのだ。



 何故すり抜ける様になっているのかはよくは知らないが、この仕様のおかげで俺はこの【アイテムボックス】の中は絶対に安全だと確信する事が出来た。



 何故なら侵入を拒む壁がどれほどの強度を持っていようと物理的に触れるのなら強度の限界は必ずある。この世に絶対防御などはあり得ないし、仮に絶対防御があったとしてもたかが【アイテムボックス】にそんな大層な性能は無いはずだ。

 だが、壁をすり抜けてしまうのなら強度もクソもない。

 力尽くでは侵入不可なら、それはもう安全と同義。(まぁ他人の【アイテムボックス】に侵入出来るスキルといった狙いすましたかのようなスキルが無ければの話しだが)



 ただ一つ思うのは、もしも≪ゲート≫の見えない壁がすり抜けない上に、絶対防御の無敵の壁だったら俺でも魔物を倒す方法もあったとは思うので、少しだけ残念に思った事は何度かはあるのだけど。(突進してきた魔物の首をへし折るなど)



「あ、またあのスライム、こっち来てるよご主人」



「え?なんでだ?こっちに来ても安全じゃないってわかったろうに」



 自分の【アイテムボックス】の安全性について考え込んでいたら、先程吹き飛ばされたはずのスライムがまたもこちらに向かい這いずりながら近寄ってくる。



『―――ぷに…』



 そして、またも≪ゲート≫の見えざる壁にへばり付きながらこちら側に侵入しようとしてくる。



「そんなに頑張ったって入れないぞ?あの黒い獣に気が付かれる前に遠くに逃げろ」



「そこにいるとまた吹き飛ばされて痛い目に合うよ!ほら早く逃げなよ!」



 流石に2度も縋られると魔物とはいえ多少の申し訳なさを感じる。

 


 俺は『シッシッ』と言わんばかりに≪ゴミ箱≫に置いていたただの木の棒でスライムを小突いて追い払う。



『みにょん……みにょーん…』



「あ、なんか楽しい……って木の棒が溶けだしてきたッ!!」



「すごーい!ゆっくりだけど確実に溶けてってる」



 スライムは今まで一度も対峙した事は無かったが知識としてなんでも溶かし、なんでも栄養に変えるとは聞いていたが、こんな感じで物を溶かすのかと感心する。



『■■■■■■■■■ーー!!』



「ッ!まずい!!ほら!あいつに気づかれた!早く逃げろ!」



 ゴブリンを蹴飛ばした黒い獣が、再びこちらで変な事をしているスライムに目を付けてダッと走りだす。



『ぷに…ぷにーん……ぷにぷに』



 スライムに危険を知らせようと溶けかけの木の棒で再度突きまくるが、スライムは一切この場から逃げようとしない。



「もうアイツ来ちゃう!どうしようご主人!」



「ぐッ……ったくもうッ!」



 別に助ける義理は無いし、何なら見殺しにするのが正解の場面だ。


 何故ならスライムは人類の敵、魔物なのだ。



 もちろん魔物としては最底辺に位置づけられる最弱種なのは間違いないが、歴史上スライムに殺された人間だって少なからずいるのだ。



 だから魔物を助けるなんて普通はしない。だが、この短い時間……時間に換算すれば、恐らく5分も経っていない時間で俺はこのスライムに情が移ってしまったんだ。




「ほら!さっさと入れッ!」



『ぷに……―――ぷにーん!!』



『■■■■■■■■■ッ!!!』









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