異世界での反撃6
まるでダンスのようだとはよく表現したものだ。
氷の煌きと大地の躍動が祭に湧く熱気のようで。
人々の高揚と、場の情熱が形になったような激しくも美しい戦いだった。
力をぶつけあう本人とその周りの兵たちには全くそんな気はなかったが。
デュラが大地を持ち上げる。
自分の何倍もの質量を操作するのは、体力を消耗する。
だが、デュラは手負いの割に息も切らさず、まるでおもちゃの積み木でも投げるかのようにユーキめがけてその塊を投下した。
せまる土塊を冷静に睨み付け、ユーキの腕が一閃。
土塊中の水分を蒸発させ、粉砕する。
細かな砂状になった塊が雪のようにあたりに散った。
太陽光を反射し、きらきらと光る。
水分を失い軽くなった土をデュラが再び集約し、波のようにユーキを襲う。
ユーキの周りに氷壁の壁が現れ、砂の波が割れた。
互いの詠唱が交互に紡がれ、ルールにのっとった試合のように次々と技が繰り出された。
二人の戦いに、アヅマは手を出せなかった。
それほどに、ユーキとデュラの戦いには隙がなく、内戦下にあって手練れているともいえた。
ラフテルは別の感情を抱いていた。
城内が荒らされていくのを目の当たりにし、悲しいかな修復費用と内戦下の王城内という特殊環境の為の工員の人選に頭が痛い思いだった。
だが言い換えれば、そんな事を心配するほどになぜか安心できる戦いだともいえた。
「そろそろ疲れませんか」
ユーキが詠唱以外の言葉を発した。
デュラの出血は多くはなかったが、負傷していることには変わりない。
「疲れたのか?」
皮肉って返すデュラのセリフを、ユーキはため息をつくことで受けた。
このままではただの消耗戦だと分かっていた。
アヅマも打開策が見いだせない。
「あなたたちは過去世界への侵略に成功価値をもっているのか?」
「お前はただこの世界を荒廃させることが最良だと思っているのか?」
お互いの陣営の主張が平行線であることは延々続く内戦の中で確認済みである。
それでも問う。
大地属一統とはいえ、専制国家ではない体制下にあって権力の衝突は避けられない。
現在、世界は大きく二分されているので仲裁できる強い立場の存在もない。
どちらかが倒れるか、画期的な解決方法がない限り終わらない戦い。
そこに、普通ならば結ばれるはずのなかった楔による契約が結ばれた。
内戦を終わらせるという一点においては有効な手段だった。
まずは目の前の敵を排除しなければならない。
それが王子の結んだ根本的解決にはならないが、内戦終結に近づく契約の執行への一歩だ。
ユーキは笑みを含み次の詠唱を唱えた。
「すべての交わりを絶て。いかなる干渉も、降り注ぐ悪意も」
詠唱は、意思を形にすればなんでもよいとされている。
同じ水属でも、アナテイシアの詠唱は端的で短く、操る水にどういう形をとらせるかを重要視している。
一方ユーキは文章とする事が多い。
形を表す言葉よりも、どういった対応をするかという言葉で命じる。
それにより、防御ひとつとっても、一言で様々な対応を形作ることを得意とする。
ユーキの周りを水流が渦巻いた。
流動性のない氷よりも、勢いのある水流で盾をつくる。
ユーキの詠唱が終わる前に放たれた石の弾が、流れる水に弾かれた。
氷の壁であれば、貫かれていたかもしれない。
「サラブレットのお犬様より、王家の番犬のほうが格が上だと思い知らせてやりましょう」
どんな生まれであろうとも、自分がどうあるか。
アヅマにはそう聞こえた気がして。
力をふるうユーキに向け叫んでいた。
「勝て!ユース!」
「ご命令なくとも!」
一段と大きな水の気が集まった。
王城の内外で一瞬水の流れが止まったかもしれない。
それほどに大きな力の発動だった。