異世界での反撃5
大きく陥没した地面に兵たちの動揺も隠せなかった。
ユーキの眉間にもしわが寄る。
「おい、どうする」
問いかけを投げるほどに、陥没した地面の反応はない。
「……デュラの反応がない」
アヅマは答えた。
だが、落盤に巻き込まれて死んだとは考えづらい。
大地属のデュラが、土に囲まれて死ぬなどという事はあり得ない。
じっと、元素とのつながりを切って何かを待っている。
そうとしか考えられなかったが、その行動が読めない。
「囲むか」
ユーキがつぶやき、近場にいた兵に指令を投げる。
「3重に円形の遮断壁を作れ!半径20メートルだ」
命令に反応した隊長格の兵士が再び剣を掲げる。
短い詠唱の後に、キンと空気の鳴る音が響いた。
そして、さらに別の兵士が同じ動作を繰りかえす。
ユーキの命令のままに遮断壁が完成し、一隊はその周りを囲むように再配置された。
「……まさかもうここにはいないのではないか?」
ユーキの疑問に、アヅマも正確な判断を下せなかった。
「わからない。だが、地中を移動するとなれば俺にわからないわけがない」
「水属の兵も待機しているぞ」
「凍らせるか?」
二人が対応を逡巡している間に、変化は起こった。
一瞬の間に最内部の遮断壁内部に土があふれた。
それは爆発のようでもあり、膨張のようでもあり。
ぼこり、と。
そのまま遮断壁を持ち上げた。
「中にいる!」
アヅマが叫ぶ。
「まさか!」
粉のようになった土が、中で渦巻いていた。
その円運動の動力で障壁を破壊しようとしているのだと分かる。
「ユース!次だ!」
「第2隊!前へ!」
ユーキの号令に合わせ、待機していた水属の兵たちが前に進み出た。
前に出る動きと同時に、投擲の動作で兵士たちの上半身がしなる。
手の中には槍のように凍った水。
前列の兵士から順に、その氷の槍を放り投げていく。
槍が遮断壁にぶつかるその直前、破裂するシャボン玉のようにその壁が消失する。
枷を失った土の渦が、勢いそのままに飛散して密度をなくした。
拡大し穴の開いたところから、放たれた氷の槍が侵入する。
突き刺さり、そして射抜く。
「ぐ……っ!」
土に鮮血が混じった。
軽い落下音とともにデュラの姿があらわになる。
緑色の鮮やかな髪と、細い輪郭。
まるで女性のように整った美しい顔が、今は苦痛にゆがんでいる。
大腿に大きな傷を負っていた。
「デュラ!もう観念しろ!」
「何をだ?」
アヅマのセリフに、デュラは薄く笑みを浮かべた。
「お前は下がっていろ」
前に出ようとするアヅマを制し、ユーキが一歩前に出た。
「私は、ユーキ・ミカエリス・ティエラ。王城への不法侵入と器物損壊、そして叛意を罪状としお前を捕縛する!」
「ほう?シンクーの若様か。王室の犬め」
デュラは一層笑みを濃くした。
と、片手を大地につき一言、
「・・・・・・・・・!」
しっかりと念を込めた詠唱。
王家とムルヒの一族のみに伝わる、古い誘導文言。
元素に意志を伝える言葉。
その意味を今この場で知りえるのはアヅマだけだ。
「ユース!」
アヅマのひっ迫した声音に、その危険性を感じた。
ユーキは咄嗟に腕を顔の前で交差し防御姿勢をとる。
デュラの足元から一直線に伸びた固い土の切っ先が、ユーキの作りだした防御氷壁の2層を貫いた。
「……ちっ!私の防御を砕くとは……」
そのままユーキは間合いを取る。
「ユース!」
「大丈夫だ」
短く答え、ユーキは次の攻撃体制をとった。
「手加減はせんぞ?」
ユーキの言葉を受けて、デュラの目がきらりと力のこもった輝きを放った。




