悪役令嬢は、お友達を作ってはいけません!
レオニス殿下とのお茶会から数日。
私は、自室の机に向かって腕を組んでいた。
目の前には、私が昨日の夜から作っていたノート。
その一ページ目には、大きくこう書かれている。
『破滅回避計画』
「ふふふ……。」
我ながら完璧だわ。
前世では、テスト前になると計画表を作っていた私。
ゲームはやったことがなくても、作戦を立てるのは得意なのよ!
まず一つ目。
婚約解消。
……失敗。
「うぅ……。」
殿下、思ったより強敵ですわ。
普通は婚約を断られたら諦めるでしょう?
なんで「絶対に婚約します」になるのよ!
理解できないわ!
気を取り直して二つ目。
ヒロインの邪魔をしない。
これは大事よね。
悪役令嬢が破滅する原因は、大体ヒロインへの嫌がらせなのだから。
そして三つ目。
私はペンを走らせた。
『お友達を作らない。』
「これですわ!!」
ゲームの悪役令嬢って、取り巻きがたくさんいるイメージだもの。
つまり!
最初から誰とも仲良くならなければ、悪役令嬢にもなりようがない!
「わたくし、天才では?」
「お嬢様?」
サラが不思議そうに首を傾げる。
「今日は王宮のお茶会ですよ?」
「ええ。」
「だからこそですわ。」
私は立ち上がる。
「今日の目標は、誰とも仲良くならないこと!」
サラは少しだけ遠い目をした。
王宮の庭園。
同年代の令嬢や令息が集まっている。
みんな楽しそうに話しているけれど、
私は一人で紅茶を飲んでいた。
「完璧ですわ。」
誰とも話さない。
これなら友達はできない。
破滅回避、一歩前進。
その時だった。
「きゃっ!」
小さな女の子が転んだ。
持っていた本が噴水の方へ滑っていく。
「……。」
私は目を閉じる。
(助けてはいけません。)
(悪役令嬢ですもの。)
(友達になってしまいます。)
でも…女の子は泣きそうな顔で本を見つめている。
「…………。」
「もう!」
私はため息をついた。
「放っておけませんわ!」
走って本を拾い、ハンカチで水滴を拭く。
「はい。」
「ありがとうございます……!」
「礼には及びません。」
「…べつに、あなたを助けたかったわけではなく、視界に転んでいる者が映るのが不快だっただけですわよっ!」
私は優雅に微笑み(引きつっていたかも)、その場を去った。
(よし。)
(名前も聞いていない。)
(友達ではありませんわ。)
(セーフですっ!)
少し離れた場所で、レオニスはその光景を見ていた。
「殿下。」
「なんだ、セドリック。」
「あれがお噂のわがまま公爵令嬢でしょうか。」
レオニスは小さく笑う。
「違うな。」
「困っている人を助けて。」
「礼も求めず。」
「自分では当然だと思っている。」
「そんな人間だ。」
セドリックは思う。
(殿下。)
(まだ婚約して数日です。)
(もうかなり好きですね。)
帰ろうとした時。
「リリアーナ様。」
振り返るとレオニス殿下。
「こちらを。」
差し出されたのは、青い薔薇の刺繍が入った栞。
「本がお好きだと伺いました。」
「え……。」
私は固まった。
(イベントアイテム!!)
(攻略対象からプレゼント!!)
(これ絶対ヒロイン用では!?)
(受け取ったらフラグが立ちますわ!!)
頭の中で警鐘が鳴り響く。
でも断るのも失礼よね。
悪役令嬢になってしまうわ。
「……ありがたく頂戴します。」
殿下は嬉しそうに笑った。
「大切にしてください。」
「もちろんですわ。」
(魔法学園でヒロインに渡しましょう。)
(これでフラグ回収ですわ!)
その夜。
『破滅回避計画』
新しいページを開く。
・攻略対象からイベントアイテム入手。
・学園でヒロインへ譲渡予定。
「ふふふ。」
「今日も破滅を一つ遠ざけましたわ。」
窓の外では、その栞を選ぶために王都中の店を探し回った王太子がそんなこととは露ほども知らず、満足そうに星空を見上げていた。




