婚約破棄できませんでしたが、こんなことでは諦めません!
ー「婚約話、白紙に戻していただけませんか?」
「いやですね!」
「……失敗したわ」
婚約解消作戦、第一弾。
結果は、大失敗。
むしろ、
『絶対に婚約させていただきます』
という、とんでもない返事が返ってきた。
「どうしてそうなるのよぉぉぉ……」
…詰んだ。
婚約破棄できなかった。
どうしたらいいの?
っていうかなんで白紙にできなかったの?
傲慢でわがままでプライドが高い私の何がいいわけ?
殿下ってマニアック?変人?
枕に顔を埋めて叫ぶ。
悪役令嬢なら婚約破棄されるものではないの?
私はまだ何もしていない。
なのに婚約は継続。
このままでは未来に待っているであろう断罪イベントへ一直線である。
「……考えなさい、リリアーナ・アルディス」
前世でも、テスト前は最後まで諦めなかったじゃない。
きっとまだ方法はある。
そうだわ!
攻略対象に嫌われればいいのだ。
「完璧ですわ!」
勢いよく立ち上がった私は、部屋にいた侍女たちを驚かせた。
「お嬢様?」
「悪役令嬢とは、どのような女性か知っています?」
侍女たちは顔を見合わせる。
「気高く、堂々としていて、美しく、誰にも媚びない女性……でしょうか」
「まあ!」
なるほど。
悪役令嬢とはそういうものなのね。
私は大きくうなずいた。
「ありがとうございます!」
侍女たちは安心したように微笑む。
「お嬢様にはぴったりですわ」
「ええ。きっと立派な淑女になられます」
私は知らない。
彼女たちが言っているのは『理想の公爵令嬢』であって、『悪役令嬢』ではないことを。
ー数日後。
王宮でのお茶会。
私は今日こそ婚約解消への第一歩を踏み出すと決めていた。
「リリアーナ様、本日はありがとうございます」
レオニス殿下は今日も優雅に微笑む。
くっ……!
顔がいい!
でも負けないわ!
私は胸を張った。
「殿下、今日は殿下のお好きなお菓子を調べてまいりました!」
「……私の?」
「はい!」
好きなものを知れば嫌いにもなりやすい。
まずは情報収集である。
「紅茶は甘めがお好きですか? それとも香りの強いものがお好きですか? 読書は? 乗馬は? お花は?」
「…………」
質問を重ねるたびに、殿下は少し目を丸くした。
しまった。
聞きすぎたかしら。
よし。
最後の一撃。
「あら?わたくしの質問に答えられないというの?
わたくしが好みを聞いて差し上げているのに?
王太子といえど無礼ではなくて?」
どうです?この悪役っぷり!
特に気高さなんか際立っていたでしょう。
殿下もフリーズしてらっしゃるわ。
これなら婚約者失格。
きっと嫌われたわ!
そう思った瞬間、レオニス殿下は肩を震わせていた。
「……ふふっ」
「え?」
「すみません…答えなくて。
私に興味があるということでしょう。
嬉しいですね。
どんなことにもお答えいたしましょう」
「で、ですが!」
「あなたはいつも私を驚かせますね」
その笑顔は、どこか楽しそうだった。
リリアーナが帰った後。
レオニスは一人、窓の外を眺めていた。
「婚約を解消したいと言いながら、私の好きなものを調べてきた」
普通なら理解できない。
けれど。
「……面白い」
王太子として育った私の周囲には、いつも計算高い者ばかりだった。
媚びる者。
利用しようとする者。
顔色をうかがう者。
そんな中で彼女だけは違う。
本気で婚約を解消したがっている。
本気で自分の未来を心配している。
そして、その行動はいつも予想を裏切る。
「ユリウス」
「はっ」
どこからともなく黒衣の青年が姿を現す。
「お前に大事な役割を命じよう」
「護衛でしょうか」
「そうだ」
「彼女は、次に何をしでかすかわからない
それに、悪い虫がつかないように守ってくれ。
期待しているよ?」
私は得意の不敵な笑みを浮かべる。
「一つ残らず報告してくれ」
「……承知しました」
こうして誰にも知られぬまま、公爵令嬢リリアーナ・アルディスには護衛係がつくことになった。
もちろん本人は、その事実を知る由もない。




