共闘は不本意です
最近、私はある事実に気付いてしまった。
リリアーナ様は。
思っていた以上に天然である。
しかも重症だ。
「まあ!」
今日もリリアーナ様は楽しそうに笑っていた。
隣にはレオニス殿下。
当然のように肩が近い。
近いどころではない。
もはや近付くことが呼吸のように自然になっている。
そして。
その少し後ろにはアシュレイ様。
こちらも当然のようにいる。
なぜいるのだろう。
生徒会の仕事はどうした。
「楽しそうですね」
隣から声が聞こえた。
聞きたくない声だった。
私は視線を向ける。
案の定。
アシュレイ様だった。
「そうですね」
「棒読みですよ」
「そちらこそ」
「おや」
数秒の沈黙。
お互い笑顔。
でも全然笑っていない。
正直に言う。
私はこの人が少し苦手だった。
いつも余裕そうで。
何を考えているか分からなくて。
しかも。
リリアーナ様を見る目が明らかに優しい。
腹が立つ。
すると。
「アイリス様」
突然アシュレイ様が言った。
「何ですか」
「お互い苦労しますね」
私は反射的に答えた。
「意味が分かりません」
「本当に?」
「本当にです」
絶対分かっている。
向こうも。
私も。
その時だった。
「アイリスー!」
リリアーナ様が手を振った。
可愛い。
とても可愛い。
癒やされる。
「今行きます!」
私は即座に立ち上がった。
しかし。
同じタイミングでアシュレイ様も歩き出した。
「……」
「……」
狭い通路で鉢合わせる。
邪魔だ。
非常に邪魔だ。
「先にどうぞ」
「どうぞ」
「いえ」
「どうぞ」
数秒後。
二人同時にため息を吐いた。
「仲がよろしいですわね!」
遠くからリリアーナ様が微笑む。
「「よくありません」」
初めて意見が一致した。
その後。
リリアーナ様はレオニス殿下に連れて行かれた。
何やら王族関係の用事らしい。
「ではまた後でですわ!」
手を振るリリアーナ様。
そして去っていく背中。
静かになった中庭で。
私は小さく息を吐いた。
「寂しいですか」
アシュレイ様が言った。
少しだけ。
本当に少しだけ。
驚いた。
からかわれると思ったからだ。
「……そうですね」
私は正直に答えた。
「少しだけ」
すると。
アシュレイ様は苦笑した。
「実は僕もです」
思わず顔を上げる。
初めてだった。
この人がそんな顔をするのを見たのは。
「意外ですか?」
「少し」
「失礼ですね」
そう言って笑う。
いつもの余裕のある笑顔ではなく。
どこか寂しそうな笑顔だった。
その時。
なぜだろう。
ほんの少しだけ。
この人を理解できた気がした。
すると。
遠くから見慣れない男性が歩いてくるのが見えた。
銀灰色の髪。
整った顔立ち。
穏やかな笑み。
そして。
その人の視線は真っ直ぐリリアーナ様へ向いていた。
「また来たんですね」
アシュレイ様が呟く。
私は小さく頷いた。
最近。
あの人はよく学園へ来る。
リリアーナ様の義兄。
アルディス公爵家の養子。
アレクシス・アルディス。
一見すると優しい青年だ。
実際。
誰に対しても穏やかだ。
けれど。
私は何となく苦手だった。
理由は分からない。
ただ。
リリアーナ様を見る時だけ。
あまりにも優しいから。
まるで。
壊れ物を扱うように。
まるで。
世界で一番大切なものを見るように。
その時だった。
「……気付きましたか」
アシュレイ様が小さく言った。
「何をですか」
彼は少しだけ目を細めた。
「レオニス殿下が、あの人を見る時の顔です」
私は息を飲んだ。
確かに。
先ほどまで穏やかだったレオニス殿下が。
アレクシスを見た瞬間だけ。
笑顔を消していた。
王太子らしい冷静な表情。
だけど。
その奥にある感情は分かる。
警戒だ。
それもかなり強い。
「何かあるのでしょうか」
私は呟いた。
「あるでしょうね」
アシュレイ様も静かに答える。
風が吹く。
遠くでは。
何も知らないリリアーナ様が笑っていた。
だけど。
私にはそんな気がした。
レオニス殿下。
アシュレイ様。
そしてアレクシス。
いつか。
リリアーナ様を巡る大きな何かが起きる。
そんな予感が。
胸の奥で静かに広がっていた。




