リリアーナ様は誰のものでもありません!
最近、面白くない。
とても面白くない。
ものすごく面白くない。
私は食堂のテーブルへ突っ伏しながら、深いため息を吐いた。
すると向かいに座っていたリリアーナ様が心配そうに首を傾げる。
「アイリス、どうかなさいましたの?」
その優しい声を聞くだけで少し元気になりそうになる。
けれど今は駄目だった。
問題はそのリリアーナ様自身なのだから。
「リリアーナ様は最近お忙しいですね」
私がそう言うと、リリアーナ様はきょとんとした顔をした。
「そうかしら?」
「そうです」
「そうですの?」
全く自覚がないらしい。
私はさらに深いため息を吐いた。
昔はよかった。
朝は一緒に登校して。
授業の合間にお話をして。
昼食も一緒。
放課後も一緒。
それが当たり前だった。
なのに最近。
本当に最近。
邪魔者が増えた。
まずレオニス殿下。
この人は以前からいた。
いたのだけれど。
最近明らかに距離が近い。
近すぎる。
リリアーナ様が髪を乱せば直す。
転びそうになれば支える。
寒そうにしていれば上着を貸す。
何なのだろう。
保護者だろうか。
そしてアシュレイ様。
こちらも問題だった。
生徒会の仕事を理由に、何かとリリアーナ様を呼び出している。
最初は偶然だと思った。
でも最近は確信している。
絶対に偶然じゃない。
先日もそうだった。
せっかくリリアーナ様と二人でお茶を飲んでいたのに。
「リリアーナ様」
突然アシュレイ様が現れた。
「少し相談がありまして」
「まあ!」
リリアーナ様は嬉しそうに立ち上がる。
私は知っている。
相談など半分嘘だ。
いや、嘘ではないのだろう。
でも絶対に会う口実にもしている。
私は知っている。
「アイリス?」
いつの間にかリリアーナ様が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
いけない。
考え込んでいたらしい。
「何でもありません」
「本当ですの?」
「本当です」
「でも元気がありませんわ」
優しい。
本当に優しい。
だから困るのだ。
リリアーナ様は誰にでも優しい。
レオニス殿下にも。
アシュレイ様にも。
先生にも。
使用人にも。
平民にも。
誰にでも。
だから。
私だけ特別じゃない。
そんな当たり前のことを考えてしまう日がある。
もちろん分かっている。
私は親友だ。
十分恵まれている。
それでも。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
寂しくなることがあった。
「リリアーナ様」
「はいな?」
私は少しだけ唇を尖らせた。
「最近、私といる時間が減りました」
言った。
ついに言ってしまった。
リリアーナ様は数秒固まった。
そして。
「えええええっ!?」
食堂中に響き渡る声を上げた。
「そ、そんなことありませんわ!」
「あります」
「ありません!」
「あります」
「ありませんわ!」
「あります」
しばらく言い合った後。
リリアーナ様は真剣な顔になった。
そして。
「ごめんなさい」
小さくそう言った。
私は慌てた。
違う。
そうじゃない。
謝ってほしかったわけじゃない。
「違うんです!」
「アイリス?」
「その、別に怒っているわけではなくて……」
言葉がうまく出てこない。
恥ずかしい。
ものすごく恥ずかしい。
だけど。
言わなければ伝わらない。
「寂しかっただけです」
そう言った瞬間。
リリアーナ様の目が丸くなった。
数秒後。
突然。
ぎゅうっと抱きしめられた。
「り、リリアーナ様!?」
「アイリス!」
「はい!?」
「そんなことならもっと早く仰ってくださいませ!」
近い。
顔が近い。
「アイリスはわたくしの大切なお友達ですわ!」
「リリアーナ様……」
「誰より大切ですわ!」
「誰より?」
「もちろんですわ!」
私は少しだけ笑った。
たぶん。
レオニス殿下が聞いたら怒る。
アシュレイ様が聞いても怒る。
でも今だけは。
私だけの言葉にしておこう。
その時だった。
「へえ」
聞き慣れた声がした。
振り返る。
そこには。
笑顔なのに全く笑っていないレオニス殿下と。
穏やかな顔なのに何だか怖いアシュレイ様が立っていた。
「誰より大切?」
レオニス殿下が微笑む。
怖い。
とても怖い。
「僕も気になりますね」
アシュレイ様まで微笑む。
もっと怖い。
そして。
「まあ、お二人とも!」
当の本人だけが何も分かっていない笑顔を浮かべるのだった




