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17/22

噂以上に面白いお嬢さん

僕、アシュレイがリリアーナ・アルディスという名前を初めて耳にしたのは、入学して間もない頃だった。

正確には、彼女本人ではなく噂の方を先に知った。

アルディス公爵家の令嬢。

王太子レオニス殿下の婚約者候補。

そして――。

「かなり気の強い令嬢らしいですよ」

そんな話を何度も聞いた。

貴族社会では珍しくない。

家柄が高ければ高いほど、そういう令嬢はいるものだ。

だから僕も深く考えてはいなかった。

ただ、

ああ、またそういうタイプか。

と思っただけだった。

それからしばらくして。

今度は別の噂を耳にした。

「聞きましたか?」

生徒会室で書類を整理していると、書記が面白そうに言った。

「何をです?」

「リリアーナ様がレオニス殿下との婚約について何やら揉めているそうですよ」

僕は思わず顔を上げた。

王太子殿下との婚約。

普通の令嬢なら喜ぶ話だ。

それなのに揉める?

「何か理由が?」

「さあ。ただ、かなりわがままを仰っているとか」

なるほど。

そういうことか。

僕は勝手に納得した。

公爵令嬢。

高い身分。

恵まれた環境。

だから自分の思い通りにならないと気が済まない。

きっとそういう令嬢なのだろうと。

その印象は、その後もしばらく変わらなかった。

むしろ強くなったくらいだ。

「リリアーナ様がまた何か始めたそうですよ」

「あの令嬢は忙しいですね」

「迷子の新入生を全員連れて歩いていたとか」

「……は?」

意味が分からない。

と思ったら。

次の日には別の話が聞こえてきた。

「今度は保健室へ怪我人を運んでいました」

さらに翌日。

「猫と話していました」

本当に何をしているんだ。

だけど不思議だった。

噂で聞くリリアーナ・アルディスと。

実際に聞こえてくる行動が。

どうしても結びつかなかった。

わがままで、プライドが高くて、自分勝手な令嬢。

そんな人物なら、迷子の面倒なんて見ない。

怪我人を助けたりもしない。

誰かのために走り回ったりしない。

どちらが本当なのだろう。

そんなことを考え始めた頃だった。

「副会長」

会計が呆れた顔で言った。

「またリリアーナ様です」

「今度は何を?」

「昼食はみんなで食べるべきだと仰っているそうです」

僕は思わず手を止めた。

「……みんなで?」

「はい」

「なぜ?」

「取り巻きではなく、友達を連れているなら良い雰囲気な人だと周りに思ってもらえるわ!だそうです。」

意味が分からない。

本当に意味が分からない。

だけど、少しだけ興味が湧いた。

噂の令嬢。

わがままで高慢だと言われる令嬢。

そのはずなのに。

聞こえてくる話はどれも妙だった。

むしろ――。

お人好しにしか聞こえなかった。

だからその日の昼休み。

僕は自分でも驚くほど自然に中庭へ向かっていた。

少しだけ確認したかったのだ。

噂が正しいのか。

それとも、僕が知らないだけなのか。

そして見つけた。

大勢の生徒に囲まれながら笑う少女を。

そこにいたのは、わがままな令嬢でも、高慢な公爵令嬢でもなかった。

誰より楽しそうに笑い、誰より周囲を気遣い、誰より自然に人を集めている少女だった。

その時、僕は初めて思った。

――噂は当てにならないな。

そして、もう少しだけ彼女を知りたい、と。

だから僕は歩き出した。

気付けば視線は彼女だけを追っていた。

今なら分かる。

あれが始まりだったのだろう。

もっとも。

その時の僕はまだ知らなかった。

この先、僕がどれほど彼女に振り回されることになるのか。

どれほど好きになってしまうのか。

何一つ知らないまま。

僕は彼女の前へ立ち止まり、微笑んだ。

「――リリアーナ様、お話があるのです」

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