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12/22

ドキン、チクリ。この気持ちの正体は何ですか?

最近、少し困っている。

何が困るのかと言うと…。

「おはようございます、リリアーナ。」

その一言を聞くだけで、

どきん。

心臓が大きく跳ねるのよね。

最初は気のせいだと思っていたわ。

呼び捨てにされた日なんて、お顔が熱くなってしまって、高熱でも出たのかと思ったくらい。

でも。

次の日も。

その次の日も。

「リリアーナ。」

そのたびに胸が苦しくなって、落ち着かなくなるの。

これは一体、何なのかしら?

     

「リリアーナ?」

「は、はい!」

アイリスの声で我に返る。

「今日はぼんやりしていますね!」

「そんなことありませんわ!」

「本当ですか?」

「本当ですわ!」

勢いよく答えた、その時。

「リリアーナ。」

聞き慣れた穏やかなお声がしたわ。

「~~~~っ!」

気が付けば、わたくしは近くの柱に隠れていた。

「……?」

アイリスが不思議そうに首を傾げる。

「どうしました?」

「か、隠れておりますわ!」

「それは見ればわかります!」

「…………。」

落ち着きなさい、リリアーナ・アルディス。

公爵令嬢たるもの、殿方のお声だけで動揺してはいけませんわ!

そう思った瞬間。

「リリアーナ。」

また呼ばれた。

どきん。

「え……。」

胸が痛いくらいに鳴る。

前世で友達が言っていたわ。

…なんて言っていたかしら?

声を聞くだけで嬉しくなる。

会えないと寂しくなる。

この気持ちは一体…

両手で頬を押さえる。

8歳の頃の高熱以上に、頬が火照っていた。

     

帰り道。

一人で歩きながら空を見上げる。

婚約者。

……でも。

ふと現実に戻る。

ここは乙女ゲームの世界なのよね。

レオニス殿下は攻略対象。

でも、ヒロインはアイリス。

ゲームを知らないわたくしでも、それくらいはわかるわ。

きっと最後には。

殿下とアイリスが結ばれるのよね。

その隣に立つのは、わたくしではない。

「…………。」

胸が少しだけ苦しいわ。

幸せになっていただきたいもの。

この気持ちの正体は分からないけれど、誰かに殿下を奪われたくないと自分が思っていることはわかる。

でも、私は悪役令嬢。

ヒロインの引き立て役。

それが悪役令嬢のお役目なのよね。

「潔く身を引きますわ!」

そう決意したわ。


翌日。

わたくしは意識して殿下を避け始めた。

朝はアイリスと別の道を歩き。

昼休みは図書館へ逃げ。

放課後は誰よりも早く帰る。

完璧ですわ。

これならチクリと痛む心も薄れますもの。

……そう思っていたのだけれど。

「ようやく見つけました。」

突然、目の前に影が落ちる。

顔を上げる。

そこには、穏やかに微笑むレオニス殿下。

「殿下!?」

「最近、逃げていますね。」

「に、逃げてなど!」

「目が合うと方向を変えます。」

「偶然ですわ!」

「話しかけると柱へ隠れます。」

「偶然ですわ!」

「私が近づくとアイリス様の後ろへ回ります。」

「ぐ、偶然ですわ!」

殿下は小さく笑われた。

「リリアーナ。」

名前を呼ばれる。

また胸が苦しくなる。

どうして。

どうしてそんなに優しく笑うのですか。

「何かございましたか?」

そのお声は、本当に心配そうで。

その優しさが、余計につらい。

「…………。」

わたくしはゆっくり首を横に振った。

「ございませんわ。」

「嘘ですね。」

「え?」

一歩。

殿下が近づく。

逃げようとした瞬間。

そっと手首を掴まれた。

驚くほど優しく。

けれど逃げられないくらい自然に。

「あなたは隠し事が下手です。」

「…………。」

「困っているなら、私に話してください。」

その距離の近さに。

その穏やかな笑顔に。

その低いお声に。

どくん。

今までで一番大きく心臓が跳ねた。

辛い。

苦しい。

……でも。

この気持ちの正体に気づいていけないと直感が言っている。

殿下のお隣には、きっとアイリスが立つのだから。

そう決めたわたくしは、誰にも気付かれないように小さく微笑み、

「応援しておりますわ。」

と呟いた。

私の言葉に、殿下は何も言わなかった。

そして少し寂しそうな表情を浮かべ、

「わかりました」

何かあれば、相談してくださいね」

もう…やめて。

これ以上、優しくしないで…

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