新しい攻略対象は、生徒会副会長様でした!?
1つ前のエピソード、最後編集したので、そちらを確認してからお読みください。
「リリアーナ様、お話があるのです。ついて来ていただけますか?」
昼休み。
お庭でアイリス様とお菓子をいただいていたわたくしは、そのお声にゆっくり振り返りました。
そして。
「……まあ。」
思わず固まります。
そこに立っていたのは、それはもう麗しい青年。
陽の光を浴びて銀色に輝く髪。
宝石のような紫色の瞳。
立っているだけなのに絵になりますわ。
……はい、わかりました。
ゲームを知らないわたくしでもわかります。
この方、絶対に攻略対象ですわね!?
だって美形ですもの!
美形は攻略対象。
乙女ゲームのお約束ですわ!
「少しだけ、お時間をいただけませんか?」
青年は穏やかに微笑みました。
「ええ、もちろんですわ!」
わたくしは迷わず頷きます。
だって、断る理由がありませんもの。
それに!
この方をアイリス様へご紹介すれば、新たな恋が始まるかもしれませんわ!
これは破滅回避の大チャンスではなくて?
そう思って一歩踏み出した、その時。
「少々、お待ちください。」
聞き慣れたお声がいたしました。
「殿下、ごきげんよう。」
振り返ると、レオニス殿下がいつものように優雅に微笑んでいらっしゃいます。
……笑っていらっしゃいますわよね?
どうしてでしょう。
少しだけ背筋がひんやりいたします。
「どちら様でしょう。」
青年は綺麗に一礼しました。
「生徒会副会長、アシュレイ・ヴァレンティスと申します。」
「リリアーナ様へ少しご相談がございまして。」
「まあ!」
生徒会副会長!
肩書きまで攻略対象らしいではありませんか!
その時でした。
「リリアーナ!」
アイリス様が駆け寄ってこられました。
「どちらへ行くんですか?」
「アシュレイ様がお話したいそうですわ。」
そう答えた瞬間。
「だめです!」
「え?」
「知らない方について行ってはいけません!」
「でも、お話だけですわ?」
「それでもです!」
まあまあ。
アイリス様ったら、本当に心配性ですこと。
きっとお優しい性格なのですわね。
わたくしがほんわかしていると。
「副会長。」
レオニス殿下が静かに口を開かれました。
「彼女は私の婚約者です。」
「存じております。」
「でしたら。」
「だからこそ興味があります。」
……あら?
お二人とも笑顔ですのに。
周りの皆様が少し離れていくのはなぜかしら?
不思議ですわね。
するとアシュレイ様は、わたくしへ向き直りました。
「リリアーナ様。」
「はい。」
「生徒会には特別図書室があります。」
「まあ!」
「珍しい魔法書や植物図鑑もございます。」
なんて素敵なのでしょう。
でも、その次のお言葉で、わたくしは完全に心を奪われました。
「各国のお菓子の歴史をまとめた本もございます。」
「…………。」
え。
そんな夢みたいな本があるんですの?
読みたい。
すごく読みたい。
いえ、とっても読みたいですわ!
すると。
「リリアーナ。」
レオニス殿下が穏やかに微笑まれます。
「王宮にも取り寄せましょう。」
「まあ!」
さらに。
「リリアーナ!」
アイリス様がお目々を輝かせます。
「私も一緒に読みたいです!」
「もちろんですわ!」
皆様、本がお好きなのですね。
なんて平和なのでしょう。
アシュレイ様はそんなわたくしたちをご覧になって、小さく笑われました。
「噂以上に面白い方ですね。」
「?」
「今日はご挨拶だけにいたします。」
「またお誘いします。」
そう言って去っていくお姿まで絵になりますわ。
さすが攻略対象です。
わたくしは満足そうに頷きました。
(新しい攻略対象、発見ですわ!)
(アイリス様のお相手候補が増えましたわね!)
(しかも殿下とも普通にお話しされていますし。)
(これは順調そのものではなくて?)
一方その頃。
レオニス殿下は静かにセドリックへおっしゃいました。
「副会長について調べてください。」
「承知いたしました。」
その隣でアイリス様は、小さく頬を膨らませておられます。
「リリアーナは渡しません……。」
その小さなお声は、もちろんわたくしには届きません。
わたくしは紅茶を一口いただきながら、にっこりと微笑みました。
学園生活って、本当に楽しいですわ。
破滅回避も、きっと順調そのものですもの!
その日の夕方。
学園中に、一枚の紙が貼り出された。
『新入生親睦会 ペア対抗・魔法探索大会開催』
優勝者には、学園長秘蔵の魔導書と、王城の特別晩餐会への招待。
さらに、ペアは当日、くじ引きで決定されるという。
「まあ!」
わたくしは思わず声を上げました。
(これは間違いなくイベントですわ!)
(ヒロインと攻略対象が距離を縮める、乙女ゲームのお約束ですもの!)
(わたくしは全力でお二人を応援いたしますわ!)
そう固く決意していると。
廊下の向こうで、レオニス殿下とアシュレイ様が同時に、その張り紙を見ているわ。
「……くじ引きですか。」
「運任せは好きではありませんね。」
お二人は穏やかに微笑んでいらっしゃいます。
けれど、その笑顔を見た生徒会役員の皆様が、一斉に顔を青くされる。
「……まさか。」
「殿下、本気ですね。」
「副会長まで参加される気だ……。」
もちろん、そんなことなど知る由もないわたくしは、
(これでまた破滅フラグが一本折れますわね!)
と、満足そうに頷いた。
――しかし、そのくじ引きが学園中を巻き込む大騒動になることを、この時のわたくしはまだ知りませんでした。




