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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第73話 大仕事を終えたモブ、次なる死地へ……

 結局、俺は何か出来たんだろうか。

 店を出てすぐ、そんな事を思った。


 季沙の件は雪海が一人で何とかしてくれたし、俺が勝手に無理やり設けた交渉も、蓋を開けてみればグダりかけたところを梓乃李に助けられて。

 そりゃ勿論、結果だけ見れば俺の作戦通りだ。

 桜花のイベント対策として別の炎上事件をリークさせるのも、原作通りの正解択だったと思う。

 だけど、それは俺が一人で完遂して初めて頷ける結論だ。


 今回、俺は明確に梓乃李に助けられた。

 彼女が切り札を出してくれたから、完璧に事が済んだのだ。

 あのおっさん、かなりこっちの足元を見ていたからな。


 店の前でうんと伸びをする梓乃李に、俺は口を開く。


「……いつの間にあんな動画撮ってたんだよ」

「あはは。驚いたでしょ? でも私は君の手法を真似しただけだからね」


 手法というのは言わずもがな、俺が亜実達のいじめを止めた際のものだろう。

 思えば、同じような段取りだ。

 犯行現場を動画で抑え、それを脅しに交渉を進める——違うとすれば、俺と違って梓乃李はやり取りだけを録画し、変に自分の弱みを作らなかった事だろうか。

 動画にはばっちり茶桐のレイプ予告の発言が残っており、流石の雄三もフリーズしていた。

 少し、いい気味だった。


 梓乃李は自慢げに笑うと、手を後ろで組んで言ってくる。


「言ったでしょ? 君の事を見ておくって」

「……本当に、助けられたな」


 まさか自分が散々救おうとしてきたヒロインから助けられる日が来るとは、夢にも思わなかった。

 情けないと言えばそれまでだが、少し、嬉しかったのも事実である。


「大体、君は毎回無茶が過ぎるよ。あんな人に自分から交渉するなんて」

「お前だって弱みを突き付けて脅してただろ」

「一緒にしないでもらえるかな? あんなに目をつけられそうなこと言ってさ。喧嘩売り過ぎで見てて怖かったんだから」

「まぁそれは、そういう狙いだし」

「え?」


 今回、俺はわざと佐山雄三を挑発した。

 あからさま過ぎる程に強気に交渉したのは、計画の内なのだ。

 だからこそ、考える事が多過ぎて最後にテンパってしまったんだが、それはさて置き。

 この裏の画策に関しては雪海にも話していない。

 それに、これはあくまで俺の懸念する最悪の未来を防ぐために、軽い保険をかけたに過ぎない。

 この保険が発動する条件を今後満たさない事を祈るだけだ。


 困惑している梓乃李に苦笑し、俺は夜風を受けて深呼吸する。

 迎えの車が来るまで、まだ少しかかりそうだ。


「マジで、ありがと」


 ずっと黙っていた季沙が、隣で呟いた。

 見れば、珍しく目に涙を浮かべている。


「どうしたんだよ」

「ううん。ごめん、なんでもない」


 らしくない様子だが、まぁ仕方ないか。

 これまで自分を苦しめていた枷が、ようやく外れるのだ。

 茶桐叶矢は死に、佐山家との交渉も無事に終わり、今後は怯えて暮らす必要もなくなるわけで。


 とは言え、別に俺が何かをしたわけじゃない。

 むしろ、俺は利用しただけだ。

 桜花の炎上を有耶無耶にするために、この件に都合良く介入した。

 感謝される謂れはない。


「とよちんのおかげだよ」

「どこがだよ。俺は何にもしてないだろ。突破口を開いたのも、場を設けてくれたのも、実際に交渉したのも、全部七ヶ条先輩だから。それと、梓乃李のおかげだな」

「何言ってんの。七ヶ条センパイも、とよちんの相談だから動いてくれたんじゃん。とよちんがセンパイを頼ってくれたおかげでしょ。しのりんだって、とよちんに助けてもらった恩返ししただけじゃん」

「……」


 そう言えば以前雪海も言っていたっけ。

 俺に助けられた恩がどうとかって。

 梓乃李の助け舟も、俺が亜実達のいじめに介入していなければなかったかもしれない。


 だがしかし、今回の件で感謝を独り占めするのは抵抗があった。

 そこまでの恥知らずには、俺はなれない。


「納得してないっしょ」

「そりゃ、まぁ」

「あのさ、そういうの、フツーにやめてくんない?」

「え」


 急にキレられ、目が点になる俺。

 しかし、季沙の顔は少し呆れただけの優しい笑みだった。


「受け止めてくれないと、こっちの想いのぶつけ所もなくなるんだわ」

「なんか、ごめん」

「ってわけで、ちゃんと感謝されてねー。逃げるとか許さんから」

「あ、私も同感」


 ちゃっかり混ざってきた梓乃李にも言われ、俺は苦笑せざるを得ない。

 なんにせよ、とりあえず綺麗に片付いてよかったと、そういう事にしておこう。


 丁度到着した七ヶ条家の送迎車に、俺は急いで乗り込むのであった。



◇



 騒動が一つ終わり、周囲には平和な日常が戻ってきた。


 あれから、雪海は正式に見合いを断ったらしい。

 そんな話を何でもない風に告げられた。


『というわけで、私は依然フリーです』

『そうなんですね』

『はい。そうですよ、響太さん』

『……』

『うふふ』


 とかなんとか、若干危険なやり取りがあったが、それはまぁいいだろう。

 そして変化と言えば、季沙にもあった。


 あの交渉から二日明けた今日、思いっきり髪を切って来たのだ。

 トレードマークだったポニーテールを解き、ショートヘアに様変わりしてしまった。

 本人曰く、『まぁ前の自分にサヨナラって言うかさ。そもそも、ポニテってあんま好きじゃなかったんだよねー』だそうである。

 個人的に、柊季沙と言えばポニテだったため、若干ショックではあった。

 生前の『さくちる』プレイ時から馴染んでいたんだから、当然である。

 しかし、そんな残念な顔をしていると煽られるだけなので、平静を装った。


 動画の件だが、それについては昨日雪海と二人で確認したらしい。

 俺も途中まで付き合いはしたが、流石に季沙の行為動画を目にするわけにもいかないため、中の事情は聴いた話でしかない。

 もっとも、本人は『えー、見たいならいーよー?』とか言っていたが。


 茶番は置いておくとして、元動画は無事に確認できたらしいし、なんなら他の女の子の動画も色々出てきたのだとか。

 拡散された様子はないらしく、どの動画も無編集だったため、恐らく個人使用のみだったのだろうと言っていた。

 元々金に困ってはいない奴だ。

 あくまで脅しに使っただけで、ばら撒くメリットはなかったのだろう。


 また、今後動画がネット上で確認された際には、佐山家が率先して動いてくれるらしい。

 なんとも頼もしい事だ。

 弱みが世間にバレると困るため、アイツらも本気らしい。


 ちなみに、他に聞いてから驚いた事と言えば、それは茶桐が例の動画を身内間でも共有していなかったという点だろう。

 連絡先や履歴などもできる範囲でざっと洗い出したらしいが、他人に見せた痕跡がまるで一つもなかったのだとか。

 よくわからないが、やっぱりアレなのだろうか。

 自分のモノも映っているから他人に見せるのは嫌だったのだろうか。

 そんな事を気にする奴なのかは知らないがな。


 とかなんとか、いつものグループに関してはそんな感じだ。

 

 さて。

 とは言え、俺はのんきに過ごすわけにもいかない。


「忙しそうだね」

「そうでもないよ」

「ふふ、色んな女の子にちょっかいかけてるからだよ?」

「何の話だよ」


 例に漏れずぼーっとしていたところ、梓乃李が話しかけてきていた。

 ぐったりと彼女を見ると、珍しく愉し気な笑みを見せてくる。


「白城さん、炎上収まるといいね」

「……そうだな」

「どうせまた君がどうにかするんでしょ? 頑張ってね」

「……」


 暁斗にしろ梓乃李にしろ、俺を黒幕扱いするのが好きらしい。

 言う通り、ここから俺はアイツのイベントの回収に向かうわけだが、やりにくいったらありゃしない。

 と、梓乃李は耳打ちしてくる。


「信じてるからね」

「何をだよ」

「君が帰って来るって」

「……」


 一体どういう意味なのか。

 今から俺が死地に向かうとでも思っているのだろうか。

 それとも……。


 少し寂しそうな表情で離れていく梓乃李に、俺はため息を吐いた。


「善処します」


 俺にはこの破滅ヒロインから逃れる未来なんか、存在しない。

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