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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第70話 お嬢様の手腕と闇が深いお家事情

 作戦会議をした翌日の夜。

 俺達は早速、四人で佐山家との会食に臨もうとしていた。


 今回の相手は佐山雄三。

 雪海の見合い相手の父親であり、現県知事の大物だ。

 ……そして、先日死んだ茶桐叶矢の叔父でもある。


 こちらが複数人で押しかける事は知っている手前、先方も何かしら勘付いているだろうとは雪海が言っていた。

 具体的な今日の要件については言っていないらしいが、時期が時期なため、既に粗方を察している可能性もある。


 と、今の俺はそんな事よりも、正面に停まる黒の高級車に目を惹かれていた。

 夜に全員で着替えを済ませた後、学校の前で雪海の用意してくれる車を待機していたらこれだ。

 闇の中から現れたセレブなそれに、思わず息を呑む。

 俺だけでなく、季沙と梓乃李も同様に目を奪われていた。


「うわー、めっっっっちゃ高そー」

「俺達が知ってる車とは、桁が二つくらい違いそうだな」


 流石は財閥が所有する自家用車と言ったところか。

 呆けて眺めていると、開いた窓から雪海が顔を覗かせる。


「何を間抜けな顔で突っ立っているの? 早く乗りなさい」

「いや、ちょっと緊張しちゃって」


 言われて、つい自分の卑しさに顔が熱くなった。

 不思議なものだ。

 俺も世間一般では裕福な部類のはずだが、本物の金持ちを前にすると貧乏人ムーブになってしまうらしい。

 そして促されるまま後部に乗り込んだところ、今度は異様な圧迫感がさらに増した。


 人の車に乗る時は毎回少し緊張するが、それとは別の種類の強張りだ。

 自分には到底手が届かないだろうランクのモノに、土足で上がる恐怖と言うのだろうか。

 誤って汚した暁には、どうなってしまうんだろう。

 想像してゾッとする。


 あと、チラリと視界の端に入ったのだが、乗っている運転手の人も恐らく親御さんとかではなく、ただの使用人のようだ。

 今思えば、雪海以外の七ヶ条家の関係者と会ったのは初めてだったため、粗相がないか心配になってくる。

 最低限挨拶だけしておいたが、あの雪海の御付きだし、何が地雷にあたるかわかったもんじゃない。


 なんて思っていると。


「……な、なんか私、気分悪くなってきたかも」

「……梓乃李、絶対に吐くなよ。ここで吐瀉物をぶち撒けてみろ? 今世での終身隷属が確定するぞ」


 隣に座っていた梓乃李の青い顔を見て、震えた。

 今日、もしかすると生きて帰れないかもしれない。

 言っていて俺も尿意を催してきたし、最悪だ。


「……それは七ヶ条先輩の下で奴隷契約って事?」

「……あぁ。あんな事やこんな事、色々やらされるに違いない」

「……例えば?」

「……裸に首輪着けて、鞭打ちとか」

「……あー、性的な意味のペットって奴だ。響太君、よかったね」

「……何故お前は、俺がマゾ犬扱いされて喜ぶタチだと思っているんだい?」


 相変わらず、人聞きが悪い。


 あと実際、俺は知っている。

 雪海が本当にSMプレイ用の首輪や鞭を所持している事を。

 そして原作では、それが暁斗に見つかり、むしろ自分が着けさせられた状態でプレイに及ぶシーンがある事を……。


 流れで、今度はその恰好を梓乃李に置き換えて思い浮かべる。

 あまり胸のサイズ感に夢は詰まってない奴だが、その代わり腰から下のスタイルが極まっているからな。

 前に見たタイトスカートもなかなか良かった。

 ……うん。

 一旦これ以上考えるのはやめよう。

 

 意外と平気そうな季沙はさて置き、俺と梓乃李がぶるぶる震えていると、雪海が振り返ってきて心底呆れたような顔を見せてきた。


「貴方達……その感じで先方に口を利くのは勘弁してくれるわよね?」

「流石に分かってますよ」


 今のは軽い冗談だ。

 それも、かなり小声でのやり取りだった。

 何故雪海に聞こえているのかの方が謎だ。





 約束の店の前で、俺は雪海から視線を逸らしていた。

 彼女が車から降りてきた事で、その服装を初めて視界に入れる事になったのだが、それがいつもよりかなり気合が入っていて、気まずい。

 というか、言葉を選ばずに言うなら肌面積が多過ぎる。

 もう一声出すなら、エロい。


 胸元が大きく開いたタイトなドレスで、普段よりさらに大人びて見えた。

 綺麗な銀髪も相まって、同じ高校生とは思えない。

 ジャケットを羽織っているとは言え、胸元がチラチラと視界に入ってきて目の毒だ。


 と、そんな俺の反応にいち早く気付いた幼馴染さんは、俺と雪海の間を遮るように立っている。


「ふふ、別に見ていても構わないのに」

「……紳士なので、そういうのはちょっと」

「だ、そうだけれど羽崎さん」

「なんで私に振るんですか」


 顔を背ける俺と、半ギレの梓乃李。

 そんな後輩二人を揶揄ってご満悦のお嬢様は、通常運行だ。

 それを見て季沙の顔にも笑みが浮かび、雰囲気は上々。


 大事な食事前とは思えない程ほぐれた表情だが、これで良いだろう。

 緊張し過ぎても粗相をしかねないからな。


 それに季沙にとっては今日が、ここ一年間苦しめられていた事件が全て解決する決定的な一日になるかもしれないのだ。

 怖い大人と対峙する怖さはあれど、ようやく終わるという安堵もあった。

 程よい緊張感で丁度いい。


 ドレスコードがありそうな店構えに、気休め程度服装を正して深呼吸した。

 隣にいる雪海と顔を見合わせ、少し硬い笑みを向けられる。

 

 ——と、まさに今から店に入ろうとした瞬間だった。


「私、見ても構わないなんて、貴方にしか言わないのよ?」

「……」


 わざとらしく耳打ちされ、ついまたその谷間に視線が吸い寄せられてしまった。

 悪魔だ。

 今からはおふざけ無しという、気合を入れたタイミングで悪質極まりない。

 そしてこの女、本気で俺を今日殺す気なのかもしれない。

 だって、隣でこんな事を言われてみろ。


「——マジ、キモいね」

「俺に言うな」


 凍えるようなトーンで吐き捨てる破滅ヒロインに、俺は表情を引きつらせた。





 佐山雄三は、店の最奥にある個室に居た。

 と言っても、当然のように貸し切られているため、俺達と店員以外の人間はいない。

 以前、雪海と季沙との密談で高級料亭を使用したが、それと同じく、なんでもこの店は佐山家のお膝元らしい。

 要は完全アウェーというわけだ。


 個室の中には、選挙ポスターやテレビで何度も見た事のある御人が居た。

 佐山雄三は、意外にも一人だった。

 てっきり他の要人や雪海の見合い相手、ボディーガードなんかも居るのかと思っていたため、拍子抜けである。


 彼は一瞬俺達に視線を向けた後、すぐに雪海を向いて柔和な笑みを浮かべた。


「元より今日は、両家の親睦を深めるための定期的な食事会だったはずだが、随分剣呑な雰囲気だな」


 開口一番、やはり俺達がただの付き添いではないとわかっているのか、雄三はそんな事を言った。

 雪海は笑い、俺達に席を促しながら軽く流す。


「ふふ、お察しいただけているから、大輝さんは同席されなかったのでしょう?」

「アイツは本当にあなたとの縁談に前向きでいるようだがな」

「恐れ多いですね」

「……それに、あなたが急に友人を招待したいなどと言い出したのだ。他でもない、あなたが。警戒するのも当然だろう? 第一、先日の言葉もあるからな」


 言うと、雄三は何故か俺の方を見た。

 意味が分からないため首を傾げるが、彼は気にせず鼻で笑った。

 なんなのだろうか。


 結局その答えは得られぬまま、雪海は不敵な笑みを浮かべる。


「ですが、今回はその件ではありません」

「うん?」

「私は今日、雄三さんの甥に当たる茶桐叶矢氏の、()()()()に関するお話がしたいと思っているのです」


 躊躇わずに本題を突き付けた雪海。

 あまりにもスムーズな流れだったため、一瞬何を言ったのかわからなかったくらいだ。

 そして気づいた時、あまりの単刀直入さに目を丸くしてしまった。

 と、反応したのは俺だけではなかったらしい。

 佐山雄三は彼女の言葉を受けて、一瞬にして笑みを殺す。

 大きく反応する事もなかったが、明らかに部屋の空気感は変わった。


 逆に雪海は微笑を維持したまま、鞄からいくつかの封筒を取り出す。

 中には毛髪や指紋痕、鑑定書などが入っていた。

 言わずもがな、件の事件の犯人を指し示す証拠である。


「茶桐叶矢氏の自宅から事件当日、出入りのないはずの人間の痕跡が検出されました。しかも、調べたところ、この痕跡の人物は被害者の父親である茶桐洋太氏の同僚——要するに、佐山家の下で働いていた者らしいのです。被害者の衣類からも同一人物の指紋が残っていたとか。……さて、一体どうして、この事件は自殺として処理され、そして未だに報道すらされていないのでしょうか?」


 質問してはいるが、これは答えを求めているわけではない。

 ただ蛇が、既に飲み込んだ獲物をゆっくり消化していくのと同じく、じわじわ捕食しているだけだ。


 雄三はつまらなそうに頬杖を突き、その皺だらけの眉間を一層険しくさせた。


「そうか。()()()はそっちについたのか。ハッ、こうなるから俺はさっさと勘当しておけと言ったのだがな。馬鹿な妹のわがままを聞いた爺さんのせいで全てが台無しだ」


 アイツと言うのは、恐らく茶桐洋太の事だ。

 彼の義理の弟であり、手が付けられなかった最悪の不良男。


 弁明するでもなく、逃げようとするでもなく。

 雄三はただそう言って、そのまま薄ら笑いを浮かべた。

 そして、悪びれもせずに言う。


「じゃああなたが言う通り、その茶桐洋太の同僚の——佐山の下で飼ってる人間が真犯人なんだろう。で、それがどうしたと言うんだ? うん?」


 こうして、佐山雄三は茶桐叶矢殺害事件に対し、あっさりと佐山家の関与を認めるのであった。

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