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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第62話 腐ってもメインヒロイン枠な女

 球技大会の日程は順調に進み、俺達のクラスは順当に勝ち進んでいた。

 次はついに準決勝で、そこを勝てば決勝戦。

 たかだかレクリエーションに過ぎないが、教室は盛り上がりを見せていた。

 ……俺達を除いて。


 昼食を終えた今、周りにはいつものメンバーが顔を合わせて座っている。

 がしかし、一人珍しいのが居た。

 ここ最近はめっきり近寄らなくなっていた、柊季沙である。


 つい先程、梓乃李に話す覚悟を決めた様子だったが、どうやら本気で打ち明けるつもりらしい。

 梓乃李も雰囲気に気付かないほど馬鹿ではない。

 季沙の表情を見て、じっと黙っていた。

 たまに俺に視線を寄越し、『どういう事?』みたいな顔をするが、俺は不干渉だ。

 ここは季沙の思う通りにやって欲しい。


 と、彼女はついに口を開いた。


「ごめんしのりん。実はさ——」


 語られるのはこれまでの全ての事だ。

 亜実と早瀬が共謀して俺を刺した事件に加担していた事。

 でもそれについては後悔している事。

 言い訳ではないが、自分も脅されている事。

 その脅されるきっかけになった去年の暴行被害の事。

 最近ではその件について、雪海と俺に裏で相談していた事。

 それらが後ろめたくて、梓乃李と距離が出来ていた事。

 だからこの場で、謝りたいという事。


「本当にごめん。騙すような事してごめん。ごめん……」


 最後は梓乃李への謝罪の言葉で締め括られた。


 淡々とした語り口だったが、内容は全容を把握している俺達でも顔を顰めるほどのものだった。

 先程伝えた暁斗と右治谷も、苦虫を噛み潰したような表情を見せている。


 しかし梓乃李はと言うと、きょとんとした顔でそこに居た。

 そして一言。


「……え、話ってそれ?」

「え?」


 予想外の反応に、思わず俺が聞き返してしまっていた。

 と、それを受けて梓乃李はバツが悪そうに頬を掻く。


「いやその、めちゃくちゃ驚いてはいるんだけど、私が想像してた最悪のパターンとはまた別の方向性だったから」


 なんだか意図が読み取れない俺。

 しかし季沙は呆れたように笑い、右治谷もニヤニヤしていた。


「あぁ~。うち、しのりんが言いたいこと分かったかも」

「オレもなんとなく。まぁこんな雰囲気で、妙に顔見合わせてたら勘違いするわな」

「……あ。……ん? え、あ?」


 俺も何が言いたいのか少しわかった気がして、季沙の顔を見る。

 彼女は今俺の隣に座っている。

 普段は梓乃李がいる位置だ。

 確かに、この距離感で意味深にアイコンタクトを取っていたら、そう見えるのも不思議ではないかもしれない。

 と、そんな風に納得して気まずくなっていると。


「え? 待って。何の話?」


 本物のラブコメ主人公君は、一人だけついていけずに困惑していた。

 そんな暁斗に一同が笑う。


 こんなやり取りも久々だ。

 なんだかようやく、友達が一人帰ってきた気がする。


「えっと、うちに怒ったりしないの?」


 しかし、肝心の話が逸れていたため、季沙が再度梓乃李に聞いた。

 梓乃李は少し考えると、いつも通りの笑顔で聞き返す。


「それは響太君の事件に関与してたから? それとも私に隠し事してたから?」

「両方だよ」

「うーん、でも季沙ちゃんも被害者なわけだしさ。正直今は自分の事とかどうでも良くて、季沙ちゃんの方が心配って言うか」

「……」

「なんていうか、あはは。……私には難しいよ」


 軽過ぎるとも言える言葉だった。

 考える事を放棄した、子供じみた返答だ。

 だが、彼女はそこで終わらない。


「正直今話してもらえただけでも、私は嬉しかったよ?」

「しのりん……」

「今まではさ。響太君含めて私に隠れて裏で勝手に話進めててさ? 正直蚊帳の外だったから。タイミングが遅かったのはアレだけど、こうして伝えてくれたって事は信用してくれてるってわけだからね」


 言うや否や、俺の方にジトっとした視線が向く。

 急な飛び火に冷や汗が流れた。


「だから」


 梓乃李は息を吸い、季沙を真っ直ぐに見据える。


「私にできる事があれば協力する」

「……マジで怒んないの? うち、酷いこといっぱいしたのに。とよちんの腕の傷、まだ跡になって消えてもないのに」

「あはは。そうだね。その事はえっと——。今回季沙ちゃんと向き合って、ちゃんと一緒に悩んで、当事者になって。その上で最後にちょっとだけ文句も言ってあげるよ」

「ッ!」


 聞いている俺まで、なんだか笑ってしまった。

 普段は激重激ヤバな女だが、梓乃李は結局こうだ。

 人と正面からぶつかって、その上で前を向く。

 色んな障害がぶち当たって来ても、決して逃げない。

 亜実達のいじめの時もそうだった。


「……まじ、ありがと」


 笑いながら言う季沙に、俺達グループはようやく普段のノリを取り戻し始める。

 雨降って地固まる。

 そんな言葉が、何となく連想された。

 それは恐らくだが、俺の視界に、チラッと季沙の目の端に若干浮かんでいた涙が入ってきたからだろう。





 仲直りの昼休みを終えて。

 周りが午後の試合のアップをする中、俺は一人で少し前のやり取りを思い出していた。

 感動的展開の中悲しいが、俺だけはそうも言っていられない。

 思い返すのは茶桐の言葉である。


『センパイも、一緒に喜嶋ちゃんまわさね?』

『——は?』

『ほら、色々事情通らしいしさ。オレもただで黙ってくれなんて言わねーよ』


 センパイも混ぜてやるよ~とかなんとか言ってきた後、アイツはそんなことを提案してきた。

 口封じするための媚び売りなのか、それとも別の思惑があるのか。

 その時の俺には判断できなかったが、その言葉の腐り加減には流石に呆れた。

 どうせ知られているのなら、味方にして引き込んだ方がマシだという事なのだろう。

 がしかし、アイツは勘違いしているのだ。

 俺の事を真正の女好きだと思っているのだろうが、それは勘違いなのだから。


『……っふ。ははは』

『な、何が面白いんだよ』


 思わず吹き出しつつ、その時俺は思い出していた。

 そう言えば、前世でも似たような奴を見た事があると。

 セックスが人間の娯楽の頂点であると思い込んでいるような奴だ。

 そりゃ快楽として上位に君臨するのは事実かもしれないが、それが人生の選択の全ての主導権を握っているような奴とは話にならない。

 脳が下半身についているとは言い得て妙だ。


 それに。


『ふーん。アイツの事、レイプする気だったのか』

『ッ!?』


 本当に心底馬鹿過ぎて笑いが止まらない。

 自らの犯行予定を勝手にゲロった茶桐に、俺は詰め寄った。


『前に言わなかったか? 喜嶋葵子から離れろって。アレは別にあの場限りの言葉じゃないんだぞ?』

『……はっ、ハハッ! たかが、ちょっとオレの事を知ってるからって、そんな大口叩いていいのかよ? 爺さんに言えば、お前なんかいつでも』

『消せるって? まぁ確かにそうかもな』

『だろ?』

『でも相手が俺じゃなかったら? 例えば——その爺さんの期待の孫息子の見合い相手が口を挟んできたら。優先されるのはどっちの主張だろうな』


 前にも言ったが、そもそも茶桐は、葵子の件と季沙の件を結びつけてはいない。

 葵子の件で強めに牽制したとて、別に季沙の動画がばら撒かれる心配はないのだ。

 それがわかっていれば、強気を崩さずとも戦える。

 使えるものは全て使う。

 物騒な先輩から学んだ、新しい戦い方だ。


 しかし、肝心の茶桐は俺の話にすらピンと来なかったらしい。


『み、見合い? 何の話だよ』


 どうやら本格的に佐山家とは分断されているらしく、従兄の見合い話すら回っていないようだ。

 こうなると論外だった。


『ぜ、絶対に後悔するぞお前』

『そりゃこっちのセリフだ』


 捨て台詞を吐きながら去っていく茶桐に、俺はほくそ笑んだ。

 既に葵子の方には自分の身を護れるように言ってあるし、あの茶桐と言えど、学校でしか接点のない葵子に強硬策を講じる事はできないだろう。

 それこそアイツ、佐山家との繋がりは伏せなきゃいけないんだから。

 家の力も使わずにその身一つで葵子を襲うなんて、できっこない。

 彼女の家だって、隣にはすぐに駆け付けられる暁斗が住んでいるわけで。

 今更血迷ったところで、茶桐にできる事なんて何もないのだ。


 そんな、破談になった交渉を思い返して俺は笑ってしまった。


 ——だからなんで俺、毎回こうも悪役面なんだろうな。


 相変わらず、モブには小悪党ムーブが似合い過ぎる。

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