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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第59話 護るべきモノの取捨選択

 複雑化を極めた現在の状況。

 俺はそれを解決すべく、まず第一にサッカー部に顔を出すことを決めた。


 葵子がこの先襲われることは原作では既定路線だ。

 そしてこのイベントに関しては、そもそも発生する事が前提。

 ……となると、この際俺のスタンスは少し複雑であるのは言うまでもない。


 何故なら俺は、この世界で起こる予定の出来事は、全て原作通りに運ぶことを望んでいるのだから。

 それが一番コントロールしやすいのだから当然ではある。

 俺にとっての目的は、ヒロインの幸せな生活でもなければ、フラグ立てでも目立つことでもない。

 ただ単に、自分が死ぬ確率——梓乃李の飛び降り自殺エンドを防ぐ事だけ考えていればいい。

 そしてそのためには、原作通りにイベントを全て回収するのが最適解なわけだ。


 だがしかし、当然俺にも人の心はある。

 原作通りの時系列を望むという事は、要するに、葵子が茶桐に襲われるというイベント自体は、知っているのに一旦スルーしなければいけない……という事になるわけで。


 正直、もやもやする。

 自分の行動に自信が持てない。

 どう動くべきなのか、わからない。


 恐らく茶桐の暴行未遂を完全に阻止するのは可能だ。

 だがその時、シナリオはどうなる?

 さらに秩序が崩れ、コントロールのしようがなくなったら俺はどうするのだろうか。

 ただでさえ、ここまで時系列やイベントの発生が歪みまくっている。

 これ以上モブの俺が原作に干渉し過ぎると、ロクなことにならない気がする。


 何度も言っているが、そもそも俺が知り得る梓乃李が自死を選ばないルートは、暁斗と結ばれた世界線のみなのだから。

 彼女の想い人が暁斗から俺に変わったとしても、それまでのイベント自体は解決しておかないと、どう転ぶかわからないのである。


 最悪な二択だ。

 葵子を完全に護ると、シナリオが歪んで梓乃李と俺が死ぬかもしれない。

 逆に梓乃李と自分を護ろうとすると、葵子はほぼ確実に暴行未遂の被害を受けるだろう。

 何故か茶桐だけは原作同様、クズだし葵子にも接触しているのだから、事件は予定通りに起こると思った方が良い。


 天秤にかけるのも難しい話だ。

 葵子の件はあくまで未遂だし、その後ケアする事は可能である。

 なんならそれが本来の既定路線なわけで、原作では葵子がその後深く落ち込んで病む描写なんて見られなかった。

 かと言って、梓乃李の死に関しては完全にリスクの話でしかない。

 後者が起こる確率を言えば、そう高くはないだろう。

 だがしかし、それが起きた時には全てが終わる。


 確実に起きる未遂被害と、低確率の確定死、か。


 ……なんて、この考え方自体が間違っている。

 まるで、未遂で済めば被害は軽いとでも言いたいみたいだ。

 原作ではその後ハッピーエンドだったからって、なんだよ。

 暴行を受けそうになった経験が、そんな簡単に流せるものだって、俺は本気で思っているのか?


 仮に未遂だったとしても、心の傷は一生残り続ける。

 むしろ死んだ方がマシだと、思うかもしれない。

 性被害ってのは、人間としての尊厳を踏みにじって一生残る、そういうものなのだ。

 雪海と季沙の姿を目の当たりにした俺は、どうも簡単には捉えられない。


 というわけで。

 悩みに悩んだ挙句。

 俺は——葵子を取った。


「あれ、きょーくん。どしたのこんなとこでっ」

「たまたま通りがかってさ」


 チラッとグラウンドに顔を出したのだが、すぐに見つかってしまった。

 葵子は俺の姿を見つけると、笑顔で走り寄ってくる。

 一緒に昼食を取ることも多かったため、気付けばあだな呼びされている俺。

 こそばゆくて頬を掻いた。


「サッカー部に興味あるの?」

「そういうわけではない」


 仕事中だからか、大量のボトルを抱えている彼女。

 その小さな腕にはかなり収まりが悪かったため、俺は数本を受け取った。

 二人で手洗い場まで行き、何気ない会話をする。


「じゃあなにっ? もしかしてわたし目当て?」

「ただの暇潰しです」

「まぁ確かに暇そうだもんねぇ」

「喧嘩売られてるよな、今。俺ってそういうのに結構敏感なんだぜ?」


 ちなみに実は、そんなに暇でもない。

 放課後は大抵、梓乃李か雪海に拘束されているからな。

 あとはたまに、暁斗や右治谷と遊ぶ時もあるし。

 そう考えると俺、意外に学生生活を楽しんでるな。

 ……死の危険や黒い事件に巻き込まれているという背景に目を瞑れば、の話だが。


 にしても、毎度刺々しい女だ。

 俺に友達が少ないのは知っているはずだし、実に悪質である。

 それに、葵子の様子を見に来たのは事実であるため、否定するのも嘘になる。


「いいの? 梓乃李ちゃんに殺されない?」

「大丈夫だろ。お前がアイツの耳に届けなければ助かる命なんだから」

「あははっ。じゃあばいばいだねっ」

「……やっぱお前、俺の事嫌いだよな?」


 桜花とは距離が縮まった半面、葵子とはずっとこんな感じである。

 正直ありがたい。

 と、冗談はさて置き。

 今日も葵子は元気そうでよかった。

 茶桐からおかしな接触をされている様子もない。

 じゃあ俺も、今日のところは帰って良さそうだ——。


 なんて考えていた時だった。


「喜嶋ちゃーん。オレ手伝うよー——って、は? なんでコイツがここに居んだよ」


 噂をすれば何とやら。

 駆けつけてきた茶桐叶矢に、俺は早速睨まれた。

 最悪のタイミングで鉢合わせてしまったらしい。


 きつい口調の茶桐に、葵子が顔を顰める。


「手伝ってくれてたんだよっ」

「部外者じゃん。きたねー手で部のもん触んなよ」


 言うや否や、俺が持っていたボトルを奪い取る茶桐。

 そのまま肩をぶつけられ、どかされた。

 何とも強引な奴だ。

 心配そうに見てくる葵子に肩を竦めつつ、思う。

 ……葵子の心配をしていたが、実はコイツに一番目をつけられてるのって、俺なのでは?


「なんでそんなこと言うの。ってか、茶桐くんは練習の途中じゃないのっ?」

「喜嶋ちゃんが仕事してたから手伝いたくてー」

「サボりの口実にわたしを使うのはだめだよ」


 一見仲の良い先輩と後輩。

 だがしかし、異様に距離が近い。

 葵子が洗い物している後ろから、抱き着く様に腕を回していた。

 それを受け、葵子は露骨に嫌そうな素振りを見せた。


 ——はぁ、仕方がない。


「おい、それじゃ仕事の邪魔だろ。離れてやれ」

「あ?」


 俺の言葉に、茶桐は一段と低い声を出した。


「なんでお前にそんな指図されなきゃいけねーんだよ」

「そりゃお前がキモ絡みして、そこのあおさんが困ってるからだ」


 喧嘩腰には正面から受け立つ。

 本来ならこんな雑な立ち回りはしないが、仕方ない。

 立場というものをこの辺で分からせておかないと、後々面倒になりそうだから、俺は珍しく逸らさずに視線を受け止めた。


 もっとも、少しイラついていたのもある。

 水族館の時からそうだ。

 先輩相手とは思えない態度ばかり取られて、癪に障らないわけがない。


 据わった目で距離を詰めてくる茶桐。

 引かない俺に、本気で喧嘩する様子で肉薄してきた。

 がしかし、俺も別に怯むことはない。

 何故なら……負ける気がしないから。


 思いっきり肩をどつかれたが、俺はよろける事もしなかった。

 むしろ、手を出してきた茶桐が少し仰け反る。

 彼は目を丸くしていた。

 ひょろがり陰キャが相手だと、舐め腐っていたんだろう。

 だがしかし、残念ながら俺はそこまで無為に生きてきたわけではなかった。


 二周目の人生だ。

 男として生きる上で、運動能力がどれほどの影響を及ぼすかを知っている。

 生前から運動は得意だったし、護身術の心得もあった。

 それを転生してからさらに強化していたのは、言うまでもない。

 これまで、何度か修羅場に遭遇した際にそこまで怯まなかったのも、実はこのおかげである。


 俺は茶桐を鼻で笑った。


「これ以上派手に暴れ回ったとして、お前の母方の実家は助けてくれるかな」

「ッ!? お前、なんでそれ——」


 今度は血の気の引いた顔で後ずさる茶桐。

 俺は一歩詰め寄って、肩を叩く。


「そう言えば、結構前だな。薬の件、主犯は検挙されたらしいが、お前も引っ張り出されなきゃいいな」


 裏で調べていた事だ。

 雪海の騒動の際に捕まえた早瀬の兄。

 彼は薬物所持の罪で警察に突き出されている。

 そしてその薬の流通ルートだが、実はその中にコイツがいる。

 それこそ、コイツが手に入れた薬というのが、季沙を犯す時に使用されたものなのだ。


 彼女は怪しいお酒のような物を飲まされたと言っていたが、恐らくそれはアルコール飲料に違法薬物を溶かした危険な物だったらしい。

 季沙から聞き取った症状や、当時の茶桐の周辺を洗った上で雪海が断言していたため、確実だろう。

 それに、どうやら茶桐はその他にも薬で結構遊んでいたらしいし。

 女関連だけでなく、やりたい放題だったそうだ。

 ……というわけで、別にこの件を俺が口にしたところで、茶桐が季沙の件と紐づけて察することはできない。


 全てを把握している俺に、茶桐は尻もちをついた。

 洗い物をした直後の水浸しの床に落ち、びちゃりと惨めな音が響く。


「な、なんでそれ——」

「さぁな」


 ここはとりあえず牽制のみで良い。

 雪海や季沙も動いているため、俺の独断で事を複雑化させ過ぎるのは悪手だ。

 これは交渉でもなければ、断罪でもないのだから。

 余計な事をするなという、重い警告だ。


 案の定、佐山家から硬く口止めされているせいか、茶桐は動揺していた。

 そして、強気にも出てこない。


「さ、さっきから何の話?」


 困惑した様子の葵子に、茶桐はそのまま走って逃げた。

 どうやら、思った以上に神の一手だったらしい。


 きょとんとしている葵子に、俺は言う。


「しばらくアイツの動きには気をつけろ。あと、あんまり一人になるな。暁斗とか、部活中は他のマネージャーの子達と一緒に居ろ。理由はわかるな?」

「う、うん」


 彼女は深く追求してこなかった。

 ただ単に、硬く拳を握り締めるだけだ。


 ——ふぅ。


 もう後には戻れない。

 俺は茶桐に釘を刺した。

 これで少なからず、シナリオに歪みが生じるだろう。

 だがそれでも、護ろうと思ったのだ。


「なんかわかんないけど、ありがとっ」

「少しでも感謝してくれてるなら、梓乃李にはこの件内緒で頼むよ」

「えへへっ、わかったよ」


 眩い笑顔で微笑む彼女に、俺も少し胸が軽くなった。

 これで、いいんだ。


 自身に言い聞かせるように頷きながら、俺は葵子に背を向けた。



―◇―


【喜嶋葵子】

暁斗への好感度:30%(→)

響太への好感度:20%(↑)

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