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破滅ヒロインの幼馴染に転生した俺、バッドエンドの巻き添えは嫌なので幸せにしてやろうと思います  作者: 瓜嶋 海
第2章

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第58話 破滅ヒロインの信頼と過剰な関心

 今朝、また嫌な夢を見た。

 しかも今回は前回よりもさらに直接的で、目の前で梓乃李が死ぬという、最悪な展開を見せられた。


 内容は不思議なものだった。

 彼女の方から唐突に別れ話をされ、俺がそれを承諾した瞬間に飛び降りたのである。

 追う手も虚しく、彼女は嫌な音を立てて肉の塊へと変貌した。

 あまりのショックに叫んだところ、そこで現実と意識がリンクして起床。

 だらだらと流れる汗に呆然としながら、俺は朝を迎えた。


 しかし、妙だ。

 何だろうかこの胸騒ぎは。

 前回は未来予知だと思っていたが、これはどちらかというと、過去を掘り返されているような——。

 そんな不思議な気分になった。

 何故なら、夢の中の俺が、恐らく前世の姿だったから。


「って、なんだそれ」


 言いながら苦笑する。

 夢の中で生前の姿になっていたことは何度もあった。

 今に始まった話ではない。

 それに、掘り起こすも何も、俺に梓乃李と付き合っていた過去はない。


 ——『じゃあ、元カノとかは?』


 不意に桜花の質問を思い出し、息を呑む。

 鼓動が早くなるのが分かった。


「……はぁ。そんなにモテてたら、梓乃李や他ヒロインとも適切な距離感を保ててたんだろうなぁ」


 恋愛経験が豊富なら、もっと上手く立ち回れたに違いない。

 少なくとも、こんな体たらくで二人のヒロインから好意を向けられる窮地には陥らなかったはずだ。

 それにしても、俺は一体何故こんなに効いているのだろうか。


 ……何故、か。

 俺はそんな自分の考えに引っかかって、冷めた笑みを浮かべる。


 思ったより非モテコンプだったのかもしれない。


「べ、別に彼女なんか欲しくねーし。……って、口に出すと強がってる感が半端ないな。本心ではあるんだけど」


 一人でぶつぶつ言いながら、俺はシャワーに向かった。

 今日は遅刻しそうである。





 あれからまた数日が経過した。


 週も明けた火曜日。

 桜花とはあれ以降、土日月と三日間接触していない。

 連絡先は交換しているが、そっちでもやり取りは皆無。

 元から別のクラスだし、目立たない彼女と学校で遭遇する事は多くはなかった。

 だがしかし、今はそれ以上に明確に俺自身が避けていた。

 何故なら。


「今日は白城さんと話さないの?」

「どうしてそんな質問をしてくるんだい?」

「仲良さそうだから」

「ただの友達なんだから、毎日話さなきゃならんって事はないですよ別に」

「ふーん。デートとかは行くのに?」

「……」


 ギラギラしたまなざしで聞かれ、俺は口端を下げる。

 理由は言うまでもなく、この女なのだ。


「あの、時に梓乃李さんや」

「はい。どうしました?」

「あなた、僕に黙っている事があるんではなくて?」

「何の話かな? 私わかんなーい」


 どう考えても、先週末に俺と桜花が一緒に居た事を知っているかのような口ぶりだ。

 この返答でしらを切れると思っているのだろうか。


「あまり人の後ろをつけるのは感心しませんよ。口うるさい先輩に感化されたのかは知らないですけど」


 暗に雪海の事を指すと、梓乃李の表情に苛立ちの色が乗った。

 どうやらあの女と同列にされるのはムカつくらしい。

 憐れ、七ヶ条雪海。

 中間テストの際にあれだけ助けてあげても、後輩からの尊敬は得られなかったらしい。


 なんて思ってニヤニヤしていると、梓乃李は鼻で笑った。


「まぁそもそも、私はただカマをかけてみただけなんだけどね」

「……ほう、そう来たか。策士だなお前。ただし逃げ切れるかどうかは別だ」

「何のことかな? 私は君が隣のクラスの目立たない女子と遊んでた事とか、その子がちょーっと特殊な事情持ってる事とか、結局君が面食いの女好きな事とか、私の事は彼女じゃないって明言しながらちゃっかりキープしてる事とか、なーんにも知らないんだから」

「おい、所々捏造が入ってるぞ。あともう全部見てんじゃねえか」


 思ったより事情を把握され過ぎていてゾッとした。

 怖い。

 怖すぎる。


 マジで一体どこに居たんだろうか。

 途中一瞬気配を感じた気がしたが、やはり気のせいではなかったという事か?

 にしても隠密行動を極め過ぎている。

 まるでプロやその周辺の環境に揉まれた人間の手腕だ。

 そんな事が出来る奴なんて身近に……いるな。

 今さっき自分でも名前を出していたではないか。

 あの女なら可能だろうし、やりかねない。

 という事は、恐らく今回のストーキングは共犯というわけか。

 なるほど理解した。

 本当に、俺は最悪のヒロイン達から関心を向けられているらしい。


「言っておくけど、デートではない。周りに言えない事情は、わかるだろ?」

「まぁね。私も言い触らす気ないし、安心してよ。興味本位とは言え、悪い事したと思ってるから何も言わない」

「普通にプライベートに侵入し過ぎだからな。って、既にどこぞの先輩は常習犯と化してるけど」

「……怒ってる?」

「別に」


 聞かれて思うが、自分でも不思議な気分だ。

 なんでこんな監視をされているのに、不快感がないんだろうか。

 俺、実はドMだったのかな。

 それは嫌だな。

 なんて思っていると、梓乃李が泣きそうな声で呟いた。


「でもさ、君も悪いんだよ。……心配になるの、当たり前じゃん」

「……」


 何がとは彼女も言わなかったが、俺の左腕の傷の跡をガン見しているため、流石に言いたいことはわかった。

 ……ズルいと思う。

 そんな事を言われたら、罪悪感が湧いてしまう。

 俺は勝手に監視されている側なのに。

 そこはいつものラブコメ的なオチに落とし込んでくれよ、なんてダサい事を考えてしまった。

 あぁ、やっぱり俺は卑怯だな。


 苦笑しつつ、頭を切り替える。


 なんだかんだでもう6月17日だ。

 桜花のイベントが一向に発生しないのは不穏過ぎるが、頭は常に前を向かせなければならない。

 7月に入れば葵子のイベントも始まる。

 こっちに関しては既に犯人がアプローチを仕掛けてきているし、同一犯による季沙の件もあって警戒度をマックスに引き上げなければならない。


 なんて悩んでいると、梓乃李が寂し気に呟いた。


「そう言えば最近、季沙ちゃん遊びに来ないね」

「……まぁ、色々あるんだろ」


 気づけば下の名前呼びになっている二人。

 季沙はまだ俺達のグループに関わって来ないままだ。

 球技大会というレクリエーションを前に、俺達のグループは若干ギクシャクしている。


 今日だって、今は昼休みだが、俺と梓乃李二人だけでご飯を食べていた。

 右治谷は熱か仮病かで学校を休んでいるし、それを受けて変な気を回した暁斗は、別クラスの友達のところへ行ってしまった。

 どんよりと、少し嫌な空気が漂っている。


「またみんなで遊びたいね」

「……任せろ。俺がどうにかする」

「……? なにそれ。ちょっと面白い事言うね君」


 ついモブとしての暗躍脳と、ごっちゃになって出力を間違えてしまった。

 また笑われるかと思って苦笑していると、梓乃李はただはにかんで言った。


「じゃ、お願いね」

「あぁ」


 なんだかんだ、信頼されるのは嬉しいものである。

 俺は頷き、残りのおにぎりを頬張った。

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